17話.新たに仲間になったアホが鋼の防御力なのにも関わらず豆腐メンタルなんてまじでありえないのだが。
「ごめんなさい。二日続けて、こんな夕食しか用意できなくて」
今晩まで泊まらせてもらう事になった俺達は、お馴染みのパンと素朴なスープをご馳走させてもらっていた。
「ねー、ボクの分のスプーンとフォークがないんですけどー。 ボクだけ手で食べろって言うの?」
「あ、ごめんなさい!」
「あ、ニーナさん!僕がっ!」
「え?そんな悪いよ!?」
「いいんです!僕がやりますからっ! ほら、ニーナさんは席に座ってて?」
いちゃいちゃしながらナイフとフォーク取り合うカップル。
そしてその二人の様子をジト目で睨むリズ。
「はいっ!お待たせしましたリズさん」
爽やかな笑顔でリズにナイフとフォークを渡すエイル。
二人の想いが通じ合って以降ニーナとエイルはずっとあんな感じだった。
「あ〜あ、スープも冷めちゃったよ〜」
「お前はいいから黙って食えよ」
「え〜、だってカトーさ〜ん」
「正直さっきみたいな皮肉言う奴は嫌いだ。次同じ事言ったらまじでもう、うちの子じゃありません。だからな?」
割とガチ目にリズに説教をする。
「はぅ……ご、ごめんなさい」
「分かれば宜しい」
リズ助は親に怒られる子供のようにしゅんと凹み、大人しくなった。
「わりー、ありがとな?」
「い、いえっ! あ、じゃ…じゃあ僕も食べようかな〜」
苦笑いを浮かべ、ニーナの隣の席に座るエイルはパンにかぶり付く。
「う、うん!今日も美味しい!」
「ふふ、それエイル君は毎日言ってくれるよね?」
「いや、だって…あ、やっぱ何でもないです…」
「え、何?」
「いや、何でもないです」
「もー、気になるでしょ?エイル君、どうしたの?」
「……ニーナさんと一緒に食べるご飯はいつだって美味しいです」
その言葉を聞いた途端にリズ助は劇画タッチ感満載な表情になり、クワッと目を見開き俺に何かを訴え掛けてくる。
「言いたい事は分かる、言いたい事は分かるぞ…」
濃い表情のままパクパクと口を動かすリズ助を軽く往なし、俺は静かに夕食を頂く事にした。
◇
領主の事が心底気に食わないリズは夕食が終わるとそそくさと寝室に向かい、俺達は三人で酒を飲んでいた。
「…街のみんなと協力して…ニーナさんを領主に立てれた時は、僕本当に感動したんです…」
エイルは安いワインをチビチビ飲みながら、当時反乱を起こした時の事を思い出し語っていた。
「…まるで、小説やアニメであるような展開じゃないですか?悪い領主をやっつけて、優しくて器のある新しい領主を立てる、そして街はめでたく幸せになる話って」
俺は何も答えずに酒を飲みながら彼の言葉に耳を傾ける。
「…あの時はみんな、凄く喜んでて…サルスの街は本当に一つだったのに…本当に何でこんな事になってしまったんですかね…」
「その時の領民達の気持ちも嘘じゃねーよ。ただ、人は変わる生き物で、都合の悪い事は誰かのせいにしたいんだよ」
「……何か…本当に今回の件は…僕ショックでしたよ……」
エイルは残りのワインを一気に飲み干す。
「ちょ!エイル君大丈夫ですか?」
「あはは、ニーナさん…全然大丈夫…あ、あれ?……あはは…すみません、やっぱ僕ちょっと酔っちゃったみたいで…」
「エイル君、大丈夫ですか?無理はしないで、部屋で休んで下さい」
「は、はい…すみません。そうさせてもらいます」
ニーナの言葉にすんなり従い、エイルも寝室に向かい立ち去った。
「……エイル君大丈夫でしょうか?」
「心配ならお前も着いて行ってやれよ?晴れて恋人になったんだからよ?」
「……確かにエイル君も心配ではありますが、カトー様に晩酌する御役目もありますので」
「はー、そーですか」
「ふふ、冷たい返事ですね。内面は凄く優しくて暖かい方なのに」
確実に領主からの視線に好意を感じる。
俺はその言葉には返事を返さず、シリアスな話題に変えた。
