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働かなくてよい世界  作者: 水無月 黒


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9/14

スポーツ、文化芸術、マスコミ

 今回は、自動化で対応する意味があまりないものを取り上げてみたいと思います。

 まずはスポーツ。

 いえ、ロボット同士が対戦する競技とかも熱いものがありますが、熱いのはそのロボットを作る側のドラマなんですよね。やはりスポーツで見たいものは、そこで繰り広げられる人間ドラマなのだと思います。

 スポーツに関して論じる時、私たちは往々にして観戦者の立場から考えてしまいがちです。しかし、本来スポーツの主役は実際にプレイする選手の方ではないでしょうか。

 私が個人的に考えているスポーツの定義は、「身体を動かして楽しむこと」です。その是非は置くとしても、スポーツの選手はそのスポーツが好きで、楽しいからやっているのだと思います。

 プロスポーツにおいても基本は変わらないと思います。

 まあ中には嫌で嫌で仕方がないのだけれど、仕事だからしぶしぶやっているという選手もいるかもしれませんが、そんなんで大成できるほどプロは甘くないでしょう。

 プロアマ問わず、スポーツをしている人は、やりたくてやっている人が多いのだと思います。

 つまり、働かなくてよい世界であってもスポーツは残るでしょう。

 ただ、プロのスポーツは消滅するか、アマチュアとの境界があいまいになると思います。スポーツでお金はもらっていないけれど、仕事もせずにその競技の練習を毎日ずっとしている人を単なるアマチュアと言ってよいものか?

 現在のプロスポーツはだいたいが狭き門だと思います。門戸が広いプロスポーツの場合、「誰でもプロになれるけど、それで食っていけるのは上位の一部の人だけ」みたいな状況だと思います。

 生活のために仕方なくプロ選手になったという人はむしろ例外で、生活のためにプロ選手になることを諦めた人の方が多いでしょう。

 働かなくてよい世界になって不本意な労働から解放されれば、スポーツ人口は増えることが予想されます。


 芸術や娯楽関係でも同じようなことが言えます。

 絵画、音楽、文学など、過去の著名人の作品をAIで学習し、故人の新作を作り出すといった試みもあります。しかし、そういった試みが成功したとしても、新たな芸術家やクリエイターが不要になるということはありません。

 過去の有名作品がどれ程優れていても、その同系統のいわば模倣作品だけでなく、全く新しい作品も見てみたいでしょう。

 また、作り手側もお金のためだけに作品を作っているわけではありません。

 絵画、音楽、文学、その他芸術作品。芸術とは呼ばれなくても、アニメ、漫画、ゲーム、小説などの娯楽作品。何らかの表現活動をしたい人は大勢いるでしょう。

 実際に、「小説家になろう」にはお金がもらえるわけでもないのに数多くの作品が投稿されています。

 まあ、プロデビューを目指して作品を投稿している人も多いでしょうし、プロの作家が読者の反応を見るために宣伝を兼ねて掲載していることもあるかもしれません。

 しかし、発表の場があるだけで何十万もの作品が集まり、中には書籍として商品化できるだけの良作も出て来たことは事実です。

 「小説家になろう」に投稿された小説は、芸術と言うよりも娯楽寄りのものが多いでしょう。また、小説というジャンルは文章さえ書ければ特別な道具なども必要とせず、挑戦するのにも敷居は低いでしょう。

 それでもこれほどの数の作品が集まるということは、潜在的に表現したい人はとても多いのだと思います。

 小説以外の分野でも同様に、自分でも作品作ってみたい、あるいは音楽や演劇などの表現活動を行ってみたいと言う人は大勢いて、環境さえ整えば出て来るのだと思います。

 芸術関係は多少の才能があっても、それで食っていくのは大変だなどという話もよく聞くので、働かなくてよい世界で生活の心配が無くなれば創作活動に打ち込む人も増えるでしょう。

 その分質の低い作品も増えるでしょうけど。

 それから、大作映画とか、ゲームでも何億もかけて作られる大作がありますが、そのような大勢の人が協力して作られる作品が働かなくてよい世界で作れるかは不明です。お金さえ出せば必要な協力が得られるとは限らなくなることと、大金をかけて作った作品がそれ以上の利益を生み出すか分からないからです。

 ただ技術の発展に伴って、それまでは非常に手間暇金のかかっていたことが簡単にできるようになる、なんてことがよくあります。大掛かりなセットを作って撮影していたシーンがCG合成で簡単に作れるようになったり、歌手に頼まなくてもVOCALOIDに歌わせることができたり等々。

 あとは作品でお金を稼ぐ必要が無ければ、著作権などでもめることなく不特定多数の人が協力して一つの作品を作り上げる、そんなことが容易にできるようになれば良いと思います。

 多少世の中が変わったところでスポーツや芸術を行いたいと思う人はいなくならないでしょうから、可能な環境さえあればスポーツ文化芸術活動は盛んにおこなわれることでしょう。


