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働かなくてよい世界  作者: 水無月 黒


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金融業

ブックマーク登録ありがとうございました。

 金融業は仕事をしている人のための仕事だと思います。

 例えば、銀行は企業や事業主に対して運転資金を提供します。企業がその資金を元に活動した結果得られた利益から利子を付けて返済することで、銀行は利益を得ます。

 個人が銀行に預金する行為は、銀行が融資を行うための資金を集める手段であり、預金者に対するサービスは銀行に取ってはコストに当たります。

 大きな資金を用意することで一個人ではできない大きな仕事を行い、それ以上の利益を上げることが企業活動です。金融業はそのための大きな資金を用意することがその仕事の本質です。

 消費者向けの融資というものもありますが、私はこれを時間を買う行為だと思っています。

 例えば住宅ローンの場合、そもそも一生かけても住宅を購入するだけの資金を稼ぐことのできない人には貸し付けてくれません。

 二十年間で返済するローンを組んだのならば、二十年間貯蓄を続ければ住宅を買える以上のお金が貯まるだけの収入があるということです。

 お金を貯めてから購入すれば、ローンで買うよりもずっと安くなります。しかしそれでは二十年近くかかってしまいます。またその間も住むところは必要なので、賃貸住宅に住めば家賃がかかります。

 つまり、ローンを組んで利子を払うとしても、それだけ長く自宅に住めるし、その分家賃なども払う必要が無くなる。ローンにかかる利子に見合った価値があるから、借金してでも家を買うわけです。

 住宅ローン以外でも同様で、時間をかけてお金を貯めれば買えるものを、今すぐ購入することに価値があるから利子を払うのです。つまり、借金の利子はお金が貯まるまでの時間を購入している代金なのです。

 そして重要なことは、ローンで購入できる人は、今は手持ちがなくても時間をかければ利子を含めて商品を購入できるだけのお金が手に入る。それだけの安定した収入があるということです。

 そうでなければ破綻します。借金が返済できない人にはローンは利用できなくなります。

 結局、消費者向けのローンも、基本は働いて収入のある人が対象です。

 つまり、働かない人向けのシステムとしては、金融機関はほとんど必要ありません。

 まあ、基本的には働かない人であっても、たまにはちょっとした仕事をして欲しいものを買うようなこともあるでしょう。そういった意味で、お金をやり取りするシステムはあってもよいと思います。

 ただ、電子マネーのシステムだけしっかり作っておけば、銀行など金融機関が介在する必要は特にありません。

 元々銀行が大活躍したのは好景気で金利の高い時期でした。銀行の収入は貸し付けたお金に対する利子です。金利が高い方が利益が出ます。

 また、好況時にはどんどん資金をつぎ込んで業務を拡大して行けばその分ジャンジャン儲かったので融資先にも困りませんでした。

 海外の状況はよく知りませんが、日本では1990年代あたりから銀行を取り巻く状況が大きく変わります。

 まず、土地バブルの崩壊で土地ころがしで大儲けしていた人達が壊滅状態になります。そしてその手の業者に融資していた銀行も大ダメージを受けました。

 この時は、銀行同士が合併したりしてしのぎました。しかし、その後の不況により銀行はさらに苦境に立たされます。

 景気回復のために金利が引き下げられ、ゼロ金利政策だのマイナス金利政策だのが実施されました。金利が下がれば、利子で儲けている銀行の利益は減ります。

 また、不景気になれば倒産する企業も増えるため、融資する相手は慎重に選ぶ必要があります。数で稼ぐことも難しくなるわけです。

 その結果、銀行は変わって行きました。消費者金融を吸収してカードローンに力を入れたり、リポ払いを宣伝したりと個人相手の融資を強化しました。定期預金よりも、投資信託のようなリスクのある資産運用を勧めたりもするようになりました。

 他にも紙の通帳を廃止したり、有人の店舗を減らして経費を削減したり、口座の維持に手数料を取るようになったりしています。

 この流れはまだ続きます。デジタル化とかDXとか言われているものの中には、銀行の機能の一部を切り出してWeb条のサービスに組み込むというものがあります。

 銀行員が頑張って作業しなくても、銀行の機能はネット上のシステムで勝手に利用されるのです。銀行の、特に窓口業務は今後も縮小していくでしょう。

 これが、「働かなくてよい世界」が実現すると止めを刺すことになるかもしれません。

 働かなくてもよいと言っても、仕事をする人はいるでしょうし企業も存在するでしょう。資金の提供を求める需要もあるでしょう。

 しかし、働かなくても生活が保障されている社会では個人で頑張って蓄財する必要があまりありません。つまり、銀行にお金を預ける必要が薄れます。特に銀行以外の電子マネーのシステムがしっかりとできていれば、個人から見れば本気で銀行は必要なくなるでしょう。

