29話.大都市アトン美少女コンテストPart Final
このコンテストの審査は、大都市アトンの領主含む側近達が行うようで、そういった意味でもまじで大掛かりなイベントになっていた。
全てのアピールタイムが終了し、
現在は、全ての女性達がステージの上に立ち、
一位から三位までの結果を待ち構えていた。
「それではぁぁぁあ!結果発表を致しますぅううう!!」
司会者は相変わらずのテンションで巻き舌シャウトをしている、
「…だからK1かよ」
やはり何度聞いても、あの司会者の喋り方は口出ししたくなるものだった。
「わわわ!カトーさん!カトーさん!遂に結果発表ですよぉおおお!?」
慌てふためくエイルが耳元で叫び、
俺の肩を揺さぶってくる、
「あー、うるせーぞエイル、ちょっと落ち着けよ」
ユサユサと揺さぶられながらも、俺はいつも通りのテンションで答えた。
「で、でもっ!?どどど、どうなるんでしょう!?」
それでも緊張状態が続きアタフタしているエイルに、俺は笑いながら呟く。
「本当にあいつが優勝したりしてな?」
ほんの冗談のつもりだった、
「第一位ィィィィ!!!エントリィィナンバァァア!!」
「おいおい…普通三位から発表じゃねーのかよ?」
「ニジュウイチイイイイイイ!!!」
「カ、カ、カ、カトーさん!?エントリーナンバー21って言いませんでした!?ねぇ!?」
しかし、そのほんの冗談のつもりで言った言葉が、
「リィィィィィィズゥウウウウウウウ!!!!」
「まじか…」
まさか本当になってしまった。
「「「うおおおおおおおお!!!リズちゃぁぁぁぁぁん!!!!」」」
完全にリズのファンと化した男性客が、彼女の一位を全力で喜び、歓喜の声をあげている。
彼女は見事一位を勝ち取り、ステージ上でファンに向かいピースサインを送っている、
もちろん、すげー腹立つくらいのドヤ顔でだ。
――そこから、二位と三位を告げる時の司会者がなんともやる気のないものだった。
「あー、それで二位はエントリーナンバー1のミミちゃんと、三位はエントリーナンバー20のカンナちゃんでーす」
「…おいおい、急にやる気なくし過ぎだろ」
あんな風に二位と三位を告げられても全く嬉しくないだろうに。
「うぅぅ……おめでとう、おめでとうございますぅぅ…リズさぁぁん」
「おいおい…」
エイルはエイルで、一位を取ったリズに感動して涙を流していた。
確かに一位を取った事は凄いと思うが、
「お前どんだけ感受性豊かなんだよ…」
「だ、だってぇぇ……」
正直泣くほどかよ。
◇
ステージ上では、一位から三位のみの女の子だけを残し一位に輝いたリズに賞金の小切手とティアラが贈られていた。
その後に一位に輝いたリズはスピーチをするらしい
のだが、確か予定ではここでウロボロスの情報収集をする的な事を言っていたはずだった。
「「「リィィズ!!リィィズ!!リィィズ!!」」」
会場からは大歓声のリズコールが鳴り響く。
「やー、やー、やー、くるしゅーないぞー」
完全に調子に乗りまくっているリズは、観客に向かい手を振っている。
「あのー、リズさん?せっかく一位に輝いたのですから、ティアラをかぶって頂けませんと?」
司会者がリズにティアラをかぶるようお願いする、
「あー、あはは。こんな感じかなー?」
リズは苦笑いを浮かべながら帽子の上からティアラをかぶるようなポーズを取る。
「いやいや、みんなコレが楽しみでもあるんですから、貸して下さい?」
司会者はそう言いながらリズからティアラを取り、
「失礼しますよ?」
「あっ、わっ!?ちょ!?」
彼女の帽子を無理矢理脱がせた、
「少し髪をながしてかぶると、とても大人っぽくてお似合いだと思います………えっ!?」
そしてリズの横髪を後ろにながし、ティアラをかぶせようとした瞬間に司会者はその人より少し長い耳に気が付いてしまった。
いつの間にか会場のリズコールも止んでおり、
辺りはシーンと静まり返っている。
