31話.地下の底
マルコのおかげで、地下のオークション会場にはあっという間に着く事が出来た。
「皆様、本日はお集まり頂き誠に有難う御座います」
壁一枚の向こうの部屋から男の声が響いてくる。
「…カトーさん」
その声を聞き、エイルが泣きそうな顔をする。
「あぁ」
あの声、聞き間違える訳がない。
「間違いない、あの声はアルフォードだ…」
正直あの声を聞くまで、心のどこかでは別の誰かであってほしいと願っている自分がいた。
しかし、いざ奴の名を口にすると、
アルフォードに対する怒りが沸々と込み上げてきた。
今までのは全部奴の演技だったのだろう、
でも、アレも?コンテスト会場を出る前に部下達に怒っていたアレも俺を欺く為の、わざわざそれだけの演出だったのか?
そうなると何処までも狡猾で緻密な計画を練り実行しているアルフォードが何とも恐ろしい奴にも思えてくる。
「……このまま回り込んで、会場の裏口に向かうわよ?」
「あぁ」
未だに泣きそうな顔をしているエイルの背中を軽く叩き、声を掛ける。
「おら、行くぞ?」
「……うぅ……は、はい…」
エイルを連れて、俺はマルコの後に続く。
「…おそらくだけど、そこにお嬢ちゃんもいるはずよ」
もうすぐだ、もうすぐでリズの元まで辿り着ける。
「……ここからは静かにしてよね?」
声のボリュームを落とすように指示をしてくるマルコに俺達は頷く。
「今回は最後に大目玉商品が御座いますので、皆様お楽しみにお待ち下さいませ。あー、私それ気付いてますよ?って方がもしいらっしゃったとしてと、くれぐれも他言などされないようお願い致しますね?」
ジョークを交えたアルフォードのトークで会場にどっと笑いが起こる、
声しか聞こえてこないが、会場内でアルフォードがどんな表情で今喋っているのかと想像する事はできた。
もう、今は完全に奴に対して怒りの感情しかない。
「それでは…最初の商品から始めましょう」
このオークションで売られるのは全て様々な人種の人だった、
アルフォードはまるで、物をプレゼンするように
慣れた口調で悠々とその商品の価値を語り、物のように人を競りに掛ける。
壁一枚の向こうの部屋で大歓声が巻き起こり、オークションが始まった。
完全に胸クソ悪さで心を埋め尽くさせる。
あのアルフォードの悠々と語る口調も、ヘドが出るくらい気持ち悪く感じた。
「あー、申し訳御座いません。オークションを始めてしまいましたが、その前に御一つ余興が御座いました」
突然アルフォードがオークションを中断させる、
「実はこの会場に忍び込もうとして、オークションを邪魔しようとする連中が居るのですが」
会場は彼の言葉にざわつき出す。
「あー、あはは、申し訳御座いません。皆様を不安がらせるような事を言ってしまいましたね?安心して下さい、奴等は所詮袋の鼠ですよ」
「…二人共、気を付けて!?」
マルコが小声で叫ぶ。
「皆様には、捕らえた鼠をなぶり殺すショーを前座の余興としてお見せ致しましょう!!」
会場からは再び大歓声が巻き起こる。
「それでは、ショータイムです!!」
ノリノリで叫ぶアルフォードの掛け声と共に、
俺達の足場が一瞬で消え去る。
「やられたわっ!?」
「クソがっ!?」
そのままフワッとした感覚に襲われるのと同時に、
俺達の身体は暗闇の中に吸い込まれるように落下してしまった。
◇
暗闇の中で何かむしゃむしゃと咀嚼音のようなものが聞こえ、ハッと気がつく。
「クソ…いってぇ…」
落下の際に腰をぶつけてしまったようで、身体を動かす時に痛みが走る。
やられた、完全にやられた。
あれだけ回りくどい演出をやるような奴だ、
俺達が来る事も想定済みだったのだろう。
「カトーさん?大丈夫ですか?」
防御力が半端ないエイルは流石にぴんぴんしているようで、声を辿って俺の元に駆け寄ってきた。
「あー、何とかな…」
「……さっきからずっとこの音してるんですけど、一体何なんでしょう?」
俺もさっきからずっと気にはなっていた、
まるで何かが必死に食事を貪っているようなそんな咀嚼音のようなものがさっきから永遠と聞こえている。
俺はジッポの火をつけ、辺りを薄らと照らす。
壁際には四つん這いの格好をした人が見えた、
「……何やってんだ?」
俺はジッポの火を近付けながらその四つん這いの人に声を掛ける。
「ちょっと!カトーさん!!」
突然バッと背後から肩を掴まれ動きを制される、
「その人様子が変よ…?」
振り向くと背後からマルコが真剣な表情でその四つ這いの人を睨んでいる。
「ひっ!?」
エイルが突然悲鳴をあげ、
その声に反応するように四つん這いになる何者かが、ゆっくりと俺達の方に振り向く。
「…何だっ…こいつ!?」
おもわず口を塞ぎたくなるような腐敗臭を放つその何者かは、口の辺りから胸元まで裂けており、その裂け目からブニャブニャした寄生虫のようなものが飛び出している。
「キメラよ…」
完全にバイオハザードに出てくるゾンビのような容姿のソレを見つめ、呟くマルコ。
「しかも…最悪ね…。人とモンスターのキメラ…それの失敗作と言った所かしら」
