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働かなくてよい世界  作者: 水無月 黒


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国、政府

評価設定ありがとうございます。

 今回は働かなくてよい世界における国の役割について考えてみたいと思います。

 国の仕事とは何なのでしょう?

 大雑把に言うと、三権分立の三権、つまり立法、行政、司法の三つだと思います。

 司法については「警察、裁判、検察、弁護士」で触れました。裁判所の仕事になります。

 立法は法律を作る国会の仕事です。

 行政は政府の仕事であり、その内容は国を運営するためのさまざまな政策を実行することです。


 国の機関の中でも最高位に位置するのは立法機関、国会でしょう。

 国のあり方を定める憲法。

 民間でのトラブルに対応する民法、商業活動に関する商法、犯罪や刑罰を定める刑法。

 司法は法律に基いて合法、非合法を判断したり、トラブルの調停を行ったりします。

 行政は法律に基いて政策を実施します。国であっても違法なことはできませんし、予算法案が通らなければ政策に必要な予算も下りません。

 この立法の仕事に関しては機械に任せることはできません。

 国の形、社会の在り方を決めるのが法律です。どれほどAIが優秀になったとしても、最終的には人間が決断を下す必要があるでしょう。

 ただ、AIによるサポートならば可能であると思います。

 現状の問題点を解決するための新規法案または現行法の改正案をAIによって立案する。

 AIが立案した複数の法案や人の考えた法案をシミュレートしてメリット・デメリットを分かり易く解説する。

 ある程度信頼のおけるシミュレーションが可能になって法案が成立した場合の社会を予測できれば、国会議員の負担を軽減し、不毛な議論を減らす有用なツールになるでしょう。

 上手くすれば、直接民主主義も可能かもしれません。

 ネット上で審議中の法案とシミュレーションに基くメリットデメリット、各法案を推す人の意見や議論を公開し、国民全員でどの法案や政策で行くかを投票して決める。

 直接投票でなくても、どの代議士がどの法案に賛成したかを整理して記録しておけば、選挙の参考にはなると思います。

 政治家の立場やイデオロギー、利害関係などに影響されない客観的な法律や政策の結果予測。それが可能になれば、政治の素人にとっても見通しが良くなると思います。

 都合のいいことしか言わない政治家を「どうせだれが当選しても変わらない」と白けた目で見るよりも、リスク回避を優先するかメリットの最大化を図るかと争点が分かり易い方が良いでしょう。

 働かなくてよい世界とは関係なく、政治シミュレーターは欲しいところです。


 行政の仕事は多岐にわたります。

 前回の「戦争と平和」で触れた軍事関係も行政の一部です。

 本来戦争は外交の手段の一つであり、軍の指揮権の最上位は行政の長が握ります。

 もちろん軍事以外の外交も、生活に密着した内政も、全て行政の仕事です。

 立法機関が決定した国の方針や政策を実際に実施するのが行政になります。一般の人々が国の仕事と言って思い浮かぶのは、この行政の部分が多いのではないでしょうか。

 前回も少し触れましたが、働かなくてよい世界が実現すればこの行政の仕事がだいぶ減るのではないかと思っています。

 まず、景気対策の必要がなくなります。

 今の世の中で景気対策とか景気刺激策とかを行わなければならない理由は、経済を活性化させてお金を回さなければ生活できない者が出て来るからです。

 「貧乏なのは本人の努力が足りないせい」と切り捨てることはできません。完全失業者とは働く意思も能力もあるのに就職先が無い者のことです。努力する機会さえありません。

 まともな仕事が無くて生活の立ち行かない者が増えれば、犯罪に走る者も出て治安が悪化します。貧困のあまり不衛生で劣悪な環境で生活せざるを得ない者が増えれば、そこから病気が蔓延することもあります。

 だからどの国も経済をコントロールして極端な貧困者が増えないように腐心します。失敗すると治安が悪化したり政情不安になったりして危ない国になります。

 けれども、経済を人の都合で思うように制御することは困難です。

 景気の良いときはある意味何をやってもどうにかなるものです。多くの人は豊かなので、少数の困っている人に気を配れば問題はありません。税収も自然と増えるので国の予算にも余裕ができ、取り得る手段も増えます。

 逆に不景気になると途端に難しくなってきます。景気回復に効果のあるとされる政策はいくつかありますが、確実に上手くいくとは限りません。

 金利を引き下げて、消費者のお金を貯蓄から消費に回すように促して景気を回復させる方法があります。しかし、日本では前世紀の終わりころからずーっとゼロ金利政策を続けています。たまに景気が少し回復してゼロ金利が解除になっても、金利が上がる前にゼロ金利だのマイナス金利だのに戻っています。

 公共事業を行って景気を刺激する方法もあります。国が投資した資金の波及効果と、公共事業で作った施設などを活用することで経済を活性化するというものです。これも失敗すると事業を請け負った企業だけが潤って、作った施設などもほとんど利用されず、国の借金だけが残る場合もあります。

