19話.異世界で出会したオネェの圧がまじで凄過ぎてありえないのだが。
大都市アトンは水の大都市と呼ばれているらしく、人口は最初のケルヌトの街とは比べものにならないくらい多い。
建物からは所々噴水が吹き出しており、まさに水の大都市と呼ぶに相応しい街だった。
「まじでやべーな」
「はい…まさに、ファンタジーですね…」
「なんか…宿とかも高そうだよね…」
「確かにな…」
リズの言う事はごもっともだった。
結構貯えがあるにしても、高い宿にほいほい金を渡していたらすぐに金を使い果たしてしまいそうだ。
「安い宿でも探すか」
「それがいいかもですね」
◇
道行く人達に聞き込みをした結果、大都市アトンにも下町らしき場所があるらしく、そこに行けば一番安い宿があると情報を得た俺達はその場所に向かった。
夜になれば賑わうのであろう酒場や、
いかがわしそうなお店が並ぶ中、
ポツンと古びた例の宿屋が見えた。
「明らかにボロそうですね…」
宿の外観を見て素直な感想を述べるエイルに同意しようとした瞬間、野太い男性の声が聞こえた。
「悪かったわね!ボロそうな宿で!!」
「うわっ!?ご、ご、ごめんなさい!!」
反射的に謝罪をするエイルはその声の主の姿を見てフリーズしてしまった。
「言葉は気を付けた方が長生きできるわよ?可愛い坊や」
エイルにウィンクをするその男は、
褐色の肌に、
ツーブロックに刈り上げたサッパリとした短髪、
海外のバンド『クイーン』のフレディーを放出させるようなダンディーな鼻髭を生やしたイケてるおじさん風な容姿なのだが、
エイルが彼を見てフリーズする理由は先程からのオネェ口調と、女性のような彼の仕草である。
「おー、すげー、異世界にもオネェって居るもんなんだなー」
「ちょ!?ちょっとカトーさん!そんなストレートに!?」
俺の発言にビクビクしながらチラチラとオネェのおじさんを気にするエイル。
「うふふ、その口振りからするとお兄さんは転移者様と言ったところかしら?」
「御名答、世間を賑わす主人公野郎様だ」
卑屈に笑う俺を見て、オネェは大声で笑った。
「あははっ…おっかしーわねあなた?主人公野郎は転移者達を妬む人達が悪口として使う用語よ?あなた、そんな言葉どこで覚えたの?ふふ、それに自分で使うなんて…くふふ…あー、おっかしーわ、あはは」
「どっちかと言うと俺も、転移者を悪く言う側の人間だったんでね?意気投合した冒険者にちょっと教えてもらったのさ」
「あー、もう、お兄さん傑作だわ!くふふ。 あー、ごめんなさい、あたしの名はマルコ。このボロそうな宿の主人で、この周辺の人はみんなあたしの事をマルコさんって呼ぶわ」
エイルの発言をしっかりと根に持ってる様子のマルコ。
「あ、ご、ごめんなさい…」
「うふふ、もう気にしてないわよ〜」
と言いながらも、完全に根に持ってるように見える。
これは暫くこのいじりが続きそうだ。
◇
マルコの宿は一階が食堂になっており、二階が宿になってるようだった。
食堂の方には、まだ昼過ぎだからか店内にはちらほらと客が料理を食べている。
「お帰りマルコさん。おー!もしかしてこの子がさっきのボロい宿発言してた子?」
男性客がニヤニヤと笑いながら問いかける。
「あ、あのっ……すみません…」
「うふふん、そーよ。でもいじめちゃダ〜メ」
唇にスッと人差し指を当て、男性客にそれ以上言うなとアピールをするマルコ。
「か〜!マルコさんはイケメン君には優しいんだからさ〜」
昼からビールをグビグビと飲みながら別の男性客が笑う。
「何言ってんのよん?あたしはみんなに優しいでしょ?」
「「がはは、そりゃちげーねー」」
完全に常連との絡みに取り残される俺達。
「ごめんなさいね〜? で、宿泊客でいいのかしら?」
「あぁ、三名なんだが。部屋は空いてるか?」
「三部屋で、いいのかしら?」
「頼む」
マルコに出された受付表に記入する。
しかし、その時にフッと常に騒がしいリズが大人しい事に気が付いた。
「お前が静かとか珍しい……おい、リズ助?」
周りを見渡しても彼女の姿が見当たらない。
