52話.労働とプロレス Part1
「まじ…かよ…」
目の前には何故か、プロレスやボクシングなどで見かけるリングがある。
現代で見たままの形だ。
「何で…異世界にこんなんあるんだよ…」
「ふっ……もちろん、師匠に譲ってもらったんすよ!!」
俺の疑問にドヤ顔でバーナードが答えるが、
まさにツッコミどころ満載だった。
「いやいやいや…ガチで喧嘩する雰囲気だったのに、これじゃただのネタじゃねーかよ…」
「はい?先輩何言ってんすか?男と男の決闘っすよ?早くリングに入ってやってもらってもいいっすか?今更怖気付くとかねーっすよね?」
リング内で、ウォーミングアップをしながらバーナードが俺を挑発してくる。
「んな訳ねーだろ」
周囲には何処から集まったのか、いつも店に来る常連やこの地域に住む奴等が群がって来ており、そんな奴等の歓声の中俺はリングに入る。
「おぉ!!いいぞいいぞ!!やっちまえ!!」
「また、試合をするって聞いて駆け付けて来たぜ!!」
みんな、このリングで行われる決闘が楽しみの一つでもあるのか、凄い盛り上がりだった。
「おっ!!あの時ぶっ倒れてた兄ちゃんが戦うのか?頑張れよ!!」
「バーナードは手強いぞー!!」
異世界でリングとか、まじでぶっ飛び過ぎてて状況の整理がついていないが、売られた喧嘩は買う主義だ。
「バーナード。最初に言っとくが、俺はつえーぞ?」
「…ふふ、自分の事も舐めてもらっちゃ困るっすよ先輩?このリングで自分と戦う事を後悔させてやるっす!!」
夕陽に照らされる野外リングの上で、
俺とバーナードの決闘が、こうして幕を開けた。
◇
話を少し戻そう、
何故俺が異世界のリングで戦う羽目になったかと言うと。
事の始まりはこうだ――。
昨日説教した筈のリズは今日の営業中も相変わらずな感じで、むしろ俺に対抗するかのように、わざとらしく大きな声で客と笑いながら絡んでばっかりだった。
それに比べて、バーナードは昨日よりも進歩が見られて、まだまだ仕事の覚えは遅いが、できないなりに頑張っている姿勢が見える。
リズだ。
俺のイライラの原因は100%彼女からくるもので、
その怒りを抑えながら今日俺はずっと仕事をしていた。
「きら?」
意味不明な擬音を発しながら、
リズは自分の目元でピースサインを作る。
「「ふごおおおおおおお」」
「「ぶひぃいいいいいいい」」
昨日よりも増えているリズ目当ての客達が大興奮で叫んでいるのを見て、リズは更にドヤ顔でファンサービスを繰り広げ出した。
「ボクはただのダークハーフエルフじゃないんだよね?」
「「「「どーゆー事ー!?」」」」
客達からのレスポンスが返ってきた後に、
リズはちっちっちと、偉そうに人差し指を揺らす、
「ボクってば、超絶美少女のダークハーフエルフなんだぜ?」
そして最後に客達に向かい、あざとくウインクを飛ばすのだった。
「「「「まじ天使いいいいいい!!!!」」」」
客達の興奮度が最高潮となった時、
また同じく、俺のストレスゲージも最高潮となった。
――昼の営業終了後。
休憩をしていたリズの首根っこを掴み、俺は再び調子に乗ってるクソガキに説教をしていた。
「だから、お前は仕事しろよ!!」
「は?何が?ボク、仕事してるけど?」
しかし、負けん気と言い返してくるリズ。
ボクの何処が悪いの?と悪びれる様子もない。
「客と喋ってばっかだろ!?」
「それがボクの仕事なの!!」
「は?」
「は?じゃなくて!!みーんなボクと会いたくて、喋りたくて来てくれてるんだからさ!!」
強気で吠えるリズ。
コイツは完全に調子に乗ってるようだ。
「はいはーい、お喋りは後にしましょ?美味しいケーキが焼けたわよー」
焼き立てのケーキを持って、俺達の間に割り込んでくるマルコ。
「ちょ、マルコ!?」
「いいからいいから〜。 はい、これはリズちゃんの分ね?」
リズはマルコからケーキを受け取り、きょとんとしている。
「いいの?」
「もちろんよ?いつも頑張ってくれてるお礼よ」
優しく微笑むマルコのその言葉で、
「やった!!」
リズの表情はパッと明るくなった。
「うわ〜、美味しそう!!」
嬉しそうにケーキを食べ始めるリズを見て、
マルコは母親のような顔で微笑んでいる。
「………あのな?」
俺は深いため息を吐いた後に、
軽くマルコを睨む。
俺の視線に気付いたマルコは、
舌をペロッと出し茶目っ気満載な腹立つ顔で、
「だって〜、リズちゃんに嫌われたくないんだもの〜」
身体をクネクネさせながら呟いた。
