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クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
労働とプロレス
50/60

47話.とにかく金がない

 見間違いかと思ったが、


 やはり本当(ガチ)だったようだ。


「…………まじかぁ…」


 俺は鏡に映る自分の頭を必死に見つめていた。


 見間違いかと思ったが、


 やはりマジで白髪が生えてきていた。


「………歳か…歳なのか?」


 ジジイ化している自分の姿に軽くショックを受けていると、


「……おはよぉございますぅ…カトーさん…早いですねぇ…」


 寝ぼけた面のエイルが自室から出てきた。


 そう、俺達はあの日借金が出来て以来、


 このマルコの宿にお世話になっている、


 そして、俺達はマルコの食堂を手伝う事で、


 その労働の対価から宿代食事代を差し引いてもらい、残りを報酬として受け取るという生活を送っているのだ。


「当たり前だろ、今日こそバッチリ決めてやる」

「…あはは、流石…気合が違いますね」

「お前も準備が出来次第さっさと降りてこいよ?」


 俺は片手を上げながら歩き、一足先に職場である一階の食堂に降りていく。


 俺はマルコと一緒にキッチン、


 リズとエイルはカンナの指導のもと接客をしている。


 初日から色々とマルコにダメ出しをされ続け、


 俺の負けず嫌いスイッチが完全に入ってしまっていた。



 ◇



「おはよぉ…カトーさん早いわねぇ?」


 マルコがあくびをしながら階段を降りて来る、


「って…もう仕込み終わっちゃったの?」


 そしてキッチンの状況を見て、驚いていた。


「マルコ、今日こそリベンジだ!!」


 気合十分な俺を見て、


 マルコは少し呆れたように笑う。


「カトーさん…たまにあんた、凄く暑苦しい男になるわよね」

「よく言われる」


 開店までに余った時間を使い、


 何度やっても上手く行かない作業を集中的にマルコに指導してもらう。


「違うわっ!!こうよ!!こうするの!!」

「だから、こうだろ!?」

「違うわよ!!こうよっ!!」

「は!?だから、こうだろって!?」


 ここの料理は俺が現代で調理していたものと違うジャンルも多く、中々簡単にはいかないものが殆どで、


 しかしこの連日、特にピークタイムになると俺がずっとマルコの足を引っ張っているのは明確で、ジャンルが違う調理だからと言って言い訳にしたくないのが本心だった。


「そうそう!!それよ!!だいぶ様になってきたじゃない!!」

「あ?ちょっと待て、このやり方さっきと一緒だろ!?」


 そうこうしている内に開店時間となり、


 まだ昼前だと言うのに店内は中々に賑わい始めていた。


「カトーさん!!3番テーブルの料理って」

「もう出来るっつーの!!ほら、持ってけ!!」


 料理の催促に来たエイルにその料理を渡し、


 俺は平行作業で次の料理と、次と次の料理の調理に取り掛かる。


「カトーさん!?あのお酒ってどこだっけ!?」


 軽くパニックになりながらも、


