56話.何気ない会話
バーナードと共に突然現れた俺の方をリズはチラッと確認をした後、不機嫌そうに顔を逸らした。
「よ、よぉ…」
彼女に声を掛けるも、やはりと言ったところか完璧に無視を決められる。
めげるな、そして大人になれ、俺。
しかし、急にリズと絡めと無理矢理連れて来られた所で、何て声を掛ければいいか分からない。
「ほら!先輩、頑張っす!!」
「あ、おい!?」
バーナードにポンと背中を叩かれる。
側から見たら、まるで俺が告白するにも勇気がない奴みたいになってるじゃねーか!!
まじで、そーいうのやめてくれ。
周りの奴等にも俺とリズの噂が広まっているのか、
周囲からの視線も試合時よりも凄い気がする。
リズはわざとらしくため息を吐いた後、
「………何?」
完全に不機嫌ではあるが睨むようにやっと俺の方を向いた。
「あ、いや……その……」
何?って言われても、俺も何?って感じなんだが…。
「じゃあ、後は二人でゆっくりするっす!」
「あ、うん。私もマルコの所に行っとくね?」
カンナとバーナードが変に気を利かせて俺達二人を残して去って行く。
そして、少し離れた所で、バーナードは俺にだけ見えるように小さくガッツポーズを送ってきた。
つーか、まじでアイツ何か勘違いしてるから。
お前らが期待しているような色恋沙汰的なアレじゃねーから、ちげーから。
「…だから、何?」
再度尋ね返してくるリズの声はいつもより低い。
そこで、俺は何とか話し掛けようと必死に話題を考える――、
その結果、
「…あ、あのよ。元気、か?」
いつかのリズの二の舞みたいになってしまった。
「……………」
「……………」
うん、だよな。
普通こうなるよな、今更元気?とか言う絡み不自然過ぎるよな。
クソ、何でリズ相手にこんなに緊張してんだよ、俺は。
暫くお互い気まずい沈黙が流れた後、
まさかのリズがさっきの返事を返してきた。
「……元気だけど」
えー、ちゃんと答えんのかよ。
「あー、おぉ…そっか」
そして会話終了。
「……………」
「……………」
再び流れる気まずい沈黙。
こんなにも何気ない会話が難しいなんて、
普段どうやってコイツと会話してたんだ?俺は?
これからは俺がお前の父親代わりになってやるぜって言葉にして言うのも違う気しかしないし、
まじでここからどう話を広げればいいのか分からない。
「……あのさ、バーナードにだけどさ」
沈黙を破ったのは、有難い方にリズの方からだった。
「あ、おぉ。バーナードが、どうした?」
「……何か言われたの?試合してた時…」
彼女は相変わらず不機嫌そうではあるが、
凄く気になっていた話題だったのか、
少し言いづらそうにしながらも、話を切り出してきた。
おそらくバーナードとのやり取りをリズなりに勘づいていたのかも知れない。
「あー、その話な……」
どうしようかと思ったが、
普通にありのまま話をする事にした。
「何かバーナードがさ。お前が俺の事好きだって勘違いしてたみたいでよ…」
笑いながら説明すると、
リズはどう思ったのか分からないが、俯いてしまった。
「……ふ、ふーん。そんな事言われてたんだ…」
彼女からしてもいい迷惑のはずだ、
でも、今後も俺と馴れ馴れしくするという事はこれからもこういった勘違いはされるって事になる。
一つ、その確認だけは後でしといた方がいいかも知れない。
「あのさ?…色々考えたんだけど、俺なりにお前が寂しくならないように努力してみるよ」
「……え?」
突然の俺の発言に、リズは小さく驚きの声を漏らした。
「俺と父親を重ねてんだろ?そういう意味で俺の事が好きなんだよな?」
「…………………」
そしてリズはまた暫く沈黙した。
結局、俺がお前の父親代わりになってやる的な発言を流れでしてしまったものの、これはやはり図星だったみたいだ。
「いいんだ。お前が年齢よりもまだまだ子供なのも理解したし、それなら親に甘えたい気持ちも分かる」