「…………はぁ」
どいつもコイツもリズに甘過ぎるんだよ。
「リズちゃん、どうかしら?美味しい?」
「うん!凄く美味しい!!」
「うふ、良かったわぁ!まだおかわりあるからね?」
「うん!!」
幸せそうな表情でケーキを大量に頬張るリズ。
「うん、じゃねーわ!!」
俺は食べ途中のケーキをリズから取り上げる。
「あっ!?」
「ちょっとカトーさん!?」
話はまだ終わってない、ケーキこそ後だ。
今ここでコイツにガツンと言っとかないと、またふざけた仕事をするに決まってる。
「ケーキは後だ。俺の話はまだ終わってねー」
「………だから、何?」
ケーキを取り上げられ、またさっきの話を持ち出して来た俺の行動に少しイラッとした様子のリズが不機嫌そうに尋ねてきた。
「さっきの話だが。確かにお前目当てで客は増えてる。そこに関しちゃ、お前を認めてはいるよ」
「ふーん……それで?」
不貞腐れた表情で、結局何が言いたいの?とリズの目が訴え掛けてきている。
「けどな、お前がちんたら客とお喋りしてる間、エイルとカンナが二人で必死こいて走り回ってんの知ってるか?」
「………え、何それ?」
俺達の言い合いを冷や冷やした様子で見守っているカンナ達。
リズはそんなカンナ達に視線を向ける。
「あ、いや…でも、私もリズちゃんと同じ意見って言うか…あれはリズちゃんにしか出来ない仕事だと思ってるから」
カンナは俺の顔色を伺いながらも、リズを擁護する言葉を述べる。
「…ほ、ほら?カンナもああ言ってるじゃんか!!」
「確かに少しくらいのファンサービスはあってもいいと思う。けどな、俺達の目的は何だ?売上げを伸ばして早く借金返す事だろーが!! お前が客とちんたらお喋りしてる分料理が運べない!更に調子に乗ったあの客達は料理を注文せずにずっとお前とお喋りばっかしてる、その間満席になっている状態だと次の客が席に座れない!結果、お前のその行動一つ一つで売り逃す事になってんだよ!!」
イライラし過ぎて捲し立てるような口調になってしまうも、俺はリズにも伝わるような言葉で正論を並べ突き付けた。
「せっ…先輩!!何もそこまで言わなくてもよいではないんですか?」
すると、何も言い返す事も出来ないリズの代わりに、何故かバーナードまでもがリズを擁護してきた。
「よいではないんですか?じゃねーよ、言わないとダメなんだよコイツには」
「…で、でも…もう少し優しく言ってあげた方が…」
優しく言って分からないから、こんな風になってるんだろーが。
「……じゃあさ?」
いじけた表情で、ボソリとリズが呟く。
「……じゃあ、お客さんと喋るなって事?もし、そーしてさ?逆にお客さん減ったらどーするの?」
「喋るなって言ってる訳じゃない。お前目当ての客達はそれを楽しみに来てるんだ、一言二言は会話しても問題はねーんだよ、ただその会話を短く切り上げて、お前も働けって話をしてんだよ俺は」
どんだけ売上げに必死なんだよとか思われようが、呆れられようが、俺は一歩も引く気はなかった。
早く借金を返済しなければ、そもそも俺達はこの街から出ることすら出来ないんだ。
「……何だよ……じゃあ、ボクが悪いって事?」
リズは悔しそうに目に涙を溜めながら訴え掛けてきた。
「あぁ、そうだな」
俺は事実を淡々と彼女に突き付ける。
リズは悔しそうに下唇を噛み、
涙を堪えながらもキッと俺を睨み付けてくる。
「…話は以上だ。午後の営業では、ちゃんと頼むぞ?」
それでも毅然とした態度で最後まで釘を刺し、
俺はタバコを吸いに外に出ようとした。
その時だった――、
「ちょっと……先輩……面貸してやってもらってもよろしいですかね?」
突然バーナードがムクリと起き上がり、
相変わらず意味不明な言葉使いで、
それでいて少し喧嘩腰に俺に語り掛けてきた。
「何だよ?」
「……ちょっと…表出て下さいよ」
バーナードは真剣な表情で一言呟き、ゆらりと巨漢を動かし先に外に出て行った。
◇
外に出るや否や、
「…ちょっと、さっきのはあんまりなんじゃねーっすか!?」
バーナードは突然意味不明に怒鳴ってきた。
「あ?」
何がだよ?しかも、突然キレるとか意味分かんねーし。
「あ?…じゃねーっすよ!!さっきのリズさんに対する物言いっすよ!!」
何の事かと思えば、さっきのリズとのやり取りの事を言っているようだった。
「…それが、何だよ?」
そう言えば、コイツもちょこちょこリズの事を擁護していた。
もしかすると、コイツもリズのファンの一人なのだろうか?
