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クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
大商人 編
47/60

45話.あの後

「ほら、この料理も凄く美味しいんだよ?リズちゃん食べて見て?」


 カンナはどんどん料理を皿に取っていき、


 終始笑顔でその料理をリズに渡している。


「あ…これも美味しい」


 リズは様々な料理を一口ずつ食べ、


 その度に目を輝かせている、


「でしょ!!」


 その様子を嬉しそうに見つめているカンナ。


 女性陣はもう完全に二人の世界に入り込んでいて、


 見ていて微笑ましいぐらいだった。


「で、お前は一体何があったんだ?」


 テーブルに着き、ちまちまと料理を食べてはいるものの完全にテンションガタ落ちで、しかも目の下のクマが酷いエイルにどうしたのか尋ねる。


「…………」


 しかし、エイルは俺の質問に黙りで、


「ちょっと、カトーさん!」


 無神経にズカズカと踏み込んだ質問をする俺をマルコが焦った様子で止めにくる。


「……エイルちゃんだって言いたくない事あるわよ、ね?」


 そしてマルコは、暗い表情のエイルに優しく微笑みかける。


「…………」


 それでも、エイルはずっと黙り込み俯いたままだった。


 分かってる。


 好きな子と戦う覚悟を決めて、


 あの時コイツは俺達を先に行かせたんだ。


 あの地下の通路だって、


 最後は悲惨な最後を迎えていた、


 彼女との戦いがどうだったであれ、


 エイルは無事で、そしてコイツのこの顔を見たら、


 どんな結末だったのか、何となく察しは付いていた。


 でも、それでも、


 ――言えよ。


 俺達仲間だろ。


「…メルルの事好きだったんだろ?」


 その言葉で、エイルは眉をぴくりと震わせる。


「…あの時、お前のおかげで俺達は先に進めたんだ。リズがこうして無事で居られるのも、お前の頑張りがあってこそだ」


 何も解決などできないとしても、

 

 口にする事で、誰かに聞いてもらう事で、


 心が楽になる事がある、


 むしろ、俺がエイルに唯一してやれる事と言ったら本当にそれだけなのだ。


「…でも、辛い思いさせちまったようだな」


「……くっ……うぅぅ………うぅ…」


 遂にエイルは堪え切れずに肩を震わせ泣き出した、


 その様子を、リズとカンナも驚き見つめている。


 マルコは席を立ちそんなエイルの側に寄り、


「…でも、カトーさんの言う通りよ?エイルちゃんの頑張りのおかげで今みんなこうして居られるの。本当にありがとうね?」


 まるで母親のように優しく彼の背中をさする。


「……うぅぅ……うぅぅ…ひっく……すっ…好きでしたっ……好きでしたよぉ…」


 全員に見つめられる中、


 エイルは泣きながらポツリとポツリと語り出す、


「……でもっ……メルルさん……最後の最後まで……アルフォードさんの指示を守って……自爆してっ……せっかく想いが通じ合ったのに……」


 断片的な言葉ではあるが、


 あの後、エイルがどうだったのか、


 想像するには十分な内容だった。


「……やっと…やっと両想いになれたのにぃ……」


「……エイルちゃん」


 マルコになだめられる中、

 

 エイルの一度曝け出した感情は直ぐに止まる事はなかった。



 ◇



 暫く泣いた後、


 エイルは少し落ち着きを取り戻していた。


 そして、何故か流れで失恋など別れ話系の不幸自慢話で盛り上がっていた。


 みんな少しでもエイルを元気付けたいと思っての事なのだろう。


「あたしなんか、失恋ばっかよぉ……好みの男見つけても、みんな結局容姿から入るでしょ?結局内面なんて見てくれないし…それで失恋ばっかよ」


「あはは、マルコはそろそろ男諦めて…女性と付き合ってみたら?前に女性と付き合ってた事もあったんでしょ?」


 不幸自慢を熱く語るマルコを見て、


 苦笑いを浮かべながらもそれとなくフォローを入れるカンナ。


「そうだけど…それはそれで負けた気にもなるのよね…」


 何が?何が負けた気になるんだ?


 意味が分からないし、あまり意味も分かりたいと思わなかった。


「あ、言って無かった?実はあたし、どっちもイケるくちなのよね?」


「……………へー」


 あからさまに冷たく、淡々とした返答をする俺。


「マルコ普通にしてたら凄くカッコいいんだから、女性にはモテると思うんだけどな」


 妙に熱がこもった視線をマルコに向けるカンナ。


「まー、否定はしないわよ」


 いや、少しは謙遜しろよ、


 まじでそのお前のドヤ顔も腹立つから。


「…でも、今は女性と付き合うって周期でもないのよねぇ…あたしの中で」


 周期って、


 もはやツッコミを入れるのも面倒になってきた。


「……そっかぁ」


 マルコの返答に、残念そうな表情をするカンナ。


 あれ?つーかこの感じ、


 カンナって子もしかしてマルコの事、


 もしかする感じなのかも知れない。


 俺の視線に気付いたカンナが俺の表情から何か読み取ったのか、少し焦った様子で話題を変える。


「…ま、まぁでも……私も前に付き合ってた人と別れちゃった時は凄く引きずっちゃってたしなぁ…あはは」


「…そうなんだ?」


 カンナのその話題にリズが食い付く、


「…まぁね。私だってそれくらいは経験あるよ」


「………どうやって、引きずらなくなったんですか?」


 彼女だけではなくずっとみんなの話を聞いていただけのエイルも口を開いた。


「……あー、まぁ何て言うか…時間かな?」


 まさかここまで食い付かれるとも思ってなかったのか、カンナは少し困ったように笑い答える。


「……時間…ですか」


「…うん、結局はそれにつきるかな?時間が経てばその事は忘れなくてもその過去の思い出を違う捉え方で受け止められるようになったり…って、私もあまり偉そうな事は言えないんだけどね」