「あ……あのっ……え、えっと……」
まさかダークエルフの血を引くものがコンテストに参加していると思ってもみなかったのだろう、
司会者は慌てふためきながら審査員に視線を送る。
「嘘だろ…ダークエルフじゃねーか…」
会場からはポツポツとリズに対する批判の声が聞こえ始め、
「うわ…俺ダークエルフに興奮しちまってたのかよ…最悪だ…」
みんなあんなにリズに歓声を送ってくれていたにも関わらず、好き放題に彼女を悪く言い出す、
「誰だよあの子参加させた奴…」
「ダークエルフが一位とか、頭おかしいだろ…審査やり直せよ…」
掌を返すとはまさにこの事だった。
「私最初から…あの子そうじゃないかって思ってたの…」
「ね?何か邪悪な雰囲気あったよね?」
それに便乗するように、リズの事を良く思っていなかった観客もここぞとばかりに声をあげる。
「確かに…それにあの褐色の肌、遠国の人とも違う黒さだよな?まじで、ダークエルフって感じの肌してるわ」
「分かります、不気味な肌色ですよね…」
叩く要素を見つけ晒し上げられた途端に、
みんな寄ってたかって何かを叩きだす、
まさに、現代でも異世界でも人間ってものは本当に同じのようだ。
「カトーさん…」
エイルがリズの事を心配そうに声を掛けてくる。
「あぁ…」
ステージ上でリズが何やら三位の子と絡んでいる、
必死に何かを訴えるリズからその子は目を逸らし、完全に彼女を無視しているように見える。
そんなリズはその子を見つめたまま、暗い表情で立ち尽くしていた。
次第に会場からは彼女を批判する声が大きくなり、
それが大ブーイングとなった。
「ダークエルフは早く消えろ!!」
「そうだそうだ!!目障りなんだよっ!!」
「さっさと街から出て行け!!」
会場からはステージ上のリズに向かい物を投げる観客もおり、
「お、お、落ち着いて下さい!?皆様!?」
司会者は取り乱しながらも、何とか観客を落ち着かせようとしていた。
それでも、観客からの大ブーイングは治らず、
突如審査員からの伝令を受けた司会者が、無理矢理笑顔を作り直しアナウンスをする。
「審査には、少し手違いがあったそうです!!」
そして仕切り直すように、完全にリズを除外したランク付けがやり直され二位の子が繰り上がる形で一位と選ばれたのだった。
◇
「正直言って私はあの審査には納得がいっていませんでした」
そんな冒頭の語り口から始まった一位の彼女のスピーチは、彼女自身のプライドの高さと、ダークエルフに対する嫌悪感剥き出しの内容だった。
もう少しで大都市アトンの名を汚すような大会になるところだった、
そもそも、あの子は物珍しいってだけで過大評価されていたに過ぎない、
他にも色々言っていたが、正直言って彼女のスピーチの内容は全然頭に入ってこなかった。
「おめでとうございます」
司会者が笑顔でトロフィー代わりのティアラを一位の彼女の頭にかぶせる、
そんな彼女はもの凄く自信に満ちた表情で観客に手を振っていた。
完全に仕切り直された事により落ち着きを取り戻した会場は彼女に向かい暖かい拍手を贈る、
それはステージ上に居る、三位から二位に繰り上がったさっきの彼女も同様だった。
「いや〜、一時はどうなるかと思ったぜ〜」
ヘラヘラしながら観客の一人が呟く、
「なー?それにホラ、見てみろよ?ステージの隅っこにいるダークエルフ…もう完全に立ち直れないって顔してんぜ?まじうけるんだけど」
その隣に居たもう一人の観客も、へらへらしながらリズの事を馬鹿にして笑う。
「くくく、こんな風に袋叩きに会いたくなかったら最初から人里に降りてくんなよって話だよな?」
「だから、まじそれな?」
そんな二人組の観客をジッと睨み、
「……くっ」
必死に握り拳を震わせるエイル、
リズの事を馬鹿にする彼等に、ダークエルフだからという理由だけで一位の座を下ろした審査員に、彼はこの場に居る全員に怒りをあらわにしていた。