と、なるとリズを守る事に必死になる理由も分かる。
「…もう少し優しい言い方だって出来ると思うんすけど!?」
チラッと周りを見ると、
カンナやリズ達も、俺とバーナードのやり取りを見に外に出て来ていた。
「…だいたい先輩はっ!!!」
「つかさ?お前リズの事好きなのか?」
俺のその一言でバーナードは突然面食らったように一瞬たじろく。
「な、なっ…何を馬鹿な事を言ってやがるんですか!?」
完全に動揺した様子のバーナード。
これはもう間違いないようだ。
「別にお前もリズのファンだろーが、そう言うのはどうでもいいけど…正直好きだからってだけで庇うのもどうなんだよ?お前もいい大人なんだから、違う事は違うって言えよ」
あー、まじで面倒臭い。
何でこうもガキな奴等ばっかなんだよ。
だいたい仕事しねー奴に、ちゃんとやれって言って何が悪いんだよ?
それに、元々アイツの目的はクロード達に復讐する事だろ?
なら、早く金を返して街を出れるようにしないとダメじゃねーかよ、まじで馬鹿なのか?やる気あんのか?
「じゃあ、もういいか?」
色々言いたい事はあったが、グッと言葉を胸の内に呑み込み、その場を立ち去ろうと歩き出す。
早くタバコを吸おう、そうしよう。
昨日からずっと我慢してたんだ、そろそろマジで今日の一本を吸わしてくれ。
「……ばっ……ばっ……ばっ……」
バーナードはプルプルと身体を震わせ、
「……馬鹿っす!!!先輩は馬鹿野郎です!!ほんっとに何にも分かってないです!!」
野太い声でそう叫んだ。
「は?」
再びバーナードの方に向き直ると、
彼は俺に向けて指を差し、真剣な表情で、
「…先輩、自分と勝負して下さいよ!!!」
俺に決闘を申し掛けてきた。
「は?」
その言葉に俺はポカーンとしてしまう。
「先輩の目、覚ませてやるっす!!!」
「や、だから…何が?」
状況が理解出来ないまま、
話はどんどん進んで行き、
マルコも何故か許可を出し午後の営業は休業となり、何故か俺はバーナードと決闘をする事となったのだ。
◇
「まじ…かよ…」
目の前には何故か、プロレスやボクシングなどで見かけるリングがある。
現代で見たままの形だ。
「何で…異世界にこんなんあるんだよ…」
「ふっ……もちろん、師匠に譲ってもらったんすよ!!」
俺の疑問にドヤ顔でバーナードが答えるが、
まさにツッコミどころ満載だった。
「いやいやいや…ガチで喧嘩する雰囲気だったのに、これじゃただのネタじゃねーかよ…」
「はい?先輩何言ってんすか?男と男の決闘っすよ?早くリングに入ってやってもらってもいいっすか?今更怖気付くとかねーっすよね?」
リング内で、ウォーミングアップをしながらバーナードが俺を挑発してくる。
「んな訳ねーだろ」
周囲には何処から集まったのか、
いつも店に来る常連やこの地域に住む奴等が群がって来ており、そんな奴等の歓声の中俺はリングに入る。
「おぉ!!いいぞいいぞ!!やっちまえ!!」
「また、試合をするって聞いて駆け付けて来たぜ!!」
みんな、このリングで行われる決闘が楽しみの一つでもあるのか、凄い盛り上がりだった。
「おっ!!あの時ぶっ倒れてた兄ちゃんが戦うのか?頑張れよ!!」
「バーナードは手強いぞー!!」
異世界でリングとか、まじでぶっ飛び過ぎてて状況の整理がついていないが、売られた喧嘩は買う主義だ。
「バーナード。最初に言っとくが、俺はつえーぞ?」
「…ふふ、自分の事も舐めてもらっちゃ困るっすよ先輩?このリングで自分と戦う事を後悔させてやるっす!!」
夕陽に照らされる野外リングの上で、
「はいはい…明日お前が怪我して働けなくならない程度にボコってやるから覚悟しとけよ?」
「うっす!!それはこちら側の台詞でもあると思うっす!!」
俺とバーナードのネタのようで真剣な決闘が、こうして幕を開けた。
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