22話.エイルに再び春が来たのは良いがその相手が亜人の少女とかアイツもとうとうロリコン野郎認定なのだが。
「あれ?あれれ?もしかして、エイル様ですかぁ?」
猫撫で声の少女が突然絡んでくる。
「え?は、はい…そーですけど?」
その少女は、お洒落なベレー帽を被り、
白のブラウスに茶色のポンチョっぽい衣装を身に纏った、如何にもTHEロリ!って感じの容姿をしている。
しかし俺達は、昨日この街に辿り着いたばかりでこんな少女の知り合いなどいないはずなのだが。
「お前の知人か何かか?」
エイルに尋ねてみるが、
「い、いや…ちょっと見に覚えが…あ、あれ?でも何処かで見た事あるような…?」
当の本人も彼女の事を思い出せていない様子だった。
「あはは〜、やっぱりコレがあると分からないですよね?」
少女は苦笑いを浮かべ、
「よいしょっと」
被っていたベレー帽を取る、
そして亜人の証でもある獣耳を、ぴょこんと露わにした。
「「あ」」
その瞬間、俺とエイルは同時に彼女の事を思い出したのだった。
「君は…アルフォードさんの酒場で働いていた!!」
「えへへー、思い出してくれましたかぁ?」
そう、彼女は昨夜の酒場で、エイルの隣に座っていた少女風のホステスだった。
仕事中は薄暗い照明と、濃い化粧で分かり辛かったが、昼間にこうして彼女を見てみると少女風なんかではなく、完全に少女だった。
「……あの酒場大丈夫かよ」
少女をあのような場で働かせているとか現代だったら完全にアウトだ。
流石異世界といったところなのだろうか。
「まさかこんな街中で、エイル様にまたお会いできるなんて…今日のメルル凄くついてますよ!」
自分の事をメルルと呼ぶ獣耳っ子は、
両手にギューっと力を入れて、
エイルに会えた喜びを全身で表現している。
「だってよ?」
俺はニヤニヤと笑いながら、
「良かったじゃねーかよ、エイル?」
――バン!っと軽くエイルの背中を叩く。
「うわっ…ちょ、ちょっとカトーさん!?」
防御力高くて全然ダメージなど無いくせに、オーバーによろめくフリをするエイル。
「あっ……」
エイルが前方に少しよろめいた事により、
獣耳っ子との距離が縮まり、二人は完全に見つめ合っている。
「あ、あ、あの…ゆ、昨夜は…」
気まずさのあまり何か喋ろうと焦るエイル、
しかし、完全にあがっており、言葉もだいぶ噛みまくっている。
「ふふふ、はい……昨夜は、なんですかぁ?」
獣耳っ子はそんなエイルをバカにする様子もなく、
微笑みながら、彼が言い終わるのを待っている。
「そそそ、そのっ………あ、ありがとうござい…ました…」
言い終わるのと同時にペコっとロボットのように、ぎこちない動作でお辞儀をするエイル。
女子に免疫ない童貞の完全なお手本のような動きだった。
「いえいえ、こちらこそです。私のお客様がエイル様で本当に良かったです」
ビックリするような満面な笑みで、店の外でも営業トークを忘れない仕事熱心な獣耳っ子。
「あ、そ…それって…どう言う…意味ですか?」
おい、エイル、真に受けるな?
リップサービスだぞ?こう言うのリップサービスって言うんだぞ?
