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クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
『ざまぁ』するにもまずは地盤を固めましょう編
2/60

1話.異世界なんか死んでも来たくなかった俺が異世界転移するなんてまじでありえないのだが。

 空、空、青空だ。青空がどこまでも広がっている。


「ん?…は?ってか何で俺外に!?」


 一昨日日おとといからアホみたいに働いた34時間シフトが終わり家で爆睡していたはずの俺が再び目覚めたら何故か外に居た。


 ――周りを見渡すと、森、森、ゴツゴツした茶色い地面、石、岩、森、そして雲一つない青空だ。


 状況が読み込めずポカーン景色を眺める俺に、遠くから『おーい』と何者かが声を掛けてきた。


 ――遠くからこちらに向かい手を振る彼女は、というか少女は健康そうな褐色の肌の太腿と両腕をブンブンと動かし満面な笑みを浮かべ近付いてくる。フードを被り魔法使いのようなローブを着ている少女はまるでアニメやゲームに出てくるキャラクターみたいで、どっからどう見てもコスプレイヤー にしか見えない。



 ◇



「はぁはぁ…ぜぇぜぇ…ふひー…疲れたよん…」


 両膝に手をつき肩で息をする少女を見て一言。


「…ここってコスプレ会場か何か?」


「んー?…コスプレ会場?」


 息切れしながら首を傾げる少女、どうやらコスプレ会場ではないようだ。


 フードを被っているから遠目からだと気付かなかったが、少女の髪型は緑と赤のツートンカラーで前髪パッツンという凄い奇抜なヘアースタイルをしている。


「…うん、君の格好…間違いないね」


 そんなぶっ飛んだ容姿をしている少女はニヤリと口の端を上げ、両腕を大きく伸ばし明るく弾んだ声で言った。


「よーーーこそっ!異世界へ!!」


「はい?」


「君は今日!間違いなくコチラの世界に転移してきた異世界転移者だよっ!」


 寝起きそうそう、身体中が痛いうえに『異世界転移者』とかふざけたワードを使われイラッとした俺は頭がおかしな事を言う少女にガンを飛ばす。


「……あぁ!?」


「ひっ!?」


 異世界転移者?この俺が?冗談はやめてくれ。あれは創作だろ?フィクションだろ?こいつは何なんだ?異世界ごっこでもやってんのか?俺にその遊びを相手して欲しいのか?だるい、だるいどっちにしろだるいわ。


 グルグルと巡らせていた思考を一時停止して、無言で胸ポケットに入れてあったタバコとジッポを取り出す。こんな時は一旦タバコ休憩をした方がいい。


「あーくそ、最後の残り一本かよ…」


 昨日急遽スーパーロングシフトに突入してしまった為予備のタバコを買いに行く暇がなかったんだった。


 ――タバコに火をつけ最後の一本を味わう。ニコチン効果で段々と心が落ち着いてくると、上目遣いでコチラの機嫌を伺っている少女の姿が目に付いた。


「……なに?」


 タバコの煙をフーッと吐き出し、淡々と呟く。


「…いや、だからそのー……ケホッケホッ…ちょ、ちょっとこの煙何ですかー!?ケホッケホッ……新手の魔法アイテムですかー!?」


 副流煙でむせる少女。コスプレまでして、タバコも知らないフリまでして、何ともわざとらしい演技だ。


「アホか!んなもん見りゃ分かんだ……あっ!?」


 そこまでしてハッと気が付く。そして改めて少女の容姿を再度確認する、低身長、童顔で見間違えそうではあるが良く見ると程よい肉付きや、控えめな胸の膨らみを見て、20歳くらいの成人女性にも見える。


 危ねぇ…もし彼女が未成年なら、さっきの副流煙攻撃は今の御時世、炎上案件だ。


「…お前いくつだ?」


 念には念を入れて年齢確認する。


「ボク?…見ての通りピチピチの21歳!!」


 腰に手をやりセクシーポーズを取る彼女。


 なんていうか、喋り方といい仕草といいすげぇ腹立つ少女だ。


「…………」


「ん?それがどしたん?」


「…まーなんせ未成年じゃないんだったらそれでいいわ、もう…」


 こんな奴に絡むと本当に疲れる。もうさっさとコンビニに行ってタバコを買おう。そして家に帰ろう。


「…あれ、どこ行くの?」


「コンビニ!…タバコ買うんだよ….」


 俺はコンビニを目指し道なりに歩き始める。


「コンビニ?タバコ?…何か分かんないけど、君の世界にあるものなら何処探してもないけど?」


「……あのなー」


 異世界ごっこにしてもあまりにもしつこ過ぎる。ため息を吐きながら後ろを振り返ると、彼女の顔は俺の顎辺りの至近距離にありギョッとする。


「…なっ……何だよ!?」


「単刀直入に言うね?…ボクの仲間になって」


 仲間になる?コスプレ仲間の?異世界ごっこ遊びの?