 企業やその他の事業に必要な資金を調達する方法としては、現在でもクラウドファンディングがあるのでそういったものが主流になるかもしれません。また、お金を集めるだけでなく、労力、技術、アイデア、物資を集めるようなクラウドファンディングの発展形もあるかもしれません。

 銀行の預金以外にも様々な金融商品があり企業が資金を集める方法があります。しかし、大きな資金を作るためには大勢の人間から少しずつ集めるという点はだいたい共通しています。

 働かなくてよい世界では、一般大衆が将来のための貯蓄をする必要がありません。欲しい物ややりたいことのために貯金することはあっても、老後が不安で少しでも多くのお金を貯めるといったことが無くなります。

 このため、個人による資産運用は今よりずっと減る可能性が高いです。そして、その結果企業や経済活動が低迷することを許容します。

 どうにかして資金を確保した企業がガンガン活動して金を儲けるのではなく、社会的に認められ支持された企業が活躍する社会になればよいなと思います。


・ベーシックインカムか、現物支給か。

 働かず収入のない人に必要な物資を提供する手段としては、二種類の方法が考えられます。

 一つはベーシックインカム、つまり働いていなくても一定額のお金を支給する方法です。

 もう一つは現物支給。生活に必要なものを無料で提供する方法です。

 どちらの方法も一長一短があります。

 まず、ベーシックインカムは生活に必要なお金を全ての人に無条件で提供するという方法です。

 この場合、全自動で生産される生活必需品にも一定の値段が付けられ、支給されたお金で購入します。

 働かない人でも、その人々の生活スタイルに合わせて何処にお金をかけるか決められますし、うまく遣り繰りすれば自動生産の既製品だけでなく、人手で作った高級品にも手を出せます。

 購入できる物には上限があるので極端な無駄遣いはしないでしょうし、自動生産される品物の値段は一定なのでお金の価値も安定すると思います。

 半面、お金の使い方に失敗すると次の生活費の支給日まで食費にも困る生活になりかねません。

 また、一定のお金が支給されるということは収入があるのと一緒なので、借金が可能になります。つまり、借金地獄に陥ったり、その結果闇金などの犯罪に巻き込まれたりする危険があります。

 この辺りの問題は今の社会と同じことなのですが、働かなくてよい世界なのに借金返済のためにやりたくない仕事をする羽目になったら物凄く残念です。

 一方、現物支給の場合は、全自動で生産された食糧衣料その他日用品を必要な分だけ無料で入手できるという方法です。

 この場合、働かない人は完全に一文無しの、お金に煩わされない生活できます。お金の管理に失敗しても最低限の生活は保障されるため、より安全な社会です。

 一方、無料でいくらでも手に入るとなると、無駄遣いを始める人が増えないか心配になります。

 どうせ只だからと食べもしない食糧を大量に要求して結局破棄したり、日用品を粗雑に扱ってガンガン捨てるようになっては勿体ないですし、いくらリサイクルすると言っても生産量以上に消費されたら社会システムに支障が出ます。

 一定期間内に無料提供する数量に上限を設けるにしても、ある程度は余裕を持たせないと不測の事態で駄目にしてしまった場合などに困ったことになります。

 また、完全に無一文で生活していると、仕事をして経済活動を行っている人との間に色々と乖離が生じる恐れがあります。

 社会の分断が発生するとあまり良いことはありません。社会的階級ができて差別やいじめが発生すると厄介です。着ている服を見るだけで働いているかいないか判別できる世の中になりかねないのですから。

 今の世の中から移行するならばベーシックインカムの方が分かり易いでしょう。ただこの場合は各家庭である程度のお金はプールしておかないと不安が残ります。

 現在の経済偏重、お金に支配された世の中から脱却するには、現物支給でお金を必要としない所まで行ってしまった方が良い気もします。

 いずれにしても、どうにかしてデメリットを排して、働く人も働かない人も平等に幸せな世の中にしたいものです。


・暗号通貨は主流になるか

 今の世の中にはビットコインに代表される分散型暗号通貨と呼ばれるものが存在します。

 デジタル化やキャッシュレスが進む昨今、暗号通貨は現金や他の電子マネーを押しのけて通貨の主流となるのでしょうか?

