十六夜月《いさよいのつき》
ここに来たり ここに
ここに在り ここに──月が
丸き月 青き月
一本の樹
月に向かひて 腕を伸ばし 夜に目覚めたり
闇は月のためにこそ生まれ 月のためにぞ在り続く
創造主と呼ばれし全きもの 光と闇を分けしといふ
──闇は、月のために残されん
光に浮きし、一本の樹
ここに在るは 月ぞ知る
闇に焦がれ、闇を照らし かの樹に 抱かるるなり
光に誘はれ、光に照らされ かの樹は 眠る
かの樹 闇に目覚め 闇に生く
───ここに在りぬらむ、と
─されど、何時しか
かの樹 切られ、
月は
抱かれし腕を失くなす
ここに来とも 逢ふこと叶わず
永久に闇の光なる運命を負ひし月
終末をば迎えんと宿命られしかの樹
闇夜の逢ふ瀬 知りたるものなく、
月、
夜、闇に隠らふことあり
誰が目にも触れることなけり
闇、月のために残されん
猶予ふ月
かの刻より此の方、月の影 長うなりし
焦がるるかの樹も在らず
月日流るるとも この青き月 闇の内にて
満ち 虧く
光に生くることなく────
──闇は、月のために残されん