俺は何を言わず、彼の背中を軽く叩く。
「…カトーさん」
凄く悔しそうな表情で俺を見つめるエイル。
エイルの気持ちはわかる、
しかし、結局俺達みたいなのが世間からすれば少数派で、
ここであいつ等にキレた所で何も変わらない、
何も解決しない、この世界はこのように出来ているのだ。
――突然周囲がざわつき出し、俺はステージ上に視線を戻した。
いつの間にか一位の子を押し除け、リズがステージ中央に立っていた。
そして彼女はこともあろうか、
「あのさ、本当にみんな何なの?」
会場全体に向け、語り出したのだった。
◇
「ボクはダークハーフエルフだけどずっと人と変わらないようにお父さんに育てられてきた、だけど普通の人と違ったのは街の人達からボクが差別されて生きてきたって事。そんなお父さんはボクを庇うあまりに街の人達から差別されるようになって、お父さん病気だったんだけど、お父さんに売る薬はないって薬も売ってもらえなくて、お父さんはずっと前に死んじゃって…そっからずっと一人で生きてきた、ダークエルフ達からしてもボクはどうやら呪われた子だって、産まれてきちゃ行けなかった子なんだって言われて何度も殺されそうになったよ」
突如語り出したリズに会場全体が唖然とする。
「ずっと何処にも居場所なんかなかった!でも、それでもお父さんに言われてたから、ボクはそれでも人間の事が好きだから、ずっと仲良くしたいって思ってたの!!それってさ?そんなに駄目な事だったの?」
「や、やめなさい!!」
司会者が慌ててリズを止めに入る、
しかし彼女は必死に抵抗しながらも会場全体を睨み、言葉を続ける。
「みんなボクの事褒めてくれたじゃん!!ボクの事応援してくれてたじゃん!!なのにさ?正体がダークハーフエルフだって分かった途端に掌を返してさ?みんな酷いよ!!」
そして、さっきの二位の子に対してもリズは再び大声で訴え掛ける。
「カンナ……ボク、カンナと友達になれたと思ってたのに……でもそれも、全部ボクの勘違いだったんだよね?…確かにダークハーフエルフなのを黙ってたのは、悪かったと思ってる……。ううん、やっぱり悪い何て思ってない、だってそうじゃん?正体隠してないとみんなボクを悪く言うでしょ?仲良くしてくれないでしょ?そんな風にされたら正体だって隠したくなるよ!違う?ボク間違ってる!?」
二位の子は、リズに対して何も答えず、完全にどうしていいか分からないと言った表情で再び目を逸らした。
「…あっそ、もういいよ…」
「いい加減にしろっ!!」
司会者がリズを無理矢理地面に倒し抑え込む、
「あうっ!?」
彼女は倒された勢いでそのままステージに顔面を打ち付ける。
しかし、彼女はうつ伏せに倒されながらも、キッと会場全体を睨み叫び続けた。
「……ボクはっ!確かにダークエルフの血を引いてるけどっ!…ボクは人や亜人やエルフ達を傷付けたりだとかした事ないよっ!?むしろいつも逆だった!!さっきみたいに物とか石とか投げられて!!無視されて!!時には凄く酷い事もされた!!ずっと嫌な思いして生きてきたのはボクの方だよっ!?コンテストぐらい参加したって別にいいじゃん!!人と仲良くしたいって、普通な女の子として接してもらいたいって思ったっていいじゃん!!ボクはみんなと何が違うって言うんだよ!?ねぇ?ちょっと耳が長くて、肌が黒いだけで、あとは何もみんなと変わらないのにさっ!?ボクだってコンテスト出たいよ!!普通に友達だって欲しいよ!!普通な…女の子みたいに誰かに愛されたいよ…」
次第に彼女は声を震わせる、
ずっと我慢してたのだろう、
しかしもう涙を堪える事が出来ないようだった。
「…ねぇ、ボクはみんなと何が違うの?ボクの何が駄目だったの?誰か教えてよ…」
「もう喋るな!!」
司会者がリズに向かい怒鳴ったタイミングで、
主催側のスタッフ達がステージに集まり、
複数人でリズをバックヤードまで引っ込ませる。