「…で、今後どーするんだ?」
「カトー様が仰られた通りに致します。私はどうやら本当に無能みたいなので」
「そーだな、それがいい」
「ふふ、無能に関して否定しては下さらないのですね?」
「事実だからな」
先程ニーナがグラスに注いでくれた、ワインをグイッと飲み干す。
「でも、あの時カトー様が仰って下さった言葉…本当に嬉しかったです。私が、誰よりもこの街の為に身を削ってるって…」
酒のせいか頬を赤らめるニーナは言葉を続けた。
「それに、本当にカトー様は凄いです、反乱を起こそうとした領民達をあんなにも簡単に鎮めさせられるなんて…あの的確な言葉も、本当に胸に刺さりました。領民達も私と同じ気持ちだったはずです」
「そーか?別に普通だと思うが」
「…何か、私にお礼させてもらえないでしょうか?」
来た。
ニーナは、再び俺に熱を帯びた視線を送ってくる。
「…例えば?」
俺はわざと、とぼけたフリをして領主に笑いかける。
「…カトー様が望まれる事なら…どのような事でも?」
グラスを握る俺の手に、スッと手を添えてくるニーナ。
乾いた笑みを浮かべる俺を見て、彼女は『脈有り』と勘違いしたらしく、そのまま俺の背後に回り込み、するすると着衣を脱ぐ音が聞こえた。
「カトー様が望まれるのならば、こんな事だって」
背後からギュッとニーナが抱き付いてくる。
「…カトー様ぁ」
耳元で甘ったるい声が響く。
そこで、とうとう限界がきてしまった。
「あのさ…悪いけど、離れてくれるか?クソビッチ」
「…え?クソビ…え?」
俺はニーナに向き直る、そして下着姿の彼女を睨みながらエイルに呼び掛ける。
「おい、エイル。もう出て来ていいぞ?」
「え!?…エイル君!?」
俺のその言葉で完全にパニックになるニーナ。
「……ニーナさん…どうして……」
彼は号泣しながら部屋に入って来た。
そしてさっきまで想いが通じ合っていたと信じていた彼女の痴態をその目で見て立ち尽くしている。
「ち、ち、違うのっ!!違うのよ!!エイル君!?」
「ニーナさん……」
「これは、その……そ、そう!ちょっとお酒を服に溢してしまって」
「ニーナさんっ!!!」
ガラにもなく大声で怒鳴るエイルは、泣きながら彼女を見つめ、声を震わしながら言葉を続けた。
「…全部っ……全部見てましたっ」
ニーナの顔は一瞬で血の気が引き、真っ青になる。
「…お兄さんの事とか、クロードさんの事とか……過去の事は、本当は気になってたけど……でも、過去の事はどうでもよかったんです!!僕はっ……僕はニーナさんが好きだからっ……」
「……ごめんなさい。エイル君……本当にごめんなさい……でも、私も本当に一番に好きなのはエイル君だけなのぉ!?」
必死に弁解をするニーナ。
この状況で、よくそんな事が言えるものだ。
「……ニーナさん」
「本当よ!!信じて!?今のはちょっと本当に違うの!私が一番に好きなのはエイル君だけなっ」
「…ごめんなさい、もう…流石に信じられないです」
「…そ、そんな!?」
エイルに面と向かい拒絶され、ニーナは言葉を失っている。
「…カトーさんに、色々ニーナさんの事言われて……僕凄く腹が立ったんです。だから、カトーさんが言うような人じゃないって証明する為にも、お兄さんとの件もクロードさんとの件も何か事情があっての事だって証明する為にもっ……僕……僕っ……ニーナさんはそんな人じゃないって……信じて……信じていたのにぃ……」
「……………」
泣き崩れながら語るエイルのその言葉に、もう何も言い返せないでいる彼女。
「エイルはずっとお前はそんな奴じゃねーって信じてたぞ? まー、化けの皮は剥がれたがな?」
「カトー様は……こうなる事が分かっててわざと二人になったんですか!?」
まさかの矛先を俺に向け、キッと睨み付けてくる領主。
「あー、そうだけど?お前が他の男に見境なく色目を使ってきてたから、そうだろうなって思って試させてもらった」