「うふふ、だってぇ?私すっごくエイル様の事タイプなんですぅ」
その言葉で完全に顔を真っ赤に染めるエイル。
「そ、そそそそ…そんな事!?」
「嘘じゃ…ないですよぉ?」
エイルに熱烈な視線を送る獣耳っ子。
「それにぃ?エイル様も昨夜言ってくれたじゃないですかぁ?メルルの事、タイプだってぇ?」
「へ!?…た、たたた、確かに…言いました…けど…」
エイルは彼女から視線を外しながらボソボソと答える。
「…それともぉ?」
獣耳っ子は、スッとエイルの胸元まで近付き、
「あの言葉嘘だったんですかぁ?」
上目遣いで彼を見つめる。
「………………ぅ」
獣耳っ子は、あざとく首を傾げ、
「…う?」
唇をうの字にしたまま、エイルの言葉を待つ。
「…………う、嘘じゃ…ない、です」
そして彼女はエイルの言葉に満面な笑みを浮かべ、
「いやーん、嬉しいですぅ!!」
きゃっきゃとはしゃぎながらエイルに抱き付く。
「うわっ!?ちょ、ちょっと!?」
あのクソ領主と別れ、すっかりと自信を無くしてたエイルに次の春かと思いきや、
彼女も彼女でちょっとアウト臭がするのだが。
◇
自分でもそう呼んではいたが、獣耳っ子の名は『メルル』と言うらしく、
『夕方お仕事あるまでは暇なんです』と言う彼女も、何故か流れで俺達の情報収集を手伝ってくれる事になったのだった。
「ウロボロスって、確かクロードさんのパーティー名ですよね?」
メルルはエイルに腕を絡め、寄り添うように歩いている。
「…う、うん。……そ、そうだよ」
「クロードさんって凄く強くてカッコイイんですよねぇ?私達の業界でも凄く有名なんですよぉ?勇者候補、いや時期勇者に間違いなしと言われる方で、黒の獅子とも呼ばれてるみたいでぇ?」
べたべたしながら語り合う二人の話を後方から聞いていたが、
「…っぷ」
今の話で吹き出してしまった。
黒の獅子とか、すげーだせーじゃん、厨二かよ?
クロードの奴もその通り名は絶対嫌なはずだ。
リズ助の復讐相手ではあるが、
もし会った時には、ちょっとダサい通り名を付けられている事に対して慰めてやりたいなと思った。
「…僕、クロードさんと一緒に共闘した事ありますよ」
「えぇ!?すごぉい!!どうでした?どうでしたぁ?やっぱりクロードさんってカッコ良かったですかぁ?」
食い気味で尋ねてくるメルルに、エイルは少し複雑そうな表情でボソボソと答える。
「え…えぇ…僕なんかよりイケメンでしたし、何より凄く男らしかったです…」
言葉を発していくたびに段々と力無く喋るエイル、
完全に嫉妬と卑屈に陥っている。
前好きだった人もクロードと出来ちまってたし、エイルにとってはメルルがクロードに好意を持つような発言をする度に古傷にダブルパンチされる心境なのだろう。
「えぇ、良いなぁ!私もクロードさんにお会いしたかったですぅ!」
「…あはは、いつか会えたらいいですね…」
苦笑いを浮かべるエイルだが、完全に目が死んでる。
「う〜ん、でもクロードさんモテそうだから、もしお会いできても私なんか相手にされないですよぉ?きっとぉ?」
エイルの腕に身体を密着させ、
女子アピールを確りとしながら、
エイルに『そんな事ない』と言ってもらい待ちのあざとくうざい視線をチラッと送る彼女。
この場にリズが居れば、あの例の濃い表情で俺に『この女うぜぇ』と訴え掛けてきていただろう。
「…そ、そんな事ないです。メルルさん…凄く可愛らしい方ですし…クロードさんだけじゃなくて、誰から見ても…メルルさんは可愛いと思います…よ?」
メルルには視線を合わせずに、彼女の望んだままの言葉を投げ掛けるエイル。
「いやぁん、嬉しいですぅ!」
彼女はエイルの腕に更にギューっと強く絡み付いた。
「…で、ですから…僕なんかよりも…」
彼女に密着されるのは嬉しいくせに、
嫉妬と卑屈モードに陥ったエイルは乾いた笑みを浮かべ、
ネガティブ発言を繰り出そうとしていた。
その時である。
「でもぉ、私はやっぱり…クロードさんと出会っても素敵だな?って、もう感じないと思うんですよねぇ」
彼女はそう呟きながら歩行を止める。
「うわっ…え、え?それって…どう言う…?」
突然動きを止めたメルルにつられて、エイルも少しよろめきながら立ち止まり、意味深な発言をする彼女に尋ね返す。
「だって」
やっと目を合わせてくれたエイルの瞳を彼女は真っ直ぐに見つめ、
「世界一ハンサムで素敵なエイル様に出会ってしまいましたから」
男心をくすぐる言葉を平然と微笑みながら呟くのだった。
「へ!?」
そしてその言葉により、エイルの嫉妬や卑屈な感情は完全に飛び散って砕けたように見えた、
「うふふ、エイル様?お顔真っ赤で可愛いですぅ」
しかし、ネガティブ感情だけでなく彼女に対する気持ちを制御していた最後の心の盾も完全に飛び散って砕けたように見えたのだった。
「な、な、な、なな何を言ってるんですぁ!?」
完全に彼女の手の平で転がるエイル、
コイツ現代だと絶対キャバ嬢に貢いで借金まみれの人生だったんだろうな?とふと思ってしまった。
◇
結局夕方まで街で聞き込みをしていた俺達だったが、ウロボロスの情報は何一つ掴めなかった。
こんな広い大都市だとしても、あれだけ有名なパーティーだったら少なからず目撃者がいてもおかしくない筈なのだが。
もしかすると、この街にもクロード達は居ないのだろうか?