 どちらにしてもそんな事に付き合ってる暇はない。


「断る」


「えー」


 だいたいさっきから彼女の一人称は何なんだ?山田から『ボクっ子ヒロイン』について熱く語られた事がある為、自分の事をボクと呼ぶヒロインが居る事は知ってる、しかしそれもファタジー世界での話で、漫画やアニメ、ゲーム、創作の世界だけの話だ。現実で『ボクっ子』になりきる彼女を実際に見て、俺は正直ドン引きしていた。


「ん?…ボクの顔に何かついてる?」


 彼女は人差し指をピンと下唇に当て首を傾げて見せた、そしてその仕草がまた俺の癇に障った。


「え、つかお前さ?自分の事ボクって言ってんの?それ可愛いと思って言ってんのか?」


「んー?そうだけど?…何で?」


「いや…リアルでボクとか言う奴とか痛いだろ?あまりにも私可愛いんですってのを狙ってる感があり過ぎて逆に腹立つっていうか、お前同性から嫌われてねーか?」


「えー?えへへ…狙ってる感があるって、そりゃ狙ってるに決まってるでしょー?女性はあざといくらいが丁度可愛いんだよん。あ、もちろん同性からはものすごーく嫌われてまっする!」


 彼女はへらへら笑いながら褐色肌の両腕を曲げ筋肉ポーズをした。


 駄目だ、こいつはまともに話したら駄目な人種だ。きっとうちの弟と同じで空想の中で生きてる少し電波的な国の人なのだろう。

 弟は血も繋がってたしずっと一緒に居たからそんな風になってからも仲良くする事はできていたが、こいつはそうもいかない!こいつはただの他人だ!それに、会って間もない俺に対していきなり『異世界にようこそー』とか『仲間になってくれー』とか意味不明な言葉を口走るボクっ子なら尚更だ!!


 早くこの場を立ち去ろう。そしてコンビニに寄ってから家に帰ろう、俺は強くそう決意した。


「あっそ…じゃあ、とにかく俺は帰るから。仲間探しなら他をあたってくれ」


 それだけ伝え俺はもう一度その場を立ち去ろうとした、その時だった。


「ぎゃぁぁぁあ!!」


 ――突然耳をつんざく程の怪獣みたいな絶叫が辺りに響いた。


「……えっ!?」


 そこにはどっからどう見ても作り物とは思えないクオリティーのドラゴンが居た。


「嘘…だろ…」


 自分の声が震えているのが分かった。そりゃそうだ、あんな化物見たら誰だってそうだ。


「ぐぎぁぁぁぁあ!!」


 ドラゴンは俺達を威嚇するかのように再び絶叫をあげた。


「んー、グリーンドラゴンかー。ほい、これがあのドラゴンのステータスね?」


 彼女はあのドラゴンが恐くないのか、飄々(ひょうひょう)とした口調で文字が光り写されている板を俺に見せてくる。



 Lv 30

 名前 グリーンドラゴン

 種族 ドラゴン族


 スキル

 硬い皮膚

 (物理攻撃耐性強化)


 弱点

 火炎属性攻撃



 レベル、スキル、弱点、彼女がタブレットのように俺に見せた板には、おそらくだがドラゴンの情報が表示されていた、まるでゲームか何かだ。


「んでもってー、これが君のステータスね?」


 彼女が板を触ると、今度は別の情報が表示された。


 Lv 1

 名前 加藤カトー 良平リョーヘイ

 年齢 29歳

 性別 男

 種族 ヒューマン

 ジョブ 異世界転移者


 スキル

 神の腕

 (相手に無条件で9999のダメージを与える)

 (一日一回しか使用できない)


 弱点

 弟

 異世界

 異世界用語

 異世界ヒロイン

 ニコチン切れ

 借金恐怖症


 何だこれ?これが俺のステータスなのか?でも本当に年齢とか色々あってるし…まじ何なんだ?てかここってまじで異世界なのか?ジョブに記載されてる異世界転移者という文字を見て、ドラゴンに襲われそうになってるこの状況を見て、本当に俺は異世界に来てしまったと完全に理解してしまった。


 異世界、俺まじで異世界なんかに来ちまったのか?何で俺?弟じゃねーの?まじで何で俺!?


