4話.ギルドの初期登録で金が必要とかまじでありえないのだが。
「え!?登録料で一人15G!?」
金を稼ぐにはギルドのクエストをこなすのが一番だというリズの言葉で俺達はギルド向かったのだが、そこでクエストを受ける為にまず初期登録をしなければいけないらしく、その登録料に一人15 Gもかかるそうだ。
「はい。規則なので」
ギルドの受付嬢はニッコリと営業スマイルを浮かべる。
「…全財産使い切れば…登録できるけど…」
「…仕方ねぇよな?」
「う、うん…でも、やっぱり15 Gは高いよね?」
「ま、まー…ぶっちゃけキツイけどな…」
俺達は定番のヒソヒソ作戦会議の結果、30 Gを支払い二人でギルド登録をする事にした。
◇
「はい。ではカトー様はレベル1なので、E級冒険者になりますね」
受付嬢はにこやかに、Eと刻まれたタグ付きのネックレスを俺に手渡してきた。
「はい。では、リズ様は…あ、凄い!リズ様はレベル60なのでB級冒険者になります」
受付嬢は驚いた表情で、Bと刻まれた高そうなタグ付きのネックレスをリズに手渡している。
「へっへーん、いきなりB級だってー」
まじか?そう言えばリズのステータスは見た事なかったが、コイツってそんなにレベル高かったのか。
だとすればあの時レベル30のグリーンドラゴンがリズに睨まれて襲って来なかった事も、途中で姿を消していた事を納得できる。
「お前って、やっぱすげーんだな?」
キャラはうざいが、彼女のスペックの高さを純粋に凄いと思った。
「まーねー」
そんな俺達に受付嬢がチュートリアル的な説明をする。
「ギルド内に張り出されているクエストの紙を私に持ってきて頂けるとクエストを受ける事ができます。ただし、パーティー内にいる方で一番階級が高い人のランクまでのクエストしか受けられませんので、そこはご了承下さい。なので、リズ様達なら丁度B級ランクまでのクエストがお受けする事ができます。まぁ、カトー様には少しキツイかも知れませんが」
「りょーかいでーす。じゃあパパッとクエスト見つけてきますねー?行こう?カトー」
受付嬢に礼を言い、俺達はさっそくギルド内に張り出されているクエストを見て回る。
「モンスター退治に、ペット探し、年寄りの介護って…まじで何でも仕事があるんだな…」
「んーとねー……あっ!カトーさんカトーさん!これとかどうかな?」
▶︎巨大スライム討伐
依頼条件 A、B級冒険者のみ
C、D級冒険者への依頼でもあった『ケルヌトの街付近の増殖し過ぎたスライムを一斉駆除』の依頼が達成されないまま数日後、スライム達は一塊に合体し巨大化してしまった。
もうC、D級の冒険者では手が負えない、至急上級冒険者の応援求む!!
報酬 3000G
参加される冒険者の参考レベル60以上
「報酬…3000G!?」
て事は!?役『30万円』の報酬って事になる。
俺の手取りの給料なんかよりよっぽど多い、しかもこのスライム一匹倒しただけで、だ。
その金額を想像しただけで手が震えそうになる。
「どう?どう?…何か街から近そうだし、カトーさんのスキルを使えば一発オッケーでしょ?でしょ?」
「あー、まぁな…」
【神の腕】あれを使えば恐らく確実に巨大スライムを倒せるだろう、それにあれは一日一回しか使えないみたいだし、複数形のモンスター討伐よりも、ボス級一体を倒す系のクエストの方が都合がいい。
「やって…みるか…」
「おぉ!流石カトーさん!このっ!異世界主人公!!」
「馬鹿!声が大きいっつーの!!」
「あ痛っ!?」
大声ではしゃぐリズの頭にチョップを落とす。
――しかし、すでに先程のリズの言葉でギルド内はざわざわし出した。
「おい…アイツ…異世界転移者っぽいぜ?」
「…うわ…まじかよ……遂にこの街にも…主人公野郎が来たのか…」
ギルド内にいる男性冒険者達はヒソヒソと小声で話しながら、激しい嫉妬の眼差しを俺に向けてくる。
やはり、チート的な能力を持つ異世界転移者に対して嫌悪感を抱く人もいるのだろう。
何の努力もしてないのに、突然最強になって、皆んなからチヤホヤされて、そんな異世界転移者を彼等が『主人公野郎』と皮肉を込めて罵倒したくなる気持ちが凄く分かった。
「もー、別にいいじゃーん。異世界転移者ってのは栄誉あるジョブみたいなもんなんだからさー?もっと胸張って行こうよ!」
正直このスキル使うのって卑怯なんじゃないのか?と自分の能力を使う事に躊躇いを感じてしまった。
俺もずっと彼等のように異世界転移者の事を良く思っていなかった、そんな俺が、主人公野郎側の人間になっちまったんだ。
だからこのスキル使ったら負けかな、と思ったんだ。
「悪い…やっぱこのクエストは無理だ」
「えー!?何で?何で?いったいどうして!?」
「やっぱあのスキル使いたくねーわ」
「何言ってんの!?チート的なスキル持ってる人が!俺使いたくねーわってどんだけ厨二なの!?それとも縛りプレイ大好きな変態プレイヤーなの!?スキルなしでこの先やって行けると思ってんの!?」
「そんなの分かってるよ!…けど、何か抵抗あるんだよ…これは俺の努力や才能で手に入れたスキルじゃない。…たまたま運が回ってきて、偶然手に入れたスキルじゃねーかよ」
