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三章・二度目の挑戦(3)

 馬車ならぬトカゲ車は勝手に門を抜けて街から飛び出し、そのまましばらく走り続けた。結局、雨楽に代わって手綱を握った少女に操られ、やがて街道から外れた森の中へと入り、そこでようやく停車する。

 雨楽は子供達を一人ずつ荷台から下ろしてやって、額の汗を拭う。異世界へ来た途端に殴られ拉致され売り飛ばされて、前回と同じくらい酷い目に遭ったものの、これでやっと一息つけた。

 直後、腹の虫が鳴った。彼ではなく子供達のが。この子達も無事逃げ切れたことで安心したんだろう。

「食べなさい」

 少女は自分の背負っていたボディバッグから菓子パンを三つ取り出し、子供達に与えた。三人は見たこともない透明な袋に入ったそれをしばらく警戒していたが、空腹には抗えず、やがて袋を破いて中身にかぶりついた。


「ルアイ!!」

「ルア、ルア!!」

「ライラッオ!!」


 やっぱり言葉は一つもわからない。でも表情からして喜んでくれていることだけは理解できた。彼等の笑顔につられ雨楽も微笑む。

「あなたも食べますか?」

「あ、いや、僕はいい……です」

「そうですか……」

 もう一つ菓子パンを取り出した彼女は、残念そうにその袋を開くと、自分でそれを食べ始める。

 そして、じっと雨楽の顔を見上げた。

 彼も彼女をおそるおそる、何度も横目で見やる。

 お互いに同じことを思っていた。


(私と……)

(僕と、そっくり……)


 二人は双子にしか見えないほど瓜二つだった。身長と声以外、ほとんど外見上の差異は無い。

「あの、お名前を伺っても……?」

「う、浮草(うきくさ) 雨楽(うがく)、です」

 いくら自分に似ているからといって、他人は他人。雨楽は警戒しながら答える。

 それを聞いた彼女は、ますますしゅんと肩を落としてしまった。

「すいません……お母さんと間違えてしまって……」

「い、いいよ……気にしないで」

 そんなに彼女のお母さんと似ているのだろうか? そういえば自分も母に良く似ていると言われ──

「あっ」


 雨楽は、ある可能性に気が付く。


「も、もしかして君」

「ええ、そうだと思います。その浮草という姓を聞いてこちらもわかりました。父の旧姓ですから」

 じゃあ、やっぱりそうか。

 歴史は可能性によって分岐する。母が浮草家に嫁いだ世界があれば、逆に父が鏡矢家へ婿入りした世界もあっておかしくない。

 そして、その子供が男女どちらで生まれて来たのかでも、やはり歴史は分岐する。

 目の前にいるのが何者なのか、二人は互いに確信した。


「私は鏡矢(かがみや) 雨音(あまね)。並行世界の“あなた”です」




「そういや“あいつ”はどうなってる?」

 いつものように自室でPCのモニターと向かい合い、熱心に作業していた男は、背後で控えるレインに対して問いかけた。

『雨楽様のことでしょうか?』

「ああ、そうそう、そのウガクとかいうやつだ。そろそろ行ったか?」

『ちょうど先程、二度目の跳躍を行ったところです』

「二回目ね……てことは、完全な異世界か」

『はい』

「よし、ちょいと様子を見てやろう。オレもあん時ゃ大変だったしな」

 そう言うと、彼は何かのソースコードが表示されている画面から別のモニターへ視線を移す。最小化しておいたウインドウを開いてみると、なるほど、浮草 雨楽の魂の反応が元の世界から別の界球器にある小世界の一つへと移動していた。

 実のところ単なる気晴らしに過ぎない。ずっと同じことばかりしていると気が滅入ってしまうものだ。彼は単調な作業の繰り返しに耐えられないタイプなのである。

 ところが次の瞬間、驚きで目を見開いた。前のめりになって食い入るようにモニターを見つめる。

「おいっ、おまっ、これ!?」

『まあ……この反応は“彼女”ですね』

 浮草 雨楽と同じ世界に、別の見知った魂の反応がある。

「知ってたのか!?」

『いえ、彼女は自殺志願者でも有色者(ゆうしきしゃ)でもありませんので』

 じゃあ全くの偶然ということか。

 そんな馬鹿な、天文学的確率のはず。

『惹かれ合っているのかもしれませんね、極めて近しい存在同士』

「そういうこともありうるのか……?」

『マスターと雨楽様が関わったことも、確率的には似たようなものです』

 たしかに、言われてみればその通りである。

「並行世界の自分か。いっぺん面を拝んでみたいもんだ」

『そうですね、いつかは会えますよ、雨龍様(マスター)


 彼の名前は浮草 雨龍(うりゅう)

 やはり異なる可能性を辿った、浮草 雨楽の同位体である。

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