「ちょっと何これー!?」


 彼女は俺のステータスを見て驚きの声をあげる。おそらくさっきチラッと見えた、スキル【神の腕】を見て驚いているのだろう。


 正直言ってこんな事が現実に起きるとは思っていなかったが、弟と山田から嫌になるくらい予備知識を得ていた為、ここが異世界で、俺が転移者とするのならば状況は嫌な程理解できていた。


 おそらくあの【神の腕】というスキルは、異世界ものの主人公にあるあるのチート能力って奴だろう、何故か転移や、転生してくる主人公達は最初から反則的な能力を持っているものだ、そして今、俺にもそれが備わっている。


 正直未だに、何故自分が異世界なんかに来てしまったのか意味が分からないし、そんなの認めたくないし、この状況にもすこぶるストレスを感じるが、こんな所で死ぬ訳にはいかない。


 おそらくだが、いや、何故か根拠はないが絶対にあのスキルを使えばあのグリーンドラゴンを倒せる、そう思えた、それに今は不思議と先程まであった恐怖心も消えている。


 俺は静かにグリーンドラゴンを睨み返し、奴と戦う覚悟を決める。


「…仕方ねぇから相手になってやるよ!!」


「ねぇ!君のステータスなんだけどっ!?」


 ――クイッと服の裾を引っ張られ、グリーンドラゴンに挑もうとする俺の動きと折角沸いたやる気を彼女に根こそぎ奪われる。


「…っち…何だよっ!?だからそのスキルはっ…」


「君の弱点!異世界ネタばっかり!?」


「…はい?そっち?」


 彼女は信じられないって顔でステータス画面を指差しながら言葉を続けた。


「え?何?この弱点の、異世界、異世界用語って!?そんなに異世界嫌なの?そんな転移者っている!?ねぇ!いるっ!?」


 食い気味で『異世界嫌いな転移者なんてあり得ない』と熱弁する彼女、目が本気だ。


「いや、最悪この二つは許せるよ?うん、あんまりしっくりこないけど、まぁ許せるよ?…けどさっ!何?この弱点、異世界ヒロインって!!何なの!?異世界ヒロインの事何だと思ってんの!?」


「あー」


 異世界ヒロイン。

 魅力的だとあの二人が語る異世界ファンタジーに出てくるヒロイン達の話を俺は散々聞かされてきた。

 亜人、ボクっ子、奴隷、幼女、エルフに王女に勇者に、はたまた魔王、それら全てのヒロインは何故か容姿端麗で絶世の美女で、そして何より『どうしてそうなのか』主人公に惚れており、一途で、絶対に裏切らない、しかも他の女とイチャイチャしてても嫉妬はするが、それでも絶対に主人公の事を嫌いにならない。


 そんな女いるか?もし百歩譲って現実にそんな女性達がいたとしたなら、絶対に何か裏があるのか、主人公と恋仲になる事になにかメリットがあるかだ。だからそんな異世界ヒロインなんて逆に信用ならない。俺は弟と山田のように彼女達に対して良いイメージを持つどころか、むしろ彼女達の話をされるだけで嫌悪感を覚えるようなっていた。


 おそらくそれがステータスに反映されたのだろう。


「あーって何!?ちょっと異世界ヒロインに失礼なんじゃないのっ!?謝れ!全異世界のヒロイン達に謝れっ!!」


「がぁぁぁあ!!」


 もう待てねぇよ!といわんばかりにグリーンドラゴンが襲い掛かってくる。


「グリーンドラゴン君は黙ってて!!」


 彼女はグリーンドラゴンに怒鳴り付ける。

 ビクッと動きを止め、大人しくその場で待つグリーンドラゴン。

 えー、まじ?今結構俺達隙だらけだよ?ここ襲わないでいいのか?お前はそれでいいのか!?


