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31話

 まだ、いつ戦いが始まるか決まっていない。決まっていないまま1週間が過ぎた。コーリン将軍も特に何も言っていないようだ。情報が流れてこないというのは結構怖いもの。前の世界では情報を自分で調べることができたから、まだ予測や予想を立てることができた。何も情報がないというのは精神的に追い詰められるものがある。しかし、俺以外の兵士たちはすこぶる元気である。むしろ、生き生きしながら訓練を行っている。その様子を見ながら俺も素振りを行う。もう何万回も素振りを行っている。ようやく形になってきたかなという程度。


「ようやく形になってきたな。」


 後ろにはイーリンがいた。イーリンも少し汗ばみながら他の兵士を見ている。イーリンの動きは滑らかで形が綺麗である。その様子をいつも見ているからか他の兵士たちも徐々に形になっている。そういう判断を下す俺もまだまだなのだが。部下の様子を見ながら槍をもう一度握りなおす。遠くに部隊を展開させながら合同演習を見ているコーリン将軍などは陣形の確認をしながら各所に指示を出している。少し高いところに立っているだけなのに、どうしてあのように軍の指示を出せるのかわからない。異次元の世界だ。


「一旦、個人練習を終了して合同演習を行う。2つに分かれて戦え。」


 部下全員が個人練習をやめて、2つの隊に分け1隊100人ほどになる。先程、兵士が追加されて全部で部下が200名になったのだ。全ての兵士が盾を持ち、ぶつかり合った。大きな音が聞こえてお互いにせめぎ合っている。集団戦がまともになってきて戦うことができている。守りは全面的に親衛隊が、攻めは俺の部下と親衛隊が行っている。ただ、盾を持っているためにあくまでも守りが主となる。隊の人数が少ないため1人1人の死がその後の戦いに大きく関わってくる。今回の戦いではできるだけ部下が死なないように作戦を組んでいく。内戦を終結させるのが目的で殺し合うのが目的ではない。アミール宰相が降参するか、もしくは殿下が負けを宣言する。それで内乱は終結だ。しっかりと役割分担をしていれば戦うことができる。これは大きな収穫である。しかし、あくまでも下地ができているという前提である。それさえもできていなければそもそも守りも攻めもうまくいかない。軍に慣れていないのであれば1つの役割を与えれば良いのだ。


「あとは敵兵がどのように戦っていくかというのも考えなければならんが、アミール宰相の部下で誰が出てくるかわからん以上、考えるだけ無駄だな。」


 仮想の敵を想定するのは大事なことである。連想しながら練兵を行うだけでも随分違う。ある意味、連想しやすいのだが、あんまり多くを連想すると躊躇するかもしれない。その躊躇が死につながるため今回の戦いは厄介である。前回の戦いはガーマス将軍の兵士を皆が嫌いということもあって特に躊躇はしなかったらしい。そういった面でも以前の戦いとは大きく違う。そのせいか、全員に神妙な面持ちになっている。ただ、全員が勝つ姿勢であるのは良いことである。逃げることを選択する兵士もいるから。


「正直に言えば今回の戦いで親衛隊を出すことには反対していた。どうしても親衛隊は軍という枠組みから外れてしまう。同じ練度を有していても軍のなぁではちっぽけなものであり、蹂躙される可能性が多分にある。そんなところに置くわけにもいかないと思ってな。ただ、我々は国の最後の砦。その砦が失われようとしているのを見て見ぬふりするわけにはということで参戦することになった。」


 目の前で行われている演習を見ながらイーリンは話した。イーリンの言うことは理解できてもどのような結果になるかはわからない。むしろ、好転することも考えられるし、兵士がこの戦でさらなる高みへ行く可能性も秘めている。反対に全滅する可能性もある。


「わからない以上は今の判断を信じたほうがいい。」

「そうだな。だが、家族がいる以上責任は負う。」

「…、それは2人でということ。別にイーリンだけのものでもない。」


 イーリンは少し上を向いた。彼がどのようにして首都から逃げ出し、山賊として活動していたのかは知らない。理由は後付けであるし、本人から聞くことがすべてだ。しかし、イーリンは決して話すことはないだろう。いかに貴族が悪いことをしていると言ってもその貴族に犯罪をしていいわけでもない。イーリンや他の兵士が秘匿しておくべき内容。


「ありがとな。ワカトシ。」

「…。ああ。」


 俺たちは部下の演習の様子を並んでみていた。


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