28話.大都市アトン美少女コンテストPart E
暫く経ってから会場に戻ると、観客席はさっきよりも凄い熱気で、何故か上半身裸になって拳を突き上げている男性客なんかも居た。
「ロックのサマーファスか何かかよ…」
まさに会場はそんな雰囲気だった。
「きゃ!?」
突然、ベレー帽をかぶった少女とぶつかる。
「あ、悪い!?ケガはないか?」
転びそうになる少女の身体を支え、声を掛ける。
「あちゃちゃ…ごめんなさい…私の方こそ」
あざとく舌をぺろっと出しながら苦笑いを浮かべる少女、
「あれ……お前確か?」
「わわっ!誰かと思えばカトー様!?」
彼女は、例の酒場でホステスを務めており、エイルと現在良い感じになっている亜人のメルルだった。
「エイルでも探してんのか?」
「あはは〜、もう帰る所なんですぅ。今日は早出の出勤なので、それでわ!」
少し焦った様子で、メルルが会場を後にする、
そしてその後に聞き慣れた声が響いた。
「あー!カトーさんコッチコッチです!」
ちょこんと背伸びをしながら俺に向かいエイルが手を振って見せる、
俺はそれを目印に、観客の間をくぐり抜け、エイルの元まで戻る。
「も〜、間に合わないかと思いましたよっ」
少し不貞腐れたように呟くエイル、
「あー、悪い悪い」
「まぁ、ちゃんと戻ってきてくれたから良いですけどね」
「つか、メルルだっけ?あの子に会ったぞ?」
しかし、彼女の名前を出すと少し恥ずかしそうに身体をくねらせる。
「……さ、さっきまで一緒に居たんです」
「なるほど」
俺が居ない間も、それはそれでお楽しみ中だった訳か。
「…あっ、あの?今晩って何か予定ありますか?」
「あ?…いや、特にはねーけど」
もし、最悪リズが優勝してしまった時には、
何かお祝いでもした方がいいのか?と考えているぐらいで、別に何か予定がある訳ではない。
それに、あいつ的には俺が何かするのを嫌がるかもしれない、そうなると、変に何かスケジュールを入れておく必要性もなかった。
「そ…それなら…今晩も、アルフォードさんの酒場に行って来てもいいですかね?」
エイルは、チラチラと俺の顔色を伺い、
「メルルに会いに行くのか?」
「…だ、だめですか?」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら尋ねてくる。
「いや、ダメじゃねーよ」
ダメじゃねーけど、お前完全に一本釣りされてるぞ?
「やった!じゃ、じゃあこのコンテストが終わったら僕はそっちに行くんで」
「あぁ」
まぁ、本人が楽しんでいるならいいのか。
「エントリィィナンバァァァァア!ニジュゥゥイチィィィィイ!!」
完全にオープニングとは声の音色が変わってしまっている司会者が、次の女の子の出番のコールをする。
「……俺がいない間にあいつに何があったんだ?」
あまりの司会者の豹変ぶりに苦笑いを浮かべ、
「や、何か急にあんな風に叫び出して…」
「……完全にK1の入場じゃねーかよ」
巻き舌でシャウトしている事にツッコミを入れてしまう、
「……あ、それ分かります…」
しかし、そこは流石同胞のエイル君、今のツッコミに理解を示してくれた。
「リィィィィィィズゥゥゥゥゥ!!!」
司会者のコールにいち早く反応したエイルが、
少し興奮気味にステージの上を指差す。
「あっ!カトーさん?リズさんの出番ですよ!?」
◇
「やーやー、みなのもの!待たせたなーーっ!!」
どこでそんな言葉を覚えたのか、時代劇風な言葉を放ちながらステージの上に優雅に現れるリズ。
片手で帽子を掴み深く被りながら、
「美少女は好きかーーーーっ!?」
リズは大声で観客を煽る。
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
それに応えるように、観客が大歓声で返す。
帽子を深く被っている為、表情はあまり見えなかったが、リズは確かにこの瞬間ニヤリと笑った。
「オイラの名前はリズ、遠国からやって来た天才魔法使いなのだっ!!」
帽子をクイッと少し上にあげ、完全に表情を見せてから観客達にウインクを飛ばすリズ。
「「「褐色不思議っ子来たあああああああ!!」」」
「えへへ、ボクが来たからには覚悟してよねーーっ!?」
観客に向かい大声で声を掛け、
耳を傾げて見せ、その問いのレスポンスを待つ彼女、
「「「何でーーーーーーーーっ??」」」
観客達からの返事が返ってくると、