リズの主張により会場は再び静まり返っていた、
しかしその内に、
「…で、でもそんな事言ってもよ?こないだも人を数人殺してたじゃねーかよ?ダークエルフ達がよ?」
「…うん、あの子はあんな風に言うけど…結局ダークエルフなのには変わりないないし…やっぱり、邪悪な雰囲気あるよね?」
ポツリとポツリと、俺達は私達は悪くない間違ってないと、
みんな口々に自分の行いを、自分の正当性を確かめ合う。
「…わかる。結局あの子がいじめられてたのも、絶対にあの子自身にも原因あると思うんだよな?」
そして、次第にリズに対する批判の声は、更に輪を掛けてデカくなっていった。
「だよな?…それなのに如何にも私は可哀想なんです、私は悪くないんですって言ってる時点で完全に自分の事しか考えてなくね?」
「それ分かる!そんな所が如何にも邪悪で自己中心的な考え方をしてるダークエルフっぽいのよね?」
「え、えーっ!皆さん!静粛に!静粛にお願い致します!!」
司会者が、ざわざわしている会場を取り仕切る、
「大変お騒がせ致しましたが、これより通常通りに閉会式に移らせて頂きます!」
そして完全に笑顔を作り直し、
審査員席側に手を翳しながら司会進行する。
「それでは、本日は審査員も務めて下さいました領主様より一言!!皆さん拍手で迎えて下さーーい!!」
「悪い…エイル、ちょっとあいつの事頼む」
会場全体が盛大な拍手をする最中、
「あ、ちょっと!カトーさん!?」
俺は一人会場を後にする。
◇
「貴方達は本当に何て事をしてくれたんですかっ!?」
会場を出る途中の通路では、アルフォードが烈火の如く部下数人を怒鳴りつけていた。
「い、いや…ですが…ティアラをかぶせてあげるまでが一連のマニュアルであって…」
部下の一人がアルフォードに言い訳をする、
しかしそれが更に彼に火を付ける事になった。
「彼女に関してはマニュアル通りのティアラ受け渡しは必要ないって言いましたよね!?聞いてませんでした何て言わせませんよ!?」
「も、申し訳ございません……」
「はぁ…泣きたいのはこっちですよ…」
彼は完全にイライラした様子で額に手を当てている、
「アルフォード」
俺はそんな彼に声を掛けた。
「カ、カトーさん!?」
アルフォードは俺の声に気付き、
「本当に申し訳ございませんでしたっ!!」
深々と頭を下げるのだった。
そして、彼は頭を下げたまま、
「全て私の教育不足によるものです、本当に申し訳ございませんでした!!」
必死に謝罪を繰り返してきた。
「頭を上げろよ…別にお前が悪い訳でもねーだろ」
「…で、ですが…それでもこんな事態になってしまったのは…」
頑なに頭を上げようとしないアルフォード、
「…コンテストに出るって決めた時点でどっかであいつも覚悟してた事だとは思うぜ?」
俺はそんな彼に再び頭を上げるように伝える。
「本当に申し訳ございません……」
そこでようやくアルフォードは顔を上げる、
しかしその途端に俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
「カトーさん…大丈夫ですか?」
「は?何がだよ?」
「あっ……いや、その……」
言葉を詰まらせるアルフォード。
「悪い、エイルを残してるから。あいつの事頼む」
俺は彼の肩をポンと叩き、
「あっ!ちょっとカトーさん!?」
その場を後にした。
◇
リズの涙ながらの主張は少なくとも人々に何かを刻む事ができただろう、
でも、結局最後みたいに人々は自分達が気付かないといけない事を、見て見ぬフリをする事を選んだ、
みんなで見たくないものにフタをして、
そして如何にも、それが正しい行動だと馴れ合う。
そりゃそうだ、人はそんなに簡単に変わらないし変われないんだ、
新しい何かを受け入れてしまうと、
それを受け入れたあまりに今の自分を過去の自分を否定しないといけなくなってしまう事になるからだ、