 まだ若いのに、このカンナって子は凄くしっかりした子だなと思った、


 彼女の発言については俺も全くの同意見だからだ。


「……何かそれ、分かるような気がする」


 カンナの言葉にリズも頷いている、


 少なからず今もクロードの事を引きずっているリズにも何か共感できる事があったのかも知れない。


「………じゃあ僕も…いつかメルルさんの事、今の悲しいって感情だけじゃなくて…別の捉え方できるんですかね…?」


 そんなエイルの頭をポンと軽く叩き、


「別に無理にそう思わないといけないって訳でもねーよ。今は辛いならいくらでも泣けばいいさ、話くらいならいくらでも聞くからよ?」


 出来るだけ優しく語り掛ける。


「……うぅ…カトーさん…」


 エイルは再び涙を流し、


「……ありがとう…ございますぅ…」


 ガバッと俺に抱きついてきた。


「お、おいっ…」


 そんなエイルの背中を優しくポンポンと叩く、


「……何かこの二人、絵になるわね」


 マルコはそんな俺達を見つめながらヨダレを垂らし、


「……う、うん。それ分かる」


 そしてカンナも頬を染めながらマルコの言葉に共感していた。


「勝手にカップリングすんな」


 そんな二人に向かい、


 俺はノンケだと言わんばかりに激しくツッコミを入れるのだった。



 ◇



 エイルもだいぶ顔色が良くなり、


 俺達は夕食の続きを堪能していた。


 しかし、穏やかな食事の雰囲気はエイルのある発言により再び壊れる事となった。


「……皆さん…キスってした事…ありますか?」


 このエイルが放った問題発言により、


 マルコとカンナは如何にもこの話題待ってましたと言わんばかりの下世話な顔になり、


 それに引き換え、リズもリズで、


 このエイルが放ったキスと言う単語に反応してしまい、


 自分の唇を指で触りながら、


 変な視線を俺に向けて来ているのだ。


 おそらくリズの奴は俺がキスしたかったんじゃないかどうかのやり取りを思い出している様子だった。


「キス?勿論、あるわよぉ?」


「うん、私も普通にあるかな?」


 余裕な表情で飄々と語るマルコとカンナ。


「……流石ですね…あ、カトーさんは」


「は?……あるに決まってんだろ」


 エイルの質問に答えた俺の発言に、


「「おぉー」」


 何故かマルコとカンナが声を揃えて拍手する。


 何が『おぉー』なのか分からない。


 どちらにせよ、面倒くさい話題を振ってきた事に変わりなかった。


 ジト目で俺を睨んでくるリズを取り残し、


 マルコ達は目をキラキラさせながらエイルに何故この話題を振ったのかを問いただしている。


「キスね?キスをしたのね!?エイルちゃん!!」


「詳しく!!詳しく私にも聞かせて!?」


 二人の圧に負け、


「え、えっとぉ……そ、その…」


 エイルはボソボソとメルルとキスした事を語った。


「…し、しました…キス」


 いや、これこそそっとしておいてやれよ。


 顔を真っ赤にするエイルを見て、


「エイル君可愛い」


「エイルちゃん可愛いわぁ」


 カンナとマルコは興奮し悶えていた。


「……は、初めてだったんですけど……」


「きゃー!!」


「しっ、カンナ静かにして!!…で、その初めてのキスをあの彼女としたのね?」


「ちょ、お前等」


「いいから!!カトーさんも黙ってて頂戴!!」


 完全に恋話を楽しむおばちゃん化した二人を止める術は俺には無かった。


「……メルルさんが、最後の思い出にって……」


「くぅぅぅ、凄く切ないファーストキスじゃないのよぉおおお」


「きっと…その彼女さんもエイル君とキスできて幸せだった筈だよ!!」


 二人はエイルの発言一つ一つに、


 異常な程に感情移入し、もらい泣きまでしている。


「…そ、そうですかね…?」


 エイルもそんな彼等の言葉に瞳を潤ませ、


 声も震わせながら、


「……そうだったら……嬉しいなぁ……」


 今日何度目かになる涙を流した。


 そんなエイルを慰めるように、元気付けるように、


 カンナとマルコが彼を励ましている。


 あの後、


 エイルにとって凄く辛い現実が待ち受けていた、


 でも、今こうやってみんなで少しでもエイルの辛さを分かろうと、そんな奴等に囲まれて、


 今アイツが流している涙だって、


 エイルが生きて帰って来たからこそだ、


 生きているからこそ出来る事だ。

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