丁度衣装の試着を終わらせて戻ってきたリズ達とも合流し、今夜もアルフォードの奢りで例の酒場で盛り上がる事になった。
「つーか、まじで悪いから今日は払わせてくれ」
席に着きながら、支払いの件についてアルファードに語り掛ける。
「いえいえ、本当に私のわがままで皆様にお付き合い頂いているのでお代くらいは支払わせて下さい」
いつもの爽やかな笑顔で、いつもの頑固な意思を示すアルフォード。
「は?まじ意味わからねーから」
「カトーさんこと、わがままばかり言わないでください」
そんな風に軽口を叩き合いながらも、
「わがままなのはどっちだよ?」
「さて?誰の事でしょう?良く分からないのですが?」
俺達はお互い笑みを浮かべていた。
「失礼しま〜すぅ」
俺と、エイル、リズに、アルフォード、それぞれ四人に例の亜人のホステス達が一人ずつ付く。
「エイル様ぁ!また会えたぁ!!」
バッチリ夜の女にコスチュームチェンジしたメルルは、エイルの隣の席を誰よりも先に奪い、
会えて嬉しいと言った感じでギューっとエイルに抱き付く。
「わっ!メ、メルルさん!?」
慌てふためきながらも、まんざらでもない様子のエイルを見て、
もう完全にロリコン野郎認定だな、と俺は静かに心の中で思うのだった。
◇
「クロード達の情報は全く掴めなかった」
「まじかぁ」
リズは衣装の試着が相当楽しかったようだ、
ウロボロスの情報を入手出来なかったと報告しても全然気にしていないというか、むしろ空返事で返ってきたからだ。
おそらく、次の一言目には『そんな事より聞いてよ〜』と今日の自分の話を切り出してくるに違いない。
「そんな事より聞いてよ〜?今日ね?今日ね?」
想定通りの言葉に、俺は静かに笑う。
「ん?カトーさん、どしたの?」
キョトンとした様子で首を傾げるリズ。
「いや…」
もうここまで分かるようになってきたとか、
それこそ完全にコイツの保護者だな俺は。
「で、そっちはどうだったんだ?」
リズが話したくて仕方がないであろう話題をこちらから振る、
「そうそう!それで、今日のね?試着していい衣装が凄く多くて、しかも可愛い衣装がいっぱいあってね?もうどれにしようか今も悩んでるんだけど!」
すると彼女は、もの凄い笑顔で今日の出来事を熱く語り出す。
よほど楽しかったのだろう。
「そっか、良かったじゃねーか」
「うん!でね?でね?これ見て?」
彼女はガサゴソとマジカル袋の中を漁り、
「じゃ〜〜〜ん!!」
と、笑顔で数種類になるであろう衣装を一気に取り出した。
「おー」
「えへへ〜、凄いでしょ?」
リアクションの薄い俺など気にする様子もなく、
彼女は自分の言いたい事を次々と語る。
「ボクがどれにしようか結局決めきらない〜って言ったら、な!な!何と!」
お値段、な!な!何と!とテレフォンショッピングのような言い回しが一瞬凄く引かかってしまい、
「これぜーんぶ、アルフォードが貸してくれたんだよ〜?」
と、笑顔で語る彼女の言葉が全然耳に入ってこないでいた。
「へー」
適当な返事をする俺に、
「ちょっとカトーさん聞いてんのっ?」
リズは少し不機嫌そうに呟く。
「あー、悪い。で、何が?」
「だ!か!ら!この可愛い衣装全部アルフォードが貸してくれたのっ!!」
衣装を指差しながら、リズは声を荒げる。
「まじか!?」
そこでやっと、彼女の語る内容が頭に入ってきた。
「これ全部?」
「だから言ってるじゃん!!」
