28話
軍に戻ると全員が出陣準備を行っている。何一つ決まっていないが、それでも準備することで早く戦場に着くように考えているのだろう。他の兵士たちも少し神妙な顔をしている。どうしても内戦というのはかなり精神的に堪えるのだろう。それでもかなり多くの血が流れることだろう。
「…、聞いたか?今回の戦いは決まったところでやるらしいぞ。」
「ああ、今までに聞いたことがないな…。どちらにしてもだらだらするよりはいいのだろうな。」
「そうかもしれない。しかし、兄弟で戦うのは少しな…。」
「そうか。お前は兄弟がいたな。難しいな。お互い生き残ればよいな。」
「ああ…。」
そういう人もいるよな。しかし、兄弟で戦うというのはあまり良いことではないが、どちらかが勝っても家は残すことができる。戦国の真田兄弟のようである。ただ、本人たちはしんどいのだろうな。他の兵士たちもざわついているのはそういうところかな。徐々に他の兵士たちも俺たちのほうに気が付いた。山賊のほうを見ながら指さしている。まあ、説明していないからざわつくのはわかる。風貌も山賊だからな。仕方ない。格好というのは大事だな。
「ワカトシ、これからの話をしなければならん。」
「これからの話?」
イーリンは真面目な顔して俺のほうを見ている。何の話だろうか。山賊の面々が徐々に集まってくる。そして俺の部下も集まってくる。他の兵士たちも知っているのだろうか…。真剣な話をするのはわかっているようでみんながそれぞれ集まりながらも俺のほうを見ている。そして、コーリン将軍が近づいてくる。いつの間に帰っていたのだろうか。いや、軍に合流したということか。
「ワカトシ、貴様にはこの隊を束ねてもらう。」
「…は?」
「拒否権はない。今回の決定については儂も思うところがあるが、必要だと判断した。」
そこまで言われてしまっては受けるしかないのだが、どうして俺なのだろうか。イーリンがまとめ役であればイーリンがやればいいだけである。山賊だからという理由もあるのだろうが、それでも親衛隊であったのであればイーリンを指名しても大丈夫のはず。それに経験がある兵士がまとめ役になったほうがいいのだ。他の兵士たちもそこまで考えていないのか…。そんなことはないか。他の兵士たちもそのまま受け入れているような感じがしている。全員が集まるとコーリン将軍が台の上に上がる。
「さてと、もう少しで戦争が始まるの。大変な戦いかもしれんが、勝たなくてはいけん。今回はワカトシを任命する。異論はないの?」
「…。」
全員がコーリン将軍を見ながら固まっているように思う。最前列にいるからわからないが、そういう空気が流れているように感じる。
「少しよろしいですか?」
「何じゃ、イーリン?」
「ワカトシが隊長になるのは問題ありませんが、実際に隊長として活躍できるのですか?問題あるのであれば今はまだ、隊長になるべきではないと思うのですが。」
「何事も経験が必要じゃからの。」
そういう問題ではないような気がするが、コーリン将軍は言いたくないということだろう。イーリンもそのことはわかっているはず。しかし、どうにもならないこともある。
「他に異論がある者はおらんの。今回の戦いでは別の考え方がいるからの。ワカトシはしっかりとやるようにの。」
コーリン将軍に対して頭を下げる。コーリン将軍はすぐに去っていく。忙しい身だから。イーリンが俺のほうを見ている。
「ワカトシ、今、大丈夫か?」
イーリンから話かけられた。話によると今回の人事は少し内容が異なっているらしい。内紛ということで指示系統が同じ地域の人間であれば戦争で躊躇が出るということだ。完全に出身が違っている俺が指揮権を持っていた方が冷静に命令を出すことができると考えてのことらしい。人間である以上は情けが出ると。
「だからこそ、ワカトシには厳しい任務が来るかもしれん。だから、気をつけろ。」
「わかった。」
イーリンは他の兵士と話し始める。聞かないほうがいいだろう。俺のことを説得するのだと思う。彼らはイーリンが隊長になると思っていただろうからな。そう考えるとイーリンも大変だと思う。俺の部下は特に何も言っていない。むしろ、驚いているということだろう。それもそうか。兵士として日が浅い俺がなるとは思っていなかっただろうから。他のところでも少しざわついている。コーリン将軍も勝つためにいろいろ考えているのだろう。型にはまっていない考え方は良いと思っている。しかし、今回の場合はどのように転ぶのだろうか。良い方向に転べばよいのだが。




