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クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
『ざまぁ』するにもまずは地盤を固めましょう編
6/60

5話.この俺が英雄扱いされるとかまじでありえないのだが。

 ケルヌトの街から出れば適当に巨大スライムが見つかるだろうと思っていたが、案の定、すぐに見つける事ができた。


 ていうか街から出るまでに既にその姿が少し見えていたくらいスライムは巨大化していたのだ。


 現場に駆けつけた時には数十人の冒険者達が、ボロボロの状態で長期戦を強いられていた。


「くそ…斬っても斬っても、自己再生で回復していきやがるっ!?」


「戦士君大丈夫?…もう私もMPがそろそろ…」


 白魔法を使い、戦士の傷を治す女性魔法使い。彼女の両手から青白い光が出て、男の傷はみるみるうちに治ってしまった。


「…すげー、初めて見たわまともな魔法…」


 俺の呟きにリズが意見する。


「別にあんな魔法、全然大した事ないよ」


「そーいうお前は、MP切れてるけどな?」


「うぐっ!?」


 俺の一言で、リアクション芸人ばりにオーバーな反応をする彼女。


「ファイヤーウェイブ!」


 また別の魔法使いの男性が、巨大スライムに黒魔法を放つ。地面を走る炎がスライム目掛けて襲い掛かる。


「今よっ!はっ!!」


 またまた別の戦士の女性が、その隙を逃すまいと背後から巨大スライムに剣で斬りかかる。


 しかしいくら攻撃しても、大ダメージを与えても、暫くすると細胞が再生され巨大スライムはいつまでたってもピンピンしていた。


「…んぐっ…んぐっ……ぷはぁ…くそ!ポーションもコレが最後でした……」


 男性魔法使いはMPポーションを飲み干し、地面に空き瓶を捨てる。


 見ると彼等の足元には大量のポーションを飲み干した後の空き瓶がビックリするくらい転がっていた。


「あの人達がポーション買い占めてたんだな」


「ほんっと他に買う人の気持ち考えてほしいよね?」


 俺の言葉にそうだそうだとリズが乗っかってくるが、そもそもコイツはMPポーション買えなかった事を喜んでた側の人間だ。


「まぁ…いいわ。…なんせコイツ倒して早いところ宿で休むとするか」


「だね、だね。なんせ3000Gだもんね?ねー?今晩何か美味しい物食べに行こうよー?お酒も美味しいお店あるんだー」


 巨大スライムを前に表情が緩みまくりのリズ。


 だが、酒と美味い飯か…悪くない。


「ほーい、これがあの子のステータスね?」


 リズは例の板を取り出して、巨大スライムのステータスを見せてくる。



 Lv 98

 名前 スライムキング

 種族 ゼリー型細菌族


 スキル

 自己再生

 (数秒毎にHP回復)


 弱点

 魔法全般

 核の直接攻撃



「自己再生…HP回復か…」


 HP、所謂ヒットポイントの略称だ。


 ヒットポイントは体力、もしくは生命力を意味する、なので、HPを0にすればスライムは消滅する。


 しかし、スライムには自己再生スキルが付いている、いくら攻撃しても、数秒でHPが回復するみたいで、彼等もずっと苦戦しているみたいだった。


 周りの冒険者達が、俺とリズが見ているステータス表示の板を見てザワザワし出す。


「ちょ、あのアイテムなんだ!?普通、ステータス表示アイテムって相手のレベルまでしか表示できないんじゃないのかよ!?」


「そ、そうね…私もあんなに細かく表示されてるステータス表示アイテムなんて……見た事ないわ……」


 どうやらリズが持っているこのステータス表示の板は、凄い品物のようだ。


「ふふーん」


 リズはみんなから騒がれている事に気を良くしたのか、腹立つくらい自慢げな表情をしている。


「まー、要は火力が高い攻撃を打ち込まないとあのスライムは倒せねぇって事だよな」


「そゆことー」


 なら本当に俺得のクエストだ。


 正直未だにあのスキルを使う事に抵抗はあるが。


 転移者達に嫌悪感を持つ俺が何故転移者に選ばれたのか?その理由を見つける為にも、そんな俺だからこそできる何かを見つける為にも、今は一旦このチートスキルを受け入れる事にしよう。


 軽く山くらいの大きさはある巨大スライムを見つめ、俺は静かに闘志を燃やす。


 不思議と恐怖感はない。どうすればスキルを使えるのか分からなかったがなんとなく頭の中で【神の腕】を使用する事を強くイメージする。


 段々と熱くなる右腕には大量の白い光の模様が浮かびだす、本能的にスキルが発動している事を理解した俺は巨大スライム目掛けて走り出した。


「ちょ!おい!あんたじゃ無理だ!?」


 冒険者の一人が俺に声を掛ける。


 彼のアイテムで見たら俺はレベル1としか表示されてないのだろう。


 しかし、俺は異世界転移者、チートスキルを所持する『主人公野郎』だ。


「誰か止めて!?あの男の人死んじゃうわよ!?」


 女性の冒険者が悲鳴に近い声をあげる。


「も、もう補助系の魔法使うMPも残ってないですよ!?」


 周りの冒険者達はざわつき、如何にも自殺行為に見える俺の特攻を止めようと必死に慌てている、しかし、もう、全て手遅れの状態だ。


「あー、なんだよこの展開、すげー高揚感(こうようかん)


