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働かなくてよい世界  作者: 水無月 黒


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メンテナンス

 完全に無人のシステムを構築する場合に避けて通れない問題があります。

 それはシステムのメンテナンスをどうするかと言うことです。

 どれ程優れた機械であっても、使っていれば摩耗し故障します。

 システムの不備を検知し、修復する。これを自動で行えなければ「働かなくてよい世界」の維持は難しいでしょう。

 ここまで後回しにしてきましたが、メンテナンスをどうするかはシステムの設計時から組み込む必要があります。

 今回は、「働かなくてよい世界」における社会システムのメンテナンスについて考えてみたいと思います。


 SF作品などでは「自動修復装置」が出てくるものもあります。壊れたメカが、時間が経つとまるで生き物のように勝手に直ってしまうというギミックです。

 「働かなくてよい世界」のメンテナンスに必要な機能なのですが、この「自動修復装置」に関して詳細な描写や考察が行われることはあまりないように思います。

 せいぜいが、工作用のロボットが出て来るか、3Dプリンターが注目を浴びた時には3Dプリンターっぽいもので色々と生産している光景が出てくる程度です。

 しかし、高性能なロボットだけで何でも直せるわけではないですし、3Dプリンターにしても形はともかく機能まで作れるものではありません。

 そもそも、どれほど優秀な自動修復装置であっても、エネルギーや必要な物資が無ければ直すことはできません。

 どういう故障をどのような方法でどの程度まで直すことができるか、そのあたりから考えてみます。


 まず、一番単純なのはソフトウエア的な障害の復旧でしょう。

 継ぎ足し継ぎ足し作り上げられた複雑怪奇なソフトウエアの一部分のプログラムのバグ修正とかなると面倒ですが、異常な入力で誤動作したとか、放射線や強い電磁波の影響を受けて一時的におかしくなったとかならばリセットして再起動でどうにかなったりします。

 メモリー上のプログラムが壊れたのならば不揮発性の記憶領域からプログラムを読み出して上書きすればよいのです。

 ハードウェアが無事で、再起動中に致命的なことが起こりかねないシビアなシステムでなければ、異常を検知したらリセットするというのは有効な方法です。

 当然ながらこの方法ではハードウエアの障害には対応できません。ハードウェアが壊れたところで修復できる限界を超えることになります。


 次に考えられるのは、故障した部分を切り離して生き残った部分のみで動作を続ける方法です。

 最初から多重化されている部分ならば、多重化されている全系統が全て死ぬまでは機能は失われません。

 また、一部の機能が失われても、生き残った機能を組み合わせることで多少効率は落ちても目的を達することができる場合もあります。

 故障しても修理することのできない宇宙探査機などはこの方法で、生き残った機能でできることを考えて計画を変更したりします。

 宇宙探査機ほど臨機応変に最後まで使いきるものでなくても、停止させることのできないしシステムなどでは多重化したり、故障した場合の代替手段が考えられていたりします。

 報道機関などで緊急情報を伝達するシステムでは、コンピューターや通信回線が止まった場合に備えて人の手で情報を伝える手順まで設計していると聞いたことがあります。

 システムの故障しやすい部分や、どのように故障するかなどはある程度想定できるので、故障しやすい部分を多重化したり、機能が失われた際に代替手段に切り替えたりといったことを自動で行うことはできるでしょう。

 ただ、この方法はあくまでシステムの延命措置であり、失われた機能が戻ることはありません。

 システムを使い続けるのならば、故障した個所を修理することが前提で、修理しなければいずれは完全に機能停止します。


 次の段階として考えられることは、システムを構成するハードウエアを複数のブロックで構成し、故障したブロックを切り離して予備のブロックと取り換えるという方法です。

 この方法あたりから、「自動修復装置」のイメージに近くなってくると思います。

 ただ、この方法を実現するには、システムのハードウエアを交換可能なブロックで構成できることが前提条件になります。

 また、この方式では対応しきれないケースが幾つか考えられます。

・故障したブロックの切り離しができないような壊れ方をした場合交換できない。

 ブロックを切り離す機構そのものが壊れたり、物理的に形が歪んだり溶融したりして押しても引いても動かない、という状態になると壊れたブロックの交換ができません。

・ブロックを搬送する通路が塞がってしまうと交換できなくなる。

 故障したブロックを切り離すことができても、それを邪魔にならない所まで持っていけなければ、そして新しいブロックを所定の位置まで持ち込めなければ修理は完了しません。

・ブロックを搬送する機構が壊れると修復できなくなる。

 作業用ロボットがブロックを抱えて運ぶとか、天井からクレーンで吊るして移動させるとか、方法は色々と考えられますが、その仕組みが壊れるとブロックの交換ができなくなります。

