21話.歳下のクソガキに説教垂れてしまうとか俺のオッサン化がまじで止まらないのだが。
「ほんとアルフォードって凄いんだね〜?こんな高そうな宿のオーナーもやってるなんてさ〜?」
高級そうで、ふかふかしているベッドに腰を下ろすリズ、彼女はベッドに腰を沈めたりその弾力で上に少し跳ね上がったりを繰り返して遊んでいる。
酒場では散々飲みまくって悪酔いしてたクセに、
今、彼女は色々あってすっかり元気になっていた。
「だな。しかも、かなり格安で宿泊させてもらっちまったしな」
俺はオシャレな椅子に腰掛け、宿泊客はサービスで飲めるというドリンクの内から選んだ酒を口にしていた。
「カトーさん飲み過ぎ〜」
「俺は大人だから大丈夫なんだよ」
「でも…今日はずっと飲んでばっかじゃん」
「まぁな」
今日は本当に色んな事があった、
ケルヌトの街で領主やセバスチャンに指摘されていた事が、この街に来て改めて思い知らされた、
ダークエルフに対する世間の声、
正直マルコに関しては未だにショックなのが大きかったりする、
でも、それに引き換えアルフォードのように自分の考えをしっかり持っていて、それでいてリズに対しても偏見の目を持たない奴にも出会えた。
残念な事や、良い奴に出会えた喜びが、ごちゃごちゃと入り混じり、
「…今日は酒がうまくてな」
心と身体がアルコールをもっと欲していた。
「…でも、本当の本当にちょっと飲み過ぎだよ?」
ベッドでぴょんぴょん跳ねるのを一旦やめ、
少し真面目な表情で俺の顔色を伺ってくるリズ。
「そんなに飲んじゃ」
と、彼女が言い終わる前に俺は口を挟み、
「ゲロでも吐くってか?」
ニヤッと小馬鹿にするように笑いかけた。
「も、もう!本当にごめんって!!」
結局あの酒場での最後は、
散々にヒートアップしたリズがヤケ酒を飲み始め、
それはもう盛大に口からリバースしてしまったのだった。
さっき話した色々というのは、この色々の事である、
そんなこんなで今ではすっかりいつもの調子を取り戻した彼女は、安定のうざさだった。
「あれはモザイク映像ものだったな」
「もざ、いく?えいぞー?」
意味が分からないといった様子で首を傾げるリズ、
「きたねーゲロだったなって事だよ」
そんな彼女には再度分かりやすい言葉を投げ掛ける。
「う、うぅ……酷い…」
結局そのゲロは店の人達に片付けさせる訳にもいかず、保護者として俺が後始末をしたのだった。
それもあって、俺にはリズをいじる権利があるという訳だ。
「亜人少女の事が好きな男達に関してはお前の言い分に俺も共感できるが…あれは流石にやり過ぎだったろ?」
ゲロの件をいいことに本日のお説教タイムを始める。
「うぅ…だってみんなデレデレしちゃってさ?」
「確かにエイルとかめっちゃ鼻の下伸ばしてたもんな」
別室でゆっくりしているであろうエイルを話題に出す、
「うん…エイルは別に童貞だし、アホだし別にどうだっていいんだけどさ…」
今頃アイツは自分の部屋でくしゃみをしているかもしれない、
どうでも良いと言われる為だけに話題に出してしまった事を申し訳ないと思う。
「…だけど、何だよ?」
「……アンリーって亜人と別室でいちゃいちゃしてたじゃん、カトーさんも」
またその話かよ。
「あのなぁ…だからアレはケネディさんだって言っただろ?それに別室で服を着替えてただけで、彼女とは何もねーよ」
「……本当に金髪ボインだった?普通に亜人の綺麗なお姉さんに見えたんだけど?」
「あれ付け耳だから!普通にケネディさんだって!だから、彼女と何かあるとか、ひゃくぱーありえねーから!」
一向に信じようとしない彼女に何度も説明をするこの状況、
完全に嫉妬深い彼女に身の潔白を証明しようとする彼氏だ。
まじで何なのだろうか?めんどくせー。
「……ほんとーに?」
「ほんとーに」
「…それならいいんだけどさ」
「さっきの話に戻すが、亜人の少女達にデレデレする野郎共も正直キモいし、男にモテると分かっててあんな感じで調子乗ってるあの子達も正直うぜーって思うのは分かる」
アルフォードの手前何も言わなかったが、いちいち男に媚びを売るようなあの喋り方とかも正直好きじゃないし、
俺の隣に付いたのが、ケネディとかじゃなくてあの獣耳っ子の少女とかだったら、絶対イライラしてたに違いない。
「それにアルフォードが亜人の少女の事を嫌いな男はいないって言っていたが…俺から言わせたら、じゃー異世界人の男は全員ロリコンなのかよ!って思うし、もしそーなんだったらめちゃくちゃキモいって思うし。 まー、アイツ自体は良い奴だからそんな事はこれからも言うつもりもねーけど」
