20話.亜人っ子がコンセプトの接待系酒場がただの獣耳キャバクラ だったとかまじでけしからんのだが。
俺達は青年を含む四人で、酒場に来ている。
彼は『私の紹介で』と控えめに言っていたが、
何を隠そうこの酒場のオーナーは、彼だった。
経営は別の物に任せているらしく、それもあって彼は『ここは自分の店だ』とは言いたくないんですと、控え目に笑っていた。
他にも話を聞いてみたら、彼はこの酒場以外にも色んな店に手を出しているらしく、
只者ではないと分かっていたが、普通に現代で言う所のイケメン実業家だ。
彼はリズの正体を知った上でも、更に友好的な態度を示してくれ、今もこうやって色々と俺達の相談に乗ってくれている。
顔が良い奴は性格が悪いと言う輩がいるが、
俺はそうは思わない、
現に彼は地位も財も持ちながらも、
人間性も出来ているからだ。
「なるほど…あのクロードさん達に一矢報いる為の旅を…」
彼は上品な飲み方で酒を口にし、興味深そうに俺達の話に頷く。
「世間一般的には、ざまぁって言うんだろ?」
「ふふふ、それは一部の方々が使う若者言葉のようなものですよ、カトーさん?」
「あ、まじ?」
「えぇ、まじです」
青年はツボに入ったようで、唇に手を置きクスクスと上品に笑う。
「エイル知ってたか?」
「あ、いやー、僕も普通に現代でも使ってましたし…割とみんな使うメジャーな言葉だと思っていました…」
「ふふふ、それにしても。本当にリズさんのパーティーは凄いですよね?」
一頻り笑った後、青年は改めて俺達パーティーの凄さに付いて語り出した。
「だってですよ?まさか二人の異世界転移者とダークハーフエルフのパーティーだなんて、前代未聞ですよ。一人の転移者とパーティーを組めるだけでも凄い事なのに、それが二人なんですよ?更にその中心にいるのがリズさん。本当にこんなパーティーは特殊ですし、今後絶対にカトーさん達は有名人になるでしょうね」
「あー、まぁ…どっちの意味でも有名になる事は間違いねーよな。でも俺は、周りからチヤホヤされたくてリズと一緒にいる訳じゃねーんだ、こいつが旅の目的を果たせれば…俺が望む事はそれだけだ」
そう言い終わった後に、ビールをグイッと飲み干す。
世間から批判される覚悟はとうに出来てる、
その上で俺はリズに協力していると、彼に伝えたつもりだった。
「ふふ、あー、もう本当に今日はいい日です。私、本当にカトーさんやリズさん達に興味を持っちゃいましたよ。 あの、私で宜しければ是非お力添えをさせて下さい。皆様が悪い風にならないように微力でしょうが、陰ながらサポートさせて頂きます」
彼は様々な大物との太いパイプを持っているらしく、どこまで出来るか分からないが、極力俺達が動き辛くならないように根回しをしてくれるらしい。
「な、なんか凄いですね」
ちみちみとお子様用の飲み物を口にするエイルが、青年の発言に驚いている。
「まじで助かる。 おい、リズ?お前もいつまでいじけてんだよ?」
あれからずっとテンションの低いリズは、俺達の話を聞いてはいるのだろうが、ずっと黙りを決め込みフルーツ酒を飲み続けている。
「おい、聞いてんのか?」
「………うん」
「ったく、もうあんなオカマ野郎の事なんか気にすんなよ」
定番の彼女の頭をガシガシと犬のように撫でる、
「…も、もうっ!…だから、それやめろって…」
そしてまた定番のように、彼女はそれを嫌がり抵抗してくる、
だけど、これも定番なのだが、
何だかんだ、乱暴でも頭を撫でてやるとリズは少し機嫌を取り戻すのだった。
