51話.恋話と結束
今日のお店が終わった後に全員集められて、
ボク達は…と言うか殆どボクが、カトーさんにボロクソに説教をされてしまった。
「むかつく」
今思い出してもムカつく。
全部ボクが悪いみたいな事言われたし――。
「くそ〜!!ムカつく〜!!」
手足をバタバタと動かし、カンナのベッドの上で暴れるボク。
「ま、まぁ……でも、先輩は間違った事言ってない気がするっす……新人のくせに…口出しすんません…う、うっす」
部屋の隅っこで膝を曲げて座るバーナードがボクの顔色を伺いながらも意見をしてきた。
「バーナードだって散々嫌味言われてたのに、何でカトーさんの肩持つんだよ!?」
「うっ…うっす………せ、先輩は…別に嫌味のつもりでもなかった気がしましたし……そのっ…ただ単に…自分が仕事覚えられないのを何回も丁寧に…先程は教えて頂けて…その、どっちかと言うと…優しい、かと…」
カトーさんにコテンパンにやられた同盟だと思ってたのに、どうやらそれでもバーナードはカトーさんを悪くないと言い張るようだ。
でも、それがまたボクのイライラを刺激する。
「優しくないよ!!カトーさん何か全然優しくないっ!!!」
だって、そうじゃん。
あの時助けに来てくれた時は凄く優しかったのに、
最近はずっっっっと仕事、仕事、仕事ばっかりで全然ボクに構ってくれないし、優しくないし、って言うか何か冷たいし、今日みたいに怒ってくるし、
もう、最悪だよ。
「……う、うぅ……す、すんません!!」
巨漢の男がボクの一声で身体を小さくし、謝罪してくる。
バーナードは、本当に外見に似合わず気が弱い。
今日の説教タイムが終わり、バーナードもカトーさんからネチネチと仕事のおさらいをされていて、
それが終わったタイミングで、
ボク達はカトーさんの悪口を言い合う為にカンナの部屋に避難して来たんだ。
でも、さっきからボクしかカトーさんの悪口を言っていない気がする――、
「リズちゃんは、カトーさんの事が好きだからもっと優しくして欲しいんだよ」
突然カンナが意味分からない事を呟いてきて、
「あ……そうだったんですね!?…自分気が付かなかったっす!!」
バーナードもその言葉に納得したように、
大きな掌をポンと叩いて頷いている。
「いやいやいやいや…何でそうなるのっ!?ボクはカトーさんにムカついてるのっ!!それに別に好き何かじゃないよ!!!」
「はいはい、こないだはせっかく素直になれたのに。また意地っ張りに戻っちゃって」
カンナは苦笑いを一瞬浮かべて、
その後に凄く真面目な顔になり、
「リズちゃん、本当に?カトーさんの事本当に好きじゃないの?」
ボクの顔を覗き込んできた。
「……す、好きじゃ…ない…」
カトーさんの事何か、
カトーさんの事何か好きじゃない――、
つもりだった。
「……リズちゃん?」
「え…どっちなんすか!?」
二人の視線が凄く刺さる。
あの日、カトーさんが助けに来てくれて、
一緒に脱出してから、一緒に幻光虫を見たあの時間で、
ボクはカンナに言われていた言葉の意味が分かってしまった。
ボクはカトーさんの事が好きだったんだって――、
そんな自分に気が付いてしまったんだ。
「………す、すす……好き…だと思う…」
心の内の声を言葉にした途端に、
一気に全身が熱くなる。
恥ずかしい、
絶対今ボクの顔真っ赤になってる筈だよ。
「やっと素直になった」
「おぉ、純愛っすね!!!」
満足そうに笑うカンナは話をまとめに入る。
「カトーさんは早く借金を返したいんだよ。それで今は凄く仕事に一生懸命になってるんだよね」
うん、それは分かってる。
分かってるんだけど。
「私はリズちゃんのおかげでお客さんもいっぱい来てくれてるって思ってて、だからリズちゃんはこれからもお客さんといっぱい喋ってても良いって思ってるんだけど……でも、カトーさん仕事では真面目っぽそうだから…リズちゃんが仕事しないでお喋りばっかりしてるんだって思っちゃったんだろうね」
「…先輩は、熱い人っすから」
カンナの言葉を聞いて、
カトーさんが何で怒ってきたのか分かった。
「…え、でもさ?ボクだって少しでもいっぱいお客さん来て欲しいからああやって喋りたくもないおじさん達と喋ってるんだよ?別に遊んでる訳じゃないんだけど」
