表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
大商人 編
44/60

42話.傷跡

 びしょ濡れのまま二人で夜道を歩き、


 街に向かってる途中、


 突然カトーさんが倒れた。


 どうしていいか分からず、


 パニックになってるボクを見つけて助けてくれたのはカンナだった。


 彼女は大人達を呼び、


 カトーさんをこの宿まで運んでくれたんだ。



 ◇



「おそらくだけど、疲労によるものだと思うわ」


 あの気持ち悪い喋り方をするおじちゃんが、


 前とは違って、凄く優しく対応してくれている、


 そういえばこの人、ボクを助けにカトーさんが来てくれた時に一緒に居たような気がする。


「一晩休ませると直ぐに良くなると思うから、今日はそっとしておきましょう?」


 ベッドで眠らせているカトーさんにシーツをかぶせ、


 おじちゃんはボク達みんなに優しい口調で語り掛けてくる。


 その一言で、カンナを含むみんなはコクリと頷き、


 おじちゃんの指示に従い部屋を出て行った。


「ほら、貴女もこれで身体を拭いて?濡れたままだと良くないわ」


 部屋から出ようとしないボクに、


 おじちゃんは暖かいお湯で湿らせた布と、


 乾いた布、それと服の着替えを用意してくれた。


「……………」


 この人は確かに前、


 ボクに酷い事を言った人だ。


 それが、急に一体どうしたんだろう?


 それにカンナとも知り合いみたいだし、


 カンナもカンナで、コンテストでボクを拒絶したくせに、


 急にまた何で、さっきはボクとカトーさんを助けてくれたんだろう?


 カトーさん倒れちゃうし、それから起きないし、


 みんな意味が分からないし、


 本当に頭の中がごちゃごちゃしてくるよ。


「…ふふ、そうよね。突然こんな風に絡まれても戸惑うのもしょうがないわよね?」


 おじちゃんは困ったように笑い、


「…こないだはごめんなさい。あの時言った言葉は、もう無かった事には出来ないけど、でも凄く後悔しているわ」


 そして、深々とボクに頭を下げてきた。


「…………意味が、分からないよ」


 頭を下げ続けているおじちゃんを見て、


 凄く心がざわざわしてきた。


「………それに、今更そんな事言われても…」


「ふふ、今更許してって言うのも本当に虫の良い話よね?…もちろん、あたしの事嫌いなままでもいいわ。でも…」


 おじちゃんは頭を上げ、


 眼を逸らすボクの顔を真っ直ぐに見つめ、


「…あたしは、これからリズちゃんと仲直りできるように一杯頑張るから」


 そして、ニッコリと笑顔を浮かべた。


「……………」


 何それ?


 ボクと仲直りしてどうするの?


 何が目的なの?


 正直、カトーさんを助けてくれた事には感謝してるけど、


 それ以上は踏み込んできてほしくない、


 関わらないでほしい、


 そっとしていてほしい。


「…ふふ、とりあえず布と服はここに置いておくわね?それと、食べ物も部屋の外に置いておくから…お腹が空いたら食べて頂戴」


 おじちゃんは気持ち悪いくらい優しい口調で色々配慮をしてくれて、その後そっと部屋を出て行った。


 ボクはベッドで静かに眠り続けているカトーさんに視線を戻す。


「…………カトーさん……」


 ボソリと彼の名前を呟く。


「………大丈夫だよね……」


 あのおじちゃんが言ったみたいに、


 一晩寝てれば良くなるんだよね?


 このまま、起きないとかないよね?


 カトーさんが突然倒れた時、


 心臓が止まるかと思った、


 だって、


 だって、ボクの為にいっぱい、


「……いっぱい…無茶してくれたんでしょ…?」


 こんなにボロボロになるまで、頑張ってくれてたんだよね?