「ふふ、リズさんは本当に素晴らしい方と旅をされてますよ。転移者達も結局は同じ人、この世間の風潮にいずれ染まり順応していくものです。 ですが、カトーさんは違う。自分の意思を持ち、その上でリズさんを一人の対等な人として接している、私から言わしてもらえればカトーさんは本当に素晴らしい人徳者です」
青年は俺とリズのやり取りを、目を細め微笑ましそうに見つめている、そしていかに俺が良い奴なのかを力説し始めた。
「いやいや…それ言ったら、お前だってそうだろ?エイルはともかく、この世界の住人で少なくともリズを差別しなかったのはお前が初めてだぜ?」
その言葉に青年はクスリと笑う、
そして、彼は心の根っこにある世間に対する不満をポツリポツリと語り出した。
「基本的にダークエルフを嫌わない者はいませんからね、そこにダークエルフ達の個人の性格や行いは関係なく、ただそうってだけで世間の声は批判的なものになります……実は私も前からこう言った決め付け的な風潮に嫌気がさしていたんです。差別の対象はダークエルフだけではありません…本当に人は世間に流されやすく、寄ってたかって何かを攻撃したい哀れな生き物なんですよ」
青年の考え方は凄く共感できた、
異世界だろうが、現代だろうが、やはりこういった批判や差別はどの世界にも存在する。
その上でマルコのようにダークエルフを忌み嫌う者も居れば、彼やエイルのように理解を示してくれる者もいる。
「すげー分かるわ」
確かにダークエルフ達に大切な人を殺された人達もいて、
その人達がダークエルフを憎むのは分かる、
でもリズみたいにきっと、ダークエルフだって、
全員が全員悪い奴等じゃないんじゃないか?
俺はあの日からずっとそう思っている、
それなのに彼が言ったように、
ダークエルフは忌み嫌うものと、
そんな世間の風潮だけで、固定概念だけで、
ダークエルフを差別する奴等だって大勢いるはずで、
俺はそう言った奴等に対しては、正直むかついていた。
「あ、ごめんなさい。そう言えば挨拶がまだでしたよね?」
「あー、そう言えば…」
言われて見れば彼の名前をまだ聞いていなかった。
「私は、アルフォードと申します。是非今後とも良いお付き合いをさせて頂きたく思います」
品のある仕草で一礼をする彼。
「アルフォード、今日は本当に助かった。宿まで準備してもらって今も色々よくしてもらって、正直ほんっと感謝してる」
「ふふ、喜んで頂けたなら良かったです」
どちらかともなく、俺とアルフォードは友好の印に握手をする。
「それじゃあ、そろそろ真面目な話はやめにしましょうか?」
アルフォードは、パンパンと手を合わせ叩く。
「…はい、アルフォード様お呼びでしょうか?」
黒服の従業員が瞬時に駆け寄り、膝をつき彼の言葉に耳を傾ける。
「…はい、かしこまりました」
黒服の従業員は一礼をしてこの場を立ち去り、何やら他の従業員に指示を飛ばしている。
「本日は友好の暁に、お代をこちらで待たせて下さい」
「は?いや、それは流石に悪いっ」
「失礼します〜」
奢らせて下さいと言い出すアルフォードの申し出を俺が断ろうとした瞬間、
突然俺達の席に獣耳のある女性達が集まってきた。
「わわ!?」
「な、何だよ?こいつら?」
状況が把握できていない俺達を見て、
アルフォードは笑いながら、
「今晩は楽しんで下さいね」
と、だけ言うのだった。
◇
獣耳がある女性達は全員で四人、俺達四人に対して一人ずつ付くホステスのようなものだった。
ここってあれじゃねーか、
それとなくいかがわしいお店じゃねーか。
「わー!お客様のお顔凄く綺麗ですぅ!」
エイルの隣に付いた、少女風なホステスは彼の顔をベタベタ触る、
「そそそ、そんな事な、な、な、無いですっ!?」
それでもう、エイルは完全にあがってしまい、顔を真っ赤にしている。
