25話.大都市アトン美少女コンテストPart B
むかつく、むかつく、むかつく、
ボクは今もの凄くむかついていた。
こんな大事なコンテスト前日にあんな風に人を馬鹿にするカトーさんに、ボクは心底むかついていた。
いつも偉そうな所がむかつく、
いつも大人ぶっている所がむかつく、
そして、そんなあの人にこんなに懐いてしまっていた自分にもむかついていた。
「……あ、あのー」
突然背後から声が聞こえる。
「…そろそろ、そこの鏡使いたいんですけど…変わってもらってもいいですか?」
後ろを振り向くと、赤髪を二つ結びにした髪型にそばかすが目立つ少し地味な感じの女の子が立っていた。
「………あー」
今はステージに上がる前のおめかし中で、ボクはすでに準備が整っていた。
昨日の件があって、もの凄くイライラしてたから、
少しボーッとしてしまっていたみたいだ。
「……どーぞ」
その地味な女の子に場所を譲る。
「ありがとうございます……って、大丈夫ですか?」
その女の子は突然ボクの顔色を伺いながら声を掛けてきた。
「…え?何が?」
大丈夫ですかの意味がわからず、尋ね返す。
「…凄く顔色悪いですよ?体調悪いんですか?」
どうやらボクの顔色は今悪いみたいだ。
「……別に、大丈夫だけど」
あー、最悪だ、最悪だ、最悪だ。
こんなんじゃコンテストで勝てないじゃないか、
全部カトーさんのせいだ、絶対カトーさんのせいだ。
「そう?………あ、珍しい肌をしてるけど、遠国から来られた方?」
早く身支度を済ませればいいのに、意外と女の子はしつこく絡んでくる。
「……そうだけど、それが何か?」
正直面倒臭くて、淡白に答える。
しかし女の子はニコッと笑い、
「やっぱりそうなんだ!いやー、君凄く可愛いなって思っててさ?何かミステリアスな魅力って言うか、オーラが違うよ!」
突然ボクの事を褒めてきた。
「………ありがと」
何だこの子?って思っていたけど、ここまで褒められると悪い気はしなかった。
「…だからそんな暗い顔してたらせっかくの美人が台無しだよ?コンテストなんだからもっと笑っていかないと?」
口角をニッと上げながら口を指差す彼女。
「…う、うん」
「ちょっと待ってね?すぐに身支度を済ませるから!あの、良ければ本番が始まるまで一緒に行動しない?」
何かこの子、めっちゃ圧が凄い、
「……あ、う…うん……まー、いいけど」
でも悪い子には見えなかったし、
正直一人だと迷子になりそうだなって思っていたので、彼女と同行する事にした。
「やったぁ!!私、カンナって言うんだ!宜しくね? あ、えーっと」
「ボクはリズ…」
「リズちゃん、リズちゃんね?あはは、よろしくリズちゃん!」
この子めちゃくちゃ地味な子だけど、凄く良い笑顔で笑うなって思った。
「それにしても、女の子なのにボクって言うんだ?リズちゃん?」
手際良く衣装に着替え、髪をセットしながら声を掛けてくるカンナ。
「…そーだけど、悪い?」
「全然?凄く魅力的だなって思うよ?ただ、凄く変わってるなって思ってさ?」
こちらを向きニカッと笑うカンナ。
「うん、よく馬鹿にはされてたけど…」
一瞬脳裏にウロボロスに居た時の記憶が過る、
ミク、エキドナ、サーシャのクソ女三人組に、
よく一人称を馬鹿にされていた。
「ボク的には可愛いと思ってるんだけど…」
チラッと彼女の方を見ると、
「そーなの?確かに変わってるとは思うけど、リズちゃんの個性の一つだと思うよ?私は本当にすっごく可愛いと思う!! あ、ただ私みたいな地味な奴が真似しちゃ似合わないって言うか、やっぱりリズちゃんみたいなミステリアスな美人が言うから更に似合うんだと思うよ!」
鼻息を荒くして、ボクの一人称について熱く語ってくれていた。
「…あ、ありがと」
同性からここまで、褒められたのって初めてかも知れないって思った。
「で、リズちゃんがボクって使うのを馬鹿にする輩がいたの!?どんな奴等?まじで許せないんだけど!!」
自分の事のように怒る彼女、
「…まー、もう前の話だから」
逆にここまで自分の代わりに怒ってくれたら、
逆にコッチは怒りが引いてしまうというか、
まさにそんな感じだった。
「どーせ、クソみたいな女子でしょ?」
「う、うん…まー、そんな感じ」
「嫉妬だよ嫉妬!リズちゃん可愛いからさ〜?あー、やだやだ、そんな風な女にはなりたくないよね〜」
彼女は渋い表情をしながら、手をぶんぶんと汚い物を払うように振る。
「………うん」
あー、でもそういえば、
ボクの一人称の事を悪く言う人ってもう一人居たんだった。
いつも偉そうで、
いつも大人ぶっていて、
いつも人を馬鹿にしてきて、
昨日だってサイテーな事してきて、
でも、それなのに、
凄くむかつくのに、
今もまだ、心の底から彼の事を、
カトーさんの事を嫌いになれていない自分が居る、
そして、そんな自分にも、凄く腹が立つのだ。
「…リズちゃんさ?今、男の事考えてたでしょ?」
ニヤリと笑いながらボクの顔を覗き込んでくるカンナ、
何なの?この子?もしかして心を読めるスキルでも持っているのだろうか?と焦ってしまう。
「……ち、ち、違うよっ!?」
はっきりと違うと否定したにも関わらず、
カンナは未だにニヤニヤしている。
「もー、嘘が下手だね〜?リズちゃんって」
そして、どうやら彼女には嘘を突き通せないようだ。
◇
「なるほどね〜」
本番が始まるまで、会場をブラブラと歩きながらボクはカンナに昨夜の事を打ち明けていた。
「でも、まー、アレだね…男って早い話ヤリたいんだよ?」
まさかのストレート過ぎる彼女の言葉に耳まで真っ赤になるのが自分でも分かった。
「ヤ、ヤリ…たい…?」
「あー、ごめんごめん。でも、アレね?別に愛情が無いとかじゃなくてさ?男も、むしろその行為で愛情を実感できるみたいよ?」
「へ、へー」
「だから、もしかしたら…リズちゃんが嫌がっているって向こうが勘違いしちゃって、それでちょっと冷たい態度を向こうもしちゃったんじゃない? だって、リズちゃんは別に嫌じゃなかったんでしょ?」
さらりと凄い事を尋ねてくる彼女、
正直こんな話を聞いているだけで頭がくらくらしてしまいそうになる。
「ちょ、ちょっと待って!?ボ、ボクは別に本当にそうゆう事をするつもりは…」
「えー?またまたぁ?だって付き合ってるんでしょ?その人と?」
カトーさんと、ボクが?付き合ってる?