 ジワッと目頭が熱くなり、再び涙が溢れてくる。


「……ねぇ……カトーさん……」


 言わなかったけど、


 助けに来てくれた時のカトーさんの眼はビックリするくらい充血してて、


 本当は甘えていたくて水の中でカトーさんに抱き付いていた時だって、カトーさんの身体は凄く熱かった、


 だから、カトーさんが倒れた時、


 心のどこかでは、


 あぁ、やっぱりかって思ってる自分もいて、


 でも、そんな現実を受け止めきれない自分もいて、


 どうしていいか分からなくて、


 だって、今カトーさんに居なくなられたら、


 本当にボクは独りになっちゃうから。


「……どこにも……行かないって……言ったじゃん……」

 

 もう嫌だ、本当に今日は泣いてばっかだ。


「……ボクにはっ……カトーさんしか…いないんだからぁ……」


 それでも溢れてくる涙は拭っても拭っても止まらなくて、


 ボクはカトーさんのシーツの中に腕を突っ込み、


「……早く起きてよぉ……カトーさん……」


 未だに熱が少し取れきっていない彼の右手をギュッと握る。


「……ねぇってばぁ…」


 カトーさんの手を握り締めたまま、


 ベッドに寄り掛かる。


 そして、気が付いたら、


 ボクはそのまま、


 眠りについていた。



 ◇



 朝早くに目が覚める、


 カトーさんはまだ眠り続けたままだ。


「………ぁ……」


 でも、どうしてだろう?


 昨夜よりカトーさんの顔色が良くなっている気がして、


 それのせいか、何故か根拠はないけど、


 カトーさんはもうすぐ目が覚めるって思えてきた。


 そう思ったら凄く安心できて、


 安心できたら、


 今まで全然気にならなかったのに、


「……身体…気持ち悪い…」


 濡れた服のまま寝てしまった事による、


 身体がベタベタする不快感とか、


「………あぅ……」


 空腹とか、色々な欲求の波が押し寄せてきた。


「……まだ、起きない…よね?」


 他に隠れる場所はなく、


 部屋の外で着替える訳にもいかない為、


 ボクはこの部屋で、横目でカトーさんを意識しながら着替え始める。


 濡れて気持ち悪くなった服を脱ぎ、


 おじちゃんが準備してくれていた湿った方の布を取ると、


「………ちょっと乾いてる…」


 夜のうちに使わなかったから当たり前と言ったらそうなんだけど、せっかく湿らせてくれていた布は少し乾いていた。

 

 仕方がないので、


 ボクはそのままの姿で手洗い場まで歩き、


 用意してある水を使い、布をもう一度湿らせる。


 そしてその布を使い身体中を拭いていき、


「……んっしょ……っしょ……」


 だいぶスッキリした所で、


 今度は乾いた布でもう一枚身体を拭く。


「……ふぅー」


 凄く身体がサッパリとした、


「……まだ、起きてない…よね?」


 チラッともう一度カトーさんを確認するが、


 彼はやっぱりまだ眠ったままだ。


 ボクは急いで、用意してくれていた服に着替える。


「……んっしょ…」

 

 カトーさんが目覚める前に、


 無事に全てを終わらせる事ができた。


「………ご飯…」


 昨夜、そう言えばご飯がどうとかあのおじちゃんが言っていた事を思い出し、ボクは部屋のドアをゆっくりと開ける。


「…あっ、リズちゃん」


 部屋の外では、


 カンナが新しい食事を持ってきてくれている所だった。

 

「…………」


 そんなカンナと目が合ってしまい、


 暫くの間気まずい沈黙が流れた。


「……こ、これっ……マルコが食べてって」


 気まずそうに笑いながら、カンナがそんな沈黙を破った。


「………ありがと」


 一応礼を言い、食事を受け取る。


 そしてそのまま部屋に戻ろうとした時に、


「あのっ……リズちゃん!!」


 カンナがそんなボクを呼び止める。


「……………何?」


 正直あまりカンナとも話したくなくて、


 ボクは素っ気なく答える。


「………ごめん」

 

 昨日の気持ち悪いおじちゃん同様に、


 カンナも急に謝ってきた。


「…………何が?」


 二人して、今更何なの?

 

 ボクは何故かもの凄く腹が立ってしまって、


 更に冷たく答える。


「……ステージで、あの後…リズちゃんが言ってた事聞いて…私…それから色々考えて……やっぱり私が間違ってたって……リズちゃんに謝りたいって思ってて……」


 カンナは泣きそうな顔で、


 必死に言い訳の言葉を並べる。


「………それでも、ボクがダークハーフエルフなのには変わりないよ。カトーさん助けてくれた事や、色々お世話してくれた事は感謝してる、けど…もう正直カンナ達とも関わりたくない」