「えー!お客様の髪型凄く素敵ですっ!それにその猫耳フードも最高にキュートですよぉ!」
「…そ、そう?やっぱ分かる?」
まだ少しテンションの低かったリズも、ホステス達のよっこいしょによりさっきよりも更に機嫌が戻ってきつつある。
「あ〜ん!アルフォード様ぁ!会いたかったですぅぅ!」
また、別の獣耳っ子はアルフォードに抱き付き、ずっと頬ずりをしている。
「あはは、よしよし」
アルフォードはそんな獣耳っ子を軽く往なしながらも、
彼女の獣耳を優しく撫でる。
「や〜ん!も〜アルフォード様ったら!耳は敏感だって知ってるでしょぉ?」
「あはは、亜人の耳は敏感だったんだったね」
「も〜!知ってるくせにわざとですねぇ?アルフォード様ったら〜!」
アルフォードはホステスの彼女といちゃいちゃしてまくっている。
「…あ、亜人?その耳ガチの奴?」
「あれ?カトーさんは亜人みるの初めてですか?それなら、丁度良かったですよ。このお店亜人の女の子達と楽しくお酒を飲める酒場なんです、それに全員レベル高いんですよ?あ、レベルってのはルックス方ですからね?」
それキャバクラな、
それを現世ではキャバクラと呼ぶんだよ。
「亜人のキャバクラとかマニアック過ぎだろ…」
周りの騒がしいきゃぴきゃぴ系のホステスとは違い、俺の隣に座っているホステスは物静かで、ずっと黙っている。
そんな彼女と一瞬目が合うが、
彼女は俺の視線に慌てた様子ですぐに目を伏せる。
確かにアルフォードの言う通りこの店の亜人達は全員レベルが高い気がする、
俺の隣にいる彼女も、長いブロンドの髪が似合う美人だった。
それに、露出の多い衣装がなんともけしからん。
彼女はずっと黙りで、客と目があっただけで目を伏せる感じとかもホステスとしてどうなんだって正直思う所はあるが、
だが、逆に俺的には他の子達のように馴れ馴れしく絡んでくる感じよりもこの子のように大人しくしていてくれる子の方が好感は持てた。
丁度ビールを飲み干してしまい、俺は空になったグラスをテーブルの上に置く。
「あ、ああ、あのっ………ビール…おかわり…しますか?」
突然隣に座るホステスの子が口を開いたかと思えば、ガチガチに緊張しているのかカタコトの外国人のような喋り方でアルコールの追加をするかどうかと尋ねてきた。
「あー、じゃあもう一杯貰おうかな?」
正直ビールはもうお腹一杯でいらなかったのだが、彼女の必死さが伝わってきたのもありもう一杯だけ頂く事にした。
「は、はい!……あ…ありがとう…ございます…」
俺のその言葉で、彼女はパッと一瞬笑顔になるが、
俺の視線が気になるのかすぐに表情を強張らせ、目を逸らした。
それにしても彼女、
誰かに似ているような気がするのだが、
それが誰だか思い出せない。
「あ、あ…あのっ……ビ、ビール…です…」
彼女は追加でオーダーしたビールを俺に手渡そうとしてくるのだが、手がブルブルと震えており、まじで下手するとこぼれそうで見ていて怖い。
「大丈夫だから、とりあえずそこに一旦置こうか?」
「あっ……は、は、ははは、はいぃ……」
そして彼女が震える手で、ビールをテーブルに置こうとした瞬間、
「あっ!?」
お約束といった感じだが、
彼女はビールを俺の服に溢してしまった。
「す、すすす、すみません!!」
テーブルに置いてあった布巾で、慌てて俺の服を拭く彼女。
「いやいや…大丈夫だから…」
自分で服を拭こうと、彼女から布巾を取った瞬間、
「……てか、お前…」
彼女が誰なのか気が付いてしまった。
「…何やってんの?」
「…………な、何の事か…わ、分からないです…」
おそらく向こうは最初から俺の事に気が付いていたのだろうが、ずっとシラを切り倒そうとしていたのだろう、
