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クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
大商人 編
41/60

39話.神のスキル

 生まれて初めてこんなに誰かを憎いと思った。


 身体を触手に巻き付けられ、


 身動きが取れない状態で、


 俺はこの会場で起こっていた事を全部見ていた。


 恐怖のあまり軽く呼吸困難を起こしているリズや、


 高値でリズを売り飛ばそうと嬉々とした表情で声を弾ませているアルフォード、


 そしてリズを我がものにしようと気持ち悪い欲望を剥き出しにした貴族達。


 ここまで辿り着けたくせして、


 結局俺は何も出来ないでいる。


 リズ助の奴、あんなに怯えているのに、


 結局俺は何も出来ないでいる。


 異世界転移者はチートなんじゃなかったのか?


 クソが、クソが、クソが、クソが、クソが。


 ほんっとにクソだ、俺も含めて皆んなクソ野郎ばっかだ。


「おめでとうございまぁぁああす!!!」


 そして俺が身動きも取れず、


 何も突破口も閃かず、もたもたしている間に。


 ――リズが落札されてしまった。


 盛大な拍手の中、リズを落札した貴族がステージの上に歩いて行き、


 アルフォードはリズの身体に、奴隷刻印を刻もうと準備を万全にしていた。


 頭に血がのぼり思考が鈍くなる、


 それでも本能が『今しかない』と何度も何度も何度も強く訴えかけてくる、


 何ができるって訳じゃない、


 神の脚じゃこのキメラや触手は倒せない、


 神の腕は使えない、


 しかし、それでも俺の中でアルフォードに対する怒りと憎悪がどんどん膨れ上がり破裂しようなくらい膨張していく。


 奴隷刻印を刻まれる目前となったリズは、


 もう完全に絶望に染まった表情をしており、


 ただ茫然と立ち尽くしていて。


 何もかも諦めたような、


 そんなリズの顔を見たら、


 完全に勝った気でいる、ふざけた顔で笑っているアルフォードの顔を見たら、


 その瞬間に、俺の怒りと憎悪の感情が完全に振り切ってしまった。



 ◇



 ――突然。


 俺の視界が真っ赤に染まる。


 そして、それと同時に会場中がざわめきだし、


「かっ……身体が…動かないっ!?」


「…何だっ!?こんなの聞いてないぞぉ!?」


 身体が動かないと貴族達はパニックになっていた。


「ふふっ……素晴らしいぃぃ…」


 貴族同様身体が硬直し、身動きが取れなくなったアルフォードは何故か嬉しそうに声を震わせる、


「これが神の眼ですねぇ!?使用者以外の全てのものの動きを封じるスキル!!!素晴らしいぃぃですぅぅう!!!」


 そして奴は、コレが神の眼のスキルだと熱く語り出した。


「この会場全体までとは…かなりの広範囲のスキルのようですねぇ…へへへ」


 真っ赤に染まった視界と、


 眼球が脈打つ感覚で次第に頭痛が酷くなってくる、


「ですがぁ…皆様ご安心下さい…既に手は打っております」


 そんな中、アルフォードは落ち着くようにと貴族達に呼び掛けている、


 それとほぼ同時に、


 ――ガチャン。


 天井から何か仕掛けが外れるような音が響き、


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 超巨大キメラが壁となっている俺達の頭上、


 その天井だけが鈍い音を立てながらゆっくりと落ちてきた。


「ひゃははは!!皆様皆様っ!!あの天井がキメラもろとも侵入者をぺっちゃんこにした瞬間にっ!!この硬直スキルも解けますので、もう暫くお待ち下さい!!」


 神の眼で、動きを封じるだけじゃ全然意味がない、


 あのまま天井に押し潰されるのを待つだけとか全然意味がない、


 ここを突破して、


 リズを助け出すんだ、


 その為に、俺はここまで来たんだろうが。


 もし、まだ俺に何か力があるんなら、


 チート的な力があるんなら、


 後から身体がどうにかなろうと関係ない、


 それを今俺に使わせてくれ、


 神の腕みたいな一撃で敵を粉砕できるような力を、


 この状況をひっくり返せるような圧倒的な力を。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 少しずつ着実に、俺とマルコの死を告げるカウントダウンが迫ってくる中、