 さて、話は変わって次は働かなくてよい世界におけるマスコミについて考え見たいと思います。

 おそらくマスメディアのハードウエアの部分、例えば新聞を印刷して各家庭に配布するとか、テレビやラジオの電波を送信するといったことは全自動でできるようになると思います。何ならすべてインターネットで配信でも可です。

 しかし、報道する内容に関しては人の手で情報を集めて記事を編集してといった作業が必要になります。

 まあ頑張ればAIが情報を集約して、分かりやすいレイアウトで文章をまとめたり、放送用の画像を編集したりといったこともできるかもしれません。

 けれども、マスコミの報道は単に起きた出来事を伝えるだけではありません。

 例えば隠れた問題を掘り起こしたり、世間一般に当たり前だと思われていることに別の見方を示したり、重要な事柄に対して注意喚起を促したりと、記者や編者の意志や思想も結構入ってきます。

 取材や検証を行ったりする必要性も考えれば、出回っている情報だけをAIで処理する報道には限界があるでしょう。

 問題は、働かなくてよい世界で報道機関が組織として維持できるか? という点になると思います。

 おそらくジャーナリストを志望する人はある程度存在するでしょう。しかし、記者が取材してきた内容をそのまま垂れ流すのが報道ではありません。

 他の者もチェックしてあからさまな間違いがないか、ただの憶測で決めつけてないか、プライバシーの侵害など公表して問題になることはないか等精査することで信頼のおける報道になります。

 しっかりした組織による報道でも、しばしばプロパガンダに利用されたり、偏向報道が行われることもあります。

 しかし、不特定の自称記者が個人としてニュースを報道する方式ではデマを拡散する危険性が非常に高くなる、というのは現状のインターネットやSNSなどの状況を見れば見当がつくと思います。

 長く続く組織的な報道機関ならば、間違った内容や偏見に満ちた報道をすれば非難され信用も無くすから迂闊なことはできません。競争相手になる報道機関が複数あれば、互いに監視する効果も期待できます。

 公正な報道機関が期待できない場合は、ニュースやその発信者に対する評価を作ることが考えられます。

 AIで報道用のニュースを作ることは限界があるとしても、誰かの発信したニュースをある程度評価することはできるのではないかと思います。

 ニュースの情報源を明記しているかとか、論調に矛盾が無いかとか、憶測を事実のように語っていないかとか、様々な角度から評価できるでしょう。同じ記者の発信した記事を並べればその記者の傾向、ニュースにどの程度自分の主張を混ぜるかとか、どの分野に強いかなどといったことも評価できるかも知れません。

 もっとも、どのようなシステムを作ったところで完璧はあり得ないので、最後は各個人がしっかりと見極める目を養う必要があるのですが。


 最後に余談を一つ。

 コロナ禍で多くのイベントが中止や延期を余儀なくされ、スポーツの大会が行われても観客を入れない無観客試合だったり、中には無観客ライブを行ったミュージシャンもいたようです。

 オリンピック/パラリンピックも開催されましたが、コロナの感染者数が減らない中、ほとんどが無観客での競技となりました。

 この状況でふと思いました。

 無観客で行われるイベントを視聴するためのアプリを作ればよかったのではないでしょうか。

 もちろん、無観客で行われるイベントはテレビで中継したりインターネットで配信したりして、わざわざアプリなど作らなくても視聴できるようになっているでしょう。

 ポイントは無観客イベント視聴用のアプリに、フィードバック用のボタンを付けることです。

 例えば、大相撲は一時完全に無観客で行った後、人数を制限して観客を入れるようになりました。この時、観客に対して歓声は禁止で拍手のみで応援するようにお願いしていました。

 完全に無観客で淡々と取り組みが進む場合に比べて、拍手だけでもあればだいぶ雰囲気は違うものです。

 そこで、イベントの視聴アプリに「拍手」ボタンを付けます。そして、「拍手」ボタンが押された数に応じて会場側にも拍手の音を流すのです。

 一定時間内の「拍手」が押された数に応じて会場で流す拍手の音のボリュームを上げてやれば、それだけでも観客の反応を表現できると思います。

 視聴者の表情を動画でフィードバックとかすると回線がパンクしかねませんが、ボタンを押した情報くらいなら問題ないでしょう。

 「拍手」の他にも、イベントの内容によって「歓声」ボタンとか、寄席の中継とかならば「笑」ボタンとか、選手や役者の名前を呼ぶボタンとか、「アンコール」ボタンとか、応用は色々と考えられます。

 アプリを作ることは難しくないでしょう。会場側の装置もいるので、個人で開発するのは大変かもしれませんが、小さなベンチャー企業でも簡単に開発できると思います。

 本当は、オリンピック/パラリンピックに間に合えば効果的だったのですが、今からでも誰か作ってみませんか?


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