そして、今もとぼけたフリをするケネディ。
◇
彼女の事を思い出せないという方は、8話をチラッと振り返ってほしい。
そう彼女は、貴族で冒険者で斧を振り回していて、
凛として、強く綺麗な女性のイメージだったのだが、
結果的に俺が転移者だって分かった途端、
酒場で酔った勢いで、告白してきた彼女だ。
俺が容赦ない振り方をして、泣きながら酒場を飛び出していったあの彼女だ。
それがどうしたものか、まさか獣耳を頭に付けてホステスになった彼女と大都市アトンで再会してしまうなんて。
「いやいや、ケネディさんですよね?」
「…………」
冷や汗を垂らしながら、目を泳がせるケネディ。
もうこのリアクションでほぼ本人と確定してしまった。
「いやいや、ケネディさんじゃん?」
「…………ち、ちが…違います…」
ブルブルと身体を震わせながら必死に嘘を突き通す彼女、
なるほど、そこまで意地になって隠すのなら逆にどこまで頑張れるのか試してみよう。
「なら、あんたの名前は?」
「…ア、アンリーです…亜人の…アンリーです…にゃ」
不自然に語尾に『にゃ』を付ける彼女。
必死だな、まじで。
「そーですか。じゃあ他人の空似って奴ですね?」
「あっ…そ、そ、そうです!それです!…にゃ」
やめとけ、もう語尾に『にゃ』を付けるのはやめとけって、必死なのは分かるが絶対に古傷にしかならないから。
「カトーさん大丈夫ですか?すみません、彼女新人みたいで」
アルフォードが、ビールで濡れた俺の服を心配してくる。
「もし、宜しければ変えの服をお貸ししますよ?」
「あ、いや。何もそこまでは大丈夫」
「いやいや。ですが、やっぱり悪いです。アンリーさん、カトーさんを別室に案内してあげて下さい?」
アルフォードは少し圧のある笑顔で、ケネディに指示を出す。
「は、はいっ…了解です……にゃ」
だから、もう『にゃ』はやめとけって。
◇
ケネディに連れられ、別室に移動する。
アルフォードがその部屋にある服ならどれでもいいので、気に入ったものがあればどうぞ?とさっき言ってたのだが、まじでどれも高そうな服ばかりが並んでいる。
「なぁ、どれでもいいって言われたんだけど、どの服も高そうで着れねーんだけど。ケネディさんはどれがいいと思う?」
「はぁ…まったく君はしつこい性格をしているな…」
俺のしつこさに負け、遂にいつもの喋り方に戻った彼女は少し不機嫌そうに返事を返してくれた。
「いや、だってあんたみたいな人がこんな店で働いてるなんて…つか、いつから亜人になったんだよ?」
ジーっと獣耳を見ながら呟く。
「こっ…これはっ…この店のコンセプトと言う奴で…必ず着用しなければならないのだっ!…べ、別に好きで亜人のフリをしている訳ではないっ!」
カチューシャ型になっている付け耳をスッと外し、完全にいつものケネディに戻る彼女。
「おー、すげー!」
「す、凄くなど…ない」
「って事は、この店の子達はみんな亜人のフリしてるのか?」
「…いや、私のように人間で働いている人の方が少ない、この店のコンセプト通り接待している女性達はほぼ亜人だ」
「なるほど」
基本的には全員亜人で揃えているけど、
美人に限り付け耳着用で採用といった所か。
「それにしても…」
彼女の露出の多い衣装に視線を移す。
「まじで、けしからん格好してんのな」
「みっ……見るなっ!!」
顔を真っ赤にして、衣装が大量に掛かってあるラックらしき物の後ろに隠れる彼女。
「べ…別に好んでこんな衣装を着ている訳ではないっ!」
そりゃ、そうだろう、
仕事だから仕方なくってのはわかっている。
しかし、彼女がこんな店で働くとは。
お金に困っているのだろうか?