リズが雑な感じで持つ衣装の数々はどれも凄く高そうな奴だった。
しかも、こんな高そうな衣装を全部貸してもらえるとか、
どんだけ、リズを贔屓してくれてるのだろう。
「おまっ…取り敢えず服が汚れたらいけないから袋に戻せって!」
貧乏性が発動し、高そうな服をブラブラさせているリズにすぐに戻すよう伝える、
「え〜?ちゃんと見た?ほら!この衣装とかもめっちゃ可愛いのっ!!」
しかし、そんな俺の緊張感などは伝わらず、彼女はヘラヘラ笑いながら衣装の可愛さについて語る。
「いいからっ!汚れたらどーすんだっ?とにかく今すぐ戻しなさい!!」
ヒステリックな母親のように彼女を叱る俺、
加藤良平29歳、これでも男だ。
「ほ〜い……じゃあ後でちゃんと見てよね?」
不貞腐れたように返事をする彼女に、
「分かったから、取り敢えず戻せって! あー、シワになるから!そんな直し方はやめろっ!!」
取り敢えず相槌をうちながらも、マジカル袋の中に衣装を戻す時の折り畳み方をうるさく注意する。
「もー!分かってるって!!カトーさんはいちいちうるさいなぁぁ!!」
◇
「まじで、色々して貰い過ぎなんだが…」
「ふふふ、カトーさんは気にし過ぎですよ。何度も同じ事言う形になっちゃいますが、コンテストだって私のお願いで出てもらんですよ?これくらいはさせてもらわないと、逆に私の立場がないじゃないですか?」
アルフォードに申し訳ない気持ちを伝えるが、
いつもの軽やかな弁で、逆にこれ以上この話題を引っ張れないようにされる。
これも彼の優しさなのだろう。
「悪い…じゃあ、いつかまじで何かお返しさせてくれよな?」
「ふふふ、では…いつかやばい時は頼らせてもらいますね?」
「あぁ、そんときゃいつでもどうぞ?」
俺はニッと口角を上げ笑った。
「あ、やばい時と言ったら思い出したのですが」
突然アルフォードが神妙な面持ちで、俺にだけ聞こえるように小声で耳打ちをしてくる。
「…あの例の宿屋の主人ですが…」
「…例の宿屋って…マルコの事か?」
小声で尋ね返す俺の言葉にアルフォードはコクリと頷く。
「…はい。ちょっと良からぬ情報が入ってきたもので、カトーさんにもお知らせしといた方がいいと思いまして」
「………何だよ?」
「えぇ…実は私、陰ながら亜人も含む人身売買をこの世界から排除する活動をしておりまして…」
突然ディープな話題を振ってくるアルフォード。
人身売買、ある意味奴隷制度を無くす為の活動といった所か。
「知っていますか?この世界では、人身売買の為だけに身体がボロボロになるまで子供を生まされる亜人や人たちが確かに存在しているのです」
衝撃的な内容だった、
まるで現代でいう所のペットショップ業界の闇にふれたみたいだった。
異世界になると、それが人や亜人で行われているなんて。
「………」
亜人のホステス達を慈愛に満ちた瞳で見つめながら、裏社会の闇を、その事実を淡々と語るアルフォード。
「だから私は、もうこれ以上金の為だけに罪を重ねる奴隷商を野放しにしておく事はできないのです…」
「……アルフォード」
流石ダークハーフエルフのリズを差別しないだけの男だ、
彼の活動を聞いて、裏社会の実態を聞いて、
更に彼に好感を持てたのと同時に、
彼と同様に、奴隷商達に対する怒りが沸いてきた。
「…話を戻しますが」
彼は少し鋭い目つきで、
「……あの、マルコと言う男…奴隷商の可能性があります」
そう静かに呟くのだった。