 キャッシュレス決済が一般的になり、現金を持ち歩く必要が無くなれば、電子マネーでも暗号通貨でも好きなお金を選び易くなります。

 アプリやWebシステムがしっかりと作られていれば、決済に使用されるのが電子マネーだろうが暗号通貨だろうがUIとしては変わりありません。

 あとは該当する通貨が入手しやすいか、欲しい商品を購入する際に使用できるかという点が普及のカギとなります。

 働かなくてよい世界では、暗号通貨のような新種のお金の入り込む余地があります。

 まず、最低限の生活は保障されているのだから、生活のため以外に使用するお金には好きなものを選んでかまいません。

 ベーシックインカム方式の場合は支給される通貨が主となるでしょうが、現物支給方式ならば生活とお金を完全に切り離せます。欲しいものを購入できる通貨を調べて、その通貨を得られる仕事を選ぶといったこともできます。

 また、分散型暗号通貨は流通量などの管理を誰もできないのでその価値が安定しないといった問題もあるのですが、経済活動の失敗が生活を脅かさない社会ならば、ある程度のリスクは許容できます。

 その一方で暗号通貨や一部の電子マネー、場合によっては小さな国の通貨が淘汰されて消滅する可能性もあると思います。

 お金というのは多くの人が欲しがるから価値が生まれます。誰も欲しがらないお金はお金として機能しません。

 働かなくてよい世界では過剰な経済活動を抑止することを考えているので、経済活動が縮小すればそれだけ通貨の必要性が減ります。

 もちろん、経済活動が全くなくなることもお金が完全に不要になることもないでしょうが、マイナーな通貨や決済システムは誰も使わなくなって消滅する可能性があります。

 普通の通貨の場合は売買に使用する人が一定するいれば存続するのですが、暗号通貨の場合はそれに加えて採掘者の存在が必要になります。

 採掘と言いますが、やっていることは暗号通貨の取引情報を、暗号技術を利用した偽造防止のデータを計算して管理台帳(ブロックチェーンと呼ばれるもの)に登録する行為です。採掘者が頑張ってくれないと暗号通貨は成立しません。

 暗号通貨による取引を行う人とは別の不特定多数にこの計算処理を行ってもらうために、採掘を行った者に対して暗号通貨が支払われます。

 この採掘の作業は膨大な計算を必要とします。計算が大変なことを利用して改竄を防いでいたりします。

 また、他の人が計算を終えて台帳に載った後では報酬がもらえないので、採掘者は利益を得るために高速なマシンでガンガンと計算をすることになります。

 歴史の古いビットコインの場合、最初は普通にパソコン等で計算していたものが、高性能なGPUで計算するのが主流になり、今ではビットコインの採掘専用のハードまで登場しました。

 それに伴い、採掘にかかる消費電力も膨大なものとなり、推定ではありますが採掘に使用される総消費電力が一国の全消費電力に匹敵するという研究もあります。

 高価なマシンを用意して、大量の電力を消費してまでも採掘を行うのは、それでも利益が出るくらいにビットコインの価格が上昇したからです。

 逆に言えば、投資した機器や消費した電力の代金を回収できない程度にビットコインの価値が下がるなどして採掘で得られる報酬が減ると採掘者は撤退することになります。

 ビットコインに限らず暗号通貨は価値が下がりすぎないように発行する通貨の総額を制限してることが多いです。このため採掘により得られる報酬は時間とともに減って行きます。

 つまり、暗号通貨の価値が上がり続けるか、もしくはより効率よく計算できる手段が開発され続けなければ、どこかで暗号通貨は破綻するのではないかと思うのです。

 個人的には、暗号通貨のシステムは常に進歩や発展を強要する、過剰な経済活動を行う社会が前提としてあり、私の考える働かなくてよい世界とは合わないのではないかと思っています。

 莫大な電力を消費してまでも維持するメリットが、暗号通貨にあるのでしょうか?


 暗号通貨に関しては気になっていることがもう一つあります。

 分散型暗号通貨には絶対的な管理者がいません。管理者の存在しないシステムで、例えばパスワードを忘れたらどうなると思いますか?

 暗号通貨では本人を確認するために公開鍵暗号方式を使用していると思います。この場合、秘密鍵を紛失すると二度と自分の暗号通貨を使うことができなくなります。

 秘密鍵は人の頭で憶えられるような桁数ではないので、自分のパソコン上に保管しますが、そのパソコンが壊れると失われてしまいます。

 バックアップを取るにしても勝手に他人に使われないようにパスワードをかけて保管するので、このパスワードを忘れたら終わりです。

 特に、暗号通貨の保有者が亡くなった場合、「遺産を相続したから暗号通貨をよこせ」と言っても、秘密鍵を持っていない限り誰にも不可能なことなのです。これが可能だったら不正ができるということになります。

 つまり、暗号通貨は時間が経つにつれてどんどんと使うことのできない死んだ通貨が溜まって行くことになります。

 個人として暗号通貨が使えなくなることを警告することはあっても、使用できなくなった暗号通貨がシステムにどのような影響を及ぼすかについては聞いたことがありません。

 新規に採掘される暗号通貨よりも使えなくなる通貨の増加速度が上がって暗号通貨そのものが廃れる可能性はあるのか?

 それとも動く暗号通貨が減った分価値が上がったりして、採掘が活発になるのか?

 ちょっと興味があります。


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