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指揮官~9話~

 コーリン将軍より手渡された資料は非常に薄い。それでも皇太子殿下の目をかけている男なので資料を渡されたのだろう。資料の内容もあいまいな物ばかりで実体がつかむことができないような感じだ。今まで生きてきたのであれば多少の痕跡がありそうだが、全くないというのはどうしてだろうか。他の国に資料が残っているとは思えないが、ゲルラリア国に入ってからのことであればちゃんとわかりそうなものだけどな。


 私が見る限り変な兵士ではないようだが、何か秘密がありそうなものである。連れてきた彼はなんというか非常におとなしい。兵士としては才覚があるととても思えないのだが。まあ、殿下が連れてきたということはそれなりの才能はあるのだろう。しかし、つかみどころがないような男だ。何を見ても珍しい顔をしない。淡々と作業をこなしているだけのように思えるな。


 驚いているのは兵士に時間をかけているところみたいだな。最近の取り組みではあるもののこの兵士は頭が良い。いや、教育を受けてきたと考えるべきか。そのようなのに調査結果がこの感じか…。


「何が重要であるかと言えば、陣形の弱点を知ることだ。」

「え?」

「あのな、我らは指揮官だが、我々だけで戦うことはできん。だからお前たちが事前に危機を察することも重要になってくる。全員で危機を感じれば脱出することができるかもしれぬだろう?」


 他力本願とも取れるかもしれないが、これが現実だ。戦場では1人で戦うことなんてない。みんなで戦ってようやく勝利することができる。戦場というのは共同作業という風にとらえている。ただ、将軍達の見える世界はまた違うのだろう。私なんかよりも広い視点で見ているに違いない。コーリン将軍は危機感というよりも戦術理解と流れを読む兵士を作り上げようとしている。戦術理解に関しては現場の下位の指揮官でそれなりに指示すれば実戦できるだろう。問題は流れを読む兵士である。コーリン将軍が空気を読みながら戦う将軍なので、その空気を読めるような兵士を作ろうとしている。わざわざ目の前にいる兵士には話すことはないが。


「君は頭が良い。だからわかっていると思うが、この計画には少なくとも4年以上の歳月がかかる上に、現状で陣形などを理解していない兵士には習得が難しい。だから、コーリン将軍は軍を根本から変化させようとしているのだ。君のような特殊な人間はコーリン将軍が見逃すわけがないということさ。」


 ただ、これは事実。コーリン将軍も変わった兵士を登用することで有名である。癖が強い兵士が多いのだが難点か。それでもその兵士たちは結果を残しているのだから問題ない。将軍の息子が生きていればもっと軍も変わっていたであろう。死んだ人間のことを言っても仕方のないことである。


 座学は問題ないだろう。合図に関しては他の兵士がやっているのを真似すれば当面の間は問題し、5人組で構成されるため誰かが教えてくれる。どこに配属されるかは私も聞いていないが。あとは武器か…。今回の戦いでは山での戦闘が予想される。槍でも問題はないのだが間合いが長すぎて山の中での戦いでは別の武器を使用したほうがいい。何回か戦闘して慣れているのであれば問題ない。


「君にはまず、槍ともう一つ武器を決めてもらう。もう一つの武器を決めるのは森や洞窟などの長い武器を使えない場合だ。」


 彼は少し驚いた顔をしている。それもそうか。山での戦闘になるとは言っていないのだろうからな。しかし、彼に国の名前も教えないようにするとはコーリン将軍も酷なことをする。この戦いで何もなければ大丈夫ということだろう。それでもかなり厳しいと思っている。彼はいろいろな武器を試して、短棒を振っていた。かなり良い感じになっている。


「ふむ、とりあえずは短棒でやってみよう。戦争が迫っている中で時間をかけることができないのもあるからな。次があればもう少し適性を見る。まずは槍だ。こっちに来てくれ。」


 彼を連れて訓練場へ出向いた。多くの兵士が槍を振っていたが、彼を見た瞬間にいくらかの兵士が手を止めた。コーリン将軍と打ち合ったことをよく覚えている。コーリン将軍の一撃に関して言えば簡単に止めることができるようなものではないのだ。一撃が重すぎて武器を簡単に手放してしまうほど。しかし、この男は武器を失わずに戦い続けたのだ。尊敬の眼差しで見ているようであれば大丈夫だろう。私はその場を後にした。


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