 突如俺の右腕が、異常な程に熱くなる。


 ――ジュュュ。


 そして俺の身体を巻き付けていた触手が突然溶けて消滅した。


「……くっ…ゴホゴホッ…」


 一瞬何が起きたのか分からなかった、


 しかし、今俺の目の前で確かに触手は消滅した。


「…ゴホッ……はぁはぁ……」


 ずっと気色悪い触手に絡まれていたせいでむせてしまい、


 右腕で口元を拭う、


 しかしその時に、


 ――あぁ、なるほど。


 そういう事だったのかと、


 俺は全てを理解した。


「なっ…カトーさん…何故っ!!?」


 触手を消滅させた俺を見て、


 アルフォードが身体を硬直させたまま驚愕している、


「え……カトー…さん…?」


 そんなアルフォードの言葉に、


 リズも驚きの声をあげる。


 ズキン、ズキンと目の奥が、頭が痛い、


 視界の赤がどんどん濃くなる感じがあり気分も悪くなる、


 尋常じゃないくらいに右腕も熱い。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 俺はゆっくりと起き上がり、


 落ちてくる天井を見つめ、


「……あ〜、どこまでも手の込んだ真似を」


 狡猾で緻密な計画を練っていたアルフォードに対して、皮肉に笑う。


 そしてすぐにマルコに巻き付いている触手や超巨大キメラ達を、


「うおおおおおおお!!!」


 神の腕を使い、次々と消滅させて行く。


「ひぃぃぃ!!!?」


 会場中に居る貴族達は身体が硬直したまま、


 逃げる事も出来ずに、


「やっ…やばいやばいっ……やばい、やばいぃぃぃ」


 キメラの折をぶっ壊し、そこからマルコを引きずり抜け出してきた俺を見て震え上がっている。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ、ドォォォォン!!!