「あれ?さっきまで居ましたよね?あれ?」
エイルも完全に気付かなかったようだ。
「あたしが声をかけた時には、お兄さん達二人しかいなかったわよ?」
「まじで?」
「えぇ、まじだけど?」
どうやら、ここに来る途中で逸れてしまっていたようだ。
「…あいつ」
こんな大都市で迷子になるとか、まじで勘弁してほしい。
「さ、探しに行きましょう!?カトーさん!」
「あぁ。 あ、取り敢えず今晩は三名で泊まるんで」
マルコに向き直り宿の予約はそのままでと伝える。
「分かったわ。 どうしても、見つからない場合はまた戻って来て頂戴?その時はこの周辺の人間かき集めて探してあげるから」
さらっと凄い事を言い切るマルコ。
彼は、この周辺ではかなり発言力のある人物なのかも知れない。
それなら本当に都合が良い、
まじでどうしようもない時は、彼に頼る事にしよう。
「……その時は、頼む」
「うふ、行ってらっしゃい」
俺とエイルは宿を出て、リズを探しに向かった。
◇
手分けしてリズを探す事三時間。
そろそろ辺りが薄暗くなりかけたぐらいの時にようやく彼女を見つけた。
「つか、お前何やってんだよ?」
リズは爽やかな青年とテラス席でお茶をしていた。
詳しく言うと飲んでいるのはお茶ではないのだが、意味は察してほしい。
「あー、カトーさんごめんごめん」
「あ、彼が例の?」
「そーだよ!」
やや長めの茶髪を七三分けにセットし、紳士風にスーツを着こなす爽やかな青年。
その彼は俺に気が付くと席を立ち上がり上品に一礼をしてきた。
「この度はリズさんをお引き止めしてしまい申し訳ございませんでした」
「あ、いえ…」
何だよ?この人?とリズ助に目で合図を送る。
「甘い食べ物奢ってもらってたのー」
そーじゃねーよ!何でこんな状況になってんだよ?と再び目で合図を送る。
「あー、すみません。それはですね?」
俺達のやり取りを見ていた爽やかな青年がクスクスと上品に笑いながらリズの代わりに答える。
彼は大都市アトンを拠点にしている商人で、
現在彼は自分がスポンサー兼主催側として、この大都市で『美少女コンテスト』を開催しようとしているのだそうだ。
そこで、目に止まる美少女に声をかけまくっていた所、リズにも声をかけたら逆に時間を取られ散々奢らされてしまっていたらしい。
「大切なお連れさまを足止めさせてしまい…本当に申し訳ございませんでした…」
「いやいや、逆に色々奢らせちゃったみたいですみません…それにどうせ、可愛いですね?とか社交辞令で声をかけたら逆にコイツが調子にのってお兄さんを足止めさせてたんでしょ?」
「あはは…リズさん程の美少女なら必ずコンテストで優勝できますし、私の開催するコンテストの質を上げる為にも是非参加してほしいと私が一方的に口説いていただけなんです。どうか、リズさんを責めないであげて下さい」
「ふーんだ。お兄さんの言う通り、ボクはやる事あるからって断ったんだけどそこまで言うならーって話聞いてただけだもんねーっだ」
べろべろばーと舌を出しガキみたいに挑発してくるリズ。
「あっそ。それも社交辞令なんだよ。お兄さんだって仕事で忙しいんだから、お前一人にこんなに時間を使わせて悪いと思わねーのか?」
「はぁ!?何それ!?じゃーなに!?カトーさんはボクが美少女コンテストで優勝できないって言うの!?」
「あー、できねーだろーな!!世の中にはお前より美人が山程いるんだ!!身の程をわきまえろ!!」
「むきー!!言ったな?ボクの相方として絆を育んで来たクセに!相方で美少女のボクに向かって言っちゃいけない事を言ったな!?」
「あー!だったら何だってんだよ!?」
「あれだよ!もし美少女コンテストで優勝できたら土下座して謝ってよね!?」
「あー、いいぜ?その代わり優勝できなかったらお前、このお兄さんに私如きに時間を使わせてしまい本当にすみませんでしたって言って謝れ!!他人に迷惑かけたんだからそれくらい当然だろ?」
「ふんっ!望む所さ!!」
