32話.箱の虫
次々と仲間のはずのキメラを共食いしていくソイツは、まだ辛うじで人だった頃の原型を保ってはいるが、
もはや化け物としか言いようのない存在と化していた。
バリバリ、ムシャムシャと豪快な咀嚼音を響かせるソイツを見つめながらマルコが呟く。
「ここは箱の虫って訳ね….」
「何だよそれ?」
「昔最強の毒虫を作ろうとしてある人物が、大量の虫を箱に閉じ込めて…その中で共食いさせ、最後に残った虫を最強の毒虫として用いたって話があってね?」
マルコが険しい表情をしながら語り出す、
「…モンスターでも同じ事をやった輩が居たって話には聞いていたけど…まさか、キメラでもそれを試してるなんて…悪趣味極まりないわ…」
そして嫌悪感剥き出しに吐き捨てるように呟いた。
部屋中のキメラを全員食い散らかしたソイツは、
「きききききききききききききききき」
身体を痙攣させながら再び気色の悪い鳴き声をあげる。
「箱の虫…」
何か現代でも似たような呪術を聞いた事がある、
確か蛇やムカデなどを閉じ込めて共食いさせる奴で、
確か…蠱毒とかだったような気がする。
「ききっ……」
ソイツはくるりとコチラに振り向く、
そしてパンパンに膨張している触手部分をグニャグニャと自在に動かし、伸ばし、
「ひょほほほほほほほほほほほほほほ」
薄気味悪い声と共に俺達目掛け襲い掛かってきた。
「ちょっと来い!!」
俺はエイルの首根っこを掴み、
「うわっ!?ちょ、ちょっと!?」
襲い掛かってくる触手にエイルを差し出す。
「ひっ!?」
――ガンッ!!
硬い金属音のような音が鳴り響き、
お馴染みになってきたエイルの人間シールドで触手攻撃を完全に防ぐ事が出来た。
「あっぶねぇ…」
まじであんな攻撃食らってしまったらひとたまりも無さそうだ。
「あっぶねぇのはコッチですよ!?」
涙目のエイルに睨まれ、
「絶対防御のスキル発動しなかったら今のどうなってたか!?」
スキルを発動した事で何とか防げたんだと声を荒げられる。
「悪い悪い、でも今はそんなやり取りしてる余裕はねぇ」
「何ですかそれ!?」
なるほどな、流石のエイルでもあの攻撃をもらうとやばいって思った訳か。
「…なら、次攻めてくる前に叩くまでだっ!!」
俺は再び神の脚を発動させ、
巨大なソイツの頭部目掛けて高く飛ぶ、
「マルコッ!援護頼む!!」
「任せて頂戴!!」
マルコは俺の掛け声を待ってたかのように迅速な対応で詠唱を唱え始めた。
ウネウネと動く触手部分に近付けば近付く程、
グロテスクなそれの気持ち悪さを目の当たりにしてしまう。
「…気持ちわりーんだ、よっ!!」
俺はそのまま上空で身体を回転させ、
触手部分に回し蹴りのようにフライングニールキックをぶちかます。
――ブチッ!!
嫌な音と共に触手の数本が千切れる、
しかしその千切れ目からは、ブニャブニャとまた色違いで別のミミズのようなものが現れる。
「ひょほほほほほほほほはほほほほほ」
そしてその新しく生えてきたミミズのような触手が落下していく俺目掛けて襲い掛かってくる。
「…くっそ!?」
――ドォォォン!!ドォォォン!!
横から火炎の弾丸が触手に命中し、
俺は何とかソイツからの返り討ちを受けなくて済んだ。
「マルコ…助かった…」
「攻め過ぎも禁物よ、カトーさん」
しかし、マルコの黒魔法が当たってもソイツは軽く怯んだくらいでピンピンしていた。
「…触手千切っても生えてくるとか、どうすりゃいいんだよ」
さっきまでのキメラは触手を攻撃すれば一瞬で消滅していた、
しかし今回のコイツはやはりと言った所か、そんな簡単にはいかなかった。
「取り敢えず…やれるだけやるしか、ないわっ!!」
マルコは再び詠唱を唱え、火炎の弾丸を放つ。
――ドォォォン!!ドォォォン!!