「……ひ、酷い。こんなはめ方するなんて……」
「は?酷い? 酷いのはどっちだよ!!別にお前がどんなに男好きで、どこの誰と愛し合ってようが関係ねーよ!! でもな?エイルみたいな純粋な奴をコレクションの一つにするのはやめろ!! 利用するのはやめろ!!見てて腹が立つ!! それに、お前あのアホが防御馬鹿で自分の夢がある事は知ってただろ? アイツはそんな自分の夢よりもお前を優先したんだぞ!? それなのに、お前はどうなんだよ!? 口ではエイルが好きだとか言っておいて、結局他の男を誘ってんじゃねーかよ? 正直今回の俺の件がなくても、お前は絶対にエイルを裏切ってた!! 次の領主になろうとしてた男にはお前以下だって言ったけどよ? でも、そもそもお前自身も中々なクソだって気付いてねーだろ? お前は領主として私が頑張ってるんです、アピールをして結局エイルやクロードみたいな男達からチヤホヤされたいだけだ!! だから、街だってそもそもよくなる訳もない!! もっと真剣にやれよ!! 資金を調達してくるエイルに甘えるな!! 純粋なあいつを利用するな!! 最もらしいフリしながら自分の欲望を満たす事しか考えてないビッチが!!」
「な、な、なっ!?」
結局、言わないでおこうと思っていた事までも感情のまま口走ってしまい取り留めのない言葉になってしまった。
それでも、アホみたいに責任転換しようとしてきた領主を見ると怒りを抑えられなかった。
「ごめんなさい、ニーナさん。 僕、明日の朝…この街出て行きますね」
「エイル君!?嫌よそんなの…嫌よ嫌よ嫌よぉぉぉ!?」
突然の別れを告げられ、彼女はもう完全に駄目になってしまった。
「……ごめんなさい、もう……決めたんです」
◇
「悪かったな」
「な、何でカトーさんが謝るんですかぁ…」
部屋を移してからも泣きじゃくるエイルに謝罪をする。
「まー、完全に独善的な行為でやっちまったからな」
「いえ…ぜ、全部……カトーさんの言う通り…でした……結局ニーナさんは…僕じゃなくてもよかったんですよね…うぅぅ…」
信じていた恋人に裏切られ、その現場も見てしまったショックは計り知れないだろう。
「お前は良く頑張ったよ。最後まで良い男を貫いてたと思うぜ?」
エイルの頭をガシガシと乱暴に撫でる。
「うぅぅぅ……カトーさん……うぅぅぅ…」
――エイルが泣き止んだタイミングで俺は彼を仲間に誘った。
これから先を決めかねているエイルは、二つ返事で『こんな僕でいいなら』と答えたのだった。
◇
翌朝、俺達と一緒にサルスの街を後にするエイル。
しかし、彼は朝も朝で泣きっぱなしであった。
「ちょっとー、ねー、カトーさん?コイツずっと泣いてるんですけど!」
「…だ、だってぇ……やっぱり、悲しいですよぉ……やっと両思いになれたと思ったのにっ……こんな結末なんてぇ……うぅぅ……」
「ねー?めそめそする男ってマジでモテないんだよ?」
リズ助なりにエイルを励まそうとしているのか、彼の背中をポンポンと優しく叩いている。
「…うえぇぇぇん……でもっ……めちゃくちゃ辛いですよぉぉ……」
「……ねー、そんなに辛いんならあの女の所に戻ったら?」
「それだけは絶対嫌ですっ!!僕はカトーさん達に付いて行くって決めたんですっ!!」
「……カトーさん、コイツ本当に連れて行くの?二人旅で充分良かったと思うんですけど〜」
「アホでも転移者だぞ?それにこいつの防御力まじで半端ねーから、絶対にパーティーとして役に立つ」
「……本当に?」
疑いの眼差しを送ってくるリズ助。
「ぎゃぎゃ!!」
何処からか待ち伏せをしていたのか、突如ゴブリンの群れが現れ、遠距離から槍や短剣をぶん投げてきた。
「……でもぉ…こんな、こんな僕をぉ……仲間にしてくれて…本当にありがとうございますぅ…う、うわっ!?」
俺は泣きながら鼻水を垂らすエイルの首根っこを掴み、飛んでくる槍と短剣の盾代わりに彼を使った。
――ガン!ガガガガン!!