俺のアンチ異世界節が久しぶりに炸裂し、
「…お、おぉ…何かモヤモヤしてて上手く言葉に出来ない事を全部言ってもらえたような気がしたよ…」
それに共感するリズは、口を開けたままコクリコクリと力強く頷く。
「だからお前の言いたい事は分かる。で、話を戻すが」
話題を変えるタイミングで、少し厳しめな視線をリズに送る、
「あ……う、うん」
彼女はその、俺の視線に気が付いたのか少し恐縮した感じで小さくなった、
本能的に再び説教タイムが始まったのを察したのだろう。
「正直こんなに良くしてくれたアルフォードの店であんな場の空気を悪くするような事はすんなよ?」
「…うん」
「子供っぽい性格なのは別にお前の長所でもあるし、そこは何も言わねーよ。でも、人としてのマナーぐらいはお願いだから少しは意識してくれ」
完全に説教だ。
しかし、言う所は言っておかないと、
コイツにとってせっかくのプラスになる人間関係も、コイツ自身の言動や行動でダメになってしまう可能性だってあるのだ。
クロードにざまぁした後、
コイツとの旅が終わった後、
少しでもコイツが嫌な思いをしなくて済むように、
重要な部分だけは教育する、
それが俺の役割だと、最近になって思っていた。
「…分かったか?」
「…う、うん」
「じゃあ…ごめんなさいは?」
「…………ごめんなさい」
素直に自分の非を認めて、謝罪する彼女に少し驚く。
てっきりまた、ぶーぶー反抗してくるのかと思っていたのだが、
「なら、もうこの話は終わりだ」
意外とリズなりに成長していってるのかも知れないなと思った。
「…もう、怒ってない?」
「は?」
彼女は一言呟いた後、こちらをチラチラ見つめてくるだけで、喋ろうとしなかった。
「……」
少し落ち込んだような表情で、俺の顔色を伺ってくる彼女、
「…いや、あのなぁ」
「…………」
完全に説教し終わった側の親と、説教され終わった側の子供の図だ。
「………怒ってねーよ、もう」
その言葉に、彼女の表情はみるみる明るくなり、
「ほんと?ほんとのほんと?」
と、俺の腕に抱き付いてくるのだった。
「ちょ、お前離れろって!前に言った事忘れたのかよ!?」
俺の腕に頬擦りしてくるリズ《こいつ》の顔を押し離すも、
「ほんほのほんほに怒ってないんはよねっ?」
としつこく、まるで尻尾を振って飼い主に擦り寄ってくる犬のように絡んでくる。
「あー、だから…もー怒ってねーって」
ため息をつき、少し面倒臭そうに答える。
彼女は俺の二度目のその言葉でやっと信じてくれたようだったが、突然俺の腕に顔を埋めたままピタッと動きを止めた。
「…おい、どうした?」
少し様子がおかしいと言うか、
再び彼女が暗い表情になっているような気がして、
彼女の頭を離そうとするのを一旦止める。
「………良かった…まだ、カトーさんがボクの事嫌いにならないでいてくれて…」
何を言い出すのかと思えば。
「あんなのでいちいち嫌いになるかよ」
いつものノリでチョップを落とそうとするが、
「……ボクと一緒に居るのがしんどくなったら…ちゃんと言ってね?」
彼女の頭すれすれの所でチョップを落とすのを止めた。
「…ほんと馬鹿だな」
「バ、バカって何だよ!」
リズがムキになりバッと顔を上げる同じタイミングで、
「あ、うっ!?」
俺はチョップの代わりに手の平を広げ、そのまま彼女の頭の上にポンと手の平を置いた。
頭を叩かれるのかと思ったのか、リズは瞼を強く閉ざし痛みに備えようと表情を強張らせる。
「…も、もう…ビックリしたぁ…」
頭は叩かれず、優しくポンと頭の上に手を置かれている状況に困惑しながらゆっくりと目蓋を開き、上目遣いで見つめてくる。
「お前みたいなクソガキと一緒に旅してて、しんどくない訳ねーだろ?」
「………な、ならっ!」
俺は鼻で笑いながら、いつものようにガシガシと彼女の頭を乱暴に撫でる。
「もう慣れたって言ってんだよ」
「も、もうっ!それ止めろってぇ!!」
「お前がアホみたいな事言うからだろーが」
彼女の頭を撫でるというより、髪をボサボサにするようにわしゃわしゃと掻き乱していた。
「も、もうっ!分かった!分かったから!もう止めろって!!」
彼女の表情が少し軽くなったのを確認し、
「分かったなら、もう寝ろ。お前明日早いんじゃねーのかよ?」
そろそろ自分の部屋に帰るように促した。
「…んー、そーだけど」
「コンテストに着る服を色々試着するんだろ?」
「…んー、そーなんだけど」