きっとみんな頭ではそれが理解できていなくても、
潜在意識的にそれが分かってて、
少しでも自分が傷付かずに済む方を、
楽な方を選んでいるのだ。
社会は、世の中はそんな簡単には変わらない、
だから、エイルがキレた所で、
リズが泣き叫んだ所で、
こうなる事は分かっていた事だった。
俺は会場を後にしてから、雑貨やアイテムなどが売ってある適当な店を探していた。
「…あの店でいいか」
丁度良さげな店を見つけ入り口のドアノブを握る、
その時にハッと気付いたのだが、
ドアのガラスに反射して映る俺の顔は、
一瞬誰か分からないくらい、
必死に怒りを押し殺しているような顔をしていた。
「……なんちゅー顔してんだよ、俺も」
自傷気味に鼻で笑いながらドアノブをひねる、
「いらっしゃいませー」
店内には雑貨やアクセサリーなどが沢山並んでおり、目当ての物もここでなら見つけられそうだった。
「お兄さん、何かお探しかい?」
店主に声を掛けられる。
「あー、アクセサリーって言うか…その…頭にかぶせるティアラ的な物ってあるか?」
そう、俺がこの店に来たのは、あのティアラの変わりになる物を買いに来たからだった。
あいつが実質一位なのには変わりなかった訳だし、
ある意味賭けでは俺が負けた事になる訳で、
土下座は嫌だが、せめてこれくらいはと思い急いで買いに来たのだ。
「…ティアラ?ティアラってあのティアラだろ?」
しかし、店主はティアラと聞くと突然不機嫌そうな表情になる、
「あぁ、そうだが…あー、別にそんな高価な物じゃなくてもいいんだが?」
「あんなもん高価な物以外無いに決まってんだろ?それにうちみたいな店なんかにある訳ないだろ?馬鹿にしてんのか!?」
そして、更に逆鱗に触れてしまったようで店主は声を荒げる。
「…いやいや、馬鹿になんかしてねーよ。でも…そうか、ないなら仕方ないな…」
しょうがないので違う店で探そうと、その場を後にしようとした瞬間、
「…って、おい」
箱の中で山積みになっているアクセサリーの中から完全にティアラとしか言いようのない代物を見つけた。
「普通にあんじゃねーかよ?」
俺はソレを掴み、店主に語り掛ける。
「あー、それな…」
しかし、店主はため息を吐き、
「それは子供用のオモチャのようなもんだ」
商品にもならないから箱に詰めてたんだがと、鼻で笑った。
「そもそも、ティアラって言うのは多少なりとも価値のある宝石などが使われているのが殆どだ、女性達もその宝石などでティアラの価値を決めているくらいだからな?まー、最近の主流では普通にネックレスとかに宝石を付けたりする方が流行っていて、そもそもティアラ自体が古いプレゼント扱いされるからあまりオススメではないんだが…」
店主のうんちくを聞きながら俺は手に持っているティアラのオモチャに視線を移す。
「…それにそのオモチャは本当に何の宝石も使われていないし、その宝石っぽいキラキラした石も塗装で小細工したただの石を取り付けてるだけなんだよ」
見た目的には完全にステージ上で見たティアラとあまり変わらないように見えるのだが、店主が言うには宝石や物の作りが全然違うらしい。
「因みに…本物のティアラを買うってなると、いくらぐらいかかるんだ?」
参考までに、店主に本物のティアラの値段を聞いてみた。
「さっきも言ったが…そもそもティアラ自体生産してる所が少なくなってきてるからな…今で言ったら安くても15000Gくらいするんじゃねーか?」
「…まじで、そんなすんのかよ?」
15000Gっていうと…ざっと現代の価値で言ったら150万円って事になる。
まじで、どんだけ高価なんだよティアラ、
そりゃ店主にもキレられても当然だ。
「悪い事は言わねー、ティアラに固執しないで別のプレゼントに変えた方がいいと思うぜ?」
店主が親身になってアドバイスをくれる、
しかし、どうしてもティアラに変わる別の代物も思い付く訳もなく、
「…いや、コレを貰うよ?」
