閑話~オルタ~
片田舎から軍に入って5年の月日が経った。軍の門を叩いたあの日、コーリン将軍の兵士の強さを思い知ることになった。片田舎の兵士たちの実力はたかが知れていた。それでも強い人が1人だけいて紹介状を書いてくれていたため、コーリン将軍の軍に所属することができたと思っている。みんなの力を借りて強くなれた。ようやく他の兵士と並ぶことができて、強くなったと実感できた。そして、今日は別の新人と戦うということだった。殿下のお気に入りということで手加減をということだが、手加減とは無縁の俺には厳しいかもしれない。目の前の男は明らかに文官とも言えるような体の線の細さ。そして、怖がっている様子をみれば素人というのも理解できる。
「お前か…。名前は?」
「ワカトシ。」
「ふむ、ワカトシか。私はオルタだ。」
「頼むぞ。」
「はい、将軍。」
「じゃあ、試合をしてみるぞ。」
コーリン将軍は俺に向かって試合をするように命令した。試合になるわけがない。木の剣を渡された時には勝利を確認していた。剣を少し無造作に振り、切りかかる。その瞬間には地面に転がっていた。肩から鋭い痛みが走っている。彼は何をしたんだ。しかし、周りの兵士たちは何も言っていない。俺が油断していたのと彼の強さがわかっていないのが原因か。
「ふむ、オルタ。大丈夫かの?」
「はい。」
「下がっておれ。どれ、儂がやろうか。」
コーリン将軍が直々に指導するのか…。かなり久々じゃないのか。俺が軍に入った時には多少試合をやっていたが、数年前には一切見なくなったから。剣を握るということはそれなりに元気なのだろう。体の不調を訴えた時、王は非常に心配していた。あの心配ようは他の臣下が困るような感じだったらしい。
肩のほうをさすってみるが、どうにもなっていない。すでに痛みは引いている。力はそこまでないようだ。新人だから筋力がついていないのだろうな。動きはあまり見ていないが、それでも俺よりは早いのだろうか。コーリン将軍との試合を見ていると動きは早くない。彼は俺の動きを見て反応したのだろう。素人とはいえ、見切られたのか。
「オルタ。」
先輩が肩に手を置いた。振り向くと先輩は首を振っていた。
「あの新人は成長すれば将軍まで手が届く逸材だ。お前は徐々に成長すればいい。」
そういわれて徐々に成長したいとは思わない。彼はどんどんと先へ進んでいくだろう。しかし、俺も成長したいのだ。
「じゃあ、隣にいろ。」
「え?」
「あいつの傍に居ろ。一緒に戦っていけ。そうすれば成長できる。」
先輩は別のところへ行ってしまった。すでにコーリン将軍とワカトシの試合は終わっている。あのコーリン将軍の攻撃を2回も止めたのか…。すごい男だ。尊敬する。他の兵士も彼のことを見直したようだ。すごいな…。コーリン将軍も俺のほうを見て頷いた。彼の傍で強くなろう。




