8話
あの試合から2日ほどの時間が過ぎた。1日は全身筋肉痛で動くことができなかった。全身が筋肉痛になるほどまで動いた感じはしないものの、他の兵士からの話や激励を聞く限りは善戦したということ。素人であるために体への負荷もかなりあったのかもしれない。ただ、1日経つと疲れがだいぶなくなっている。以前はこんな風に回復していなかったと思うのだが、かなり痛みが緩和している。良いことではある。しかし、少し怖くもある。この異世界に来てから体が変わってしまったみたいだ。
これから戦場に出るにあたってコーリン将軍としては実戦を積ませるということであったらしい。実践を想定した経験ということであっても2連戦は厳しいし、最後のコーリン将軍というのもまた厳しいものだ。俺に技術を求めても時間が足りなすぎる。今できることは軍での基礎訓練と並行して体を強くしていくほかない。結局、次の日から訓練に参加した。しかし、本格的な訓練は翌日になる。いきなり指揮官に連れられて講義を受ける。座学が最初なのは驚いた。何故かというとこれから戦争のため軍としての合図を覚える必要がある。座学でしっかり勉強しておけということだ。…、だが、そこまで難しくない。前進と方向転換と撤退のみ。下にはそれくらいしか教えないか…。あまり複雑な合図を教えても難しいだろう。あとは陣形をしっかりと図に書いてくれた。これだけは忘れてはいけないと。
「何が重要であるかと言えば、陣形の弱点を知ることだ。」
「え?」
「あのな、我らは指揮官だが、我々だけで戦うことはできん。だからお前たちが事前に危機を察することも重要になってくる。全員で危機を感じれば脱出することができるかもしれぬだろう?」
指揮官が言っていることは理解できる。しかし、兵士全員が危険を察知する水準に達するまでにどれほどの時間がかかるかわかっているのだろうか。彼を少し見ると俺のほうをしっかりと見ている。…、俺の考えていることもわかっている。それでもなお、コーリン将軍はその水準まで軍を成長させようと計画しているのか…。ゲームや漫画のようにうまくいくわけがない。そもそも成長の過程で死ぬことが多いのが兵士だ。文官とはまるで違う。
「君は頭が良い。だからわかっていると思うが、この計画には少なくとも4年以上の歳月がかかる上に、現状で陣形などを理解していない兵士には習得が難しい。だから、コーリン将軍は軍を根本から変化させようとしているのだ。君のような特殊な人間はコーリン将軍が見逃すわけがないということさ。」
要するに新人で底上げをしながら指揮官級や百人隊長から順次交代させていくということか。…、まさかと思うが、この紛争が契機になると思っているのでは。それもそれで…。しかし、そうでもしなければ変わっていかないものか…。その話をされるのは非常に憂鬱だな。
講義が終わったら、すぐに別のところへ連れて行かれた。そこには兵士がいろんな武器を見ている。武器を実際に手に取って振り回している。感触を確かめているのだろう。
「君にはまず、槍ともう一つ武器を決めてもらう。もう一つの武器を決めるのは森や洞窟などの長い武器を使えない場合だ。」
いろいろな武器がある。斧も確かにリーチは短いから候補に入ってくるのか。短剣やナイフ、弓矢もその1つか。しかし、弓矢というのは柄ではないような気がしている。槍を持ったあの感触を考えれば近接戦が向いているのだろう。…、これは。短棒。手に取って振るってみる。両手に持って振るった感触は上々だ。
「ふむ、とりあえずは短棒でやってみよう。戦争が迫っている中で時間をかけることができないのもあるからな。次があればもう少し適性を見る。まずは槍だ。こっちに来てくれ。」
多くの兵士が槍を振っている。俺のほうを見ながら指さす兵士もいる。先に居るのはオルタという兵士だ。彼は目が合うと少し顔を下げた。俺もそれに合わせて頭を下げる。彼はかなり高慢な人間かと思っていたが、そうでもないらしい。彼はおそらく慢心していたのだろう。何かから解放されたような雰囲気がある。他の兵士も前に向いて訓練を開始した。俺は一番後ろに案内されて槍をふるう。槍は朱槍である。普通はもっと重い鉄の棒を振るらしいが、戦端がいつ開いてもおかしくないため特別に許可されたらしい。他の兵士は鉄の棒を振っている。
朱槍はなかなか思うように振ることができない。何だか、しっくりこないというのが本音だ。先ほどの短棒のほうがちゃんと手に馴染んでいるような気がする。この槍が生きているという表現は正しいのだろうか。なんか、俺の技術や意志を感じ取っているような気がしているのだ。変な表現であるけど、それでも合っているような気がしている。もう一度振ってみる。やはり、おかしいな。普通ではない。
訓練は終わり、体をしっかりと伸ばしていく。今まで運動しなかったつけがここでやってきた。それでも体の調子が良い今は何とかなっている。この世界での医療技術がどれほどなのか知らないが病気にでもなってしまえば俺は職を失うことになるだろう。怪我や病気には細心の注意を払わなければ。戦場ではそんなことを気にしている余裕などないのだから。オルタという兵士が俺のほうにやってきた。
「やあ、感心だね。そんなに練習熱心なんだ。」
「…、はい。」
「ご一緒してもいいかな?」
俺は頭を縦に振った。




