皇太子~論功行賞~
皇太子として生まれてきてはじめは窮屈なことばかりだった。何をしたらいけない。これをしなさい。こういった命令をされる度にあまり良い結果に結びつかなかった。それは仕方ないと自分でも思う。自分からやるのではなくやらされているのだから。自発的にやるようにならなければ良い方向になんて向くわけがない。
ただ、唯一よかったと思うことがある。それはいろんな人に会うことができたから。それは僕の糧になっている。本当に僕の武器。人の才能を見抜くことができること。この才能に気が付いた時にはハーグが傍にいて助かったのを覚えている。ハーグは良くも悪くも人の話をよく聞いてくれる。僕の見え方の話もよく聞いてくれた。
見え方は話をしていると目の中に光ったものが見える。そして、光っているところを見ればマークが浮かび上がっている。そのマークの意味が何かわかれば才能があることがわかるのだ。もちろん、本人の思いと適性というのは異なることもあるため僕から強制することはない。でも、強みを伸ばすことがまずは大事。みんな、僕の言うことはよく聞いてくれるから、一回はやってみる。そうするとそのまま続くということが多い。
ハーグやケヴィン、ジョゼフ、レイなど多くの人たちを雇うことができた。運がよかったとも言える。普通の才能であればそこまで光ることはないのだから。続けて登用できたのはまさに運が良いとしか言えない。彼らはそのまま僕に仕えてくれている。王ではなく僕に。王もそのようにしていたのだけど、一番大事なのは本人の意思だ。彼らは僕と一緒に来てくれることを選んでくれた。王が倒れて内戦が始まった時にも彼らはついてきてくれた。そして初陣となるということで儀礼である墓地の巡回に行ってワカトシに出会った。
王代々の墓地に侵入したワカトシを見ていたけど、不思議に思った。ここに連れてこられたことも分かっていないような感じであったのだ。あのような人間が間者のわけがない。ハーグやケヴィンはずっと疑っていた。半分疑うのが仕事ではあるのだけど。疑うと言っても完全にワカトシを疑っているわけではなかった。白ということを裏付けるための調査だ。
彼の目を見たときに示していたのは兵士のマーク。見間違えようがなかった。しかし、兵士になるには体の線が非常に細い。今までどのような生活を送ってきたのだろうかと思ってしまうくらいに。それこそ農業などをやっていてももう少し線が太くなるはず。貴族ということも考えられるのだけど、貴族の言葉を知っているようにも思えない。ただ、僕たちとの会話は理解できているからそれなりに学があるのだろうけど。
ハーグから渡された資料を見たが、まったくの白紙である。…、ハーグの方を見たがハーグは何も言わない。この情報しかないということは皆目見当もつかない人であると。少なくとも近隣の国ではないということだろうけど、そんなことはあり得ないと思う。背が180センチを超えるような人間はそんなにいないため目立ったはずだし。住民の間でも有名になるはずだ。
まあ、ないものはないのだし。伝令が入ってきた時にも彼は驚いた顔をしていた。あの驚き方であればこの国の話も聞いていないのだろう。しかし、ではどうやって彼は生きてきたのだろうか。生きている姿がないということはあり得ない。どこかに痕跡があるはず。その痕跡がないとすれば神隠し的なものである。そんなものは存在しないはずだけど…。考えても仕方ないこと。
「しかし、本当に登用するのですか?」
「そうだけど、ハーグはどうなんだい?」
「いえ、コーリン将軍が推していますからね。今回も遠征にも参加するので、その戦いを見てからでも遅くないと思っています。」
コーリン将軍からの連絡文は何も来ていないけど、良い方の報告だろうと思う。久々に聞くね、コーリン将軍の推薦は。こういった時にはいち早く報告書を上げるように言っているけど今回は戦でそれどころではなかったのかな。仕方ないとはいえね…。
「もちろん、厳重注意しておりますよ。」
ハーグは僕のことをよくわかっている。だから、僕も楽ができるわけだけど、分かりすぎていて少し気持ち悪い。彼には1回も言ったことはないけど。牢屋での話もしっかりと覚えてくれているだろうか。それこそ、あの話は全て噓ではない。ちゃんと彼には僕を抑える役目をしてもらうつもりだ。彼には辛い役目になるかもしれないが、それでも彼はやりきるだろう。彼の目の中に天秤が見えたのだから。
「また、正式にコーリン将軍の弟子とここに認定し、コーリン将軍個人が持っている朱槍をワカトシに与えるものとする。」
ハーグがそのように宣言した。この論功行賞というのは面倒なものだと思わない。ここでどのようなふるまいをしているかでわかることも多い。僕の能力も才能を見抜くだけで人間性や倫理観などは見抜くことができないのだから。コーリン将軍にとっては大事な槍のはず。息子さんの槍なのだから。コーリン将軍のほうを見てみると特に表情に変化はない。もしかしたら、この槍が特に思い入れがあるというわけではないのだろう。
椅子から立ち上がり、手を挙げた瞬間に喧噪が止む。ハーグが言った通り、王の真似をしているだけだけどかなり緊張する。僕はみんなに話しかけるようなことは苦手なのだけど。仕方ないか、役目だし。それでも何とかできないかと思ってしまう。他の人に引き継ぎたいと。まあ、無理なんだろうけど。
「ここにいるワカトシはすでにわが陣営の兵士だ。思うところはあるだろうが、彼に危害を加えることは禁止する。すでに洗礼も受けているようだしな。」
僕の声とは思えないような低い声が出た。隣のハーグが少し笑っているように見える。いつも無表情だが、見ているとわずかに変化があることがわかるから。僕はもう一度コーリン将軍のほうを見た。コーリン将軍は黙って頭を下げた。ワカトシが壇上に立っているのを見て僕が彼の傍による。
「よく頑張ったな。まずは第1段階を突破だ。」
彼がこんなに早く結果を出すとは思っていなかった。僕は彼に短剣を渡す。何か宝石がついているわけでもない。何の変哲もないナイフ。しかし、このナイフを手に入れるためにみんなが頑張っている。
「宝剣というわけではないが、名誉という形の短剣だな。」
この短剣をもらうというのはその戦で活躍したという証。今回の戦いでは一番の活躍だ。そのことをワカトシは分かっているのだろうか。…緊張で何も考えられていないのだろうな。そもそも口数も少ないし。人に対して緊張する性格なのだろう。
「これからもよろしく頼むぞ。そして、さらなる戦果を期待する。」
そのまま椅子に座った。…ワカトシが固まっている。もしかして、流れを説明していなかったのかな。コーリン将軍が咳ばらいするとワカトシがハッとしてそのまま退場する。他の人を見る余裕もなかったのだろう。
「殿下からの言葉です。」
ハーグからはなんでも話していいと言われている。それはある意味難しい。あまりに自由すぎるとかえって困る。しかし、何か言わないと。
「先の戦いでは皆、ご苦労だった。先ほど紹介したワカトシがガーマスを討ち取ったおかげでたった1日で撃退することができた。コーリン将軍の機転で国内の兵士の数もそこまで損失を受けていない。これは良いことだ。この戦いでは多くの犠牲が出るはずだが、できるだけ皆の者には兵士を殺さないようにしてほしい。」
変な言葉だ。戦争をしている人間が相手を殺さないでほしいなど。本音であることは間違いない。しかし、僕は自国の人間に死んでほしくない。本当にそれだけ。それが少しでもみんなに伝わればいいと思っている。