「…………………………」
いつもよりなるべく優しく彼女の頭を撫でる。
リズは相変わらず黙りだが、抵抗はせず俯いたまま俺にされるがままになっている。
「…バーナードに言われて気付いたよ。あの日目覚めてからずっと仕事ばっかで、お前との時間全然なかったなって…」
ここまで自分で言ってて、
まるで彼氏彼女のような台詞になっている事に気付き、少し抵抗があったが、それでもこれは親子愛的な会話なんだと自分に言い聞かせながら言葉を続ける。
「その……悪かったよ、寂しい思いさせて…これからはもっとお前との時間を作るようにするから」
「………………本当?」
そこでようやくリズが口を開き、俺の方をチラッと見つめてきた。
そんな彼女の表情は親との喧嘩が終わった事を察した子供みたいになっていた。
「あぁ」
「………それなら……それでもいいや」
リズは何か納得するようにコクリと頷き、
一瞬だけ、パッと表情が明るくなった。
「…それと、仕事の件で怒った事なんだが…」
一応、この件についても話しておいた方がいいと思い話題を持ち出したのだが、リズからは意外な返答が返ってきた。
「もう、立ち止まってお喋りだけは止める。これからはちゃんと働きながらするから安心して」
「…………お、おぉ」
どう言う心境の変化なのだろうか?
やたら、素直にあの件を受け止めてくれたようだった。
「カンナに負担がいってたのは……全然気付かなかったんだ…そんなの嫌だから……だから、ちゃんとするって思ったの」
「……そっか」
自然と、リズの頭を撫でていた。
まさに子供が成長する喜びとはこの事なのかも知れない。
俺はまだ29だが。
「も、もう……何か今日の撫で方くすぐったい」
リズは頭から俺の手を取り、そのまま自分の頬にまで持っていく。
「………カトーさん、まだ怒ってるのかと思ってた」
そして俺の顔色を覗き込むように見つめてくる。
「ボクがわがままで自分勝手だから…やっぱり嫌いになったのかと思った」
「んな訳ねーだろ」
「…………だって」
リズは猫みたいに俺の手に頬擦りをしてくる。
「カトーさんに怒られた時は凄くムカついたけど……でも色々考えたらやっぱりボクが悪かったって気付いて……そんな風に考えてたら、不安になってきちゃって……やっぱりカトーさんもボクの事嫌になって…いなくなるのかなって思って…」
これはリズのトラウマだ。
父親の死や、形は違えどクロードもそうだ、
大切な人が自分の元からいなくなる事に関して、
過度な不安と恐怖に襲われるのだろう。
だから、何度も何度も同じ不安に駆られ、
安心欲しさに、何度も何度も同じ質問をしてくるのだろう。
「嫌いになってねーよ」
「………本当?」
「あぁ」
そこでようやく安心できたのか、
リズは甘えるように、もう一度俺の手に頬擦りをしてきた。
「…どこにも行かないでね。ちゃんと良い子でいるから」
その言葉を聞いて、
何とも言えない気持ちに胸を締め付けられる。
まさか、今更現代に帰れる事はないと思うが、
こんな世界に突然来てしまったんだ、
もしかしたら、現代に突然帰させる事もあるかもしれない、
この先何が起きるか分からないんだ。
現代に帰る事がなくても、先日の一件のように、
下手したら俺も命を落とす可能性だってある。
そうなると、コイツはどうなるんだろう、
また、心の傷口を深くする事になるのだろうか?
ここにきて、俺にとってもリズの存在がでかくなってしまっている事に改めて気が付いてしまった。
「ねぇ…」
リズが何か言いたげな顔で、
俺の顔色を伺うように見つめてくる。
「どうした?」
リズは一瞬どうしようか悩んだ後、
少し恥ずかしそうにボソリと呟いた。
「ちょっとでいいからさ……ぎゅーってしていい?」
【57話.二人の関係性】明日、深夜00:00 更新。




