表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

3話

 森から移動する。道路はコンクリートで舗装されていなかった。全て土である。ただ、ちゃんと固められており、道路にはなっているが、大きな石は撤去されておらず、障害物がある場合には迂回路がある。道中の携帯している食事は干し肉やパサパサのクッキーなどが中心になっている。食料保存を考えれば仕方ない。前の世界の食生活の豊かさを感じる。食べてみるが、美味しくない。口の中がぱさぱさになっていく上に、固いため顎が疲れる。このような食事では子供や高齢者が避難するときの過酷さというのがよくわかる。幸いにして太陽光でiPhoneが充電できる充電器を持っていたのが良かった。iPhoneを何に使うかは未定だけど。早く鞄を返してほしい。音楽とか聴けば多少は気が楽になる。


「しっかりと歩けよ。」


 彼はそのように言うが、足が痛いので少し姿勢が悪い。左足をかばっているせいで右足を痛めることがないように注意している。治療をしてもらったが、固定しただけで何もしてないのと一緒である。患部に塗った液体は炎症を抑える物だろう。しかし、薬とは違っているため効きは悪い。体には優しいのだろうが。ただ、急いで歩けとは言われていない。


 行軍の最中、彼らは全くしゃべらない。俺に情報を与えるのを防ぐためかと思っていたが、なんとなく違う気がしている。彼らは何か警戒しているため、会話が少なくなる傾向にあるようだ。何に警戒しているのか。あの2人も若干緊張している。その日の夜、初めての野宿だが、兵士は雑魚寝である。地面に直接寝るわけではないが、それでも少し段ボールのようなものを引いて終わりらしい。そして、半分の兵士は見張りのために寝ていない。大きな木に縄ごと括られた。手と胴体を括られている。


「寝ていいぞ。」

「…。」

「なんとなく言いたいことはわかるが、これが普通だ。お前は罪人だから。」


 そう言って彼は去っていく。しっかりと固定されているためあまり動かすと手首が痛い。兵士たちは慣れているのかすぐに寝ているようだ。こういう時に早く眠ることができるのは慣れだろうと思う。目を瞑った。


「おい、おい。」


 左の頬が叩かれた衝撃で目が覚めた。


「さっさと起きろ。」


 縄が解かれて、そのまま立たされる。…、足が治っている。足を動かしてみるが痛みがない。そのまま歩いてみると普通に歩くことができる。こんなに早く怪我が治るのだろうか。緊張で早く治るのか。早く治るのは良いことだ。


 歩いて2日後。着いたのは城…、にしては小さい。兵士や配下など多く出てきているので、この建物が居城なのだろう。本当に大きくない。堀などはあるものの1メートルあるかどうかで浅い上に門が守ることができるような造りをしていない。門も3メートルくらいであるし、周りの壁も石で作っているわけではなく、木で作っている。居城というよりも少し大きな別荘である。全員が門をくぐっていく。その上、全て木でできている。


 中に入ると多くの兵士が詰めている。おそらく城の後ろ側にも兵士がいるだろう。この城は大きくないが、それでも普通の家の3倍はありそうだ。少し駐留するくらいであれば大丈夫だろう。ただ、軍に攻められれば耐えきることなどできない。変わっているのは周りに民家がないことだ。少しくらいはあってもいいと思うが。


「何をしている?お前はこっちだ。」


 兵士に引っ張られながら裏口へと案内される。そして、鉄の柵がある場所に連れてこられた。そして、鉄の鎖につながれる。


「ここで少し待っておれ。」


 そのまま兵士は出ていく。鉄の鎖を引っ張ってみるが、とても壊すことができないものだ。そして、思った以上に重たい。本当に罪人となったのだな。あの場にいただけなのにどうしてこうなったのだろうか。あまり良い展開が思いつかない。いや、少し疲れているのだろう。目を瞑る。深呼吸をしながら心を落ち着かせる。呼吸に意識を集中させながら、再度深呼吸を行う。何か音が聞こえる。目を開けると最初に会った男が立っている。


「変わったことをしているな。殿下がお呼びだ。」


 兵士が歩いてきて鉄の鎖を外す。後ろには最初に会った男が控えている。無意識に手首をさすった。手首が痛いわけではない。手首に鉄の鎖がないことを確認するための動作。兵士は俺の手首に縄をかけて、自身の右腕に縄をかける。俺が逃げることがないようにしているのだろう。彼がいる時点で俺は勝つことなどできないのだが。


