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働かなくてよい世界  作者: 水無月 黒


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警察、裁判、検察、弁護士

 今回は警察及び司法関係を考えてみたいと思います。

 今回のテーマは技術的な問題よりも受け入れられるかが問題になると思うのですが、どう考えても失敗すればデストピア一直線な気がします。


 まずは警察について。

 警察というと、道を尋ねたり、落とし物を届けたりと身近な困り事を相談したりする所という役割もありますが、やはり重要になるのは犯罪者を捕まえたりする治安維持の役割でしょう。

 犯罪者の捜査と逮捕に関しては、警察以外の民間人ではかなり制限されます。

 民間人の場合、犯人逮捕は現行犯の緊急逮捕以外認められていません。犯罪の捜査権も民間人にはありません。

 万引きの厄介な点は、店員には現行犯でなければ逮捕できないことだそうです。

 店内で多少不審な動きを見せたところで、未精算の商品を店外に持ち出すまでは犯罪は成立しないので捕まえることはできません。別室に連れて行って尋問したり、持ち物を検査したりする権限もありません。せいぜい声をかけて牽制するくらいです。

 店から商品を持ち出したところで窃盗罪が成立するのですが、その場で取り押さえられなければ店員にはもう何もすることができません。後で犯人が堂々とその店を訪れても捕まえることはできません。被害届を出して警察に任せるしかありません。

 店員ではなく、大きな百貨店などの警備員でも同じことです。警察でない以上、捜査権も現行犯以外の逮捕権もありません。

 もしも店の警備員が人気のないところに引っ張り込んでバッグや財布の中を見せろと言ってきたら、偽警備員による詐欺だか強盗だがを疑う必要があります。

 警察の権限は大きなものがあり、おいそれと誰にでも与えてよいものではありません。

 警察は言ってみれば国の暴力装置です。使い方を誤れば人々が命の危険にさらされる可能性すらあります。

 実際に、独裁政権が警察や軍を動かして政権や政策に批判的な人物を容赦なく取り締まって行けば、人々が恐怖に怯えながら暮らす恐ろしい社会になるでしょう。

 しかし、暴力装置としての警察が無くなるのもまた問題です。

 法を無視して、暴力によって他人の生命、財産、自由を脅かす犯罪者を抑えるには、それ以上の暴力を以て抑えるのが一番確実です。

 例えば、言葉で説得するという方法は確実に成功するとは限りません。犯罪者を説得する汎用的な正しい手法というものもありません。

 経済的なペナルティーを科すという方法も、犯罪で利益を得ようとする者にはある程度効果がありますが、全ての犯罪に対応できるものでもありません。下手をすると食い詰めて犯罪を繰り返す者が出と言った逆効果になる場合もあるでしょう。

 善良な一般市民を犯罪被害から守るためには、公的な暴力装置としての警察が必要になります。

 さもないと、私的な暴力によって支配される世の中になってしまいます。


 働かなくてよい世界の場合、本当にその仕事をやりたいと思う有志が行うか、機械に任せるかのどちらかになります。

 警察の場合、責任も重く、場合によっては命の危険もある仕事です。現状でも生活のために仕方なく働いているという人は少ないかも知れません。

 しかし、仮にも公務員ですし、安月給で生活ができないから警察官になることを諦めた人はまずいないでしょう。働かなくてよい世界で警察の仕事をする人が増えるとは考えにくいです。

 社会を維持する仕事は機械で自動化するのが働かなくてよい世界の基本方針なのですが、警察の場合は特にそれを受け入れられるかが問題になります。

 裏方の事務作業ならともかく、治安維持を行う仕事を機械に任せることができるか?

 人間に対して、攻撃したり拘束したりするロボットを作ることを認められるか?

 軍用ではないのだから非殺傷が中心でしょうし、機械ならば正当防衛で犯人を射殺といったこともないでしょう。

 しかし、非殺傷目的の攻撃でも事故で大怪我を負わせてしまったり死亡させてしまうことはあり得ます。

 それに、犯人を殺してでも止めなければ多くの人の命に関わるような場面もあるでしょう。

 人質の安全を確保するために、超法規的な措置を取るような事件も過去にありました。

 このような難しい状況をAIの判断やロボット警官に任せて、結果がどうあれ納得できるでしょうか?

