26話
頭が冴えているはずなのに何か見え方がおかしいな。彼の残像が見えている。わずかにぶれているその残像は何なのか。急に彼が目の前に現れる。彼の剣が槍の柄に当たる。…運が良かった。あの残像に惑わされて彼が良く見えていない。槍を構えているが、あの残像が目に映っているために行動が遅れてしまった。タイミングがあまりにも違う。しかも、途切れ途切れに見えるから反応が遅れてしまう。
イーリンはそのまま元の姿勢に戻っている。この状態ではなかなかこちらから攻撃することができない。彼はそれをわかっているのか、剣を少しも動かすことはない。先程の攻防で彼のほうが早い。こちらから距離を詰めるのは難しい。彼は俺のほうを見ながら、じっと構えているだけである。…、汗が頬を滴る。これでは何もしなくても体力が削られていく。危険でもこちらから攻めるしかない。
覚悟を決めたその瞬間に残像が発生し、彼が動く。今度は見えた。足を狙った剣を槍の柄で防いだ。彼は防がれた瞬間に間を取った。…、どうして間を取る必要がある。今の好機だったはずだ。彼の表情が険しくなっている。さっきの攻防では彼のほうに軍配が上がっている。槍の間合いの中に入っているのだから。しかし、彼は距離を取っている。彼は再度向かってくる。今度は正面からの横に剣を振ってくる。少し下がってその剣を避ける。彼はさらに一歩踏みこみ、顔面に突きを放つ。少し頬に掠った。
頬に僅かに血が出ているのが分かる。…、試合とはいえ、イーリンは殺す気で試合を行っている。コーリン将軍もどのような殺気を見せたことはない。いや、むしろ見せなかったのだと思う。俺には耐えることができなかったから。そして、早かった。戦場を経験している今だからこそわかる殺気である。しかし、このような殺気は重すぎる。試合で出すような殺気ではない。
彼の姿が消える。そして、残像も見えない。下から剣が見える。思わずのけ反り剣を避けるが、腕に切り傷が入る。どうやって剣の軌道を変えたのだろうか。距離を取ろうとするが、俺の行動を読んだように距離を詰められる。そして、槍を構えるがその瞬間に距離を詰められている。剣を防ごうと槍を構えたが、軌道が見えない。その場をすぐに離れる。足元を剣が通った。もしかして、フェイントか…。イーリンの顔は笑っている。
槍を構え直し、突きを放つが、彼は簡単にいなす。ガーマス将軍を討つことができたのはまぐれだったのだろうな。何度も突きを放つが当たることはない。徐々に腕が重たくなっていく。受けるのではなく避けられているのだから、どうしても負担が腕にくる。横に振り払うが、剣で止められる。剣で肩を突かれる。激痛が走ったものの、槍だけは手を離すことがなかった。しかし、すでに首に剣が添えられている。
勝敗は言うまでもない。負けだった。これほどにも完全に負けたのはいつ以来だろうか。起き上がった時には彼が手を指し伸ばしてくれた。手を取ると彼の手は非常に硬かった。かなりの訓練を行っているのだろうな。少し肩が痛む。
「君は兵士になってどれくらいだ?」
「まだ、1年も経っていないですね。」
「そうだろうな。そんな感じがした。少し粗削りだ。だからこそ、コーリン将軍が俺と戦わせたのだろうけどな。」
コーリン将軍は俺のほうを見ながら笑っている。イーリンと戦っていればさらに強くなれるということだろう。イーリンは肩を触ってきた。
「…肩は大丈夫か…。」
「はい。」
「これから戦場へ向かうだろう。その間にしっかりと治せよ。」
イーリンはそのまま別のところへ歩いていく。仲間の兵士たちは拍手で迎え入れてくれた。俺自身は複雑な気持ちだ。肩を押さえながら他の試合を見ていた。