 経済の活性化を狙ってオリンピックを誘致こともあるようですが、近年ではオリンピックが終わった後に需要が消えて却って景気が悪化するという話もあるようです。

 為替を操作したり、関税をかけて保護貿易を行うことで国内の産業の振興や育成を行うこともあります。しかし、よほどうまくやらなければ他国との間に摩擦が生じます。

 コロナ禍で大変な時に、感染防止策と同時に経済振興策を行わなければなりませんでした。職を失ったり収入が減ったりした人を放置すると、病気以前に餓死する人が出かねません。GoToキャンペーンのような感染症対策と相反するような政策を行ったり、税収も減っているだろうに支援金だの給付金だのと国の支出も増えています。

 国のコロナ対策をみていると、行政の大変さが窺い知れます。感染症対策で客足が遠のいて苦しい業界からは「対応が遅い」「支援が不十分」等の非難の声が上がる一方、素早く対応するために手続きを簡素化した結果不正受給とか給付金詐欺とかが多発しています。

 実は、コロナ禍で大変な時期でも株価が上がったりしています。一年遅れで開催されたオリンピックが無観客試合になった2021年に、日経平均株価は一時三万円台にまで上昇しています。観光や外食産業が大打撃を受けている一方で通販やテレワーク用のパソコン、いわゆる巣ごもり需要を捉えた企業が業績を伸ばしています。それでも生活が立ち行かなくなるほどに収入が減った人が多数いるから対策を行わないわけにはいかないのです。

 国の経済対策は「平均的には好景気」とか「成功者は凄い利益を上げている」では不十分です。生活に困るほどの貧困層をいかに減らすかが重要になります。

 貧富の格差の解消は、今後世界規模で重要な課題の一つになると思います。

 しかし、働かなくてよい世界ならばこれらの問題は無くなります。

 収入が無くても健康で文化的な生活を維持できるのならば無理に景気を向上させる必要はありません。

 一文無しでも衣食住が保障された世界ならば、景気が悪いくらいで治安や衛生状態が悪化することはないのです。

 また、生活必需品は経済活動とは切り離された無人のシステムが製造・提供することを考えているため、物価の変動を抑える必要もありません。

 公共事業は景気刺激策としてだけではなく、生活に密着したインフラ整備であることが多いです。しかし、働かなくてよい世界ではインフラ整備も無人のシステムが行うことです。

 貧富の格差が社会的な分断を生み出す可能性はあるので、なるべく格差はない方が良いです。しかし、働かなくてよい世界では今の世の中と違って金が無くても過酷な労働を強いられたり劣悪な環境に押し込められたりすることもありません。

 収入を得る仕事をする以外にも社会に貢献する方法はあります。働かなくてよい世界ではそういう生き方も可能になります。お金以外にも様々な事柄に人生の豊かさ認める多様な価値観が広まれば、無理に貧富の格差を是正する必要もなくなるのではないかと思います。

 経済関連を国が面倒を見る必要が無くなれば、行政の仕事は大きく減る。

 インフラ整備や福祉関連は無人のシステムが行うので行政は手を出す必要があまりなくなる。

 窓口業務なども電子化すればほとんどが無人で行うことができるでしょう。

 このように考えると、国や地方自治体も含めて行政の仕事が大幅に減るのではないかと思います。

 今回の新型コロナウイルスのような新たな感染症が問題になっても、経済活動に遠慮せずに感染症対策だけ専念すればよいとなれば、行政の仕事はかなり楽なものになるでしょう。


 働かなくてよい世界では税収は減ると思います。

 収入のない人間から税は取れません。働かなくてよい世界ならば一定数働かずに収入のない人が出るでしょう。

 消費税などの間接税で税収を得ようとしても、収入のない人は必要ない消費行動をほとんど行わないでしょう。

 ベーシックインカム方式にして生活必需品も有料にすれば一定額の売買が行われますが、そもそも間接税などと言わずに生活必需品の売り上げをそのまま国庫に納めればよいだけです。ただ国が給付したお金を国が回収するだけなので、財政的には黒字にはなりません。

 土地などを所有しなければ固定資産税もかかりませんし、代々財産を持たない生活を送っていれば相続税も発生しません。

 生活必需品が経済の枠組みから外れ、無理に需要喚起を行う必要が無くなればその分経済は縮小すると思われます。

 これは働かなくてよい世界に限らず、環境問題とか資源の枯渇とかへの対策を行って大量生産大量消費社会から脱却すれば、必然的に経済の規模は縮小するでしょう。

 無駄遣いしない持続可能な社会と成長し続ける経済は両立が難しいだろうと考えています。SDGsの目標の中に持続可能な経済成長というものがありますが、持続可能つまり半永久的に成長し続ける経済なんて無茶じゃね? と私は思うのです。