丁度俺とリズの言い合いが終わるタイミングでエイルが駆け付けて来て、青ざめながらお兄さんに何があったんですか?と問いかけていた。
◇
「本当に転移者の方々は凄いアイディアをお持ちで、私はそのアイディアをより忠実に商品として作る事を目標にしているのですよ」
宿まで同行させて欲しいと言うお兄さんは自分の商売について語っている。
転移者達から現代での家具、道具のアイディアを買い商品化するのが彼の仕事のようだ。
どこの世界にでも、誰も手を付けていないものにいち早く気付き行動できるものが成功しているのかも知れない。
この青年俺より少し年下くらいに見えるが、正直かなりのやり手に見えた。
「今度、おたくの商品見せてもらう事にするよ?」
「はい、是非!」
屈託のない笑顔で笑う彼、品があるくせに仕事の話をしている時は少年のような顔をする。
「おっと、着いたな。ボロい宿によ?」
「カトーさん…意地悪しないで下さいよー」
リズと青年は意味が分からないといった様子だったが、エイルは確実に古傷に塩状態だった。
あー、古傷って言う程の古くもない傷だが。そこも、察して欲しい。
◇
宿に戻ると、マルコが全力で迎えてくれた。
「お帰りなさぁぁぁぁい!!」
ダンディーなオッサンが身体をクネクネさせ、俺達の帰りを喜んでいる。
「あら、あら?ちょっと見ない間にお仲間が増えちゃったわね?部屋数増やす?どうするぅ?」
無事に仲間を見つけられた事を察したマルコはテンション高めで凄い数のウイング飛ばしてくる。
「あー、いえいえ、私はこれで失礼しますので」
愛想笑いを浮かべる青年が、マルコの申し出を断る。
「そーお?お兄さんもイケメンだから少し残念だわ〜ん」
「……なに、このおじちゃん?」
純粋な意見だった。
リズは恐らく初めてオネェを見たのだろう。
「あのな、リズ?世の中には色んな人がいるだろ?」
「…う、うん」
ここは保護者として、彼女が炎上発言をする前にちゃんと言い聞かせないといけない。
「男なのに戦いに興味ない奴もいれば、女なのに恋愛に興味ない奴もいるだろ?」
「……うん」
「それと同じで、身体は男なのに心が女の人ってのもこの世界にはいてな?」
「……あ、ごめん意味が分からない」
うん、だよな。
凄く純粋に意味が分からないだろうな。
精神年齢10代のリズにはまだこの手の話は難しかったかも知れない。
「ぶっぶ〜よ!カトーさん、ぶっぶ〜!あたしは別に心が女性な訳でもないの、あたしはただのゲイでオネェなだけよ!!」
「あー…ごめん、意味が分からん」
リズに説明する前に既に俺の頭もこんがらがってきた。
オネェと言っても、実は色々とあるようだ。
「カトーさんはもっとあたし達の事について勉強が足りないわね〜?そんなんじゃ彼氏になんて、し、て、あ、げ、な、い、わ、よん?」
最後に可愛くウインクを飛ばしてくるマルコ。
詳しく言うと飛んできたのは可愛いウインクではない、その意味も悪いが察して欲しい。
「すみません…俺のんけなんで勘弁してもらっていいっすかね?」
淡々と低い声でお断りの姿勢を示す、がマルコはそれでもと言うかむしろ今の俺の言葉で逆に火が付いたようだった。
「馬鹿ね〜ん、あたしのんけをこっち側に目覚めさせるプロなのよん?カトーさん、一晩どう?女性なんかじゃ真似できないような凄く良いエクスタシー感じさせちゃうわよ?」
その言葉に青年を含む全男性達の血の気が一気に引いたのが分かった。
「あ、はは…俺はそう言うのいいんで?まじですんません」
「そんなぁ〜、絶対に後悔はさせないわ?」
カウンターを飛び越え、
グングンと俺との距離を詰めてくるマルコ。
圧が、そう圧が半端なかった。
「い、いやいやいや…まじでホントにすんません」
彼の顔は至近距離まできており、
舐め回すように俺の顔を視姦していく、
「あ、はは……近い……近いっす……」
いやらしい目で見られる女性の気持ちが、
今、物凄く分かってしまった気がする。
俺は大量の冷や汗を垂らしながら目を逸らす。
「…照れた顔も、か、わ、い、い、わ、よん」
最後に人差し指で、頬をツンと突かれる、