 必死に棚の中を漁りまくるリズ。


「は!?だから酒はこっち側の棚だって!!」


 俺は顎でその棚を指しリズに示す。


「あ、そうだった!!」


 リズは慌ててそこの棚から注文された酒を持ち、


 テーブルのお客さんの元まで駆けて行った。


「ちょ、リズ!!客席では走るなって言ってんだろ!?」

「もー、うっさいな〜!分かってますよ〜だ!!」


 分かってると言ってるくせに走るのをやめない彼女は案の定つまずいてしまい、


「うわっ!?」


 酒を持ったまま派手に転びそうになる。


「リズちゃん!?」


 カンナが咄嗟に、そんなリズの身体を支え受け止める。


「大丈夫!?」

「う、うん……何とか」


 リズはカンナに支えられたおかげで転ばずに済んだようだったが、


「…ぁ」


 リズが持っていたグラスの中身は空になっており、


 それこそ、それを提供しようとしていたお客様の頭に派手に酒をぶちまけていた。


 ――あ、じゃねーよ。


 リズ(あいつ)まじでやりやがった。


 次々とオーダーが来る料理を仕上げながらも、


 横目で客席の現状を気にしていると、


「お客様、申し訳ございません!!」


 そこは流石のカンナだ。


 彼女がリズ(アホ)の代わりにキチンと対応を行なっていた。


 しかし、何故か客も客でリズに酒をぶっかけられたにも関わらずニコニコしている、


「だっははは、全然大丈夫だぜ!!むしろ、リズちゃんに酒をかけられるなんて、逆にラッキーだ!!だっははは!!」


 そう、何故かこの食堂に来る連中は殆どと言っていい程にリズを受け入れてくれる奴等ばかりなのだ、


 いや、受け入れてくれると言うのはもはや語弊がある、


 むしろ、好きが勝りリズのファンと言うのが相応しいのかも知れない。


「あ、じゃあもう一杯やっちゃおうか?」

「ひゃっはー!!そりゃもうおじさんにはご褒美だぜ!!だっははは!!」


 そんな連中に散々ちやほやされ、


 完全に調子に乗りだしたリズは、


 いつものように態度だけはデカくなり、


 いまだに全く仕事が上達しないままだった。


 

 ◇



 昼の営業を一旦終えた俺達は休憩をしていた。


「さっきのお客さん、常連さんじゃなくていつも来ないようなお客さんだったから焦ったよ」 


 カンナがさっきの事を思い出しながら笑う。


「まぁまぁ、結果ボク目当てで来てくれた新規のお客さんだったから大丈夫だったじゃん」


 へらへら笑いながら答えるリズの頭にチョップを落とす、


「あうっ!?」


 突然何すんだよ?と言わんばかりの顔で俺を睨んでくるリズ。


「お前は調子乗りすぎだ」

 

 今回も運が良かっただけで、


 いつかコイツは絶対に粗相を起こす、


 いや、実際にはもう既に起こしているんだが。


「い〜っだ!!カトーさんのバ〜カ!!」


 口の端を引っ張り舌をべろべろっと出し反抗的な態度を取るリズ。


 そういえば、エイルがキスがどうかの話をしたあたりからずっと、リズは俺に対して定期的にこんな風な態度を取ってきているような気がする。


 そんな事を考えながらジッとリズを見つめていると、


「な、何だよっ!?」

 

