26話.大都市アトン美少女コンテストPart C
「ごめん、大丈夫!?もしかして私余計な事言っちゃってたかな!?」
ボクの顔色を心配してカンナが声を掛けてくれる。
「……ううん、大丈夫」
カンナに笑い返したつもりだったけど、上手に出来たかどうかは自信がなかった。
さっき気が付いてしまった事、
その先を考えないようにしようとすればするほど、
不安定な心とは真逆なやけに冷静な頭がその先を勝手に考えてしまい、答えを導き出していた。
「…本当に大丈夫?突然凄く顔色悪くなったからビックリしちゃって?」
「…ごめん、本当に大丈夫だよ」
きっとカトーさんもボクの元からいなくなるだろう、
その日は紛れもなく近いって事。
「…………ねぇ、多分本番までまだ時間あるからさ?ちょっと場所移動しない?」
「……え?」
正直もうそんな気分ではなかったけど、
カンナはほぼ強引にボクの手を引っ張りどこかに歩き出した。
◇
家と家の間の細い通り道をぐねぐねと進み、
完全にどこかの秘密基地に連れて行かれるような気分になる、
そしてカンナに手を引かれ、めちゃくちゃな道をひたすらに進むと、
大量の噴水だけを吐き出す、廃墟になった街が現れた。
「……わ」
廃墟となった街から放出される噴水は、もう制御されていないからか勢いが凄く、また水しぶきも凄く一瞬驚いてしまう。
「リズちゃん、コッチコッチ」
カンナは笑顔でボクを手招きする、
「あ、うん」
ボクはそんな彼女の後を追う。
――そして、暫く進んだ先でカンナは突然立ち止まり、目の前を指差す。
「見て、凄くない?」
カンナが指差す先には、噴水が一番凄く大きく、まるで滝のように見える場所だった。
「凄い迫力だね…うわっ!?」
足場を見ていなかった為、不注意で転びそうになる、
「危ないっ! もう、気を付けて?落ちたら結構深い川なんだから」
咄嗟にカンナがボクを支えてくれ、なんとか転げ落ちずにすむ。
彼女が言うように、今立っている場所の真下は川になっていた。
「ちょっと危ないんだけど、こことっておきの場所なんだ?」
「す、凄い場所知ってるんだね?」
さっきの恐怖で、完全にカンナにしがみ付く形になる、
「でも、一番凄いのは夜なんだよ?」
でも彼女は、そんなボクを馬鹿にする様子もなく、自分のお気に入りのこの場所を嬉しそうに語っている。
「夜になると、幻光虫がいーっぱい現れるの!それがもうほんっとに綺麗なんだから!!」
「…そーなんだ」
実際にそれを見ていない為何ともリアクションしづらいが、よほどその光景が綺麗なんだろうなって事は彼女の口振りから分かった。
「でも…昼間でも凄い場所だね」
大量の噴水を吐き出す滝のような光景を見ていると、
子供の頃、お父さんと一緒に暮らしていた山奥を思い出した。
「お、分かってくれる?」
「うん」
家から近くに、滝があって、
よくお父さんに連れて行ってもらっていたんだった。
きっと、彼女なりにボクを元気付けようとこの場所に連れてきたのだろう、
彼女の優しさが凄く伝わってきた。
「きっと仲直りできるよ」
突然カンナがポツリと呟く、
「え?」
そしてニコッと笑いながら、
「そのカトーさんって人と」
再び優しい言葉を掛けてくれた。
でも、無理だよ。
きっともう無理。
カトーさんにイライラするあまり、
キスを拒んだだけじゃなく、
色々言っちゃったし、
その言葉でカトーさんも凄く怒ってたし、
ボクだってカトーさんにイライラしているけど、
それでも嫌いになんてなれなかった、
やっぱり一緒に居て欲しいって今も思ってしまう、
でも、カトーさんはきっと違う、
クロードみたいに、きっとボクの前からいなくなる。
「あのね?私も好きな人が居てさ?」
突然カンナが口を開く、
「私その人の事、ずっと父親として見てたんだけど…ある日、その人の事を異性として好きなんだって気が付いちゃって…まー、私の方こそ完全に向こうには異性と見られてないんだけど…」
そして苦笑いを浮かべながら、自分の事を照れ臭そうに語り出す。
「でもね?私前その人に、すっごく酷い事して、すっごく酷い事言っちゃったの…あーゆー時ってさ?後になってから色々気が付くんだよね…そしてすっごく後悔したし、次にその人に会う時がもの凄く怖かった…」
当時の事を思い出しながら語る彼女の表情は、彼女らしからぬとても情けないような顔をしていた。
でも、彼女の言葉は凄く一つ一つ刺さるというか、
凄く気持ちがわかってしまっていた。
「…それで…どうなったの?」
「…うん、次にその人に会った時…その人は気持ち悪いくらいいつも通りで…もう完全にそれが意味分からなくて、やめときゃいいのに、今度はそんな彼の態度にキレちゃったんだよね、私」
