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23話

「全員起きたの?まずは罠の解除から始めるぞ。」


 他の兵士たちもその言葉を聞いて動き出す。俺たちがやることは罠を潰していくことである。罠が十分に機能していれば敵は守りを固める。その上、罠にかかった兵士を討ち取る。迂遠になるが、罠を解除していくのが最短である。どうやら、精鋭兵が罠の解除の仕方を教えてくれるようだ。本当に豪華だと思うのだが、もっと違う状況で教わりたかった。危険が多すぎるため集中できない。


「ワカトシ、聞いているのか?」

「聞いていますが、なかなか頭に入ってこなくて。」

「理由は分かるが、それでも罠に集中しろ。」


 罠の解除を教わりながら3人が警戒にあたる。罠の解除は必ず2人以上で行う。罠によっては力がいることと周囲を警戒するために最低2人は必要である。本来、もう1人不測の事態の対応に当たるらしい。それが隊長の役目。今回はその隊長が罠の解除を教えてくれている。ただ、問題は罠の解除をできるかどうかである。やり方を間違えれば怪我をしてしまう罠もある。隊長が蔦を引っ張ると足元の鉄が動いた。人の歯のような形をしたものが動いていた。獣を取る時によくあるやつである。


 コーリン将軍は上から物を落とす木の仕掛けを見つけた。伸びているのは地面を這うようにある薄い茶色の糸。今は昼間なので糸が良く見える。しかし、夜や戦闘中に罠を確認するのは難しいだろう。こうやってみると前の戦で罠に引っかかった敵兵の気持ちがよくわかる。このまま戦うのは勇気がいる。コーリン将軍は当たり前のように説明しているけど、難易度は高いぞ。しかし、このような状態で戦うこともあるだろう。


 罠ばかりに気を取られていたら、注意が周囲に分散する。どうしても戦いだけに集中するのが難しい。ここら辺は経験で何とかできるそうだ。どれほどの経験をしたら、戦えるようになるのだろうか。他の兵士たちも黙々と罠の解除を行っている。…、多くないか。罠の量が。どう考えたってこの量の罠を張るのはおかしい。山賊もいきなりこの山まで来たわけではないだろう。ならば、この罠はすぐに大量に作ったことになる。


「多すぎませんかね…?隊長?」

「ああ、俺もそれは気になっていた。普通の山賊はここまでの罠を設置するとは思いにくいし、この量は明らかに過剰だ。」


 他の兵士たちもそう思っていたのか。彼らも思っているのであれば俺の考えは普通であるということだ。それに誰かに見られていない。山賊が何もしないというのもまたおかしい。奇襲を警戒しながらの作業で汗が顔に滴る。緊張する作業には慣れていない。戦争のほうがよほど楽である。目に見えるからだろうか。


 そのまま作業を行い続けること2日間。全く山賊の攻撃はなかった。どうしてだろうか。意味が分からない。徐々に自分たちの居場所が侵食されていくのに何もしないということが異様である。その分、他の兵士たちも警戒している。その警戒が徐々に強くなっているのだ。どうしても神経を使う。罠の解除中に一斉に攻撃されれば確実に死ぬ兵士が出てくる。避けることはできない以上、全員が緊張せざるを得ない状況。


 その状況でありながら、コーリン将軍は笑っている。どうしてだろうか。彼は部下をいじめるような趣味を持っていないと思っていた。


「ふむふむ、ようやくじゃの?ここからは儂についてくるのじゃ。」


 どうして、コーリン将軍についていくのだろうか。このような時にはコーリン将軍が前に出ないほうがいいと思うのだが。ま、しょうがないのか…。いや、しょうがなくないか。精鋭兵がいるのであれば精鋭兵を行かせるか、5人組を先行させるだろう。そのような状況だと思うのだが。


「しかし、コーリン将軍が先に出るのはどうでしょうか?」

「そうさの、今回で言えば大丈夫なのじゃ。」

「どういうことで?」

「コーリン将軍がおっしゃっているのだ。指示に従うべきであろう?」

「……わかりました。」

 

 それで納得する人間はいないだろう。あの兵士が考えていることは通常の考え方。そもそも、コーリン将軍が出ていくのが異常。先ほどの発言は精鋭兵のトップの言葉。彼は何かを聞いている。そのことがどのように影響するのか…。そうこう考えている間にコーリン将軍が山を登っていく。珍しく馬ではなく徒歩で登っていく。罠があるということもあるのか。行動がどうもおかしい。明らかに緊張感がない。


 コーリン将軍の行動に疑問を持ちながら他の兵士と歩調を合わせながら山の中を進んでいく。


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