 彼女は反抗的な態度を取りながらも少し恥ずかしそうに目を逸らした。


 ――勝った。


 しかしながら、また睨めっこでは俺が勝ってしまい、


 現在俺の6連勝目を更新していた。


 こんな感じでリズはやけに攻撃的な態度を取るくせに、いざ目と目が合うとすぐに逸らしてしまうという、まじお前何なんだ?状態が続いていたのだ。


「…タバコ吸ってくるわ」


 まぁ、リズの意味不明な行動や態度は今に始まった事でもないので、あまり深く考えるのをやめ、一服する為に外に向かった。


 外に出て、貴重なタバコを一本取り出し火を付ける。


「…………ふぅ」


 1日ぶりのニコチン摂取はとてつもなく美味しかった。


「カトーさん、ちょっと…」

「あ?何だよマルコ?」


 いつの間にか外に出て来ていたマルコに手招きをされ、少し店から離れた所まで場所を移す。


「どう?だいぶ仕事にも慣れてきたんじゃない?」

「まぁ、ぼちぼちな」


 マルコの店があるこの地域は、


 大都市アトンの中心部からかなり離れた所にあり、割と下町のような雰囲気がある。


「あー、マルコのおっさんにお兄ちゃん!!ちゃーっす!!」

「今度ただ飯食わせろよなぁ!!」


 通り過ぎて行く少年達が俺達に元気良く挨拶して走り去っていく。


「おっさんじゃなくて、マルコさんとお呼び!!」


 マルコはそんな少年達に大声で返事を返し、


 その様子を見ていた周りの大人達が楽しそうに笑っている。


 これがいつものこの地域の光景だ。


 ここの連中は割と庶民的で気の良い連中ばっかりで、


 それこそリズの事を受け入れてくれる人達も多いのだ。


「割とここの地域って貧乏臭いでしょ?」


 マルコは目を細め、愛おしそうに街を見渡しながら呟く、


「でもここの連中はみんな良い奴よ。リズちゃんの事も偏見だけで判断しない、語り合えば、分かり合える、そんな連中ばっかりなの…この街も、あの店もあたしの自慢よ」


 そして少し寂しそうな顔をした後に、


「実は店を改装しようかと思ってるのよね」


 突然マルコがそんな事を切り出してきた。


「……は?」

「実は前々から考えてたんだけど…最近、凄く忙しいでしょ?」

「あぁー、まぁ…」


 特に最近のピークに押し寄せてくる客の入り具合は半端ない。


「凄くお客さん増えてくれた事自体は嬉しいんだけどね…もっと上手く店が回るように工夫できないかなって思ってるのよね?」

「……なるほど」


 確かに、この数日マルコの店で働いてみて感じた事はいくつかある。


 その中でも一番引かかっているのは、


 料理の提供時間だ。


 調理作業する上で非常に効率が悪い事が多く、


 そのせいで、大勢で客が一気に押し寄せてくる現在のピークに対応できていなかったのだ。


 料理が出なければ、客席が回転せず、


 満席だからと諦めて違う食堂に行くお客さんもよく見ていた。


「そこで、カトーさんに一つ知恵を絞って貰えないかと思っててね?」


 正直意外だった、そんな風な相談をマルコからされると思っていなかったからだ。


「俺でいいのかよ?」

「えぇ、あたしはやっぱ職人としてのスキルしか磨いてこなかったから、だから経営や全体の事を任せるのはやっぱカトーさんが適任だと思ってね」


 真っ直ぐに俺を見つめるマルコの目は真剣そのものだった。


「売り上げが伸びれば、もちろんカトーさん達への報酬も増やしていくわ。どうかしら?」


 何だよそれ、


 そんなの断る理由なんてないだろ。


「俺で良ければ、協力させてくれ」

「心強いわ、宜しく頼むわね」


 そしてこの日の夜の営業終了後に、


 二人で色々と改装の話し合いをする事となった。



 ◇



 マルコとの話し合いに熱が入りに入り、


 めちゃくちゃ良い感じに話が進んだのだが、


 自室に戻れた頃はもう深夜になってからだった。


「あぁ〜、疲れた…まじで……」


 そのままベッドの上に仰向けに寝転がり、天井をボーッと見つめる。


 最近はカンナと仲良くなったおかげで、


 リズの奴が夜に俺の部屋にやって来る事も無くなっていた。


 何かカンナの部屋で女子会だとか言って、夜な夜な二人でヒソヒソやってるらしいのだが、俺としてはこうやって平和な時間を過ごす事ができて満足だったりしている。


「はぁ……タバコ吸いてぇな………」


 ――金がない。


 とにかく金がない。


 だから、タバコもない。


 今は1日1本と決めているので、


 タバコは明日の昼過ぎまでおあずけなのだ。


 まじで金がない。


 ギルドの初期登録料さえ払えれば、


 何とか上級クエストをこなして、金を一気に貯めていけるのだが。


 現在マルコから報酬として、1日1G貰っている…本当に宿代や食費代を差し引いて1Gも残るのか?と思いながらも彼の好意に甘え続けているのが現状だ。

 

 だから、マルコの店を改装する計画はある意味俺にとってはチャンスでもあるし、彼に対する恩返しにもなると思っている。


「……上手くいけばの話だがな」


 独り言を呟きながら、ベッドの上で寝返りを打つ。


 ――ドン。


「………は?」


 掛け布団がくるまって山のようになっているだけだと思ってた場所に腕が当たった途端に、明らかに固い何かにぶつかった感覚があった。


 嫌な予感がした俺はゆっくりと掛け布団の中を覗く、


「……お帰り、遅かったじゃんか」


 掛け布団の中には完全にモグラ化した状態のリズが潜んでおり、彼女はいじけたような表情で掛け布団の中から俺を見上げてきていた。


「………お前何やってんだよ?」


 そしてこの瞬間に、


 俺が就寝するまでの平和な時間が終わった事を悟ってしまった。

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