マルコの黒魔法に紛れ俺も高速で移動し、
「オラァァ!!」
ソイツの身体の隅々に連続で蹴りの攻撃を放つ。
「きききききききききききききききき」
身体を痙攣させながらソイツは不気味な声をあげる、
俺とマルコの攻撃は効いてはいるようなのだが、これといって致命的なダメージを与えられずにいた。
「チッ……おら、また来るぞっ!?」
再び触手での攻撃を行おうとしてくるソイツを見つめながら俺はエイルとマルコに煽る。
「分かってるわよっ!!」
「は、はいっ!!」
最初に俺をターゲットに絞った触手攻撃を、神の脚で強化された機動力を活かし避ける、
しかし俺に避けられた触手はそのままぐんぐん伸び続け、後方に居るエイル達目掛けて進んで行く。
「僕に任せて下さいっ!!」
マルコを後ろに隠し、エイルが面と向かって触手攻撃を盾で受け止める。
――ガンッ!ガガガガンッ!!
今度は絶対防御のスキルを発動させず直接盾で防ごうと踏ん張るエイル、
「くっ…防いでみせますっ!!」
しかしスキル無しだとこの攻撃はエイルでも厳しいようで、触手攻撃を防ごうとする度に衝撃で後方にジリジリと追いやられてしまっていた。
――ガガガガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!
触手攻撃を何とか防ぎきったエイルの盾からは摩擦による煙が出ている。
「…はぁ…はぁ…」
スキルは使用しなかったが、防ぐのに全力を出しきったように見えるエイルは肩で呼吸をしていた、
マルコはそんなエイルの肩をポンと叩き、
何とも厳つい笑顔でウインクを飛ばす、
「エイルちゃん、選手交代よ」
そしてエイルより前方に出て詠唱を唱える。
「カトーさん?へばってる暇はないわよ!!」
俺に喝を飛ばしながら、再びマルコが火炎の弾丸を敵に放ち始めた。
――ドォォォン!!ドォォォン!!
「うっせーな」
悪態をつきながら、俺も再びソイツへの攻撃を再開する。
つーか、必死こいて真面目に戦ってるこの展開が、
「…まじで、週刊少年ジャンプじゃねーかよ」
少年誌のバトル漫画的なシュチュエーション過ぎて、
客観的に自分達を想像するとまじで笑えてくる。
しかし、コイツが強敵なのは事実で、
俺達に時間もないのも事実だった。
――ダッダッダッ!!ダッ!!
俺は全速力で壁を駆け上がり、
「……そろそろっ…くたばれ、よっ!!」
そのまま三角飛びでソイツの人部分の後頭部に延髄蹴りをぶちかます。
「きききぃ!?」
俺とマルコの必死の攻撃でやっとソイツは痛がる素振りを見せた、
「マルコッ!!今しかねーぞっ!?」
「分かってるわよっ!!」
その隙を逃さないと、俺達はそこから更に追い込みをかけ途切れずに攻撃を繰り出す。
「き、ききぃ!?」
いける、いける、このペースで行けば確実にコイツを仕留められる。
俺達がそう確信したとほぼ同時のタイミングで、
――ゴォォォン!!ゴォォォン!!ゴォォォン!!
爆音で奏でるベース音のような内臓に響く重低音が室内に鳴り響く。
――ゴォォォン!!ゴォォォン!!ゴォォォン!!
「うわあああああああああああああ」
膝を付き四つん這いになるソイツは、
まるでこの音に怯えるように、
子供の悲鳴みたいな奇声をあげる。
「な、何だ…何が起きたんだ!?」
「分かんないですよっ!?」
「…何か、来るわよ!!」
――ゴォォォン!!ゴォォォン!!
地響きが途中で鳴り終わり、
次の階に繋がる階段がある空間からゆらりと巨大な顔を覗かせるソイツ。
「うわあああああああああああああ」
キメラが発する子供のような奇声が鳴り響く異様な光景の中、
「…まじ、かよ」
「…これは、もうやばそうね」
俺達は一瞬目を疑う。
何故なら俺達の目の前に、
さっきまで戦っていた奴よりも更に巨大な身体をしたキメラが姿を現したからだ。