彼女は嬉しそうに、くるっと横に身体をターンさせてから、
左手を腰に、右手は上空を指差しポーズを決める、
「会場に居るお兄ちゃん達みーーーーんなっ!!」
そしてゆっくりと右手を下ろしていき、
観客達に向かい指を差す。
「ボクがキュンキュンさせてあげちゃうぞ」
そして再びあざとく、ウインクを飛ばすのだった。
「「「ぶひいいいいいいいいいいいいい!!」」」
何故かリズのウインクに、ブヒブヒ叫ぶ観客の男達。
「リズさん、ほんっと凄いですね!!」
目をキラキラさせるエイルがコッチを向く。
「……って、カトーさんやっと元気になりましたね?」
コイツに指摘されて気が付いたが、
俺はどうやら笑っていたらしい。
「…は?いや…別に最初からいつも通りなんだが」
すぐに表情を戻し、普段通りに答える。
「リズさんの晴れ舞台観れて、僕も嬉しいです」
そんな俺の言葉をスルーするエイルは、
如何にも気持ち分かりますよ?と言わんばかりの表情で語り、再びステージに視線を戻していた。
「………勝手に決めつけんなって」
ボソリと呟くが彼からの返答は無く、完全にエイルはステージでのリズのパフォーマンスに見入っていた。
「やっちゃうぞーーーーっ!?」
「「「お願いしまーーーーーす!!!」」」
ステージ上では、天井に吊るされたモンスターの玩具のようなものに向かいリズが黒魔法を放とうとしている所だった。
「ほいさっ!ファイヤーボールッ!!」
――ボンっと何とも頼りない炎の球が天井に向かい飛ぶのだが、その炎の球は吊るされている玩具に届く前にパッと呆気なく消えてしまった。
「あちゃー、やっぱダメだったやー」
舌をぺろっと出しながら苦笑いを浮かべる彼女。
「「「可愛いいいいいいいいいい!!」」」
完全にリズのあざとさMAXの茶番に大興奮の観客達。
「えへへ、もういっちょ!アチョー!ファイヤーボールッ!!」
半分ネタなんだろうが、調子に乗ったリズが変顔をしながら再び黒魔法を天井に放つ。
しかしといった所か、リズが放った炎の球は先程と同じ場所でパッと消えてしまう、
「もぉぉ!もうちょっとなのにー!!」
天井の玩具を睨みながら、悔しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる彼女、
「…うわっ!?」
しかし、完全に調子乗ったツケが回ったのかそれとも計算なのか、着地する時に足を滑らせその場に尻餅をつく。
「あいてて…」
腰をさすりながら観客に視線を向けるリズ、
「…ん?」
そして観客達から熱心に注がれる視線に気付き、自分のスカートを確認する、
「ひゃ!?」
そこで、ステージ上で大胆に曝け出してしまっていた自分の太腿に気が付き、慌ててスカートで抑え隠す。
「むぅ……」
そして、恥ずかしそうに俯きながら観客に向かい、
「………エッチ」
ボソリと一言呟くのだった。
「「「ぶひいいいいいいいいいいい!!」」」
完全にリズに落とされた野郎共は『だんだんだんだん』と足踏みを鳴らし、声が枯れるまでブヒブヒと叫び続けていた。
◇
ステージ上で活きいきしているリズを観てて思った、
もし、リズがダークハーフエルフじゃなく、
普通に人として産まれていたら、
あいつはこんな風に、みんなから好かれていたのかも知れないと。
それと、やはりあんな風にウザくて、あざとくて、
隙が多くて、人懐っこいあいつの素こそが、あいつの長所で魅力の一つでもあるのかも知れないと、そう思った。
「……余計なお世話って奴だったのかもな」
結局は、他人に言われたからと言って、
人がすぐに変わる訳ないのだ。
あいつはきっとあのままでいい、
そして、あいつが自分で転んで、
その傷を痛がって、
自分で次は転ばないように考えて、
少しずつあいつなりに、
あいつの方法で成長していく、
きっと、それがリズにとって一番良い事なのだ。
「…あいつ、完全に調子乗ってたな」
静かに鼻で笑い、エイルに語り掛ける。
「え?」
「…あんなに観客にうけちまったら、どーせ暫くの間ふんぞり返って偉そうにしてるだろーぜ?」
「あー、あはは、確かに想像つきますね」
エイルは頭の中でそんなリズをイメージした後に、苦笑いを浮かべた。
「みんなーーー!!ありがとーーーーーっ!!!」
ステージ上では、アピールタイムが終了したリズが観客に向かい笑顔で手を振っている。
俺はそんな彼女を見つめながら、
どうかあいつがこのまま優勝しない事を静かに祈るのだった。