結局アルフォードはリズの正体が分かった上でも尚、必ずダークハーフエルフってバレないようにするので是非コンテストに出場してほしいと、烈々アタックをしてきたのだった。
コンテストで優勝すれば『リズさんこそが美少女No. 1たど証明できますよ』とか、
『カトーさんを見返してやりましょう』とか、
『優勝したら賞金も出ますし、美少女No. 1の証のティアラもプレゼントしますし、優勝した後のスピーチでウロボロスを探していると言えば観客からも情報を収集できるはずです』と見事な口車で丸め込まれ、
リズはすっかりとやる気に満ち溢れていたのだった、
その上で、明後日にコンテストを控える彼女をバッチリとバックアップする為に、
前日となる明日はスタッフの女性と色々な衣装を試着するらしいのだ。
「コンテストで着る服も全部ただで貸してくれるって言うし、まじで良かったな」
「うん。…ねー、明日カトーさんも一緒来ないの?」
「は?俺はエイルと少しでもウロボロスの情報収集をするってさっき言ってただろ?」
「……そーなんだけどさー」
「いいから早く自分の部屋に行って寝ろって」
その言葉で、明らかにいじけたような顔になる彼女、
まじで子供だ。
「…なんだよ?」
「……今日はなんだか一人で寝たくないんだ」
はい、出た。
リズ助の一人で寝たくないんです的なビッチ発言。
あの日俺が注意した事が全然理解できていない証拠だ。
「一ついいか?」
リズ助のビッチ発言で、完全に俺の中で再び説教スイッチが入る。
「…なに?」
「俺も男だ」
「え、そんな事分かってるよ」
「俺は確かにお前の仲間だ。だけど、仲間の前に男だ。その意味ちゃんと考えろよ」
「…仲間なのも、カトーさんが男なのも分かってる事なんだけど」
俺の言葉の意味を全然理解できていないリズに、
中身は純粋な乙女なくせしてビッチに間違えられるような発言をやめない馬鹿に、
「いやっ……だから、そのビッチ発言なんとかしろって言ってんだよ!クソガキ!!」
遂イラッとしてしまい、少しきつめに怒ってしまう。
「なっ……ま、またビッチって言ったな!!ボクはビッチじゃないやい!!いつも言ってるじゃん!!」
負けじと反論してくるリズ。
「あのな?普通に考えてみろ?男に今日は一人で寝たくないって言うのは今晩あなたとやりたいですって誘ってるようなもんだ!」
「は、はぁ!?」
面食らったような彼女の顔はみるみる内に赤くなり、
「そ、そんな事思ってる訳ねーだろ!キモいキモいキモい!!」
卑猥な単語を使う俺を罵倒する。
「も、もしかしてっ…カトーさんボクの事そんなエッチな目で見てたのっ!?」
バッと両手で自分の身体を隠そうとするリズ、
「…………カトーさんの変態野郎」
そしてジト目で俺の事を睨んできた。
なんだ、これ?説教したのは良いものの、
まじでめんどくせーんだけど、
そして、まじでタバコ吸いたくなったんだけど。
「……だから、もうそんな風に勘違いされたくないんだったら発言も気を付けろよ。分かったか?」
リズをそんな目で見てたのか?という件に付いては、もう面倒臭いのでスルーして話のまとめに入る。
「………」
「返事は?」
「……なんか気を付けろって事が多すぎてさ」
完全に不貞腐れた様子のリズ、
「……そんないっぺんに色々言われても分かんないよ」
口をへの字に曲げ、文句を溢した。
アレだな、完全に仕事できねー奴のアレだな、
リズみたいな奴には、一個ずつ少しずつ、
長い目で見て、教育していかなとダメなタイプなアレだ。
仕事でも、優秀な部下もいれば、
物覚えが悪かったり、そもそも仕事に対する姿勢や、
上司に注意される事に対して、
ボクの事が嫌いだから怒ってるんですよね?と勘違いする部下もいた。
そんな部下にはなるべく、彼等に伝わり易い言葉で、
一個の事をとにかく集中して頑張ってもらい、
一個ずつ成長していくのを、本当に長い目で見守っていかないといけないのだ。
「あー、まぁ…そーだな…」
何だが、現代で仕事していた時の感覚を思い出してしまい、俺も少しヒートダウンする。
考えてみれば、コイツの精神年齢はある意味小学生レベルだったんだ。
コイツが不満を漏らしたように、あまり一気に多くを求め過ぎるのもよくないなと考えを改める。
「怒って悪かったよ。けど、もっと自分を大事にしろって俺は言いたかったんだ」
少し優し目に答える俺の言葉に彼女は、
「んー、自分大事にしてるんだけどな?ってか、カトーさんは心配し過ぎなんだって!」
と、無邪気に笑うのだった。
次回予告 7/31 00:00