「ねぇ!ちょっと聞いてる?もしもーし、カトーリョーヘイさん聞いてますかー?」


「…うっせーな、聞いてるよ!」


「あっ!?…ちょ、ちょ、ちょっと!!これ見て!これっ!?」


 彼女はヒステリックに再び俺のステータス画面を指で叩く。



 Lv 1

 名前 加藤 良平

 年齢 29歳

 性別 男

 種族 ヒューマン

 ジョブ 異世界転移者


 スキル

 神の腕

 (相手に無条件で9999のダメージを与える)

 (一日一回しか使用できない)


 弱点

 弟

 異世界

 異世界用語

 異世界ヒロイン

 ニコチン切れ

 借金恐怖症

 ボクっ子ヒロイン【New】



「ボクっ子ヒロインって追加されてるんですけどー!!」


「あー…やっぱ何かお前見てると…すげー痛いなって思って…」


 彼女はブチギレて地面を悔しげにバンバンと叩く。


「酷いっ…酷すぎるわっ…あたち…ずっと異世界転移者が来るの…ずっと、ずっと待ってたんだからっ!!」


 彼女はオーバーに涙を流し、悲しげに訴える。しかもしれっと一人称が『あたち』に代わっていた。


「…それなのに、こんな、こんな冷めきったような目をした塩対応野郎が転移者に選ばれてくるなんて…あんまりよっ!あんまりだわっ!!」


「それはコッチの台詞だっ!俺だって異世界なんか死んでも来たくなかったわ!!」


「まじ!?それまじで言ってんの!?ほんっと逆にドン引きなんですけどっ!!異世界でこれから、うはうはな人生送れるんだよ!?」


「あー、それでも嫌だったね!!異世界に来るぐらいならあのまま現代で借金に追われて生活してた方が何倍もマシだったわ!!それに異世界って聞くだけで吐き気がする程嫌だわっ!!」


「うわー、めっちゃドン引きなんですけどー。今まで君みたいな転移者居なかったよ!?前代未聞だよ!?前に転移してきた勇者候補の人は、ひゃっほーいって感じで異世界満喫してたよっ!?それなのに、逆に君はなんなのっ!?頭おかしーの!?それとも何?俺っちはアンチ異世界代表だぜー!ヒャッハー!的な空気読めない逆に厨二臭い人!?他の奴と俺はちげーぜ!的な逆に厨二臭い人!?ねぇ、そうなの!?」


「グダグダグダグダうっせーな!!なんなのって、これが普通の人間の意見だっつーの!!皆んながみんな異世界に来て喜ぶと思うな!!それにどちらかと言うと今まで異世界に転移してきた奴等の方がきっと頭おかしかったんじゃねーのかよ!?」


「ひー、信じられなーい!はい、今敵に回したー!全異世界の俺TUEEEE(俺つえー)の異世界転移者さん達全員敵に回したー!謝るなら今のうちですけどー!!」


「は?馬鹿かテメェは!?謝る訳ねーだろ!ボケが!!つか、お前も十分頭おかしいからな?21 歳でそのキャラとかまじで引くから、やめた方がいいぞ!?」


「はー!?何それ!?超絶美少女のボクの事馬鹿にしたなっ!?もしかして喧嘩売ってんの!?」


「あぁ?やるか!?言っちゃなんだが、俺にはあのチートスキルがあるが、それでもやるか!?」


「嘘でしょ!?まさかの人相手に初チートスキルをぶちかます訳!?そんな異世界転移者とか聞いた事ないしっ!?」


「が、がるるー……」


 グリーンドラゴンは俺達の言い争いに入る余地もないと悟ったのか、まさかのその場から居なくなっていた。



 ◇



 40分後。

 散々言い争いをした後、冷静になり改めて周りを見渡すがやはりグリーンドラゴンの姿は無い。


「グリーンドラゴン…居ねぇな?」


「う、うん…あはは、作戦通りだったね!」


「アホかっ」


 調子いい事を言う彼女に俺は軽くチョップをかます。


「あ痛っ!?むー、暴力はんたーい!」


 ――周りを見渡すと、森、森、ゴツゴツした茶色い地面、石、岩、森、雲一つない青空、そして涙目で頭を押さえるあざといボクっ子21 歳。


 異世界なんか死んでも来たくなかったこの俺が異世界転移するなんてまじでありえないのだが、目の前では嫌でも広がる非現実的な風景、ファンタジー世界、どうやら俺は本当にこの世界で生きていかなければいけないようだ。

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