 まあ、ある程度汎用性を持たせた作業用ロボットを使えば、予備のロボットを使用して故障したロボットを撤去することも可能ですが。

・予備のブロックが無くなったらそこで終わり。

 あくまでブロック単位の交換による修復なので、交換するブロックの在庫が無くなればそれ以上何もできません。

 ブロックは機能ごとに種類があるので、一種類でも無くなれば修復に支障をきたします。

 結局のところ、予備のブロックが尽きるまでの延命措置になります。


 その次の段階としては、作業用ロボットをさらに高機能にして、工具類を持たせるようにすることです。

 ただ単に壊れた部分を交換するだけでなく、その場で簡単な工作等を行えれば対応できる状況の幅が広がります。

 故障した部位が変形するなどして取り外せなくなっていても、工具で切断するなどして解体することもできます。

 予め故障時に交換することを想定して作られたブロックよりもより細かい単位で故障部品の交換も行えます。

 場合によってはその場で故障部分の修理ができるかもしれません。

 作業用ロボットがちょこまかと動いて修理していく感じで、自動修復装置と言われて思い浮かべるのはこのような光景でしょう。

 しかし、技術的には格段に難しくなります。

 まず作業用ロボットに求められる性能が上がります。

 決められた手順にしたがって交換作業を行うだけではなく、臨機応変に工具を使いこなす必要があります。

 二足歩行する必要はありませんが、車輪だけでは入り込めない場所で作業する必要があるかもしれません。

 細かい作業を行うには小さい方が有利ですが、ある程度の力作業も必要になるでしょう。

 そして、問題点を正確に理解して、可能な限り最善に近い解決手順を見つける必要があります。

 作業用ロボットにもある程度の自立性が必要ですが、システム全体としても問題に対して全体としてどう対応するかをしっかり管理しなければなりません。

 今のAI技術、少なくともDeep Learningで理由は説明できないけれども答えが出る、というものだけでは対応できないでしょう。

 それに、やはり交換用の部品が全て無くなればそれ以上の修復ができなくなります。

 ロボットが工具を扱えれば、故障した機材の中から使えるものを組み合わせて再生させるニコイチなんかもできるでしょう。

 鉄板を切って削って折り曲げて作れる程度の部品ならばロボットにも作れるでしょう。

 それでも工具を持ったロボット程度では作れない部品もあります。

 交換用に確保してあった部品を全て使い果たし、代替の部品も作れなくなったところがこの方法の限界になります。


 これ以上のものを考えると、次に来るのは必要な部品の製造まで含めたシステムになります。

 つまり、修復を行う対象の設備に加えて、その設備に必要な部品を製造する工場とその部品を使って修理を行うロボット等を含む総合的なシステムになります。

 「働かなくてよい世界」で考えている対象システムは、食糧や日用品の生産工場だけでなく、エネルギーの供給や資源のリサイクルも含みます。

 つまり、上手く組み合わせれば壊れた部品をリサイクルして新たな部品を作ることで、半永久的に稼働し続けることができます。

 しかし、本気で半永久的に稼働させようとすると、作業用ロボットや部品工場を含めた全体を対象に修復を行う必要があります。

 これはかなり難しいものがあります。

 技術的な難しさだけではなく、システムを構成する要素をどう選ぶかといった問題があります。

 例えば、作業用のロボットやそのロボットが使用する工具に特殊な部品が一個使われていたとします。

 他の部品の生産工場で作れなければ、その部品専用に工場なり生産ラインなりを作る必要があります。

 そしてその工場で使用する部品を生産するためにまた別の工場を……と言う具合に設備が膨れ上がり、本来維持すべき設備よりも巨大なメンテナンス用の設備が出来上がることもあり得るのです。

 メンテナンスシステムをメンテナンスするために大量の資源とエネルギーを費やすというのも非効率です。

 逆に言うと、汎用的な部品だけでシステムを構成するハードウエアを全て作ることができれば、メンテナンスシステムはその極一部で済みます。

 例えば、日用品を生産する工場など、「働かなくてよい世界」を支える自動生産設備が作ることのできる部品だけでメンテナンス用のロボットを含めた全てのハードウエアを組み立てられるのならば、メンテナンスシステムは作業用ロボットとその管理システムだけで済みます。

 「働かなくてよい世界」における全自動無人のシステムは、メンテナンスのことを最初から考慮して、生産できる範囲内の部品で構築する必要があります。

 また、設備の故障率やそこに必要な部品の量なども考慮して、十分な生産力を確保しておく必要があります。

 このメンテナンスも含めたシステムを上手に構築できれば、エネルギーの供給、リサイクルによる資源の確保、そして補修部品の生産が十分に間に合っている間は半永久的に稼働し続けるのではないかと思っています。


 余談ですが、システムのメンテナンスには、故障を直して元の状態に復旧する事の他に、現状に合わなくなったシステムを改修することも含まれています。

 しかし私はシステムの改修まで全自動で行う必要はないかな、と考えています。

 「働かなくてよい世界」では需要を生み出し利益を追求するために進歩や発展を強要したり、新しい商品を浸透させるためにライフスタイルを無理やり変えたりする必要がありません。

 社会の変化はなるべく穏やかなもので、そして無人のシステムで提供するのは人が生活して行ける最低限のあまり変わらない部分であると想定しています。

 もちろん長い時間の後には色々と社会や暮らしも変わるだろうし、放置できない問題が見つかったり、もっと優れた方法が開発されるかもしれません。

 ただ、そういった変化や問題への対応は、全自動のシステムに改修を組み込むのではなく、人の手で行えば良いのではないかと思います。


 さて、「働かなくてよい世界」で必要なメンテナンスシステムについて、必要なことは一通り書いたつもりですが、実はもう一つだけ考えていることがあります。

 それは、稼働している設備を一定期間で一度全部解体して、一から作り直すというものです。

 いくら故障個所を修理して機能を維持していても、長く使い続けて行けば老朽化して行くものです。

 目に見えない、センサーでも捉えられない部分でひそかに劣化が進み、気が付けば直しても直しても次々に故障するなんてことになるかもしれません。

 そういう意味で、一度完全に解体して新しい設備を作り直すサイクルがあった方が安全です。少なくとも何かあった場合に備えて、完全に作り直せる余地は残しておくべきでしょう。


自動修復装置はSF設定として以前から考えていたものです。

何百年もかけて他の恒星系に向かう宇宙船とか、補給も人手も入らないまま動作し続ける機械などにはこんな仕組みが必要だろうな、と考えていました。

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