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5話~他の兵士~

 その男は少し変わっていた。背が高いということもあったが、雰囲気と服装である。雰囲気に関して言えば、浮世離れしているというか、地に足のついていないような感じ。いわゆるこのゲルラリア国に馴染んでいないということだろう。国に馴染むことができない人も少数であるものの存在するので彼が珍しいわけでもない。彼の姿は目の中で異様に映っている。行軍中の彼はおとなしいもので逃げることなど皆無である。反対にこちらが心配するほどだ。あのようにおとなしい罪人も珍しい。俺たちが脅しているわけでもないのに。


 そのまま牢獄の監視員に任命された。当然か。彼を見ている兵士は少ないから任命されるかもとは思っていた。ケヴィン将軍は少し考えているが、彼を処刑しようとは思っていないようだ。何もしてなさそうな男だし。彼は居城を見て驚いているようだ。何に驚いているのだろうか。…、何か落胆したような表情か。ゲルラリア国の実状を知らないのか。どこの国の生まれの人間だ。


「少し大丈夫か?」

「ええ。」

「今回の任務についてだ。」

「任務ですか?」


 ケヴィン将軍は彼を信じているわけではないようだ。しかし、ケヴィン将軍も彼が悪人と思っていない。むしろ、普通の人間よりも正義感が強いと思っているらしい。何を不安に思っているかというと、殿下のことらしい。あの殿下の突拍子もない行動もよくわかっている。だから、彼が何かをする可能性があるということか。殿下がすでに会うことを話しているのであれば牢獄にも来る可能性があるな。そのことを念頭に置きながらも、殿下が襲われないこと、また彼の監視を継続していくということか。


 スイさんが任命されているだろうと思うのだが、俺にも任命する意味がないのだが、ケヴィン将軍は別のことを監視させるつもりなのかもしれない。その後も別の隊に入ることも検討されているということだ。…人生が彼によって狂わされるとは。まあ、間諜に近い仕事をしていると思っている。


 会議室でこっそりと彼の様子を見るが、足が震えているのがわかる。無意識だろうな。緊張か不安か、もしくはもっと別のものか…。しかし、あの場で何か発言できることなどない。そもそも、殿下以外の人間は興味を持っていないのだから。彼は何も感じていないのではなく感じることができないのだろう。その姿は以前の俺の姿に見えた。何も知らないままここに連れてこられて罪人にさせられる。それがどれほど酷なことかよくわかっている。


「辛いなんて思っていないんだな…、君は。すごく強い男だ。」


 思わず出た声は誰にも聞こえることはない。


 牢屋に入った彼はそのまま何もしなかった。鎖でつながれているので何もできないか。突然、ケヴィン将軍が来たが機嫌がかなり悪い。彼の手には鎖の鍵が握られている。


「危険では?」

「殿下の指示だ。」

「殿下は何を考えているのでしょう?」

「分からん。分からんが、この男が先の戦いで必要になってくるということだろうな。それくらいのことだ。殿下を信じていれば優秀な人間はいくらでも集まってくる。」

「その通りですね。」


 その通りなのだが、声と彼の雰囲気が全く違う。殿下の無茶ぶりに怒っているということではないような気がする。戦場のほうで何かあったか…。そちらは俺に何かできることはない。彼は鎖を黙って外される。


「お前は罪人であるが、無罪放免になったわけではない。分かっていると思うが、猶予期間と合わせて仮であるというのを忘れないようにしろ。」

「はい。」


 ケヴィン将軍はそのまま去っていく。彼を気にもかけないとは本当に何かあったのだろう。そのまま少し見ていた。…彼は少しずつ体を動かしていく。もう兵士としての覚悟が決まったのだろうか。彼の表情を見ればそれが違うことがわかる。兵士になるということが、どういうことかわからないから体を鍛えようと思っている。まずは体力をつけること。兵士として最低限のことである。そして、その体の強さが戦場で発揮されるのは後半になってからだ。いつまでも戦うことができないのであれば体力がある兵士が生き残る。


 彼がその経験があって知っているわけではない。単純にまじめなだけだろう。体つきを見ていれば彼が今まで体を鍛えているわけではないことがよくわかる。どこまで続くのか見ものである。


 彼はそのまま5日間、体を鍛えぬいた。…、それなりに激しい動きもしていたと思うが、それでも体を痛めることなく、彼は鍛え続けた。特に変わった様子もない。体が強く生まれたのだろう。うらやましい限りだ。時間が来たな。彼も解放だ。悪いことなどやるような様子も微塵もなかった。


「…、感心だ。牢屋で体を鍛えるような人はいないからな。あんたは根が真面目なのだろうな。そのような人がどうして墓地にいたのかわからないが…。」


 彼は俺の顔を驚いた顔で見ている。いきなり話かけられたら驚くか。彼はそのまま少し考えているようだ。口下手ということも聞いているから、彼は驚いてしゃべることができないだけかもしれない。


「これからは兵士と生きることになるのだよな?」

「はい。」

「気をつけてな。今は犯罪者かもしれないが、俺はあんたのことを応援しているぜ。」


 彼はその言葉を聞いて一礼した。本音である。しかし、彼とは長い付き合いになるだろう。彼がどんな人生を送るのかわからないが、良い人生になればいいと思っている。


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