 自然とすらすらと言葉が出ていた、


 でも、全部ボクが心の底から思っている言葉に間違いなかった。


「………ごめんねっ……本当にごめんっ…リズちゃん」


 号泣する彼女に、ボクは更に言葉を続ける、


「カトーさん起きたら出て行くから。その時に宿代とか他にも色々なお金は払うから…それじゃあ」


 ――ガチャン。


 そして、少し乱暴にドアを閉める。


 急になんだよ、


 今更なんだよ、


 あの時、ボクを拒絶したくせに、


 裏切ったくせに、


 本当に意味が分からないよ。


 むしゃくしゃしたまま、ボクはカンナが持って来てくれたご飯に手を付ける。


「………もぉ……何だよぉ……」


 凄くむかついてるのに、


 そんなカンナが持ってきてくれたご飯は、


 悔しいくらい美味しかった。


 


 ◇



 気が付いたら、また眠っていたみたいだった。


 窓から入ってくる夕日の明かりで、


 もうそんな時間なんだと思った。


 カトーさんは、まだ起きていない。


 ボクは再びシーツの中に腕を突っ込みカトーさんの右手を触る、


「………良かった…」


 昨夜と比べるともう完全に熱は取れていて、


 普通の人の手の体温に戻っていた。


 一日一回だと思ってた神の腕を、


 カトーさんは連続で使用していた、


 もしかしたら、それのせいでカトーさんは倒れてしまったのかもしれない、


 だから、右手の熱が引いた事に、


 凄く安心できた。


 きっともうすぐカトーさんは目が覚める、


 そしたらすぐにこの宿を出て行こう、


 そして、三人でまた今まで通りに旅を続けるんだ。


「………あっ」


 ――完全にある事を忘れていた。


「………そうだった…」


 そしてその完全に忘れてしまっていたある事を思い出したボクは、


「………エイル」


 そんな彼の名前を口にする。


「……エイル、どこ行ったんだろう?」


 そう言えばあのコンテストで見掛けて以来、


 それからボクはずっとエイルを見ていなかった。


「………あ」


 昨日の記憶が少しよぎる。


 確かカトーさん達が助けに来てくれた時、


 あの会場に水が入って来て大パニックになっている時、


 あの気持ち悪いおじちゃんにカトーさんが『エイルを頼む』って言ってたような気がする。


 エイルも、ボクを助けに来てくれていたんだ。


 そしてたぶんだけど、

 

 あの時、おじちゃんがエイルを助けてくれたんだ。


「…………どうしよ」


 あの人にも、もうあまり関わりたくないのが正直な気持ちだった、


 でも、カトーさん起きたらすぐにここを出て行きたいし、


 その時にエイル見つけてないと意味ないし、


 やっぱり、この場所を早く出て行きたいなら、


 今、動いた方がいい気がして、


 ボクは部屋のドアをゆっくりと開け、


 そのまま廊下に出た。


 宿になっている二階の廊下を歩くたびに、


 床がギシギシと軋む、


 またカンナに会ったら嫌だなとか、そんな事を思いながらゆっくりと階段を降りる。


 一階は食堂みたいになっていて、


 でも、まだ夕方だからかお客さんは誰もいなくて、


 あのおじちゃんが一人で野菜を切ったり色々ご飯の準備をしていた。


 一階に降りきった時にもう一度ボクの足下からギシッと床か軋む音がして、


 その音に反応したおじちゃんが、


「…あら、起きたのね」


 ボクに凄く優しい笑顔を向けてきた。


「…何かあったら、すぐに言って丁度ね?


 おじちゃんはそれだけ言うと、


 それ以上は何も喋らず、


 再びトントントンと、野菜を切り始めた。


 その対応も本当に気持ち悪いくらいに優しくて、


 あの日、丁度この場所でボクに酷い事言ったあの時とは別人みたいだった。


 気まずい、凄く気まずいけど、


「…………あのっ」


 ボクは勇気を持ってエイルの事を尋ねてみた。


「…………エイル…知りませんか?」


 おじちゃんはそのボクの質問に、


 一瞬表情を曇らせる。


「…………」


 おじちゃんの顔を見た途端に、


 何故か凄く嫌な予感がした。


 何その表情?もしかしてエイルにも何かあったの?


 色々嫌な事が続いたせいで、


 様々な最悪なパターンが頭の中で次々と浮かんでくる。


「……エイルちゃんね…」


 そして、おじちゃんは少し言い辛そうに、


 エイルの事を語り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