「悪い男にでも騙されて借金でも作っちまったか?」
「なっ……君は何て事を言うんだっ!!そんな訳ないだろっ!!」
どうやら違ったようだ。
「じゃあ、どうしたんだよ?」
「……クエスト中に、街の器物を破損させてしまい…弁償代を稼いでいるのだ…」
おいおい、どんだけ街で暴れたんだよアンタは。
俺の頭の中で、斧を振り回しながら街を駆けるケネディの姿が想像できた。
「それにしても…金がないなら、クエストで稼げばいいじゃねーかよ?お前腕っ節は強いんだからさ?」
「……弁償の前払いとして、武器、防具一式全て差し押さえされてしまったのだ…」
彼女は悔しさのあまり、プルプルと拳を震わせながら当時の事を思い出し語っている。
「…私だって…クエストで稼ぎたい…でも、こうなってしまっては…もうこだわっていられないのだ…」
「…なるほどな。それで、この店で働いてる訳か…」
「……あぁ、こんな店だが…時給は良いからな…」
少し憂いがかった遠い目をする彼女はボソリと呟く。
彼女の性格上、こういう店は本当に苦手なんだろう、おそらくストレスも半端ない筈だ。
「…まさか、オーナーの客人として君がこの店に来るとは思いもしなかったが…」
「あー、だな。俺もビックリしたわ」
「……あ、あのっ…その、カトー?」
急にもぞもぞと何か言い辛そうにしながらケネディが呟く。
「…何だよ?」
「…そ、そのっ……せ、先日は……そのっ……本当にすまなかった…」
深々と頭を下げる彼女。
「いや、何か…うん、俺も色々言い過ぎて悪かったよ…」
「いやっ!……後々になってカトーに言われた事を色々考えてみたのだ、自分なりにだが……すると、やはり…君の言い分が最もだなと、気が付かされたよ…」
彼女は素直に自分の考えが浅はかだったと、
反省したのだと、非を認めてきた、
あんなに俺から酷い事を言われたのにも関わらずだ、
「…こんな所で言う事ではないのだろうが、もしまた君に会えた時は…そ、そのっ……今度は、是非友人になってくれないだろうか?と言いたくて…」
そんな彼女の姿勢を見て、
とことん真っ直ぐな奴だなと思った。
「…何言ってんだよ?一緒にサイクロプス倒した仲だろ?俺は友人としてお前の事を見てたつもりだぜ?」
「カ、カトー……」
俺のその言葉にパッと表情が晴れやかになる彼女。
「あくまで友人としてだけどな?」
しかし補足として例の件に関しても気持ちは変わっていないと釘を刺す。
「うっ…」
『うっ』って何だよ。
ケネディは暫くの沈黙の後に、
「…………も、もちろんだ。別にもう婚約して欲しいなどとは言わぬ」
と答えたのだが、明らかに目が泳いでいる。
これはアレだな。
「…婚約だけじゃなくて、ワンランク落とした交際の申し込みも無しな?」
調子乗ってるモテ男かよ俺は?とツッコミを入れたくなる気持ちを抑えながらも、懸念で済めばいいと思い敢えてこの言葉を自分から口にする。
すると案の定、
「えぇ!?そ…それも駄目なのかっ!?……あっ!…じゃ、じゃなくて……あっ…そのっ…」
と物凄く分かり易いリアクションを取ってくれるのだった。
「まー、なんせケネディさんも色々と大変みたいだけど…友人として応援してるからな?ホステスの厳しさに負けるなよ、にゃ?」
俺はニヤリと笑いながら彼女の『にゃ』を容赦なくいじる。
「こ、こらっ!…にゃの事はもう忘れてくれぇぇぇ!!だから、君には正体をバラしたくなかったんだぁぁぁあ!!」
彼女は顔を真っ赤にして、叫ぶのだった。
◇
極力安そうに見える服を適当に選び、着替えてから俺とケネディはみんなの元に戻った。
「カトーしゃん!!どこ行ってたのさぁ!!」
完全に酔っ払い出来上がっているリズが、姿を消していた俺を問い詰めてくる。
「悪い悪い、ちょっと着替えてきたんだよ」
「お似合いです、カトーさん」
「どれも高そうで着るのに抵抗あったわ」
「いえいえ、とても素敵ですよ」
