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イーリン~特殊任務②~


「俺は今回の任務を受けることにした。アミール宰相は規則に則って私兵を入れているのだろうが、親衛隊としては全く容認できない。親衛隊が機能しなくなった時、もしくは親衛隊の人数ではどうにもならない時に私兵の導入になっていく。その過程を吹き飛ばして人質を取っているのは逆賊であるということ。そのような恐怖政治を許すわけにはいかない。ただ、人質が心配だろう。任務に参加したくない、しにくい奴はこの場で手を上げてくれ。下水道から首都に帰ればまだ間に合う。」


 正直に言えば間に合うかどうか、微妙である。すでにここまで来るのに2日間かかっているので、全部で4日間。その間、どこにいたのかという話にもなるだろう。アミール宰相の私兵をどうにかして騙すことが必要になる。もしくは聞いてこないということも考えられるな。どちらにしても、かなりの間、アミール宰相に苦しめられることになる。


 兵士たちはかなり悩んでいるし、他の兵士を見ながら考えている。集団心理として同じような答えを出しがちだが、できれば自分で考えて答えを出してほしい。難しいことであるのは重々承知である。1人の兵士が手を上げた。普通だ。家族や友人、恋人などを危険にさせてまでコーリン将軍の任務に付き合う必要はない。


「問題ない。むしろ、良く上げてくれたな。自分の意思を貫くのは大事だ。」

「…申し訳ありません。」


 彼はうつむいていた。心情がある程度わかる。兵士として責務を全うできなかったことだろう。彼としては俺のことを裏切ったとでも思うのかもしれない。しかし、それは間違いだ。こちらが頼んでいるのだから。中途半端な形で任務に入ってほしくない。コーリン将軍の兵士たちもそう言っていた。最終的に裏切られるのが一番怖いのだ。裏切られるだけならばまだよいのだが、任務のことを話されれば我々は窮地に立つ。コーリン将軍も表立って支援できないはずだから、俺たちで何とかしないといけない。そうなれば少なくとも隊の結束がなければ任務の達成どころか、隊の壊滅もありうる。


「私も。」


 そう言って手を上げたのは全部で50人ほど。思ったより数が少なかった。50人の顔ぶれを見ていればそれなりの高官の親を持ち、かつ中央での勤務が中心の兵士である。彼らの親は拘束されていると言われれば高確率で拘束されているし、人質として何かされる可能性が強い。手を上げるのは必然である。


「では、食事にしよう。そこにある大きな台車は食料だ。」


 皆が笑顔になる。あまり食べていないからな。急に食べると体が驚いて死ぬこともありうるから少しずつ食べていく。1日やそこらで死ぬところまではいかないだろうが。しかし、これからどうするか…。150人ほどの兵士でできることは限られている。この地図にある家を襲っていくとことだろう。俺にはその選別をどのようにしたのかわからない。しかも書いてあるのは日付とおおよその時間のみ。あとは金銭を取り、村へ配分していくということしかコーリン将軍は書いていなかった。その配分も別に書いていない。こちらに丸投げということだろう。こちらとしても武具以外はあまり持ち運びができない。それよりも食料が大切である。


 食事を食べ終わった後、50人の兵士が下水道へ戻っていくのを確認した。


「隊長、どうするのですか?これから。」

「ああ。これを見てくれ。」


 親衛隊ということもあり、全員が場所を見て分かったようだ。今回、地図に書かれている家というのは全て貴族の家である。しかも一度は何らかの疑いで捜査が入っている家。アミール宰相と近しいというのは割と有名ではあるが、あくまでも噂であり、逮捕などはされていない。だからこそ、裁かれない貴族を裁くということに意味があるのだろう。こちらとしては犯罪ではあるのだが。


「隊長、どう動くのでしょうか?」

「簡単に動くことができないというのはある。だが、親衛隊がここにいるというのは誰も知らないはずだ。アミール宰相としても下手に動くことはできないだろう。」


 アミール宰相としては親衛隊をちゃんと把握して運用する。最終的にはアミール宰相が把握しつつ運用できるのが理想だろうが、そう簡単にはいかないだろう。どうしてもアミール宰相は何かしらの問題を抱えているため、親衛隊の面々はあまり好きではない。親衛隊に入る前にはかなり入念な調査をされる。王の近くで警備することも多いため、反逆しないように思想までしっかりと調べる項目は全部で100ほどあるらしい。それを突破した兵士が親衛隊になることができる。ある意味、選ばれているということだ。実力だけでは親衛隊にはなることができない。


「アミール宰相が全て知っているわけではないでしょうが、それでも調べてきますよ。」

「そうだな。ただ、彼は我々がどうしようとしているか分からんはずだ。まさか、盗賊まがいなことを親衛隊がやると思っていない。そこが唯一の我々が裏をかくことができるところ。」


 プライドが高い親衛隊は山賊のような行為をすると思っていないはず。あくまでも俺の予想だが。その読みが正しければ2つほどの貴族を襲撃するのは問題ない。その後が難しいだろうな。今回襲う貴族は全部で5つ。速度も重要だ。中央からの対処があると動きにくい上に任務に支障をきたす。


「どれだけ早くできるかというのが課題だな…。」

「この部隊を分けますか?」

「分けても構わないが、その兵数で貴族の家を落とすことができるかどうかだ。文官の家が多いとはいえ、兵数が多ければ苦戦することもありうるからな。分けるのは得策とは言えないな。」


 私兵というのは思ったよりも多い時がある。その場合には150人ほどで足りるかどうか…。コーリン将軍も難しい任務を押し付けたものだ。貴族の家宝や家財を運ぶにしても人数がいないといけないからな。


 すぐに俺たちは貴族の家へと向かった。少し余った食料を持って。



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