暫く彼女の言葉が頭に入ってこなくて、時間差でようやくその言葉が頭に入ってきた。
「は、はぁ!?べ、べ、別にボクとカトーさんは付き合ってないよっ!?」
「そーなの? あー、分かった。まだ付き合ってないけど、好きな人的な感じだ?」
次々にボクとカトーさんの考察を繰り広げる彼女、
「あー、それならアレだよリズちゃ〜ん」
別に好きな人でもないって否定しようとしたけど、
彼女の言葉の続きが気になったので黙っていた。
「きっと彼も、そういう行為をしようとまでは思ってなかったと思うよ?ただ…」
「…ただ?」
「キスはしたかったんじゃないかな?」
カンナは人差し指をピンと立て唇の前でかざしながら呟いた。
「ひぇ!?」
キ、キス?カトーさんがボクとキスしたかったって事!?
だって、でも、カトーさんはそもそもボクの事子供扱いしてたし、
それこそ『お前みたいなのには興味ねーよ』っていつも言ってたじゃないか!?
そうだ、そうだよ、カンナの言ってる事は的外れだ。
「…いや…それも絶対ないと思う、だってカトーさんは…」
「へー、彼の名前カトーさんって言うんだ?」
「あ、う、うん……とにかく、カトーさんに限ってやっぱりそれはないと思う」
「…逆にさ、どうしてそう言いきれるの?」
心の中を見透かされているような、
カンナの真剣な眼差しが、なんか凄く嫌で、
ボクは目を逸らしながらその問いに返した。
「…だって、カトーさんはボクの事女として見てないっぽいから」
「……本当にそうなの?」
彼女の変わらない真剣な眼差しで見つめられると、
もしかして?ボクが間違っていたのか?と思ってしまう。
「…………あっ」
『俺も男だっつってんだろ!』
突然昨夜のカトーさんの言葉が頭に過った。
「……何か思い当たる事があったんじゃない?」
もしかして、本当に?
アレっていつものボクを馬鹿にする冗談とかじゃなくて?
「……カトーさん…本当にボクと……そ、そのっ…」
その単語を口にしようとすると、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
「もー、リズちゃんってすっごく可愛いしずるいよね?」
「……え、どういう意味?」
「…リズちゃん、ファーストキスもまだでしょ?」
カンナのその言葉に、更に自分の顔は真っ赤になる。
「もー、そーゆー所だよ!見た目も美人で個性的で、恋に関してはうぶなんて反則的な可愛さだよ!」
「……そ、それ?褒めてるの?」
「もちろん!!」
バシッと両手で肩を掴まれ、ビクッとする。
カンナは笑顔だけど、やっぱり圧が凄くて、
さっき言葉に出来なかった事が頭にしがみ付いて離れなくて、
「………うぅ」
もう頭がパンクしそうになっていた。
「リズちゃんは、彼とそういう事したいって思わないの?」
カトーさんと、そういう事?
「…………わっ…分からないよっ…」
分からない、本当に分からない、
カトーさんに甘えたいって気持ちは嘘じゃないし、
カトーさんともっとくっつきたいって思う気持ちも嘘じゃない、
だって彼と一緒に居ると落ち着くし、安心できる。
でも、本当にカトーさんとそういう事をしたいかって聞かれると分からなかった。
『男はそういう生き物だと』さっきのカンナの言葉や色々な事が頭の中でぐるぐる回る。
「………ぁ」
そういえば、前にクロードにもキスを迫られた事があった。
ボクは確かにクロードの事が好きだったけど、
彼にキスを迫られた時、怖いって思っちゃって、
だからあの時、彼からのキスを拒んだんだ。
今思えば、あの日ぐらいからクロードは素っ気なくなってしまったような気がする。
クロードからは最後に、感謝の気持ちが足りないと言われた。
もしかしたら、クロードの言っていた事はそれの事だったのかもしれない。
だったら、もしそうだったら、
昨夜のあれでカトーさんもボクの事を、
カトーさんもボクの事を…。
そこから先は、もう何も考えたくなかった。




