35話.一途な想い 前編
初めて好きになった人が居た。
その人に告白して、OK貰えた時は死ぬ程嬉しかったのを覚えている。
でも、その人には実は彼氏が居たらしくて、
彼女と一緒に居る所をたまたま見られて、
僕は彼氏さんに死ぬ程殴られた。
そして僕がボコボコに殴られ終わった後、
その人が僕に言ったあの言葉が、
実はまだ、忘れられないでいる。
◇
イギリス人の母は、日本人の父と結婚して、
僕を日本で育ててくれた。
父の浮気に耐えられなくなった母は父と離婚、
それは、僕がまだ小学三年生の時だった。
母は僕を連れてイギリスに帰国しようとしてたらしいんだけど、日本のアニメが大好きな僕の為だけに日本に残って、女手一つで僕を育ててくれた。
母は仕事が忙しくて、家には殆どいなかったけど、
アニメやマンガがあるから僕は寂しくなんてなかった。
僕は十代後半になっても、
ずっと異世界に憧れていた、
異世界転移作品、異世界転生作品、
小説、マンガ、アニメ、全部が僕の癒しで、
僕の憧れで、その作品に触れている時間だけが、
本当に僕の幸せな時間だった。
周囲の子達は僕の事をオタクだとか、
意外と根暗なんだ?って馬鹿にする子達ばっかりだったけど、
でも何度も言うけど、自分の趣味に没頭する時間が、
本当に幸せな時間だったんだ。
色々なお気に入りの作品はあったけど、
やっぱり、その中でも1番のお気に入り作品が、
盾の勇者だ。
そしてその作品に出てくる元奴隷の亜人ヒロイン、
僕は彼女に恋をしていた。
どんな時でも彼女は主人公の味方で、
どんな時でも彼女は主人公の事を一番に考えてくれて、
どんな時でも彼女は一途に主人公の事を想ってくれていた。
僕もいつか、そんな人と出会ったら
絶対にその人を裏切らず、
ずっとその人と二人で幸せに暮らしていきたいってそう思っていた。
でも結局、念願の異世界に来てからも僕が好きになった人は一途な人とはほど遠い人で、
カトーさんに見てろって言われた、あの日の夜も、
僕は馬鹿みたいに最後まであの人の事を信じていた。
でも結局はカトーさんの言う通りの結果で、
あの人も、あの時のあの人と同じで、
僕が探していた、一途に僕の事を想ってくれる人じゃなかった。
僕は一度好きになった人ができたら、
その人以外の事なんてどうでもよくて、
むしろ、その人を悲しませないようにって、
少しでも嫌な思いをさせたくなくて、
そっちの事ばっかり考えるのに、
あんな風な人達は、きっと僕とは考え方が根本的に違うのかもしれないと、この時に思った。
それと、後からカトーさんに笑いながら言われたけど、
僕は本当に人を見る目がないみたいだ。
◇
「そんな引き寄せるだけのスキルなんて無駄ですよぉおおおおおおお!!!」
彼女は絶叫をあげながら、
左腕を大きく振りかぶり、僕に殴り掛かってくる。
――ドンッ!!!
鈍い音が鳴り、
歪に変形した彼女の拳を僕は盾で防ぐ、
「……くっ!!」
しかし、彼女の拳はあまりにも重く、
完全に防ぐ事は出来たものの、
あまりの衝撃で後方に少し身体が動かされてしまった。
「あはは〜、流石のエイル様もぉ!」
彼女は子供みたいにはしゃぎながら、
「この攻撃はキツいんじゃないんですかぁ!?」
連続で拳を打ち込んでくる。
――ドンッ!!ドンッ!!!ドンッ!!!
何度も何度も鈍い音が響き渡り、
その全ての攻撃を防ぎきった僕の盾からは、
摩擦による煙が出てきていた。
「まだまだっ……これからですよ」
僕は彼女に余裕な表情を向ける、
もちろんハッタリだ。
このままスキル無しで彼女の攻撃を永遠に防ぎきる自信なんてない。
「僕はっ……リズさんパーティーのタンクですから」
それでもニッと口角を上げ、
僕は彼女に余裕の笑みをおくる。
「ふふっ…何ですかぁ?その余裕な表情…凄くむかつくんですけどぉおおおおおお!?」
彼女は表情を歪ませ、
鈴の音と共に再び攻撃を仕掛けてくる。
もっと本気で、ぶつかっていかないとダメだ、
彼女の攻撃を踏ん張って耐えるだけではなくて、
「僕だって!伊達に防御力上げてませんよぉぉぉ!!」
一歩踏み出して、自分から彼女の攻撃にぶつかっていくんだ。
――ドンッ!!!!
盾を両手で構えたままのタックルと、彼女の左拳がぶつかり合う。
「うっ…うわっ!?」
遂に彼女もその衝撃で後方に身体が吹き飛び、一瞬体勢を崩す。
「うおおおおおお!!」
その隙を逃さず、更に彼女目掛けて突進する。
「し、しまっ!?」
僕は彼女に体当たりをする形で、
――バッ、ドンッ!!
そのまま地面に一緒に倒れ込む。
彼女の上に馬乗りになり、
下から睨み上げてくる彼女の顔を見つめる。
「メルルさん…」
初めて彼女と出会った時、
僕はあの盾の勇者に出てきたヒロインの子に似てるなって思った。
それから彼女と接していく内に、
僕はどんどん彼女に惹かれていった。
カトーさんにはまた『見る目がない』とか『ロリコン野郎確定だな』とか色々馬鹿にされたけど、
それでも彼女に会えば会う分だけ、
心は彼女の事ばっかりで埋め尽くされていた。
「僕…カトーさんに、お前は見る目がないって言われてるんです」
「あははっ…それは言えてるかもですね?結局エイル様はこんな私の正体に気付かなかった訳ですから」
卑屈に笑いながら、彼女は身体を起こそうと暴れる、
「こんな姿見ちゃったら、そりゃ恋の魔法だって覚めちゃいますもんねっ!?」
そして左腕を使い、寝転がりながらも馬乗りになる僕に殴り掛かってきた。
――ドンッ!
ギリギリの所で彼女の攻撃を盾で防ぐ、
下からの攻撃だからか、彼女の拳はさっきよりも重くなく防いだ後も体勢を崩さずに済んだ。
「くっ……は、離して下さいぃ!!」
暴れる彼女を押さえ込み、僕は言葉を続ける。
「……結局、こんな形で戦い合う結末しかなかったんなら…ある意味、やっぱり僕は見る目がなかったんでしょうね…」
「は、離せぇぇえ!!」
ジタバタと動く彼女を必死に押さえながら、
僕は真っ直ぐに彼女を見つめる、
「…でも、やっぱり」
そして、こっちを睨んできた彼女と目が合ったタイミングで、
「好きです、メルルさん」
僕は彼女に告白をした。