その瞬間ゾクリと背筋が寒くなった。
彼の圧は物凄く、本気で戦っても勝てないんじゃないかと錯覚してしまう程の風格すら感じた。
それのせいか妙に恐縮してしまい、まじで今の状況に少し足も震えそうになっている。
「うふふ…大丈夫よ?最初は優しくするから?」
耳元にオッサンの生暖かい吐息が当たる。
「エイルッ!!エイルがっ!そそ、そう!エイルが少し興味があるそうです!!」
何故か敬語になってしまいながらも、自分の代わりにエイルの名を叫び、生贄に差し出す。
「あら〜?あの可愛い坊やが〜??」
くるっと標的をエイルに変更するマルコ。
彼はトロンとした瞳で、エイルを見つめる。
「ひひひ、ひぃぃ!?カ、カ、カトーさん!なんて事をっ!!?」
ガクッと腰を抜かし、その場にへたり込むエイルはもう今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……悪い、お前の犠牲は絶対に無駄にしねぇよ」
「ちょっと!!カトーさんっ!!?」
助けて下さいと、エイルがコチラに手を伸ばしてくるが俺はそれを見て見ぬふりする。
世の中には、少なからず犠牲というものが付き物である。
こうやって、世の中は回っているのだ。
「ねぇ、エイルどうなっちゃうの?」
状況が全然把握できていないリズが俺の服の裾を引っ張り、物凄く澄んだ瞳で尋ねてきた。
俺は彼女と同じ目線まで腰をかがませ、子供に言い聞かせるよう優しく呟く。
「…エイルはな、遠い星に行っちゃうんだ」
「もう会えないの?」
その言葉に、俺は少し戸惑ったようなぎこちない笑みを浮かべる。
「……あー、そうだな。でも、また必ず会えるさ?少しアイツが変わっちゃったとしてもな?」
「自分が助かったからって何適当な事めちゃくちゃ言ってるんですかぁぁぁあ!!?カトーさんの鬼!!悪魔ぁぁぁあ!!!」
「うふふん、照れちゃって可愛いんだからぁぁあ!!!」
エイルはブチ切れ俺を罵倒するも、時は既に遅くマルコに大量のキスの雨を降らされていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!?僕初めてなのにぃぃぃぃ!!?」
すまん、エイル。
今俺がお前に出来る事は、
どうか死なないで欲しいと、
強い気持ちで生き抜いてくれと、
ただ祈る事だけだ。
◇
「酷いですぅぅぅ……もう結婚なんかできませんよぉぉぉ……」
シクシクと涙を流すエイルの肩を叩き、慰めの言葉をかける。
「人は経験だぞ?また一つ、お前は男の器をあげたって訳だ」
「騙されませんよっ!!そんな上手い事言ってても騙されませんよっ!!結局カトーさんも嫌だったんじゃないですか!?」
ほんとそれな?
悪い、まじで悪かったと思ってます。
そして、まじでめっちゃ感謝してます。
「でも、奪われたのが唇じゃなくて良かったじゃねーか?頬や首ならまだ、洗えるからな?」
「誤魔化さないで下さい!!それに頬や首は洗えても………心はっ……心は洗えませんよぉぉぉ!!うわぁぁぁぁん!!!」
それとなくフォローを入れるが、それが逆にさっきの悪夢を思い出させてしまったようだった。
「ねぇねぇ、おじちゃん?おじゃんはオッサンなのに、男の人が好きなの?」
リズは物凄く澄んだ瞳で、マルコに直接尋ねる。
「うふふ、そーよぉ?お嬢ちゃんはあたしみたいなの見るの初めてなのねぇ?」
「うん、おじちゃんみたいにキモい生き物みるの初めてだ」
そして、案の定彼女はさらっと『炎上発言』を口にしてしまうのだった。
「おほほ、面白い事言うわねぇ?どれどれ?もっと良くお顔を見せて頂戴?」
マルコは笑顔を引きつらせて、キモい生き物呼ばわりしてきたクソガキの顔を拝もうと腰をかがませる。
「…何よ、中々可愛い顔してんじゃない……って、え!?」
マルコはリズの姿を見て、いつもより野太い驚きの声を漏らした。
「何だよ、オッサン?リズがどうかしたか?」
マルコは俺からの『オッサン発言』に反応する様子もなく、ジーっと無言でリズを見つめる。