と、爽やかな笑顔で何処までも俺を持ち上げてくるアルフォード、
「笑顔がうさんくせーし、全然嬉しくねーよ」
「ふふふ、よく言われます」
そんな彼とのやり取りに自然と笑みが溢れる。
「ねー!ねー!ねー!ねーったら!カトーしゃん!!」
完全に目が据わっているリズが俺の服を乱暴に引っ張る、
「ちょ、何だよ!?つか、これ借り物なんだから引っ張んなって!!」
「そんな事はどーでもいいのっ!!それよりさ?この子達みーんな奴隷として売られてた亜人だったんだって?」
そして彼女は、周りの獣耳っ子達を指差す。
ファンタジー世界でよく聞く単語でもある、亜人、奴隷。
まさに今ここに居る彼女達のほとんどがそうだったらしいのだ。
「はい、オーナー様が私達を買い取って下さいまして…それにこうやってお仕事まで下さったのです。私達にとっては本当に神様のような方です」
リズの隣に座る亜人のホステスは、アルフォードがどれだけ素晴らしい人間なのかを熱く語る。
「やめて下さい…私は別にそんな良い人間ではありませんよ」
困ったように笑うアルフォード。
「ただ、商人として亜人の可愛い子達が接待してくれる酒場を作れば儲かるだろうな?って発想からそうしただけで、ある意味この仕事に貴女達を縛っている時点で私は良い人間でもなんでもないです」
「そんな事ないです!私達みんな、このお仕事が大好きです!それにオーナー様の事も!」
ケネディ以外の三人の獣耳っ子達が、彼に向かい真剣に想いをぶつける。
「やれやれ…貴女達の気持ちはいつもありがたいと思っていますよ? ですが、今は何の時間ですか?」
アルフォードのその言葉に彼女達は、ハッとしたような表情になる、
「…すみません、お仕事中でした」
そして、親に怒られる子供のようにしゅんと落ち込み素直に謝るのだった。
「ですよね?私の大事なお客様なんです、最高のおもてなしをお願いしますね?」
それ以上は咎める様子はなく、ニッコリと優しく微笑むアルフォード。
本当に彼と交流すればする程、彼の底の知れなさを感じる。
「そーじゃなくてさっ!!」
――バン!っとテーブルを叩くリズ。
「なんだよ?」
正直うるせーなと思いながらリズに視線を移す。
「そーじゃなくて!!男ってほーんと亜人の少女大好きだよね!!って話!!」
――バンバン!!とテーブルを叩きながら声を荒げるリズ。
「あー、亜人の少女な?」
正直今それを言うのかよ?的な空気の読めない発言ではあるが、リズの言いたい気持ちはよく分かる。
「そう!!ほら、見て?エイルのあのデレデレした顔をさっ!!」
リズは冷たい視線をエイルに送る、
それにつられて俺もエイルに視線を移す。
「あー、本当だな…」
獣耳っ子に密着されて心底嬉しそうなエイル君。
「な、ななな、何ですかっ!?」
彼は俺達の視線に気がつくと、明らかに動揺していた。
「エイルの隣に居る亜人の子は凄くロリっぽい感じだし、如何にも男受けしそーな感じだよねー」
ジト目でエイル達を見つめるリズ。
「……べ、べ、別に僕はそんな風に彼女を見てないっ」
エイルが否定の言葉を述べようとしたタイミングで、
「…エイル様は、私の事…タイプではないのですか…?」
と、隣に座る獣耳っ子が瞳をうるうるさせ、更に上目遣いでエイルを見つめる、
そんな彼女の言葉は、奴には威力が抜群だったようだ。
「ぐほっ!?」
彼女のキュートさに、思わず飲み物を吹き出してしまうエイル。
「大丈夫ですか!?」
流石ホステスといった所か、すかさずエイルが汚したテーブルを拭きながら、彼自身も濡れなかったかの確認をとる獣耳っ子。
「だ…大丈夫です………そ、そのっ…」
「…その?」
獣耳っ子は、布巾でせっせとテーブルを拭きながらもさっきよりもかなり接近した距離感でエイルを見つめる。
「…ど、どちらかと言うと……タ、タタ」
「…タ?」
クスリと微笑みながらも、エイルがちゃんと発言するのを首を傾げながら待つ彼女。