ゴブリン達が投げた槍と短剣は、絶対防御を発動させてもいないエイルに確かに命中した。
しかし、何故か硬い金属音のような音と共にその槍と短剣は彼に傷を一つ付ける事なく地面に落ちてしまった。
「ちょ!?カトーさん!?と、と、突然ビックリするじゃないですか!?」
慌てふためくエイルを余所目に、俺はドヤ顔でリズに問い掛ける。
「な?使えるだろ?」
「…む〜、確かに」
「え、ちょっと!二人共!?使えるって何が?もしかして僕、今後こんな感じで使われるんですか!?」
エイルは青ざめて必死に訴え掛けてくるが、それをスルーする。
「俺のスキルは攻撃型しかねーからな、コイツみたいな頑丈なのがいた方が何かと便利だろ?」
「うん!確かに! これなら、使い道ありそうだね!」
「ちょ、ちょっと!二人共!!僕は物じゃないですよ!?ね!?僕の話聞いてます!?」
両手をブンブン振って俺等の視界に入り込んでくるエイル、しかしそれもスルーする。
「ぎゃ!? ぎゃぎゃぎゃ!!」
ゴブリン達は懲りずに、再度槍や短剣をぶん投げてきた。
「あ、カトーさん!第二陣きたよ!」
「あー、はいはい。よっこいしょっと」
俺はバタバタ暴れるエイルの首根っこを掴み、もう一度盾代わりに使う。
――ガン!ガガガガン!!
ゴブリン達の攻撃は、再びエイルに直撃したのだが、今回も彼は全くのノーダメージだった。
「すごっ!?人間防御力上げまくるとこんなに頑丈になるんだ!?」
「あー、まじですげーよな」
純粋にエイルの防御力の高さに、二人して感心してしまう。
「あ、てかさ?てかさ? さっきから飛んで来てる槍とか短剣とか刺さってないけど、たまたまなのかな?」
「…あ?どう言う事だ?」
「あー、だからさ?防御力高いから、ノーダメージなのは分かるんだけど、それでも刃物は刺さったりとかはしないのかなーって思っちゃってさ?」
「あー、本当だな…」
確かにリズ助の言う通り、そう思うと段々気になってきてしまった。
俺とリズでエイルを見つめる。
「な、何ですか?その目は? もしかしてですけど…変な事考えてないですよね?大丈夫ですよね!?」
「ちょっと試したい事あるんだけど?良い?」
その言葉に、さーっと血の気が引くエイル。
「ぼ、僕達は仲間ですよね!?まさか仲間に酷いことなんか、しないですよね!?」
「なー、エイル?お互い手の内は知っておかねーとな?」
「さ、さ、さ、刺さりませんよ!?ゴブリン達が持ってるような武器くらいじゃ刺さりませんって!?」
「ほー。じゃあ、それがどんな風に刺さらないのかちょっと見せてくれよ?」
ゴブリン達が投げてきた短剣を一つ拾い俺はエイルに微笑む。
「ひ!? カ、カト、カトーさん?目が…目が怖いです!?」
「ふふ、エイルきゅ〜ん?ちょ〜っとじーっとしててね〜?」
背後からエイルをガバッと羽交い締めにするリズ助。
「わわ!?リズさんも!やめて下さいって!?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと試してみるだけだって」
「うんうん!大丈夫大丈夫!ボク達仲間でしょ?」
「嫌ですってぇぇぇ!?こんな事なら仲間にならなきゃよかったです〜〜っ!!!」
俺達のやり取りと、エイルの絶叫を見てただ事ではないと察したのか、まさかのゴブリンの群れは一目散に退散してしまったのだった。
次回更新 7/23 木曜日 深夜00:00




