表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/59

11話~コーリン将軍~

「将軍、ガーマス将軍が山城へ入っていくのを見たということです。」

「ふむ、わかったぞ。」


 一礼して部下が下がっていくの。斥候の任務を受けている彼のことだからしっかりと確認してきているのだろうが、相手はガーマスじゃ。彼の変装技術、そして人を欺く手はずに関しては目を見張るものがある。警戒は怠らん。そして、もう1つ彼には大きな罪がある。捕虜や無力な住民を殺しまわるということじゃ。彼自身がどのような出自か明らかにされおらぬのはそういった残虐性があるからかもしれん。王もこのガーマスに関しては扱いに困っておる。どうしても戦争というのは人を殺すのは仕方ないことじゃ。戦争でしか解決できないから戦っておるわけで。しかし、戦争というのはその後の統治につながっていくものであるため、無暗にその土地の人を殺してしまっては統治ができなくなるのじゃ。


 暗黙の規定として捕虜や住民に過度な危害を加えるのは禁止となっているため諸外国にも示しがつかん。その残虐性からガーマスは嫌われておる。アミールにもきらわれておるの。彼も野心家でいろいろやっておるのじゃが、あくまでも戦争の延長であり、常に政治の敵を抹殺しようとは考えておらぬ。彼も元来は真面目な性格じゃからの。…ある意味、皇太子のみを暗殺しようとするのはわからぬでもない。皇太子がいなければ大義名分が失われるため大がかりの戦争をする必要もなくなるからの。人材も貴重な資源。それこそ成長するまでに20年程の時間を費やす。国力を上げるためにもまずは人口を増やす。王がそのことを推奨して40年経った今ようやく実を結び始めておる。最初は何を考えておるのかと思っていたが、ここに来てようやく理解できるとは思っていなかったの。


「しかし、何か匂うの…。このまま進んでもいいものか…。」


 山の麓から見上げているのは山城じゃが、今回はその山城を攻めぬ。あくまでも今回狙うのはガーマスの首。ガーマスを落としてしまえばアミールの軍の力は半減するからの。しかし、ガーマスの戦略は常に人の裏を読んで戦う戦術である。彼はその戦い方で多くの将兵を討ち取っている。儂が彼に討ち取られるとは思っておらんが、彼が軍を壊滅させるようなことはありうるのじゃ。予想では森を通って奇襲するはずじゃが、ある程度罠を張ってある。彼がそのまま進んでくるとは思わんがの。全くやりにくい相手じゃ。昔より幾分マシになったが、それでも相性が悪いのに変わりはないの。


 少し進んだところで陣を構える。山城を狙いながら陣を構えるのであればこれ以上進むのは危険じゃ。ガーマスもわかっているはずじゃの。山のほうで少し動きがあるようじゃが、特に何かしているわけでもないようじゃ。歩兵を山から侵入させておるの。敵兵がどれほどいるのか分からんが、数は多くあるまい。敵本陣にいる兵士数が7万を超えておるからの。闇雲に戦いを挑むわけにもいかん。しかし、斥候の情報では本陣にいるらしいからの。珍しいというか、ここまでしっかりと陣を構えているガーマスは非常に珍しい。


「将軍、歩兵部隊が山中で敵と戦っているようです。」

「戦況は?」

「正直に言えば厳しいかと。戦力的にはあちらがかなり有利な上に山城の目があります。」


 山中の戦いでは敵、味方ともに兵士の分布がわかりにくく、戦況が見えにくくなる。そのため援軍や応援を出しにくくなるのじゃが、この山では気が付かないということはあるまい。多少高いとは言え、小山程度じゃ。兵を多く伏せるにも限界があるじゃろう。だからと言って手を抜くことはないが。ん、あれはなんじゃ。


「将軍!」

「見えておる。」


 ガーマスが本陣に入っていくの見えておる。…やはり山城のほうへおったか。しかし、どうして下りてきたのじゃ。山城もしくは山中にいたほうが隠れやすいだろうにの。何かを考えているのじゃろうが、よくわからんの。その上、ガーマス軍が突撃態勢を整えている。いきなり戦いを挑むとは…。こちらがどちらかと言えば攻めている側なのじゃが。彼らはそのまま突撃をしてきた。こちらは迎撃態勢を整えているから問題ないの。…、何か妙じゃの。いつものガーマスとは違う気がするのじゃが。このような無鉄砲な突撃をしたところは見たことがないの。


「将軍、どうしますか?」

「…。そうじゃの。少し引っかかるところはあるが、このまま待機じゃ。この状態で迎え撃つ。合わせて山の方の警戒をしておくのじゃ。何かあるとすれば山の方のはずじゃ。」


 警戒すべきところが増えていくと兵が混乱するが、それでも山の警戒を強める必要がある。山の方からはしっかりと兵士の存在を確認しているからの。兵士がどの程度いるか知らんが、多くの兵士が来たらどうにもならないことになる。雰囲気は確かにあるのだがな。その雰囲気がいつもと違うの。なんというか捕捉されないような存在を相手にしているような感じじゃ。私はどの感覚を頼りに戦えばよいのじゃろうかの。


 後ろからも妙な感覚がある…。後ろにも斥候を放っておるが、帰ってこないの。ガーマスに排除されているのであれば後ろから何か来るということである。しかし、砂塵や騎馬の音も聞こえてこないの。どこかに伏せているとすればかなりの訓練を受けておるな。…、目の前のガーマス軍を見てみるが、思った以上に動けているような気がしている。何か必死のような気がしているが。


「コーリン将軍。」

「何じゃ。」

「後ろから何かが迫ってきています。」


 後ろを見たが、何かが来るような気配はない。気配がないのに後ろから迫ってきているというのはどういうことじゃ。耳を澄ませてみるが、後ろからではなく前の方から聞こえる音だけであるの。少しすると森の奥から兵が出てくる。なるほど、開戦の時にはいなかった兵士たちじゃの。おそらく、ガーマスが本陣に入った時に抜けていった軍か。もしくはわからないようにそもそも伏せていたか。どちらにせよ、後ろに壁を作る必要があるの。じゃが、挟撃を許してしまうとは情けないの。兵力が違うというのは言い訳にならんからの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