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19話

 コーリン将軍の訓練が始まって1週間経った。1週間の訓練というのは濃密であった。全体訓練と個人的な1対1の訓練を交互に行っていく形である。特に1対1の形式はすべての兵士が格上と戦うという形。俺であれば百人将からである。もちろん、それぞれの適正に合わせて1対1をしない兵士もいるが、俺はそのようなところから除外されており、百人将の次は千人将と戦う羽目になってしまった。千人将からは強さが別格であり、彼らが守りに入ってしまえば引き分けになる。しかし、負けることはなかったので強くなったということのなのだろうか。あくまでも一騎打ちの場合である。戦争というのは長く戦うものであり、みんなで戦う。小説や漫画にあるような一騎打ちはほとんど存在しない。そういった意味で強くなったと言っても禁物である。


「ふむ、、、」


 現在、所属している百人将が手紙を見ながら少し悩んでいるようだ。あの百人将は決断が早いことで有名だと聞いたが、その彼が悩んでいるというのは少し奇妙だ。


「ワカトシは休んでいないよな?」


 周りの部下がしきりに頭を縦に振っている。


「えっと休暇はいただいておりますが…。」

「お前、分かって言っているだろ?」


 正直に言えば不安なのだ。この世界に来て1人で行動したことのない俺は何も知らない異世界人である。その異世界人が生活するためにはこの世界を知らないといけないのだが、その知るという行為が簡単ではない。どうしても異世界ということで体が緊張してしまうようである。前の世界でも新しいことを始めるのには大きな勇気がいることだったからな。


「どちらにしてもお前は休みを取って寮の話と2日間の休みを取ることを命じるからな。お前がとらないと他の兵士たちも取りにくいから。お前の体が丈夫なのはわかるが、ゆっくりと体を休めろ。案内役はつけるからな。」


 そう言って百人将はどこかへ行ってしまう。他の兵士たちは寮のところでうらやましい顔をしていた。もしかして俺が思っている寮というのとは別の待遇なのか。前の世界では補助が出る印象だったがな。まあ、いいか。案内役がつくのであれば…。


「じゃあ、行こうか。」


 兵士と思っていたがオルタとは…。オルタは体が大きいからな。俺もこの世界では身長がかなり高い。そう考えれば背が大きすぎる兵士が2人で歩いているのは周りの住民からすれば畏怖のような印象になるのではないだろうか。少し不安だと思う。別に何かするわけではないものの普通の人を怖がらせて何も得にならない。むしろ良くない方向に転がっていくだろう。


「どうかしたの?何かある?」

「そうではないが…。」

「ま、気楽にすればいいよ。」


 オルタの後をついていくと馬があった。


「乗れないよね?」

「そうだな…。」

「本来ならお前は十人将ではなく、その上に命じられる予定だったのだけどね。罪を消すところで手を打たないといけなかったみたいだから。」


 それもそうか。罪人から十人将になるのも難しかったのだろうな。コーリン将軍が何か手をまわしてくれたのだろうか。そのようなことをする将軍には見えないのだが、案外そういった関係も上手なのか。十人将よりも上の役職に命じられなくてよかった。うまく指示なんかできやしないから。


「少なくとも百人将の上にならなくては乗馬の機会はないから。仕方ないよ。」

「そうか…。」


 あとは配置にもよるのだろう。歩兵に配属されれば乗馬の機会に巡りあうこともないはず。彼の腰に手を添える。オルタは足で馬を蹴って進んでいく。そこから2日かかり街に着いた。本当に中世の街並みが並んでいる。壁の色は白が多い。屋根は木でできている。作りが歪な感じがする。異世界だからか…。人もそれなりに歩いているが、そこまで多くの人がいるような感じではない。地方都市という印象。


「ここがメントという都市。南部では一番大きな都市だけど、それこそ南部は避暑地であまり農業以外の産業はないから。まあ、強いて言うなら温泉があるくらいかな。」


 …十分だと思うのだが。オルタにとっては十分ではないのだろうか。いや、興味がないのかもしれないな。そうであれば仕方のないことである。でも住む場所というのはそれなりに重要なことではないだろうか。


「それよりも寮の説明をするね。」


 基本的に寮というのはお金を払わなくてよいらしい。だから、兵士たちもそれなりに高給取りだと思うのだろう。家賃と食事が一番お金のかかるものである。その1つがなくなればそれなりに大きなものだ。案内されたのは一軒家である。これは寮で合っているのだろうか。