 技術が進めば人間と遜色ない判断を行えるAIや、人間以上の能力を発揮するロボット警官も作れるかもしれません。

 それでも最善の結果を出せるとは限りませんし、最善を尽くした結果であっても後味の悪い結末はあり得ます。

 人間の手で行ってもそれ以上の結果は望めなかったとしても、それを受け入れられるかはまた別の話です。

 妥協案としては、人間の警察官がロボットに指示を出す方法でしょうか。人間の判断を優先しつつ、人手不足に対応できます。

 ただ、警察の権限や立場を悪用した不良警官の存在や、犯罪組織と癒着して真面目に取り締まりを行わないような可能性を考えると、私情を挟まない完全無人の警察というものにもちょっぴり魅力を感じます。


 また、警察の機能を機械的なシステムにすると、セキュリティの問題も深刻になります。

 医療用のシステムなども命に関わるという点でセキュリティーが重要ですが、警察のシステムの場合は犯罪者から直接狙われる可能性が高いです。

 直接システムに侵入される危険だけでなく、警察システムのロジックを解析して捜査や摘発を逃れる方法を見つけ出すかもしれません。

 警察のシステムも世の中の変化に合わせて常に更新していく必要があります。

 しかしシステムの更新は新たな不具合やセキュリティホールを生む可能性が常にあり、また悪意ある改変が絶対に行われないとも言い切れません。

 悪い方の可能性としてはいくつか考えられます。

 システムに侵入した者、あるいはシステムの更新を行える者が警察システムを掌握し、独裁的な支配者になり恐怖政治を行う。

 犯罪者が警察システムの盲点を熟知して何をやっても捕まらない犯罪者天国になる。

 警察システムのAI自身にシステムの更新をやらせて、人間には予測不能の行動をとり始め、システムを修正しようとすると捕まるので手が出せなくなる。

 いずれにしても、ろくでもない世の中です。

 おそらく、こうすれば絶対に上手くいくという完璧な方法はありません。

 むしろ、完璧を期そうとすれば、理想から少しずれただけですぐにデストピアと化すでしょう。

 絶対に犯人を捕まえることに執着すれば冤罪による逮捕者を量産するかもしれません。AIが判定した犯罪者らしき行動をしたら即逮捕とかになったら悪夢でしょう。

 逆に絶対的な動かぬ証拠がない限り警察が介入できないようにすると、物証が残り難い犯罪や巧妙に証拠を犯罪者が野放しになる恐れもあります。

 どんな小さな悪も見逃さないことを最優先にすると、ごみを出す日を間違えただけで不法投棄になったり、歩行者の左側通行が道路交通法違反で取り締まり対象になったり、誰も憶えていない古い法律や条例に引っかかったりと、色々と面倒なことが起こりかねません。

 おそらく特定の手法とか理念とかを順守して、そこから絶対に外れないシステムを作っただけではどこかで破綻すると思うのです。

 システムの挙動を常に監視し、問題があったら修正する余地を残すことは非常に重要です。

 これは機械に任せた警察システムだけでなく、人が運営する警察組織でも同じことが言えます。

 警察の役割は単に犯罪者を捕まえることではありません。それは手段にすぎません。

 善良な一般市民が犯罪や事故の被害に遭ったり、変なトラブルに巻き込まれたりせずに安心して暮らせる社会を作ること。治安の維持とはそのための活動です。

 警察自身が不安の元になることも、人々の生活を脅かす存在を野放しにすることも、どちらもあってはならないことです。


 さて、警察が犯人を逮捕してもそれで終わりではありません。

 裁判を行って本当に違法な行為を行ったのか、そして有罪ならばどの程度の量刑を科すべきか、決めなければなりません。

 裁判官もまた特殊な職業です。高度に専門的な知識が必要になります。また、仕事に私情を挟んだり、私利私欲で不正を行わないような人格面での要求もあります。

 警察官ほどの人数は必要ないですが、働かなくてよい世界において能力と適正と意欲のある者だけで十分な人数が集まるでしょうか?

 裁判官の仕事は多岐にわたります。

 裁判には警察が捕まえた容疑者を裁く刑事裁判の他にも、民間のトラブルに対する民事裁判、離婚や相続と言った家庭内の問題に対する裁判、国や地方自治体などに対する行政裁判、未成年者の犯罪に対する裁判など性格の違う裁判があります。

 また、逮捕令状とか捜査令状と言った警察の捜査に関わる許可を出すのも裁判所や裁判官です。

 働かなくてよい世界での裁判はどうなるでしょうか?