まるで買ってもいないのに、何故か宝クジに当たり金持ちになったような気分だ、そこに、俺の努力や意識は関係ない。
「うわー!めんどくさー!この人凄く面倒くさー!いい?運も実力のうち!!わかる!?運も実力のうちなのー!!」
ぎゃーぎゃーと耳元で叫ぶリズは更に言葉を続けた。
「どんだけ俺っちはアンチ異世界代表だぜ!ヒャッハーすれば気がすむの!?少しは空気読んでよ!ボクの元仲間にざまぁする為のストーリーが全然進まないじゃん!!」
「アンチ異世界代表で悪かったな!?あーそうだよ!俺は異世界とか大っ嫌いだったし!異世界転移者なんてヘドが出るくらい嫌いだったわ!俺は欲に溺れたりしねーぜ的な雰囲気出しておきながら結局、金も、女も、名誉も手に入れて、やれやれ困ったなー的な雰囲気醸し出してる異世界主人公なんて大っ嫌いだったわ!すげー腹が立ってたわ!!なのにそれが、改めて俺もその仲間入りか?って思ったらスキル使うのにも少し抵抗があるんだって事を言ってるんだよ!俺は!!」
「少し抵抗があろうとなかろうと最強スキル持ってんなら使えよ!常識だよそんな事!!あー、もうどんだけ頑固なの?この人?巨大化したスライムが出てみんな困ってるんだよ!?人助けなんだよ!?いいから何も考えないで!ホラ?行こう!!もう今すぐ行こう!?」
目がマジなリズは俺の背中を受付までぐいぐいと押してくる。手にはあのクエストの紙も持っていた。
「嫌だ!っつってんだろ!?やめろ!触んなっ!!」
「もー!わがまま言わないのっ!!リョーヘイ!ほら!行くわよ!!」
「お前は母親かっ!!そして俺は駄々をこねる子供かっ!!」
「だってそーじゃない!?あなたわがまま言い過ぎよ!!ママはリョーヘイちゃんをそんな風に育てた覚えはないわよ!!」
悪ノリで、母親っぽい口調に切り替えて喋るリズ。こいつ前世はよしもと芸人か何かじゃないのか?と一瞬思ってしまった。
◇
「あ、あのー」
その後もあーだのこーだのギルド内で言い争いを繰り広げていた俺達に、先程『主人公野郎』と転移者を馬鹿にしていた冒険者が申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「何!?」
ギロっと冒険者を睨むリズを制止して、俺は彼の言葉を待つ。
「貴方…異世界転移者ですよね…?」
俺を見つめながら彼はそう尋ねてきた。
「そうですけど」
すると彼は俺の手を握り、捲し立てるように熱く語り出した。
「貴方みたいな異世界転移者初めてです!さっき貴方が言ってた異世界転移者に対する不満、すげー共感できましたし!ずっと俺が言いたいけど上手く言葉に出来なかった事を全部代わりに言ってもらったような気がしました!それに、貴方最強スキル使わないって…何かもう、貴方みたいな考え方した異世界転移者なら、他の主人公野郎みたいな風には絶対になりませんよ!初めてです!貴方みたいな俺達の事を理解してくれる同じ匂いをした異世界転移者は初めてです!だから、彼女の言うように是非使って下さい!そして、アホみたいに調子乗ってる主人公野郎達をギャフンと言わせるような、世界最強の俺TUEEEE伝説を作って下さい!応援してますから!な?俺達な?」
彼は連れの冒険者にも同意を求める。
「は、はい!何かもうさっきの話聞いて、すげースカッとしたって言うか、俺達みたいな才能ないザコは死ぬまで主人公野郎に嫉妬するだけの人生だと思ってました、けど貴方みたいな考え方をされた転移者に出会えて、今凄く感動してます、何か俺達みたいな人種の中から、俺TUEEEEスキル獲得した人が出てきたみたいな、上手く言えませんが、貴方には是非活躍してもらいたいです!!本気で俺達は応援しますから!!」
じゃ、俺達はこれで!と彼等は言いたい事を言うだけ言ってサッパリしたような清々しい表情でギルドを出て行ってしまった。
「な、なんか…凄いね、カトーさん」
どうやら俺は同類のマニアックな層から支持を得られたようだ。
「あの人達あんな言ってたけど」
「あ、あぁ。…だな、じゃあやってみるか?」
あそこまで熱弁されたらスキル使ってみようかなって気になる。
「ふーん、ボクの言葉じゃ頑なにイエスって言わなかったのにねー」
「あの人達の言葉の方がなんか積年のやり切れない想いっていうかなんつーか、なんせ言葉に重みがあったんだよ」
「ふーん、まーいいけどねー、ふーん」
完全に不貞腐れているリズを放置して、俺は例のクエストの紙を持って、受付嬢の元に行く。
通常ではこのクエストはA級冒険者用の依頼のようで、B級冒険者が受ける時は大体同じレベルくらいのパーティー四人程で挑むような高難易度のクエストのようだった。
しかし先程の俺達の会話を聞いていた受付嬢は、俺に異世界転移者なら全然問題ないですね!と笑顔でクエストの承諾印を押してくれたのだった。
一時間後にもう一話アップします。
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