自分が悪いと認める彼女は、苦笑いを交えながら語る。
「…でも、そんな私に彼は、『こないだの事はちゃんと覚えているし、もう君が嫌な思いをしないように気を付けるよ。そんな事より、朝食は食べていくか?』ってただそれだけ」
「…な、なんで急に朝食?」
「ね?でも、何でだろう…怒ってたら凄くお腹空いちゃって…彼のご飯食べてたら、何か色々どうでもよくなってきちゃって。 あ、でもね?今だから思うんだけど、結局私はあの日から何も変わってなくて、けど、彼はあの日以降から確かに私に対する彼なりの配慮っていうかそういうのをしてくれるようになって…私は未だにそんな彼に対しては甘えてばっかで、逆になにも成長できないんだけど…」
カンナの事をその人は許してくれたって話なんだろうけど、後半はちょっと彼女の語る言葉の意味を汲み取る事が難しかった。
「あー、ごめん…何か自分のどーでもいい事ばっか喋っちゃった。 まー、ようは彼はめちゃくちゃ大人で、子供の私の過ちなんて笑って許してくれたって話」
カンナは笑いながら、言葉を続ける。
「カトーさんも年上なんでしょ?」
「…え、何で分かるの?」
「分かるよ、二人のやりとり聞いてたら」
やっぱりカンナは、心の中を読めるのだろうかと驚いてしまう。
「だから、カトーさんとも絶対仲直りできるよ」
カンナは真っ直ぐにボクを見つめ言葉を投げ掛けてくる、
でもボクは彼女の視線を真っ直ぐに見つめ返す事ができなかった。
「……できる、かな?」
「できるよ!何か話聞いてたら、カトーさんも大人っぽいし!」
まぁ、確かに大人だけど。
でも、ただそれだけで大丈夫って言われても、
正直本当に?と思ってしまう。
だけど、未だにそんな風に不安なボクをさておき、
カンナはニコッと笑い、
「やっぱ、男も包容力っしょ!ね、リズちゃん?」
親指をグッと立てるのだった。
◇
「さぁー!始まりましたっ!大都市アトン美少女コンテストォォォ!!司会はわたくし、チョッパーが務めさせて頂きます!!」
ピエロのようなメイクをした男性が、バックヤードにまで響き渡るくらいの声量で叫ぶ。
そのタイミングで、中級くらいの爆発魔法が上空でバーン、バーンと上がる。
さっきチラッと観客席を見たけど、もの凄い人だった。
「うわー、どーしよー!?遂に始まっちゃうよ、リズちゃん!?」
「うん」
カンナは凄く緊張しているみたいだけど、
ボクは正直、人前に立つ事に対しての緊張は全くなかった。
「皆さーーーん!美少女は好きかーーーっ!?」
ステージ上にいる司会者が観客を煽り、
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
その煽りに応えるように、熱狂的な野太い歓声が聞こえた。
それに気を良くした、司会者が再び観客を煽る。
「早く美少女達を見たいかーーーっ!?」
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
会場はかなり暖まった雰囲気で、
スタッフの女性がバックヤードに待機しているボク達に声を掛ける。
「皆さん、そろそろステージに上がる準備をして下さい」
その言葉にコンテストに出場する女性達が『うわ〜始まるよ?』とか『やば〜い』などと騒いでいる。
そろそろボクも気持ちを切り替えよう、
せっかくコンテストに出るんだ、
絶対に美少女No. 1の座を取ってやるんだ。
「その、帽子お似合いですよ?」
スタッフの女性が、ボソリとボクに呟く、
彼女は前日に色々試着に付き合ってくれた女性スタッフで、今日この会場に着いた時にこの帽子を渡してくれた人だ。
「ありがと」
このステージの上に登ると、会場にはおそらくカトーさんの姿があるだろう。
彼の姿を見つけたら、
やっぱりイライラするかも知れないし、
もしかしたら、不安で泣きたくなるかも知れない、
正直今の気持ちはぐちゃぐちゃで、自分でも自分の事がよく分からなくなっている。
カトーさんはきっとボクの前からいなくなる、
もしかしたら、このコンテストで見る彼の姿が最後かも知れない、
でも、だからこそ、コンテストでは絶対に優勝したい、
だから、もしボクがカトーさんに素っ気ない態度を取り続けちゃったとしても…ちゃんと見ててね?
みんなの前で一番を取るボクの姿を。
「それではっ!!今日の主役の美少女達を紹介しまーーーすっ!!」
司会者の掛け声と同時に、周りのみんながずらずらとステージに上がり始める。
「行こう、リズちゃん?」
ボクに向き直り、ニッコリ笑う彼女、
「うん!」
そんな彼女に向かい、今度はちゃんと上手に笑い返す事ができた。