 経済活動が縮小すればそれだけで税収は減ります。

 税収が減った分以上に行政の仕事が減って歳出も減れば国の財政は破綻しません。

 働かなくてよい世界で不要になる行政の仕事にはお金のかかるものが少なくありません。

 経済活性化の政策としては、公共事業や市場介入など、多額の資金を投入するものが少なくありません。産業の振興や需要を喚起するために補助金を出したり、最近ではガソリン価格の高騰を抑えるために補助金を支給したりしています。

 また、福祉関係の仕事が無人のシステム置き換わることも大きいです。今の日本の国の借金は社会保障の支出で生まれた側面があります。好景気で税収も多かった時代に手厚くした社会保障を、不景気で税収も減ったから減らすというわけにはいきません。

 年金とか、生活保護とか、失業手当とか、医療、介護、子育て支援等々。必要な人にとっては打ち切りや減額は死活問題です。

 2022年度の日本の予算を見ると1/3は社会保障に使われます。この金額が不要になれば国の財政もかなり軽くなるでしょう。

 税収が減った分、確実に歳出も減るという保証はありません。しかし、経済に翻弄されない社会を作るためには政府そのものが多額の金を掻き集めなければならない状況はなくしたいところです。


 実は、働かなくてよい世界においても経済が活性化する可能性はあります。

 まず、失敗しても路頭に迷うことはないので気楽に起業することができます。いきなり大企業は無理でも、個人経営や同好の士が集まった零細企業が乱立する可能性があります。

 失敗しても何度でもやり直しは効くし、フリーランスだとしても発注元の大企業の顔色を窺って不利な契約に甘んじる必要はありません。利益を度外視してニッチな需要に応えることもできます。

 誰でもノーリスクでベンチャー企業を立ち上げられるようなもので、数が集まれば大ヒットする商品やサービスが誕生しても不思議はありません。

 そして、働かなくてよい世界では個人でお金を貯め込む必要が無くなります。お金が無くても普通に生きていける社会なのだから、老後の資金もいざという時の蓄えも不要です。稼いだ端から使うことができます。

 宵越しの銭は持たないを実践する人が増えればそれだけお金が出回り、経済が活性化します。

 普段は仕事をしない生活を送っている人も、欲しいと思える商品を見つけたら、一時的に働いてお金を得て商品を購入することもあるでしょう。

 あるいは仕事をしない人よりもワンランク上の生活を求める人ならば定職に就いて安定収入を求めるでしょう。

 働かなくてよい世界で商品となり得るものは、無人システムで生産される生活必需品よりも質の良い物、生活必需品の対象外となる趣味嗜好娯楽関連の品になります。

 大量生産した品を流行らせて一気に売りさばくのではなく、少量多品種で個人個人の好みに合わせたものになると思われます。

 そうなると大企業よりも数多くの個人や小規模な零細企業が産業の中心になるのではないかと思います。

 大企業よりも規模の小さな企業の方が社内にプールする資金は少なくなるでしょう。そういう意味でも経済がよく回る可能性があります。


 働かなくてよい世界でもある程度経済が回っていれば税収はあります。国や地方自治体にはある程度のお金はあった方が何かの時に動きやすいでしょう。金持ちのための政府にならないように気を付ける必要はありますが。

 気を付けなければならないことは、働かなくてよい世界では金を出したからと言って必ずしも仕事を引き受けてもらえるとは限らないことです。

 今の世の中では企業は利益を上げ続けなければなりません。利益が出るだけの金額を提示すれば必ず仕事を受ける業者が現れます。利益を出さなければ会社は潰れるので、仕事は選べないのです。

 しかし、働かなくてよい世界では利益よりも企業理念を優先した企業活動も可能になります。

 収入が無くても生活に困らない社会なのだから、最低賃金とか取っ払って利益が出た場合に社員に分配する労働契約とかあっても良いと思うのです。いつでも無条件に辞められる権利さえ厳守すれば労働者が一方的に不利になることはないでしょう。

 つまり、いかに国からの発注で多額の報酬があっても、社会に害がありそうだったり人に恨まれそうな要素があったりするような問題のある仕事は誰も受けなくなる可能性が高いのではないかと思います。

 金儲け優先の企業が請け負ったとしても、関係者に一人でも良識のある者がいれば作業や進め方の問題点を内部告発することもあり得ます。

 逆に、社会的に有意義な仕事で、誰かがやらないといずれ大きな問題になるという危機感があれば、利益を度外視して協力を申し出る者も現れるでしょう。

 そうなると行政としても「国が決めたことだから」と強引に進めることは困難になり、その施策を行う意義や、行った場合のメリットだけではなく予想される弊害とその対策などを丁寧に説明する必要に迫られると思います。


 私が想定する働かなくてよい世界における国のあり方は、大きな権力を持って強引にでも政策をガンガン進める強い政府ではなく、国としての方針や問題となっている事柄の解決方法を提示し国民に協力を呼び掛ける、国民のまとめ役のような存在です。

 そんな緩い感じの国家が成立するように、政府が頑張らなくても日々の生活には困らない社会になって欲しいと思います。


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