エイルは完全に顔を真っ赤にし、彼女から目を逸らしながらボソボソと聞こえないくらいの声量で呟く。
「……タ、タイプ…です……はぃ…」
「え〜!嬉しいですぅぅ!!私もエイル様の事凄くタイプですよぉ?」
きゃっきゃとはしゃぎながらエイルに抱き付く獣耳っ子。
リズはそれを見た途端、また例の劇画タッチ風の濃ゆい顔になり、目もカッと見開き怒り狂っているようだった。
「ひゃ!?…ちょ、ちょっとみんな見てますからぁ…」
それにしても、エイルの奴完全にホステスの術中にハマってるじゃねーかよ。
「ほんっと男って亜人の少女好きだよね〜!どーせ、誰からも相手にされないキモい奴等が自分色の女に染めてやるぜ、ぐへへ〜って夢を見られる所がいいんだろうね〜?まじでほんっとにキモいよね?キモいよね?キモすぎだよね?」
怒りを爆発させるリズ、言いたい事は分かるのだが、少なからず彼女達に対する嫉妬もあるのだろう。
正直俺から言わせればリズだって充分ロリッ子に見えるし、すげーあざとい、
なので、同族嫌悪かよ?とか、ひがみ爆発だな?くらいにしか思わなかった。
「ふふふ、リズさん?エイルさんを責めないであげて下さい。亜人の少女が嫌いな男はこの世にいないんですから。それに、リズさんだって超絶美少女じゃないですか?ここにいる亜人の子達よりもリズさんの方が好きだって方だって一杯いると思いますよ?」
「ふ、ふんっ!そんなの分かってますよ〜だ!!」
アルフォードは自慢の口車で、怒るリズをなんとか丸め込む。
まじで、流石だ。
それにしても、亜人の少女か、
俺が仕事から帰ってくると、弟もよく異世界モノの小説を読みながら、亜人の少女キタ!とか、
ヒロインはやっぱ奴隷で亜人の少女だろ!!とか、意味分からない事を呟いていたものだ。
アルフォードが言うように、ファンタジー世界の中ではどうやら亜人の少女というのはロマンがあるようなのだった。
「…俺には良さが全然分からねーが」
「ふん!カトーさんもどーだか?」
リズはケネディに視線をやりながらも、俺に噛み付いてくる。
「そこの、アンリーさんって美人の亜人と別室でよろしくやってたんでしょ?どーせ?」
「は?馬鹿か?んな訳ねーだろ」
何を言うのかと思えば、まじでくだらない内容過ぎて呆れてしまう。
しかも、百歩譲ってそうだったとしてもお前に何で咎められないといけないんだよ、
お前は俺の彼女か。
「そ、そそそ、そうです!そんな訳ないです…にゃ」
否定の意味で両手をブンブンと振りながら、完全に取り乱すケネディ。
「つか、お前もお前でもうにゃはやめとけ?」
俺の助言に彼女は素直に頷くも、
「そ、そ、そそ、そうだな……う、うん…分かったにゃ…じゃなくてー!?」
と、一人意味不にどつぼにハマっていた。
「なにさ、なにさ!そうやって二人でコソコソ話しちゃってさ〜?仲の宜しい事です、ねっ!!」
――ドン!と俺にボディブローをかますリズ助。
完全に不意をつかれてしまい、地味だが後を引く痛みが横っ腹に響いてくる。
「くそ、いてーな!」
イラッとして、軽くリズを睨む、
「ふんだ!カトーさんの馬鹿ちん!!」
しかし、それでも彼女の意味不な逆ギレが全然おさまる様子もなかった。
「ふふふ、リズさんはカトーさんが取られちゃった気がしてやきもちを焼いているのですよ」
と、にこやかにフォローを入れてくるアルフォード。
「なっ!?ボ、ボクがやきもちをっ!?」
それにしても、そうか。
確かに言われてみれば、親を取られてしまった子供の嫉妬にもリズのあれは似ているような気がする。
「そんな訳あるかよっ!!馬鹿じゃないのっ!?」
今度はリズが完全に取り乱している、
「なんだよリズ助?」
俺はその様子を見ながらニヤッと笑い、
「お前、やいてたのか?」
いつもの調子で彼女をいじるのだった。
次回予告 7/30 木曜日 00:00




