18話
合流するとコーリン将軍の軍は少し緊張感がある。どうしたのだろうか。まだ戦争というわけではないだろうに。今から緊張しているのであれば疲れてしまうと思うのだが。この戦いが内戦ということも関係しているのか。それでもこの雰囲気はな。もう少しどうにかならないものか…。
周りを歩いていると兵士がそれぞれ1対1で訓練を行っている。木剣とはいえ打ちどころが悪ければ大怪我につながることもありうる。俺が思っている以上に他の兵士たちが真剣になっているということか…。それによって生死が決まるので間違ってはいないのだが、雰囲気がどうしてもな。
「ワカトシはこっちだ。」
馬に乗せてもらった百人将が声をかけてくる。その百人将の後ろには10人の兵士がいた。…何だろうか。この兵士たちは。それこそ年代はばらばらである。若い兵士が4人ほど。その他はみな、自分よりも年上に見える。
「わかっているとは思うがワカトシは今回十人将に任命された。要するに君は10人の部下を持つことになったわけだ。」
確かに任命されたが、俺が本当に部下を持つなど思ってもみなかった。すでに10人の部下を持つのか。この国のことすら碌にわからないやつがどうして10人将になれると思うだろうか。使用期間ではないが、そのような猶予期間というのは設けられなかったらしい。まあ、設けるわけもないか。戦争が間近に迫っているこの状況で試してみるということはあり得ない。他の兵士たちも心配そうに俺を見ている。それもそのはず。俺も不安だから。
「ここにいる兵士たちはお前の言うことを聞いて動く。要するにお前が指示したことで死ぬことも十分にあり得る。そのことを自覚して命令を行え。」
そう言って百人将はそのまま去っていく。残されても俺がどうしろというのだろうか…。口下手だし。他の兵士たちも俺を見て黙っている。年配の兵士が俺のほうを見ながら値踏みしているが、そのことを指摘するような余裕はないな。そのほかの兵士たちは別に何とも思っていないようだ。それもそうか。隊を選ぶことはできないし。
「えっと、隊長はもしかして口下手な方ですかね?」
その言葉に頷いた。初対面の人間に話すような度胸は持ち合わせていない。他の兵士たちもその様子に落胆したような印象を受ける。意思疎通を図ることができない隊長は頼りない。俺でもそう考えるな。しかし、そのことを理解してくれる兵士がいて助かった。違う兵士たちもそれぞれ何か話をしている。
「今回の戦いで死者が出ていますし、適正によって配置の変更もありました。隊長は今回の任命によって十人将になりましたけどね。」
確かに周りを見ればそれぞれが紹介をしているな。しかし、10人もの名前を覚えるなんて不可能だ。絶対に間違える自信がある。
「もしかして名前を覚えるのも苦手ですかな?」
またもその言葉に頷く。そのような隊長に当たったことでもあるのだろうか。話が通じすぎているような気がする。すでにため息をついている兵士もいる。仕方ないか。しかし、態度で出すのはよくないなとは思う。
「わかりました。ではあまり覚えないほうがいいでしょう。そのことで変な間違えをしてもいけません。では、よろしくお願いします。私たちの命は隊長が握っていますので。」
そのように言われるとかなり重たく感じるな。自分の命ならまだしも他人の命を預かるというのは少しな。そこまでの重圧を感じたくはなかったが兵士という以上は部下を率いることも多分にあるだろう。それが少し早まったというだけのことか。他の隊も同じようなものか。どうしても上下関係というのは難しいらしい。
「ワカトシか…。」
見るとオルタが立っている。以前の試合からそこまでの時間が経っていないが、話をした中では生存している兵士の中で一番印象に残っている。彼もそれなりに怪我をしているようで包帯を巻いている。オルタは俺のほうを見ながら槍のほうへ目を移す。槍を見る目がコーリン将軍もそうだが、変わっているような気がしている。この槍は何があるのだろうか。槍というのは生きているわけではないよな。
「随分と差ができたね。」
「そこまで差があるとは思っていないのですが…。」
「いや、明確に差ができたね。君は総大将を討ち取っているから。」
そんなに違うとは思っていない。今回の戦いは運によるものが多いと思っている。他の兵士たちも尊敬の目で見ているが、そんなことはない。彼は俺のほうを見ながら木剣を構えている。他の兵士が槍を持ってきている。
「少しやってみるかね?」
いや、少しってがっつりと試合するような気がするのだが。その槍を受け取った。オルタは剣をゆっくりと構えている。彼はそのまま距離を少しとった。他の兵士たちも距離をとっている。彼は少しこちらを見ている。これは逃げることができないな。槍を黙って構える。少し前に近づくと彼の剣の軌道が見える。その軌道に合わせて振るえば簡単に、、軌道が少し変わる。慌てて避けた。
「俺もそれなりに強くなっているからな。」
「…。」
槍を伸ばしてみたが、剣で防がれる。…、以前よりも俺自身が成長している。あの時はたまたま勝つことができただけで、今回は違う。彼が剣で防ぐがないといけないほどには成長できている。そのまま力を籠めるが、オルタには力で勝つことはできないだろうな。剣で押し返らせて槍を弾かれた。少し距離を取る。再度の剣で振るってくるのを何とか避けた。
「ほう。元気じゃの?」
後ろから聞こえた声に槍を合わせたが吹き飛ばされた。
「遊びはここまでじゃ。」
そこにはコーリン将軍がいた。




