49話.とにかく儲けたい
まず、マルコの食堂の調理場はピークタイムの途中で調理スペースにまで洗い物が溜まってきてしまい、身動きが取りづらくなり、調理スピードが落ちてしまう事が多かった為、調理場と洗い場を完全に分ける事にした。
また、洗い場スペースを割と広く取った事もあり、
完全に一人洗い場専門兼キッチン補助役としてのポジョンが出来た。
これで洗い物をしなくて済み、
俺とマルコは調理にだけ集中する事が出来る。
それだけじゃなく、
この食堂のメニューは、
炒め物が多いのだが、
フライパンの数が全然足りないのだ。
なので、マルコには最初ドン引きされるくらいの数のフライパンを購入し、それを天井から吊るし場所を取らずに収納する。
そして、俺達がフライパンを使用した後は洗い場の人間に託し、その人が洗い終わったら、元の位置に什器や調理器具を収納する。
そうする事で俺達は永遠に、
フライパンを使い続け調理すること事ができる。
それだけじゃなく、
この世界には氷を使った冷蔵庫代わりの棚があるのだが、
その棚も横長にして、上の部分に穴を開け改良し、
丁度穴が塞がるように鉄の容器が全部で8個程入る仕掛けにしてある。
そうする事により、
バイキングのサラダバーのような仕組みになり、
事前に仕込んでいた盛り付け用の品物や、
サラダや、色々な具などに使える素材をいちいち冷えた棚の中から取り出さずとも、冷やせた状態で出したままにしておく事が可能になる。
他にも色々あるが、
要は作業を圧倒的に効率化する事により、
料理を客に提供するまでの時間を最大限に減らし、
美味い料理を早く出し、
早く食べ終わってもらい、
次のお客さんを逃がさないようにする事により、
テーブル回転率が上がり、
働き手のスキル次第では、確実に売り上げを伸ばしていける仕様に完成していた。
因みに改装前のキッチンに無駄なスペースがかなりあったから出来た事なのだが、客席も以前と比べると結構増えており、
正直、マルコ、カンナ、俺、リズ、エイルだけじゃ人手も足りないくらいな規模の店になっていた。
新たな従業員の確保と教育、
それが今後のこの店の課題になる筈だ。
◇
まる三日間掛かった改装工事も無事に終わり、
生まれ変わった店をマルコと見て回る。
「凄い…本当にカトーさんに任せて正解だったわね」
特にサラダバー仕様になった横長の冷蔵棚がマルコは気に入ったようだった。
「…実際に働いてみないとまだ何とも言えねーけどな」
とは言え、凄く満足そうなマルコの顔を見たら頑張って良かったと思えてくる、
睡眠時間を削り、ほぼ三日間業者に付きっきりだったので正直もう本当に体力の限界だが。
「この後新しいバイトの子と会うんだけど、今日はもうカトーさんは休んでいいわよ」
「………悪い」
明日から再オープンと言う事で、
それに向けてマルコは一人新人を採用していたようだった。
「明日からさっそくその子を洗い場兼キッチン補助役のポジションに入れるつもりだから、カトーさんもその子の教育お願いね?」
「分かった」
俺とマルコが調理をしながら、
その新人の面倒を見る事は想定済みだ。
明日から再オープン、
気合い入れて初日の売り上げを取りに行く為にも、まだ昼過ぎだが今日は早目に就寝する事にしよう。
「じゃ、悪いけど先に休ませてもらうな」
「は〜い、ゆっくり休んで丁度」
相変わらず気持ち悪い投げキッスを飛ばしてくるマルコ、
俺は苦笑いを浮かべながら、
返事の代わりに片手を上げて答えた。
寝不足で重くなった身体を動かし、階段を上っている途中でカンナと会った。
「あ、カトーさん。お疲れ様です」
ペコリとお辞儀をする彼女。
本当にリズとは違いこの子は確りした子だ。
「あ、そう言えば…」
あの夜以来、俺は改装作業に付きっきりで、
リズとは全然喋る機会が無かった。
その為、あの例の暗号が書かれた紙切れを返し損ねていたのである。
「これ、お前等のだろ?」
ポケットから、例の紙切れを取り出しカンナに渡す。
「ひぇ!?」
それを見た途端にカンナがキャラに似合わず、素っ頓狂な声を出した。
「最近リズの奴様子おかしかったけど、どうせ二人して何かゲームして遊んでたんだろ?」
良く分からんが、どうせ他人と喋る時にお題の話題を振らないといけない的なそんな感じのゲームとかしていたんだろう。
じゃなきゃ、リズも今更『元気?』とか聞く訳ない。
最近リズとカンナは夜な夜な二人でヒソヒソやっていたみたいだし、女子同士で固まるとそんな遊びの一つや二つくらいするもんだろ、多分。
「…いやっ……こ、これはですね…え、えーと」
アタフタとするカンナに俺は笑いながら答え、
「いや、別に怒ってねーよ。それより、いつもアイツと仲良くしてくれてありがとな?」
感謝の意を込めて、ニコリと微笑んで見せた。
「……あっ………は、はい…」
何故かカンナは恥ずかしそうに俯いてしまい、
「……そ、それじゃあ……私行きますね!!」
突然慌てた様子で紙切れをポケットにしまい、
再び二階まで駆け上り、自分の部屋に戻って行った。
俺は階段の途中から顔を覗かし、
一階に居るマルコと目を合わせる。
そんな俺達のやり取りを聞いていただろうマルコは、困惑する俺に同調するように、
『あたしも分からないわ』と言っているような顔で肩をすくめて見せた。
◇
今度こそ階段を上りきり二階に辿り着く。
自室でゆっくり休もうと思っていたのだが、
そんな俺の部屋の前に、今度はエイルが立っていた。
「あ、カトーさん」
エイルは俺に気付くと、
「……疲れてるのは分かってるんですが…あの…ちょっと良いですか?」
申し訳なさそうな顔で珍しく少し付き合って欲しいと言ってきた。
「おぉ、どうした?」
「あの………実は……」
――エイルに付き合い少し外に出掛ける事になった。
彼は3Gを使い、花を買い、マルコの宿からそう遠くない広場へと向かう。
「……すみません、本当は少しでも借金返済に当てないといけないのに…」
その広場の片隅には、
簡易的に作られた墓があった。
「……最近ずっと来れてなかったから、何かちょっと一人だと…また、精神的に来ちゃいそうだったんで……すみません、カトーさんに頼っちゃいました…」
そうか、
ここはエイルの――、
メルルの墓だ。




