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9話

 朝起きるとすでに日が見える。周りは薄暗いので日の出の直後くらいだろう。井戸が掘っているところから水を汲む。初めてやったがうまくいかない。現代の日本では井戸からポンプでなくバケツで水を汲むところはないだろう。地味に体力を使う。以前はこのようなことを毎日やっていたのか…。


 井戸の近くにかけてあるタオルで顔を拭く。このタオルもいつ洗ったのかわからないので、1回水で濯いだ後に顔を拭く。今までの世界で恩恵を受けているようには思っていなかったけど、現代の技術はすごいものだ。そのような時間を全て仕事に費やしているということは現代の人間は仕事をしすぎている。それでも終わらない仕事って本当に何だろう。金を稼ぐのにそこまでの体力を費やすなんて。しかし、昔の人も同じか。夜遅くまで仕事をしていたのだから。


 目と肩の調子が凄く良い。やはり、パソコンやスマホは目に良くなかったのだろうな。ここまで軽くなるということはそれだけ酷使していたということ。ある意味、この世界に来て目を休めることができたのは良いことだ。


 体を拭いているとぼちぼちと兵士が起き始める。俺に挨拶をくれる兵士も多い。皆がコーリン将軍との戦いを見てくれていたのだ。個人的にはそこまで戦った覚えはなかったのだが、みんなが尊敬してくれるのであれば問題ない。新参者としていじめとかもあるわけだから。


 1週間後、ついに行軍の日がやってくる。下っ端の兵士には情報が全く下りてこない。戦の全容は不明だが、思ったよりも大きな戦いになりそうだ。兵糧については個人で食べる程度の食料を持っている兵士はたまにいるらしいが、ほとんどの兵士はそのままついていくだけらしい。武器については自分の武器を持っている兵士は持っていき、持っていない兵士は配給品を借りることになる。もちろん、紛失しても罪に問われることはないが、横流しや戦場以外で自分の物として使えば犯罪になる。


 コーリン将軍の兵士たちの2万はどうやらコーリン将軍の部下であり、精鋭部隊であるということだ。いわゆる兵士である。あとは全て民兵で構成されている。今の戦力では民兵2万以上の兵士を動員することはできないと。それ以外の兵士は緊急で徴集されているため、練度は高くなく、合図を教えているくらいらしい。難しいことはないのだけど、字も読めない人もいるらしいから、そこが今の限界なのかもしれない。


 行軍なんてあっさりしていた。漫画にあるような出陣式なんてない。国難に出陣式をしている暇なんてない。行軍が遅れれば遅れるほど兵士が多く死ぬ。そのことをコーリン将軍は知っている。それもそうだと思うけど、少し味気ない。俺の所属は5人組の中の1人である。本当に下の下である。


 行軍して3日目。

「おい、ついてこい。」


 俺は黙ってそのままついていく。そうすると4人は俺のほうへ向き直った。


「お前さ、生意気なんだよ。」

「しゃべらないしな。」

「コーリン将軍のお気に入りかなんか知らんが、調子乗るなよ。」


 思った通りのことが起きてしまった。別の隊の先輩方4人に呼ばれて行ってみれば殴るや蹴るの暴行を受けた。どうしても軍というのは禁欲になりがちだ。その禁欲が何日も続けば大変なストレスになるだろう。しかし、そのストレスのはけ口を中で求めてはいけないと思う。外に…。これが違反を起こす人の心理だろうな。


 槍については持っていてもいいことになっていたので、殴られても蹴られてもその槍を手放すことはなかった。ただ、頭を殴られた後の記憶がない。何かしたのだろうと思う。周りには動かない3人の人間がいたのだから。見つけた兵士が青ざめて他のところへ行くのが見えた。これで終わったかなと思っていた。しかし、上官らしき兵士が来て、事情を聴いた後、俺はテントに寝かされた。もう1人の兵士は傷を負っているものの軽傷らしい。その兵士は度が過ぎていると上官を呼びに行ったらしい。その後ろ姿を俺は見たのだ。


 次の日、コーリン将軍より直々に命令が下され、1人で筋トレをする羽目に。体罰とかよりはましであるが、もう少し捻ってくれてもと思う。体罰はすでに受けているか…。いじめで。行軍中でもあるし、筋トレならそこまで時間がかからずに俺のためにもなるということか。体の節々が痛いので、しんどいのだけど。それでも他の兵士が少し哀れそうに見ているのは少し寂しくなった。


 筋トレを踏まえれば結果的に何も問題視されなかった。ただ、今回の戦で戦果を挙げなければ除隊となる。除隊になるということは今回の仲間内での暴行をかばえなくなるということで罪になると。正直、かばえなくなるというのはおかしいと思う。そもそも仲間での暴行事件はかばう必要がないと思っている。暴行事件などをなくすために規律があるのだから。上官は申し訳なさそうな顔をしている。


「君に落ち度がないのは重々承知だ。でもな、君自身が罪を犯しているのを分かっているか?そこが問題になっている。だから、今回の戦いで絶対に戦果を出せ。」


 無茶なことを言うなと思う。新人で戦果を挙げられるような兵士が限られていることくらい知っているはず。それでも戦果を挙げろと言うのは、そこまで俺が追い詰められているということでもある。あんまりの駈け出しだ。でも、嘆いているばかりでは意味がない。できることをやるだけだ。


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