 背後で、天井が地面に沈んで行く轟音が響く、


「…ふふ、全ての動きを止める事ができる…スキルと……触れただけで……相手を消滅する事ができるスキルなんて…反則ね…」


 安全な所までマルコを引きずり、


 そのまま一人でステージに向かおうとする俺に、


 マルコはボソリと呟く。


「…凄く心強いけど…今のあんたの眼……悪魔みたいに真っ赤だわ…」


 マルコのその言葉に、


 俺は鼻で笑い、歩みを進める。


 一歩、一歩と進む度に、


「ひぃいいいいいいいいい」


 会場中の貴族達の悲鳴が聞こえる、


「たっ……助けてくれぇええええええ」


 完全に身体が動かせず、


 目と、口と、顔の筋肉だけをぎこちなく動かし、


 恐怖に歪むそんな貴族達の顔は、


「しっ……死にたくないぃいいいいいいいいい」


 ざまぁないくらいに見ものだった。


 しかし、こいつ等ザコに構ってる暇はない、


 俺の狙いは最初からアイツだけだ。


 左腕一つで貴族達を掻き分けるように進み、


 俺はステージ上に居るアルフォードを睨み付ける、


「…ひっ!!?」


 アルフォードはステージ上で硬直したまま、


 まるで蛇に睨まれるカエルのように初めて怯える表情を見せる。


「な、何故ですぅう!?……なっ…何故っ……何故神の腕が使えるんですかぁああああ!!?」


 アルフォードは完全に取り乱し、


「確かにっ……私は確かにカトーさんのステータスを完璧に調べあげましたっ……神の腕は一日一回が限界なはずっ……い、いぃいいったい…どうして!!?」


 一歩、また一歩と俺が歩みを進める度に、


 憎らしくニタニタ笑っていたあの顔は見る影もなく、


 青ざめ恐怖で歪み、震え上がっている。


「…そこで待ってろ」


 奴の元まであと少しあるこの距離が、


 そのまま奴にとっての敗北を告げるカウンドダウンだ。



 ◇



 初めてアルフォードと会った時は爽やかで胡散臭い奴としか思わなかった、


 しかし奴と時間を重ね、


 色々とお互い胸の内を語り合う度に、


 意外と熱く、正義感が強く、


 それでいて自分の芯が強い奴だなって思った。


 本当にアルフォードとは数日の付き合いしかなかったが、


 俺は本気で奴の事を信頼していたし、


 きっとコイツとなら、良い友情を育めるんだろうなとも思っていた。


 しかし、本当に馬鹿だった、


 本当に俺は馬鹿だった。


 こんな、簡単に騙され、


 リズもこんな危険な目にあわされて、


 きっとあの時、ダークハーフエルフだとリズが否定された時に庇ってくれたアルフォードが俺の中で良い奴に見えて、


 この世界にも、リズの事を分かってくれる奴が居るんだって信じたかったのかも知れない、


 奴は全てそれが分かってた上で俺達の懐に入り込み、籠絡していったんだ。


 あの時も、あの時も、あの時も、


 全てはこのオークションの為、


 リズに付加価値を付け、高値で変態野郎どもに売りとばす為の小芝居だったんだ、


 俺達が嗅ぎつけて乗り込んで来るのも想定内で、


 そんな俺達をリズの前で殺して見せるのも奴の中の余興の一環として計画していたのだろう。


 全て、さっきまでのあの瞬間まで、


 奴の計画通りに進んでいた、


 掌で踊っていたんだ、


 それはそれは、さぞかし楽しくて仕方なかったんだろうな、


 小芝居をしながらも、腹ん中じゃ笑い転げていたんだろう、


 そうだろ、なぁ?


「アルフォードォオオオオオオオオオオ!!!」


 ステージ上まで辿り着いた俺はそのまま全力で走り、


「ひぃいいいいい!!!?」


 左拳でおもいっきりアルフォードの顔面を殴り付ける。


 ――ドゴッ!!


「ふがぁあっ!!?」


 アルフォードはその一撃で派手に転び、まるでマネキンが倒れるみたいに変な体勢で地面に倒れた。


「…たたたた助けっ……助けて下さいぃいいいいいいいいい…」


 呆気なく命乞いをしてくるアルフォードを見下ろしても、


「助けてくれだぁ…?」


 俺の感情はおさまらなかった。


「ふざけんじゃねぇぞ…?」


 そのままアルフォードの上に馬乗りの状態になり、


 左拳で、何度も奴の顔面を殴り付ける。


 ――ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!


「痛いぃいいいいいいいいい……はぁはぁ……も、ももももうっ……やめて下さいぃいいいいいいいいい」


 アルフォードは鼻血と涙でぐちゃぐちゃになった顔で許してくれと悲痛な叫びをあげ続ける、


 それでも俺は、何度も何度も何度も何度も何度も奴の顔面を殴り続けた。


 ――ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!ドゴッ!!


「ひゅー…ぜぇ…ひゅー…ぜぇぜぇ……ゲホッゲホッ……も、もう……ゆるひて…くらはい……」


 アルフォードの顔はパンパンに腫れ、


 もう既に誰か分からない程になっている。


 それでも、やっぱり俺の怒りはおさまらず、


「クソがっ!!」


 ――ドゴッ!!!


 左拳を振り下ろす。


「クソがっ!!!」


 ――ドゴッ!!!


 俺は左腕がつりそうになるくらい、何度も左拳を奴の顔面に振り下ろした。


 次第にアルフォードはうめき、苦しそうに呼吸するだけで何も喋らなくなった。


「……はぁ…はぁ……おいっ」


 奴の頬をバチンと叩く、


「…おいって!!」


 再び頬をバチンと叩くが、


 もう奴は言葉を発せれる状態ではなくなっていた。


 ――これで終わり?


 こんなので、終わりなのか?

 

 まだ全然、まだ全然殴り足りねぇ。


「…はぁ…はぁ……」


 もっとコイツを痛め付けたい、


 もっとコイツを苦しませたい、


 もっとコイツをズタズタにしてやりたい。


「…はぁ……はぁはぁ……くっ」


 殴り疲れ、さっきから眼の中に入り込んでくる大粒の汗を右腕で拭う、


 その時に、奴に対して膨大に膨れ上がっている憎悪の感情が俺にこう囁いた、


 ――奴をこのまま殺せと。


「…はぁ……はぁ……はぁ……」


 俺は暫くの間自分の右手を見つめ、


 思考を巡らせる。


 アルフォードを殺す、


 アルフォードを殺す、今から殺す、


 この右手で奴に触れるだけで、


 それだけで奴は今までのモンスターのように消滅する、


 何、簡単な事だ、


 別に刃物や素手で物理的に殺す必要はないんだ、


 殺人に対しての罪悪感などはないはずだ。


 そもそも、俺はさっきまで元人間だったキメラ達を何体も殺してきたじゃないか、


 腕がつる程奴を殴り続けても、


 全く怒りがおさまらないんだろ?


 それにコイツをこのまま生かしておいたら、絶対にろくなことにならない、


 何、簡単だ、この右手で触れるだけでいいんだ。


「…はぁ……はぁはぁ……」


 それだけで奴は、アルフォードは、

  

 まるで初めからそこに居なかったかのように溶けて、


 一瞬で消滅する。

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