「……………ごめんなさいねっ!?」
そして、暫くの沈黙の後、
マルコはいきなりリズのフードを掴み、
おもいっきり脱がした。
「ちょ!フードはやめてよぉ!?」
リズの派手髪が露わになり、彼女は不機嫌そうに両手で頭を隠す。
「ちょっと……いいかしら?」
しかしマルコは真剣な表情で、そのリズの手を掴み、
「ちょ、ちょっと、おじちゃん!痛い!痛いよ!!」
「いいから!!」
その髪で隠れる、人より少し長い耳を触り確認する。
すると、マルコは突然豹変したように、
物凄く冷たい表情でリズを見つめた。
「やっぱりあんた……ダークエルフね……」
何も悪い事などしていないのに、
ダークハーフエルフだという事がバレた途端、
リズはまるで、悪い事がバレてしまった子供かのように押し黙る。
「…何て日よ……もう少しでダークエルフを泊めちゃうところだったわ……」
まるで汚いものを触ってしまったかのように、
マルコはリズに触れた手を、ブンブン振って汚れを落とす素振りをした。
「…違う、ダークハーフエルフだもん」
暫くの沈黙の後に、リズがやっとこそ返事をボソボソと返す。
「ハーフだろーがどっちも一緒よ!!あんたもダークエルフなのに変わりないんだから!!」
先程までの楽しい雰囲気が一気に壊れ、辺りはシーンと静まり返る。
リズが迫害される対象なのは分かっていた、
でも短時間でしかなかったが、マルコがこんな風にリズを攻撃するような奴には見えなかった、
だから少なからず俺も、この状況に正直驚いてしまっていた。
しかし奴がリズを見つめるあの視線こそが全てで、
マルコがダークエルフに対して嫌悪感を持っているのは誰から見ても明確だった。
「…おい、リズ?」
両手を広げ、コッチに来いと彼女に示す。
――リズは泣きそうな表情ですぐに俺の元まで駆け寄り、無言で俺の背後に隠れた。
「ダークハーフエルフなのを黙ってたのは悪かった。でも、そんなにキレる事ねーだろ?」
俺はマルコに向かい、なるべく自然に問いかける。
「カトーさん…あんた、その子連れて旅してるのよね?」
コチラを見つめながら凄く冷たい笑みを浮かべるマルコ。
俺はそんな彼の目を真っ直ぐに見つめ返し、答えた。
「あぁ。悪いかよ?」
「ふふ、悪かないわよ。でも、そーね?今夜の宿泊はキャンセルさせて貰うわ?それとね?二度とダークエルフを連れてうちの店に足を踏み入れないでちょうだい!?」
彼の怒号混じりの言葉を最後まで聞き、俺は静かに答えた。
「………分かった」
俺の返事に対し、マルコは乾いた笑みを浮かべる。
「あら、物分かりが良くて助かるわ。カトーさんに忠告するけど…あなたもその子を連れて旅をするなら今後もこういう事があるって事を考慮して行動した方がいいわよ?」
「………忠告どうも。ほら、お前ら行くぞ?」
◇
リズを連れて宿の外に出る。
「……ごめんね…ボクのせいで……」
お気に入りの猫のフードをグイッと深くまで被り力無く呟くリズ。
「馬鹿野郎、お前は悪くねーよ」
フードの上からポンポンと彼女の頭を軽く叩く。
「……でも、今晩泊まるところ…また探さなきゃだ」
「こんだけ広い街なんだ。ちょっと値段を上げればいくらでも見つかるだろ?」
「そ、そーですよ!リズさん!だから、落ち込まないで下さい?」
必死にリズを励ましてはいるが、エイルもダークエルフが直接迫害させるのを見るのが初めてだったのだろう、
彼も少し表情が硬かった。
「……みんな、本当にごめん…」
「あー、あー、もう辛気臭いのは無しにしよーぜ?よし、ならさっさと新しい宿を見つけて、飲みにでも行くか?」
俺はリズとエイルに向かいニッと笑い掛ける。
「あのー?宜しければお力にならせてもらえないでしょうか?」
ここに来て爽やかな青年が片手を上げながら、口を開く。
「宿と、酒場なら私の紹介でお安く提供できそうなのですが」
「まじ?」
「えぇ、まじです」
ニッコリと微笑む青年。
正直この街の事は全然詳しくなかった為、俺は彼の好意に甘える事にしたのだった。
次回予告 7/26 00:00