 きっと様々な『主人公野郎』達は、この高揚感に溺れてしまったのかも知れない、人は周りから注目を浴び、もてはやされる事に幸福を覚える、しかも、周りから絶対に無理だと思われていた事を平然と成し遂げてしまった時などはそのギャップからビックリするくらいに周囲から賛称される事になる、またその高揚感が忘れられず、きっと『主人公野郎(アイツ等)』はいつも『すかした表情』で、こういう事を繰り返しているのだろう、ある意味中毒者で、ある意味承認欲求の塊だ。


 皮肉にも俺が嫌いな『主人公野郎』側の立場に立つ事によって、更に彼等を理解する事ができた気がした、しかし、彼等を理解できた分、ますます彼等に対する嫌悪感が増す。


「あー、なんか頭ん中でマンソン流れてるわ」


 昔から好きな激しめのロックが頭の中で流れ、転移者達に対する嫌悪感を音楽が鎮静化させていく。


 軽く頭を揺らしリズムを取りながら、右腕を後ろにまわす。


 スキルってどうやって当てればいいのか知らんが、この際思いついた事をやってみよう。


「クソ異世界にラリアットォオオオ!!」


 俺は巨大スライムの脇腹目掛けて豪快にラリアットをぶちかました。


 ――その衝撃で、巨大スライムの体内を膨大な白い光の閃光が貫通する。


「きゅ、きゅきゅきゅきゅきゅぴぃぴぃぴぃ!?」


 そして巨大スライムは悲鳴に近いような声をどこからか発しながら、その山のように大きく膨張した身体はジュルジュルに地面に溶け、煙と共に消えていく。


 それと同時に俺の右腕の熱は消え【神の腕】のスキルの効果が切れた事が分かった。


「すげー、マジでこのスキル、チートかよ…」


 正直咄嗟の行動ではあったのだが、まさかのラリアットでスキルが発動してしまった。


 冒険者達はこの光景を口をポカーンと開け、ただただ呆然と見つめている。


「カトーさーん!凄い凄い凄過ぎるよ!君のスキル!今までの転移者と比べても規格外過ぎるくらい最強だよー!もー!やればできるじゃんかー!」


 犬みたいに尻尾を振って擦り寄ってくるリズ。


「よっ!カトーさんの俺TUEEEE(俺つえー)主人公っ!!よっ!なろう主人公っ!!」


「あー、うぜぇ!!」


 文字通り俺の胸に擦り擦りと頬を当ててくるので、それを力ずくで離らかせる。


 しかも『なろう主人公』って、山田が作者として投稿している某無料小説サイト『なろう小説』での作品から流行った言葉のようなものだ。


 何で異世界人のコイツが知ってるんだ?


「あ、あのっ」


 気が付けば先程の冒険者達が全員集まって来ていた。


「貴方、異世界転移者なんですね!?」


「あー、はい、まぁそうです…」


 冒険者の一人が尋ねる質問に俺は頷く。


 その途端、冒険者達はキラキラと目を輝かせて俺を絶賛してきた。


 遂にケルヌトのギルドにも『異世界転移者が現れた』だのレベル1からA級クエストを攻略するとか『英雄譚の始まりをみた』だの、みんな口々に興奮した様子で語り出す。


「はいはーい、インタビューはそこまでねー、彼へのインタビューはパーティーリーダーのボクを通してもらわないと困っちゃうよー?」


 芸能人のマネージャーのようにドヤ顔で仕切り出すリズ、しかも何故かみんな彼女の言う事を素直に従っている。


「ボク達はこの後も予定が詰まってるから、質問はまた今度ねー?暫くはこの街を拠点にしてるからさー」


 またその言葉に一同が『おぉ!!』と興奮気味に声をあげる。


「ささ、カトーさん?今のうちに行きましょー?さぁ、こちらです!あ、足元気を付けて下さい?」


 そろりそろりと、俺の歩く道を誘導するリズ。


「なんだよその態度は…」


「えー?やだなーいつも通りでしょ?うふん」


 明らかに調子に乗ってるリズは『私の男よ』といわんばかりな態度で俺に腕を絡めてきた。


「やめろっ!触んなっ!!」


 その態度に腹が立ったのでリズの腕を振り払い、一人で街に向かい歩き出す。


「もー!ちょっとー!カトーさーん!待ってよー!?」

7/3 深夜0:00に 6話 更新予定です。

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