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ガーマス 下

 山を下っていくとコーリンの兵士が上がっていくのが見える。部下が弓を準備していたが止めさせる。彼らの目的は山城の奪還。まさか、山城の中が敵兵であるということはまっったく知らないだろう。それだけでよい。あとは真ん中を分断してしまえば先遣隊は全て死ぬ。そして、中腹もまた崩れて前に進むのが難しくなるだろう。我々の目的は山城を守ることではなくコーリンを討ち取ることにある。他の将兵もいるが、まずは一番の名声を持っているコーリンを殺してしまえば早いのだ。彼の死だけで半数の兵士はアミールへと下るだろうからな。…、正直あんな小心者はどうでもいいのだが、このままでは将軍の地位をはく奪とかぬかしたからな。割とこの将軍の地位は使い勝手がよいからな。


「アニキ。」

「よし、せん滅しろ。肉片も残すな。」


 200騎の精鋭が下っていく。…、何か違和感があるな。ふん。中腹で多くの兵士を葬っている。山城のほうにも合図が行っている。よしよし。これで1千人くらいはすでに殺せているな。山に入る人数はそれほど多くないから、ある程度の情報を封鎖できている。ここに俺がいることがばれればコーリンは防備を万全にして迎え討つだろうからな。


 遠くのほうで大きなほら貝の音が聞こえる。…、よい時期だ。存分に潰し合えばよい。その合間を縫ってコーリンの首を飛ばしてくれよう。快進撃で走っていた騎兵がわずかに速度を落とした。コーリンもある程度こちらに精鋭兵をよこしていたか。珍しいな。コーリンの奴も山城を狙っているように見せて俺の首を取ることが最優先のはずだが。何か別のものを狙っているのか。そのようには見えないのだがな。運よく精鋭兵がいたのか。剣を振るうと敵の兵の頭が裂けた。ある程度、敵兵が間引けたところで下馬する。ここから先は隠密で動くため、馬の蹄の音は大きすぎる。


 また、奥から敵兵が出てくるか。ん、何かいるのか。動きが止まったな。…、この劣勢でもよく動けている。精鋭兵といえど、なかなか崩すのは容易ではない。手を上げる。後ろから多くの弓矢兵が出てくる。森の中では弓矢兵の絶好の隠れ家だ。合図をすると一斉に弓矢が放たれる。あとは、適宜放てばよい。…、少し時間がかかりすぎだ。早くせん滅する必要がある。前に出るか。


「全員前に出ろ。」


 流石に俺の顔は売れているか。目の前の敵は少し地位が高そうだが、遅いし、弱い。その兵士を一刀両断した。その姿を見た周りの兵士の動きが一瞬止まる。俺は手を上げた。


「ここを徹底的に叩け。」


 ん、何か見覚えがあるな。遠くのほうへ飛ばされていった男の槍はコーリンの息子の物のはず。ならばあいつが弟子か。まあ、あの高さから飛ばされれば当分は動けまい。まずはコーリンの首が先決か。中を掘ると余計なものも出てきそうだしな。後ろのほうもしっかりと間引きができている。


「…ここから本陣を攻めていく。斜めに進んでいけ。」


 百人ほどだが、奇襲では充分の数だ。あと、後詰で5千の兵士を準備しているからな。その5千はまだ突っ込むには早い。後ろからわずかに音が聞こえた。コーリンの兵士が隠れていたのか。流石に一筋縄ではいかんか。しかし、もうすでに作戦は始まっている。この流れを止めるには俺の殺すしかないが、あの20名ほどの兵士では俺を討つことなどできないだろう。


「絶対に行かせるな。」


 俺の前にあの槍が目に映った。…、生きていたか。コーリンの弟子かと思うほどに体の線が細い。しかし、あの槍を持って何もないのか。それなりにあの槍に認められているということ。弟子であるには理由があるか。


「そいつを殺せ。」

「抜かせ。あのようなひょろい男に何ができる?」


 良い目をしているな。


「お前は?」

「若利。」

「そうか…。俺の軍に入らないか?」


 彼は俺の言葉を聞いていないな。入る気はないということか。まあ、コーリンの軍に入ってから別の軍に入るということはあまり聞かんからな。コーリンの弟子ということはこれが最初の戦場か。俺と話す余裕などないか。


「…。」

「そうか。まぁ、いい。死ね。」


 振るった剣を槍で止めた。おそらく筋力は俺のほうが上のはずだが、彼には何かが見えているのだろう。その場で受け止めることができる最適な場所を分かっているような感じである。しかし、無理はしているのだろう。表情は険しく額からも汗が出ている。返しの剣を振るうが避けられる。この剣も避けるか。強い兵士だな。見てはいないが、勢いを止めたのはこの兵で間違いない。後ろのほうに意識やればこちらの兵士が優勢だな。この男は意外と粘る。


「…。流石に普通の兵士ではないか。」


 あえて置いたのかどうか知らないが、この状況で不利なのは俺だな。まあ、それも目の前の男を倒せば終わりだな。本気を出そう。この敵は充分に本気を出すに値する。自然と笑みがこぼれる。本気で戦うのはいつぶりだろうか。彼の槍はまっすぐ伸びてくるから簡単に避ける。速度が速いわけではなくて、彼は俺の動きを読んでいる。恐ろしい才能だ。この才能が完全に開花すれば勝つことなど不可能だ。わずかに軌道を変えてきたか。耳の横が斬れる。そして剣で槍を防がなくてはいけなくなった。徐々に彼の目の焦点が合わなくなっていく。過集中か。多くの軌道が見え隠れして彼の槍が胸に吸い込まれる。防いだはずの剣は砕けている。


「…フッ、ここで死ぬとはな。」


 目がすでに見えなくなったが、耳だけは聞こえるのか…。砕けた剣を振るったがわずかな感触だけだった。戦場なんだ。このように死ねてよかったと思うべきかな…。コーリンを越えたかったな…。


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