俺はオモチャのティアラを買う事にした。
「え!?だ、だってお兄さん…それ女の子にプレゼントする奴だろ!?」
「あー、まぁ…」
「いやぁ…それをプレゼントされても女の子は普通喜ばないと思うぜ?」
店主の言い分は分かる、
そりゃ子供用のオモチャなら普通そうだろう。
「大丈夫だ、ある意味ガキみたいな奴だから」
「は、はぁ…そうかい?」
しかし、特に根拠がある訳ではないのだが、
このティアラを嬉しそうにかぶるリズの姿が頭に浮かび、やはりこのオモチャを買う事にした。
店を後にして、俺は再びエイル達の元に戻る。
きっとリズ助の事だ、どうせ昨夜の事も根に持って
るだろうし、
今頃一丁前に傷付いて、いじけて、塞ぎ込んでエイル達を困らせているんだろうなと想像する事ができた。
◇
コンテスト会場に戻ると、エイルが血相を変えて俺の元まで駆け寄ってきた。
「カトーさん!!リズさんがっ………リズさんが見当たらないんです!?」
「は?」
リズが見当たらない?一瞬エイルが何を言っているのか分からなかった。
「だから!!リズさんが何処にも居ないんですよ!!」
状況が理解できていない俺にエイルが再び大声で説明する。
「……いや、何処にも居ないって何だよ?お前もアルフォードもずっとこの会場に居たんだろ?」
「そうですけどっ!!そうなんですけどっ……アルフォードさんやスタッフさんと探しても…何処にも見当たらなくて…」
後頭部をバットで殴られたような衝撃が走り、
一瞬で血の気が引くのが分かった。
「ま、待てって?……お前はともかく、アルフォード達がリズを見失う訳ねーだろ?」
てっきり今頃、エイルのその隣で、
いつもの不貞腐れた顔で立ってると、そう思っていた。
「スタッフさん達がバックヤードまでリズさんを連れて行って、そこに暫くは居たらしいんです……でも突然姿が見えなくなったらしくて……」
「何だよそれ……」
しかし、この少しの間に、
何か凄く良くない事が起こっていて、
「僕だって分かんないですよぉ…」
「…何処か、一人で不貞腐れて街をぶらついてんじゃねーのか?」
頭は凄く冷静なのに、
「…アルフォードさんの部下の方達に街も捜索してもらっているんです…でも、まだ何も情報を掴めてないって…」
心は凄くざわついてて、もの凄い不安感に襲われていた。
「…まだ、そんなに時間経ってないから…そんな遠くにはいけない筈なのに…見つからないのはおかしいって…アルフォードさんも珍しく取り乱していて…」
青ざめた表情で状況説明をするエイル、
「………ダークエルフに恨みを持つ観客や、あの騒動で変な気を起こした輩に絡まれた可能性は?」
俺はそんなエイルの肩を掴み、問い掛ける。
「わ、分からないです…」
「……なら他に何か情報はねーのかよ!?」
エイルの肩を掴む手に力が入る。
「分かんないですって…」
完全に思考が停止してしまっているエイルにイラッとしてしまい、
「分かんないってお前っ……」
そのまま勢いで言ってしまいそうになる言葉にハッと気付き、そのまま言葉を飲み込む。
「ごめんなさい…カトーさん…でも、僕どうしたらいいか…」
エイルの身体が震えているのが肩を掴んでいる手を通して伝わってくる、
「……カトーさんに、リズさんの事頼むって…言われてたのに…すみません…」
そのまま彼は涙を流し、震える声を必死に堪えながら謝罪の言葉を述べた。
「いや…悪い…」
俺も完全に余裕を無くしているようだ。
エイルとアルフォードにあいつの事を任せて会場を後にしたのは俺の方で、
それを今更現れてエイルにキツく当たるのは、
完全にただの八つ当たりだ。
「取り敢えず…アルフォードと合流してっ」
「あのっ」
突然女性に声を掛けられる、
俺とエイルはその女性の方に振り向く。
「あのっ…私見たんです…リズちゃん…変な格好した人達に連れて行かれちゃって」
その女性は俺達にリズがさらわれた事を告げた。