 彼は無言で廊下を歩いていく。廊下にも目立った装飾品は置いていない。質素な造りになっているのは別荘だからか、それとも別の意味があるのか…。少し大きな部屋で床に座らされた。目の前の大きな椅子に腰かけているのは小さな男の子。周りには2人のおっさんと先ほどの男、そして以前にも会っている女。


「この男がいたのかい?」

「はい。ただ、見た通り、兵士のようではなく、かといって他国の間諜でもないようです。」

「へえー。で、あなたはあそこで何をしていたのだい?」

「殿下、恐れながら彼はあまり口をきけないようでして。」

「そうなの?それにしてはこちらの言葉を理解しているようだけど。」


 この小さな男の子が皇太子らしい。道理でよい服を着ていると思った。ただ、皇太子という感じではない。気さくな方らしく貴族の挨拶なども求めていない。貴族のような言葉を使っていないのは珍しいのだろうか。彼はそのまま俺のほうを見ている。中世的な顔をしている。女性にはさぞモテるだろう。2人のおじさんは立っているだけで何も言っていない。


「じゃあ、なんでいたの?」

「えっと、そこに居たので。」

「そこに居た?そこに居たってあるのかな?」

「ありえないですね。」

「でも、調査ではあり得ているのだよね。」


 女は頷いている。…、何に反応しているのだろうか。おじさんが1つの紙を持ってくる。皇太子はその紙を見ながら頷いている。男も紙を見ながら何かを指さして首を傾げている。


「やっぱりそうだよね。」

「ええ。」


 皇太子は少し顔を引き締めた。あんまし変わっていないが。しかし、俺が出現したところが悪いのは事実らしい。墓地…。その国の風習によっては王族以外に立ち入り禁止など神聖な場所として指定されているところもある。墓地に居るのは不味かったが、そもそもあそこに居たのだから仕方ない。


「歴代の王がいるということもあって、進入禁止になっているのだよね。だから、君は罪人になっているということ。」


 それで進入禁止になっていたのか…。本当に勘違いされるところに居たのだな。歴代の王の墓があれば装飾品のような家宝もあるだろうし、当然か。そういえば他のおじさん2人も体が引き締まっている。軍人というわけでもないのか。わからないな。ただ、しっかりと鍛えているところを見ると軍に所属していたこともあるようだ。


「で、君の足跡が全くないからさ。どうやって侵入したのかってことよ。答えてくれるのかな?」


 …信用されていない。それに答えることもできない。俺自身があの場所にどうやって来たのかわからない。そして、どうやって日本に帰るのかもわからない。後ろの兵士が俺の首元に剣を突き付けている。


「正直に答えるのであれば大丈夫だけど、答えることができないのであればとりあえず、投獄するよ。不審者には間違いないし、危険な存在かもしれないからね。」


 皇太子は俺のほうを見ているが、先ほどとは違ってかなり冷たい目で見ている。もしかしたらあの中に彼の父がいるのだろうか。…、ん、何か表情が崩れているような。まあ、いいか。


「あそこに居たとしかいいようがありません。」


 皇太子が少し考えているが、他の人は何も答えない。むしろ、おじさん2人は俺に興味を失ったような感じがする。兵士が後ろから縄を引っ張る。部屋から連れ出されそして、牢獄に入れられた。兵士も忙しいようで何も言わずに出ていく。


 皇太子が処遇を決めるのだろうか。最終的には彼が決めるのだろう。しかし、他の側近たちが何も言っていなかったというのも気になる。普通であれば少しくらい助言するはずだが、彼らは何も言っていなかった。


 鉄格子からは血の匂いがする。鎖を見ると血が付着している。…、最近まで誰かが入れられていたようだ。戦争中なのだろうか。兵士を特に立てるようなことをしていない。本当に余裕がないのだろう。ただ、そこまでして俺をここに閉じ込める必要があるのだろうか。本来ならすぐに殺すようなところでもある。それでも殺すことがないということは俺にまだ情状酌量の余地があるということか。


 少し足を伸ばす。どうしても同じ姿勢でいるため体が固まってしまう。足を伸ばすとバキバキという音が聞こえてふくらはぎが伸びているのを感じる。鎖に絡まないように上半身を伸ばしていく。…閉鎖的な空間だと暇だし、変なことを考えそうだ。深呼吸をしながら、再度体を伸ばしていく。もう少し体が柔らかければサイの攻撃を避けることもできたかもしれない。


 …、ここからどうなるのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