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1話~ケヴィン~

 今日は良い天気だ。墓地に来るということで殿下を護衛するために馬車でこの地を訪れた。雨の中だと視界が悪いため護衛が難しくなるので安心している。今回の墓地の訪問は殿下にとって戦場に行くための戦勝祈願でもある。大きな戦いがあるときには歴代の王が訪れているという記述が残っている。…、何かがおかしい。何かがいるような気がしている。動物ではなく人間だ。隣にいるスイも周りを見渡している。


「ケヴィン、何かいるね。」

「ああ、おそらく人間だな。」


 部下に指で合図する。彼らはすぐに周りに散っていく。しかし、妙だ。どんな手練れだとしても足跡くらい残っているはず。全く痕跡がないというのはありうるのだろうか。痕跡がないからか部下もかなり緊張している。もし、痕跡を完璧に残すことなくこの地に侵入できているのであれば、対抗できるのは隣にいるスイのみ。遠くで物音がする。何かが動物に追われているようだ。部下の数人が向かっている間に周りを確認するが、罠はないようだ。現場についてみると1人の男がビックデスに追われている。スイが弓矢で俺が剣を投げてビックデスの首に命中し、ビックデスは絶命した。ビックデスはこの地に住む特殊な動物で、100年間にわたり体を成長させていく大型の動物である。今回のビックデスは10年程くらい。20年程になると討伐するのに兵士20名は必要になる。だから、定期的に駆除している。一番大きかったビックデスは民家ほどの大きさにまでなったそうだ。


 ビックデスに追われていた男は珍妙な服を着ていた。その男が変な服を着ているわけではない。服装が墓地に似合っていないのだ。服装的に黒が良いとされている墓地で藍色のジャケットを着るような人はこの国には存在しない。ただ、気になったのがこのジャケットである。この国ではジャケットは公的な場ではふさわしくないとされている。慣習を知らない人はゲルラリアの国にはいないだろう。彼はこの国の人間ではないと断定できる。


 もちろん、他の国では文官がこのジャケットを着ている国もある。それはあくまでもゲルラリアの国ではということだ。だからこそ、この男はおかしく映った。他の国の間諜にしては目立ちすぎている。間者であるにしてはまるで意味がない。他の国であることをジャケットで示しているからだ。間者はその土地に溶け込もうとするのだから、ゲルラリアの国で慣習とされていることを破ってしまう間者はいない。だが、このような服を着ている男を野放しにすることもできなかった。墓地に入っていることも犯罪であるし。それに何か気になる。痕跡がないまま入ってきたことも含めて、何か普通の人間ではないように思うのだ。


 この墓地は歴代の王が入っている重要な墓であるが、次の王が墓地に来ることによって次の王に認められるという謂れを持っている由緒正しきお墓である。王によっては戦争が起きるたびにこの墓地に来ている王もいたらしい。現在、王は静養中であるが体調が思わしくない。その間に政治家であるアミールが政権を牛耳っている。


 アミールの周りには彼の側近である者たちが名を連ねている。彼らは人柄がよい殿下を以前より嫌っていた。嫌っているものの人望も高い殿下の人望の多さは敵うべくもなかった。殿下の周りには自然と多くの人間が集まってくる。集まる人間が多いとその中でも才能を持っている人間が集まってくる。その殿下を疎ましく思っていたのだ。そして、人の才能を見出すことができる。この才能だけは殿下の特殊能力だ。


 アミールは陰気な正確なためあまり人望はなかった。ただ、彼は算術が得意であり、内政などの治世では存分に手腕を発揮している。だからこそ、王が長期不在の間に政権を掌握することができたのだ。金の流れを全て掌握すれば彼に従うしかないからな。脅しての政権はうまくいかなくなるのは早かった。脅しに屈しない人たちは反乱を起こした。戦いには敗れているが、彼らは領地に戻り中央をけん制している。反乱のため中央の業務が滞っているらしい。優秀な人材と反乱への対応と殿下の捜索など業務がすでに破綻しかけているという。殿下が今日まで生きているのは殿下に協力する人間が多いためだ。殿下への支援が多すぎるのもアミールの予想外の出来事である。


 殿下は本来2か月前に死んでいるはずだったが、何とかここまで生き延びることができている。思った以上に協力者が多く、殿下を支援してくれている。表向きはアミールに忠誠を誓っているが、裏では殿下を支援している。この地方の領主は堂々と殿下を支援することを表明したため、殿下はここへ逃げ込むことができた。この地方の領主は反乱した中央の1人である。


 個人的には殿下がそれほど優秀とは思っていない。勉学についても、そして戦争になれば指示を出すことは難しいだろう。内政は並みというところ。しかし、彼は人に対して優しく人たらしとなって成長を続けた。それぞれの適正に合わせて配置できる殿下は様々な人を巻き込んでいって今の状態に至る。その仲間を持ってしてもアミールの権力は強大で、アミール自身も有能である。油断していれば簡単に飲み込まれる。彼はすでに討伐軍を組織していると聞く。ともかく時間がない。


「貴様はここで一体何をしている?」


 さてと、まずは目の前の男をどうするかだ。


 国として犯罪者の扱い方は異なる。この国ではちゃんとした刑罰によって収監している。男の犯罪は不法侵入にあたるだろうが、不敬罪というのにもあたる。不敬罪という法律を作ることは禁止しているが、墓地に関しては特別法として認められている。王の就任の時だけではなく、その他の場合にも王が使用することがあるので特別法で制定することになった。本来は厳重な警備をしているので入ることなどできないのだが、この男は入ってしまっている。


 スイのほうを見たが、特に彼女は何も言わずに彼のほうを見ている。…、昔の記憶が呼び起されたのだろうか。目が座っている。あまり彼女は関わらないほうがいいだろうな。俺ができるだけ対処したいが、殿下にも話すべき事柄だ。彼は俺たちに怯えているように見える。この男が本当に間者なのだろうか。


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