でも、その上でやっぱり改めて怒りが込み上げてきた。
「うん。もちろん私は分かってるし、リズちゃんのおかげっていつも思ってるよ」
「うっす!リズさんは今この地域の奴等に天使って言われてますしね!!」
二人もボクの言葉に同意してくれる、
やっぱり、そうだよ。カトーさんがおかしいんだ。
急に怒るなんてあんまりだよ。
「けど…先輩も店の事を思っているからであって……別に悪気はないと思うっすけど…」
「違うの、リズちゃんはもっと優しくして欲しいんだよ」
カトーさんを庇うバーナードにカンナが呟く、
「そうでしょ、リズちゃん?」
そしてボクに同意を求めてきた。
「……う、うん」
あの日、カトーさんが目覚めてから全然二人っきりで過ごせる時間がなくて、
あの夜に、カトーさんが前に誰かとキスをした事あるって聞いた時に、ボクとのキスは拒んだくせにって…他の誰かとはしてたんだって思ったら凄くモヤモヤしてきちゃって、
そうこうしてる内に、どんどんカトーさんとどうやって話したらいいか分かんなくなってきて、
それをカンナに相談したら色々アドバイスをくれて、
そのアドバイス通りに勇気を出してカトーさんに話しかけに行った夜も、
なんだかんだカトーさんは素っ気なかったし。
ボクはこんなにモヤモヤしたり、
もっと一緒にいたいって思うのに、
カトーさんは違うんだって思ったら、
凄く胸がせつなくなってきて、
心が最近、ずっとぐちゃぐちゃしてるんだ。
「自分……どうにかして二人にくっついてもらいたいっす!!」
バシッと膝を叩き、突然立ち上がるバーナード。
「うん。もちろん私も同じ気持ちだよ!」
コクリと頷くカンナ。
「きっと悪いようにはしないと思うんですけど、まーこの件自分に任せてやって下さい!!」
「「え?」」
やる気に満ち溢れているバーナードが、一瞬何を言ったのか理解出来なかった。
「じゃあ、自分からこれで失礼すると思います!!」
「「え!?」」
キョトンとするボク達を残して、
満面な笑みのバーナードが部屋を出て行った。
「きっと悪いようにはしないと思うんですけど…まーこの件自分に任せてやって下さいってさ?…要は俺に任せろって言いたかったんだよね?」
カンナは困惑しながらも、先程の言葉を解読してくれた。
「あー、なるほど…」
カンナのその補足で、やっとボクにもさっきの言葉を理解する事が出来た。
バーナードは本当に良い奴だと思うけど、
ちょっと変な奴にも違いなかった。
◇
「そう言えばさ?」
「何?リズちゃん?」
ボクはずっと気になっていた事をカンナに尋ねてみる事にした。
「カンナが前に言ってた好きな人って…マルコの事でしょ?」
「……………」
ボクのその言葉でカンナの顔はみるみるうちに赤くなっていき、もうそうですって言ってるようなものだった。
「…違うの?そうなんでしょ?」
「……………そ、そうだよ…」
凄く恥ずかしそうに、それでいて気まずそうに、カンナはコクリと頷いて見せた。
「やっぱり」
前にカンナが自分が好きな人は、自慢できるようなキャラしてないからって言ってた意味がやっと分かった。
「…マルコ、あんな感じなんだけど…本当は凄くカッコイイんだ」
「………よく分からないな」
素直な気持ちだった、あのマルコが凄くカッコイイとは本当に思えなかったからだ。
「あはは…でも、いいの。私だけが分かってる事のままで、むしろそっちの方がいいかな」
「………どう言う事?」
「リズちゃんも、カトーさんの良い所を知ってるのは自分だけって思ってる方が何か嬉しくない?」
カンナの言葉を必死に理解しようと考えてみる。
カトーさんは転移者だからこそ、凄くモテる。
でも捻くれた性格をしていて、凄くケチだったり、
いちいち説教とかもしてきてウザい事は間違いない。
でも、そんな感じなくせして…本当は優しくて、いつもボクを守ってくれてて――、
カトーさんが、本当は優しい人だって事、
他にもいっぱいある良い所とかも、
他の人にあんまり知られなくないって、この時ボクもカンナの言うように思ってしまった。
「……何かそれ…分かる気がする」
「でしょ?」
ボクの返答に、カンナは笑いながら頷き、
それは独占欲だと、この感情の事を教えてくれた。