 衣食住が保障されているなら食い詰めて犯罪に走ることは無いから犯罪者も減るはず。

 企業も無理に利益を出す必要もないし、嫌ならば簡単に辞められる職場ならば労使問題も起きにくいから、民事訴訟も減るはず。

 いざという時や老後に備えて資金を蓄えておく必要のない、身一つで生きて行ける世界を目指しているので、離婚時の財産分与とか遺産相続でもめる可能性も減るはず。

 そんな感じで、裁判自体が減るといいな、と思うのですが、そう簡単にはいかないでしょう。人が大勢暮らしていればもめごととかトラブルとかは起こるものです。

 発生する裁判の件数が増えて裁判官の数が足りなくなれば裁判が長引き、必要な裁判を受けられない人も出て来かねません。

 その解決法として、AI等を使って人に頼らずに裁判を行う方法がありますが、これも受け入れられるかが問題となります。

 特にディープラーニングにより理由は分からないけれども答えが出る方式で判決を言い渡されても納得できない人の方が多いでしょう。

 ちゃんと理由を明示した上で判決を下したとしても、機械の下した判決に納得できるかは人それぞれです。まあ人間の裁判官が下した判決でも納得できない場合も多々ありますが。

 ただ、完全に私情を挟まない機械的な裁判というものも、公正さという点では人間の裁判官より勝っているかもしれません。

 審判の女神、あるいは正義の女神は右手に剣を、左手に天秤を持ち、目隠しをしているそうです。

 左手の天秤は、善悪を測る「正義」。

 右手の剣は、審判した結果を反映させる「力」。

 目隠しは、裁く相手を見ない、つまり相手によって態度を変えない「法の下の平等」を象徴するそうです。

 裁判において、「力」は警察や判決に従う各組織が担います。

 「正義」を規定するのは法律であり、その法律を作る立法府が重要な役割を果たします。

 「法の下の平等」は容疑者と起訴した検察、あるいは民事訴訟で争っている両者のどちらとも直接関係のない裁判官が公平な目で見て判断することで実現します。

 しかし、人間である以上何処にどのような繋がりがあるか分かりません。それに思想信条立場偏見など完全に公平でいられるか難しいものがあります。

 その点、人的なしがらみに囚われないAIによる裁判ならば公正さは期待できます。

 ここでもセキュリティーは問題になりますが、判決に至るまでの経過を記録しておけば後で検証することができます。

 裁判に使用するようなAIならば、同じ条件で審議すれば必ず同じ結論が出るはずです。判決に不服のある側や第三者機関が検証できるようにしておけば、不正を防ぐことができるでしょう。

 十分に実用に足る、人間の裁判官と遜色のない判決を下せるAIが出来れば、かなり有用だと思います。

 まあ、温情判決とか、情状酌量などはあまり期待できないかもしれませんが。

 最初はAIによる裁判を行い、納得いかない場合に控訴や上告して人間の裁判官による裁判を行うのが現実的でしょう。


 SFなどでたまにあるのですが、裁判官の代わりに一般大衆が判決を決めるという方法があります。

 たぶんこの方法は上手くいきません。

 例えば差別や格差で分断された社会だと裁判官も一部の支配者層の回し者として信頼できず、多くの一般大衆が参加する民主的な裁判が理想に思えるかもしれません。

 しかし、時に群衆は理性を放棄します。

 悪人だと思い込めばまともな証拠が無くても有罪にして、法で定めた以上の重い罰を与えようとするでしょう。

 逆に自分たちの代弁者だと認識すれば、どれほどの悪逆非道な真似をしても無罪にしようとするでしょう。

 時代によっては情報操作によって特定の個人や集団が英雄になったり極悪人になったりしますが、誰かが故意に情報操作しなくてもデマが横行することはよくあります。

 おかしな人は一部だけだから大勢の人が参加すれば大丈夫と楽観するのは危険です。

 それに他人事でもないのです。

 ニュース等で凶悪事件の容疑者が逮捕されたと聞くと、裁判が始まる前からその容疑者が犯人であると決めつけてしまうことはありませんか?

 容疑者が罪状を否認し無実を訴えていると、まるで反省していないと憤ることはありませんか?

 裁判で無罪が確定しても、凶悪犯が釈放されると危惧を感じたりしませんか?