「ワカトシ、ここだよ。少し古いけどね。」


 寮の中というか部屋の中を見てみる。2つほど家具とバケツみたいなものが置いてあるだけで他には何もなかった。家具の中を見ても物がないな。しかし、誰かが使った後はあるので誰かが住んでいたのだろう。当面はここで生活するようになるのだろうか。戦争中に家具などを買うのは少し待ったほうがいいのかもしれないな。そのまま周りを見てみる。オルタは窓を開けていた。


 トイレと洗面台があったのは正直助かる。ただ、大きく掘ってあるトイレは怖い。ここに落ちれば糞まみれで死ぬことになるだろう。1人暮らしだから助けは来ないだろうし。しかし、本当に掘っているだけなのだな。もう少し周りを加工していると思っていたけど。石が置いてあるだけというのは厳しいな。和式だし。久しく和式の便所を見たことがなかった。そして、トイレの横に何か水が溜めてある。


「ああ、それはお尻を洗うものだよ。どうしても痔の人は洗わないとひどくことがなることがあるらしいからね。そして、隣にあるのがお尻をふく葉っぱでこれだけは買わないと困るからね。他のものに関しては自分で調べてみて。そして、これがお金だから。」


 そう言ってオルタは机の上にお金を置いて出ていく。もしかして、そういう風に命令されていたのだろうか。挨拶も碌にできなかった。彼には悪いことをしてしまったかな。他の場所も見てみるか。


 洗面台には水がない。汲むのは外の井戸で汲むことになる。少し他の家も見てみる。他の家も平屋ばかりだ。構造上難しいのか。家も土壁だからな。水を2階まで運ぶのはかなり難しい。毎日の話だから、いかに力持ちの兵士と言ってもそのような場所に住居を構えることはないだろう。一般の人はなおさらだ。ただ、洗面台の排水だけはしっかりとしているようだ。しかし、川に垂れ流ししているらしく、水道ではあまり生ごみなどが流れると詰まる原因になる。ここは異世界の国であるとしっかりと頭に入れておかないとうっかりしそうだ。


 個人的には竈のようないわゆる台所がないのはすごく残念だった。凝った料理ができるわけでないけど、量を食べるのであれば自炊が一番だ。どうしても手間暇がかかるけど、一度に多くの量を作ることができるし、何より自分の好みに味を変えることができるのは楽だ。店の人を悪く言うわけではないけれど、柚子胡椒があればなとか、ご飯のお供にこれが欲しいとかできないから。長く住むようであれば頼もうか。


 部屋のカギを使ってドアを閉めた。もうすぐ任務ということで寮の場所だけを案内してもらったのだ。本来なら買い物をして次来るときに足りないものだけということにしたかったけど、そうもいかないらしい。しかし、すぐに任務なんておかしいな。コーリン将軍はそんなに無理をするような人ではないような気がしたけど。


「ワカトシ、大丈夫かい?」

「え?」

「今から兵舎に帰るよ。」

「…早くね?」

「そういう命令だから。」


 本当に案内して終わりだったらしい。それもそうか。今は戦争中だから2日ほどでも往復を考えればまだ2日間あるからもう帰らないといけないのか。


「でも、きっとこの寮には戻ってこないかもだけどね。」


 コーリン将軍が南部の将軍であるというのは聞いたことがないため、この場にとどまらなければ別の場所に異動するのだろう。この寮というのはおそらく支給されているものであるため、配属になる土地で新たに与えられるのだろう。俺とオルタはすぐにメントを出発した。


 兵舎に着くと兵士が整列している。俺もその列に加わる。少し遅くなったから後ろに居たら、前に連れてこられた。どうやら、これから新しい任務として郊外に行くらしい。その発表会ということだ。忙しいな、軍と言うのは。いろんなところで事件が発生するから仕方のないことだろうけど。俺の名前が呼ばれているような気がしたが、ぼーっとして聞いていなかった。コーリン将軍の話はまどろっこしいからな。


 コーリン将軍がニヤッとしていることから何かを企んでいるのだろうな。彼は俺の肩をバンバンと叩き、笑いながら去っていく。不吉な予感しかしないのだがね。


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