7話
コーリン将軍は明らかに格上の相手…、いや、先ほどの兵士も本来は格上のはずだ。俺が思う以上に集中力があって、剣の軌道が見えたから対処することができただけ。俺の実力ではない。確実にそこには運がある。コーリン将軍にはその運なんてものは通用するわけがない。
「ワカトシは戦いの基本というのは知っているかの…?」
「いえ、」
「では教えるとしようか?」
そう言ったコーリン将軍の姿が大きく見える。本当に大きくなったわけではない。雰囲気で大きくなったということだろうか。そんなことがあるとは思えないのだが、目の前にいるコーリン将軍は確実に大きくなっている。これが歴戦の将軍なのだろうか。…、このような人と対等に戦えるような兵士がいるとはとても思えない。彼が剣を振りかぶる。先ほどの兵士のように剣の軌道が見えるわけではない。しかし、その動作がゆっくりのために見ることができた。剣をしっかりと合わせた瞬間には剣と共に吹き飛ばされた。壁に背中を叩きつけられた。
起き上がるとコーリン将軍は腕組みをしながら俺のほうを見ていた。それもそうか。俺に稽古をつけているようなものだから、倒す必要はないのだ。彼は感心したように俺のほうを見ている。周りの兵士も感心しているように見える。
「最初の一撃を受け止めるとはの…。おい、あれを持ってこい。」
一人の兵士は赤い槍を持ってくる。先ほどの槍だ。
「…、いいのですか?」
「ふん、小童が。それでどうにかなると思っておるのかの?」
頭が一瞬カッとなるが抑える。我を失って勝つことができるような相手ではない。しっかりと対処…、何の対処だろうか。今までの経験なんて。人を見ることができても対処する技術がない。コーリン将軍は何もしないまま、その場に立っている。…、攻めてこいと言うことか。確かに受けに回れば負けるのは当然だろうな。
槍をしっかりと握りしめる。槍が吸い付くように手に馴染む。走っていくとコーリン将軍の姿が消える。横から強烈な存在感がする。顔を横に向けると剣を振りかぶって笑っている顔が見える。彼の剣を槍で受けるが、少し感触が違う。同じように飛ばされるが、両手がしびれている。そして、先ほどよりもしびれが少ない。受け方にもいろいろあるということか。
「さてと、少しずつ本気で行くからの…。」
あれで本気ではなかったのか。少ししびれている手に力を入れて槍を握りなおす。ゆっくりと立ち上がると両足に負荷がかかるのを感じた。あの二撃で足に力が入らないほどに痛んだのか。コーリン将軍の一撃はそれほどに重い一撃であるということか…。この状態ではコーリン将軍の攻撃を受けきることは難しい。ならば、こちらから攻めるしかない。足を出すが先ほどと感触が明らかに違う。ズシっと重みを感じている。
「どうした?来ないのかの?」
足が出ないんだ。どうやったって前に進むことが難しい。コーリン将軍はその様子を見ながらも近づいてくる。俺は少し後ろに下がってしまう。コーリン将軍の圧が強すぎるのか。…、槍を両手で持つ。急に槍が重く感じた。今までは緊張で体の感覚が麻痺していたのか。急に体が重くなった。
「…、どうじゃ。初めての感触は…。簡単に戦場で活躍できるなどと思わぬことじゃ。戦場では一人で戦うことなど皆無だからの。一人倒せばもう一人と増えていく。」
コーリン将軍は剣を大きく上に持ち上げる。槍を上に持ち上げる。この試合に勝つのであればわかりやすい動作を行う必要はない。受けた瞬間に体が軋むような悲鳴を上げる。それと同時に振動が体の髄まで響いていく。手と足がしびれて次の動作に移ることができない。しかし、コーリン将軍は笑っていた。コーリン将軍が剣を持ちかえる。この剣は避けることができない。
その瞬間に意識を失った。