「何だよそれ….」
「うううううううううううううう」
キメラはサイレンにも似た悲痛な鳴き声をあげる、
そして次の瞬間、俺達目掛けて飛び掛かって来た。
「エイルっ!?」
「はい!!」
キメラの突撃をエイルが盾で受け止め弾く。
盾で弾かれたキメラはその反動で軽く吹き飛ぶ、
「うううううううううううううううう」
しかし、すぐに身体を起こし再び俺達を威嚇し始めた。
「クソ…ジッポの火だけじゃ全然見えねぇ」
「任せて頂戴!!」
マルコが両手を叩き、
「常闇を照らす緑の炎よ」
詠唱を唱える。
「さぁ、出てらっしゃい!!」
マルコの掛け声と共に、彼の周囲に4〜5個くらいの緑の火の玉のようなものが現れる、
そしてそのおかげで、完全に緑色の輝きの中周囲が鮮明になった。
「おいおい、そういうの使えんなら最初から……って」
マルコに対して軽口を叩こうとしたが、周囲を見て途中でやめる。
「…奴はここで俺達を仕留める気らしいな?」
「えぇ…かなり囲まれてるわね…」
俺達の周りにはざっと数えても数十匹はいるんじゃないかという程のキメラに囲まれていた。
「「「ううううううううううううう」」」
この部屋全体に群がる全てのキメラ達が一斉に鳴き声をあげる。
「ど、どうしましょう!?」
「お前はマルコを庇いながら何とか耐えろ!!」
慌てているエイルに指示を出し、俺は痛む腰を軽く動かしながら姿勢を低くする、
「カトーさんは!?」
「あ?俺は余裕だっつーの、なんたって」
そしてエイルを見上げながらニヤリと笑い掛ける。
「俺TUEEEEな主人公野郎だからなっ!!!」
神の脚を発動させ、周囲に群がる一番近場に居たキメラに飛び掛かる。
「ううううううううううう」
キメラとの距離が近付くたびに奴等の悲痛な声がでかくなり、不気味さが増していく。
「おらぁぁ!!」
ウネウネと気持ち悪く動く寄生虫部分に、思いっきり振りかぶった蹴りをぶちかます。
「ううっ……うぅ」
最後まで苦しそうな悲痛な鳴き声をあげながら、蹴りをぶちかましたキメラが消滅していく。
人の部分がまだ残っているのだろうか?
消滅していく時も、何とも後味の悪い終わり方だ。
「クソッ!!」
しかしキメラにされ、こんな場所に閉じ込められている彼等に同情している余裕はこちらにはない。
「あっ……ぶねっ!?」
背後から触手の様に伸びる寄生虫部分に攻撃させるのを、間一髪で避ける。
「…クソがっ!!」
俺は横に身体を回転させ、
そのままの勢いで、触手部分にローリングソバットをかます。
――ブチッ!!
嫌な音が響き、触手のような寄生虫部分が千切れたキメラは口内からドロドロの液を吐き出しながら消滅した。
「お前等っ!あの気持ち悪い部分がこいつ等の弱点だっ!!」
「はっ…はい!!」
「了解よ!!」
そう、俺達は一刻も早くここを抜け出し、
リズ助を助けに行かなくてはならないのだ。
◇
「ひゅー、やるわねカトーさん」
部屋中のキメラを殆ど一人で全滅させた俺に向け口笛を吹くマルコ。
「お前も普通に戦えるんだな」
しかし、1、2匹はマルコが魔法で仕留めていたのを確認していた、
「うふ、これくらいは楽勝よ」
マルコの圧と強そうな雰囲気は見掛け倒しではなかったようだ。
階段を見つけ、俺達は上の階を目指し階段を駆け上る。
正直さっきぐらいの敵なら神の脚とマルコの魔法を使い、神の腕を温存した状態でアルフォードの元まで辿り着ける筈だ。
「こりゃまたすげー数だな」
次の階にも先程と同じようなキメラが何十匹も群がっており、俺達を待ち受けていた。
「「「うううううううううううう」」」
キメラ達が再びサイレンのような鳴き声をあげ、俺達を威嚇し始める。
しかし、そんな時だった。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
何処からか、とにかく大きい何かがこの部屋に向かってくる足音が響いてくる。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
足音はどんどん大きくなり、軽く地響きのような振動も地面を通して伝わってくる。
「「「うわああああああああ」」」
キメラ達はその足音を聞いた途端に、
まるで子供みたいな悲鳴をあげる、
「カ、カトーさん!?な、な、何か来ますよ!?」
「あぁ」
そして、その何かに完全に怯え逃げ惑っていた。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
「きききききききききききききききき」
豪快な足音を鳴らしながら現れたソイツは、
あのキメラ達が数百匹溶け合わさったようなグロテスクで巨大な容姿をしており、
部屋中で逃げ惑っているキメラ達を捕まえては、
俺達の目の前で捕食し始めた。
「…これは雲行きが怪しくなってきたわね」
「…まじ化け物じゃねーかよ」
「…は、はぃ…」
アルフォードがどこまで切り札があるか分からない以上は、神の腕は温存しておきたかったが、
しかし、明らかにコイツはやばそうな敵だった。