 感情のままに裁判が行われる世の中は、誤認逮捕されれば人生が詰む、あるいは疑われるだけで終わる魔女裁判が横行するような怖い社会になりかねません。


 これは私見ですが、法律や刑罰は「悪人をやっつける」ためのものではないと思います。被害者に変わって復讐するためのものでもないでしょう。

 被害者感情に配慮して、みたいな言葉がありますが、裁判においてはやってはいけないことだと考えています。

 被害者側も納得できるのならばそれに越したことはありませんが、例えば殺人事件の遺族が「遺産が入って助かった、犯人には感謝している」などと言ったら刑が軽くなるのはおかしいと思いませんか?

 それともう一つ、被害者の感情を酌んで重い刑を科した後、冤罪であることが判明したとします。すると、無実の人間に不当に重い刑罰を科した責任は、それを望んだ犯罪被害者にまで及んでしまいます。それもおかしいでしょう。

 警察や刑法、刑罰の目的は治安の維持です。

 治安の良い社会では安心して暮らすことができます。

 そのためには理不尽に他者から生命、財産、自由、健康などが脅かされないことが重要です。

 法律は、互いに守ることで他者を害さない、他者から害されないための最低限のガイドラインです。

 警察による警邏も、刑罰によるペナルティーも、法を守るための動機付けやうっかり法を犯して他人を害することのないように注意喚起を促すためのものです。

 犯人を逮捕したり有罪にすることよりも、そもそも犯罪が起こらないようにすることが肝心です。さらには犯罪に限らず、善良な一般市民の生活が脅かされないことが重要です。

 暴力装置としての警察は犯罪に対する抑止力として必要ですが、乱用されると犯罪以上に市民の生活を脅かすことになります。

 裁判が公正でなければならない理由も、不公正な裁判が横行すれば法に対する信頼が失われ、法を守る意識が下がるからです。

 冤罪が問題になるのも同様で、法律を守っていても有罪になるのでは法を守る意味が無くなります。「疑わしきは罰せず」の原則は法治国家を維持する上で重要なのです。

 刑罰も犯罪の発生を抑止するためのペナルティーで、犯罪行為が割に合わないようにするためのものです。

 罪に対して刑罰が軽すぎれば抑止効果がありません。違法行為で何千万円も稼いだ人に、罰金百万円では本人も反省しないだろうし、まねをする者も出て来るかも知れません。

 逆に罪に対して刑罰が重すぎるのも問題です。犯罪者の人権という点でもそうですが、理不尽に重い刑にすると捕まることに必死に抵抗するようになります。下手をすると武装犯罪者集団が誕生します。

 また、犯罪を防ぐという観点で言えば、不可抗力に対して罪を問うことも意味がありません。

 例えば交通事故を起こしたとして、事故を起こしたことそのものは刑法の対象外です。事故を起こさないための決まりを守らなかったことが刑罰の対象になります。

 法的な過失が一切なく、それでも事故が起きたのならば、別の要因を調べる必要があります。場合によっては法律の方を変えなければなりません。

 情状酌量というのも、犯行に至るまでの道筋に本人の意思以外の要因が多く、本人だけを罰しても同じ犯行を防ぐ効果が低いと考えられる場合なのではないでしょうか。

 これは立法も絡みますが、個々の案件の成否だけでなく警察や裁判所のあり方や運営の方法などについても、防犯の効果や人々の安心という観点から定期的に評価し見直すと良いのではないかと思います。


 裁判に関連する職業として、裁判官の他に検察官と弁護士があります。

 裁判というものは基本的に立場の違う二者の意見を第三者である裁判官が調整するためのに行うものです。

 刑事事件の場合、警察が捜査し逮捕した容疑者を検察が有罪だと判断して起訴し、適切だと思われる量刑を求刑します。

 起訴された被告は無罪を主張したり、罪を認めても求刑の量刑が重すぎると減刑を求めることもあります。その被告の抗弁を専門知識でサポートし、また取り調べなどで不当な扱いが無いかをチェックするのが法律の専門家である弁護士です。

 検察側の求刑よりも重い刑罰を言い渡して異例の判決などと呼ばれた裁判もありましたが、検察と弁護人双方の意見を聞いて、その間のどこかに納まることが多いからです。罪を追求する側の検察が必要以上に甘い量刑を主張することも問題です。

 検察は被告人が違法な行為を行った犯人であるという立場から有罪を立証し、その罪を追求します。

 弁護士は被告人の立場に立ち、冤罪ならば無実を証明し、有罪であっても不当に重い刑罰にならないように意見します。

 裁判官は、異なる立場からのそれぞれの主張を聞いて、最も適切な判断を下す必要があります。特に刑事裁判では妥協案や折衷案ではなく、正しい判断が求められます。

 さて、人に代わって裁判を行うことができるほどのAI技術があれば、検察や弁護士の役割を担うAIも作れそうに思います。

 働かなくてよい世界でも検察官や弁護士のなり手が全くいないとは思いませんが、全部AIにすれば裁判は速く進みます。

 弁護士の方は容疑者が警察で不当な扱いを受けていないかのチェックとか、犯人扱いされている被疑者の味方として信頼関係を得るために人間の方が良い場合も多いでしょう。

 しかし検察の方は特に重要でも難解でもない事件ならばAIに任せてさっさと裁判を進めた方が良い場合も多くあると思われます。

 そこで問題があれば控訴なり上告なりして人の手で進めることもできます。

 弁護士についても、人として相談相手になって欲しいという要望が強い場合でなければ、AI弁護士も十分に有用でしょう。

 刑事裁判だけでなく、民事裁判も手軽にスピーディーに行うことができるようになります。ちょっとした法律相談ならAI弁護士に相談で済みます。

 弁護士、検察官、裁判官の全てをAIで置き換えれば当事者以外ほぼ全てAIで進む裁判になります。

 証人喚問などもあるので完全に無人で一瞬で判決が出るというわけにはいかないですが、それでも裁判が何ヶ月とか年単位で続くような事態は避けられると思います。

 人間の専門家と遜色ない判断ができるAIならば、速くて正確、私情とかどこかからの圧力なども受けない裁判になり、結構理想的かも知れません。

 しかし、いくら優秀でも全て機械に任せてしまうと少々妙なことになるのではないかとも思うのです。

 検察用のAIは容疑者を有罪にできるだけの証拠を揃えて起訴し、罪に見合った刑罰を求刑します。少なくとも有罪にできないと判断したら起訴しないでしょう。

 そして検察用AIは裁判用AIと異なるロジックだとしても、判断材料になる情報は証拠に裏打ちされた事実関係と法律、後は過去の判例くらいです。裁判用AIに参照できて検察用AIに参照できない情報はないでしょうから、精度が上がれば検察用AIだけで裁判結果がかなり正確に予測できるようになります。

 弁護士AIが新たな証拠などを提示できればまた話は変わってきますが、証拠の収集能力では捜査権を持つ警察が圧倒的に高いです。被告が弁護士にだけ証言した事実とか、被告を支援する人達が独自に調査して出てきた新証拠など警察の知らない証拠は特別なケースになりやすいです。

 特に証拠隠滅などの不正を行わないAI同士ならば警察の捜査情報を検察AIと弁護士AIで共有することも可能でしょう。

 証言を悪用したり、関係ない他者に漏らしたり、嘘つき呼ばわりして信じないとか言ったことが無ければ、容疑者も取り調べ段階で自分に有利な証言はどんどんすると思います。

 結局、公正で正確で信用できるシステムになれば、裁判をやらなくても結果が見えてしまいます。

 結果として全部機械に任せると、検察官、弁護士、裁判官に分かれる意味が分からなくなってきます。一つのAIシステムの中に多角的な視点で検討する仕組みにしておけば、検察官と弁護士という二者の見解に集約してから審議する必要もありません。

 もちろん人間の手で行われる裁判は検察官と弁護士の意見を聞いて裁判官が判断するだろうし、AIによる裁判でも判決に至った経緯の説明はあるでしょう。

 ただ、便利だからと言ってAI任せの裁判に慣れきってしまうと、自分に関する裁判にも無関心な人が増えないかと心配です。

 判決文を真面目に読まないと、執行猶予がついて実刑がない判決を無罪と同じように考えて、再犯の防止効果が薄れてしまうかもしれません。

 デストピアとまでは言いませんが、人間を置き去りにして機械だけで法律問題を議論する社会というのも奇妙な気がします。

 どれだけ優秀なシステムでも、やはり人の手で常に監視し、現状のままで良いのか常に問い続ける必要はあるでしょう。


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