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クソ異世界にラリアット  作者: 狂兵
盾の異世界転移者 編
17/60

16話.ピープル=シットがずっと頭に流れてくるこの状況がまじでありえないのだが。

「カトーさん達は僕の後ろに!!」


 洞窟内のドラゴン達が放つ爆炎を一人で完全に防ぐエイル。


「すげーな、まじで」


 現在続いている狭い一本道の通路だと、彼を先頭にしておけば全然問題ない。


 まさに、人間バリアだ。


「カトーさん! お願いします!!」


「分かってる!!」


 ドラゴン達の攻撃が止んだ瞬間に、俺は【神の脚】を発動させ、エイルを飛び越えドラゴン達を瞬殺していく。


「相変わらず凄いです…カトーさんも…」


「ったりめーだろ?俺はそんじゃそこらの転移者なんかとは格がちげーんだよ!格がよー!」


「お前はモノマネ芸人か!」


 俺の声真似で勝手にぺちゃくちゃ喋るリズの頭にチョップを落とす。


「あ痛っ!? む〜!せっかくカトーさんの凄さをスピーチしてたのに!!」


「頼んでねーだろーが!」


「ふふ、本当に二人は仲良いですよね。 もしかして付き合ってるんですか?」


 せっせとドラゴンの素材を拾い集めながら、アホのエイルがアホみたいな事を言い出す。


「は?俺とコイツが?」


「はい、え?違いました!?」


「ちげーよ。コイツはただの仲間だ」


「え〜、付き合ってるように見えちゃった?ボク達全然そんな感じじゃないんだけど〜、ま〜、もしかしたらお似合いな感じが?オーラとして出まくってるのかにゃ? でも、ボクは全然、ほんっと全然、カトーさんなんか興味ないんだけどな〜、いやー、ほんっと困った〜」


 苦笑いを浮かべリズの言葉を最後まで聞くエイル。


 俺は早い段階で彼女の言葉を無視し、ドラゴンの素材を回収していた。



 ◇



 アホみたいな数のドラゴンを狩り続け、洞窟内を進んでいると、如何にもボスがいますよ的な雰囲気の開けた空間に出た。


「……エイル、気を付けろよ?」


「はい!」


 警戒しながら洞窟内を見渡すが、敵の気配が全然ない。


「ねー?もしかして休憩地点的な奴じゃない?」


 呑気な事を言いながら勝手に中央付近まで駆けるリズ。


「ちょ!馬鹿!?」


 俺が急いでリズの元に駆け寄ろうとしたタイミングで、天井から漆黒のドラゴンが姿を現した。


「う、嘘…」


 暗闇の中に真っ赤に充血した目玉が二つ、リズを捉えている。彼女は完全に茫然と立ち尽くす。


「カ、カトーさん!リズさんが!?」


「分かってる!!」


 再び【神の脚】を発動させ、高速でリズの元まで駆け寄る。


「ぎゃぁがぁがぁびぁがぁうがぁぁぁぁぁ!!!」


 漆黒のドラゴンは口を大きく開け、リズを食おうと襲い掛かってきている。


「リズ助!!!」


 その言葉でハッと我に帰ったリズは涙目で俺に向き直り両手を広げる。


「カトーさん!早く!!!」


 俺は更に速度を上げ、リズを抱きかかえる形で間一髪、ドラゴンの攻撃を避ける事ができた。


「…気を付けろよ」


「うん…ごめんなさい……あうっ!?」


 今の勢いで完全に脱げたフードを、彼女の前髪が隠れるまで深く被せる。


「ほら、エイルの所まで行け」


「リズさ〜ん!!」


 慌てた様子でこちらに駆けてくるエイル。


「う、うん。あ、あのっ…ス、ステータスは見なくて大丈夫?」


「別にいいわ。 どーせ、ワンパンで倒してくるから」


「ぎゃぁがぁがぁびぁがぁうがぁぁぁぁぁ!!!」


 攻撃が避けられて完全に激昂したドラゴンを静かに睨み付ける。


「ぎゃーぎゃーうるせーな」


 【神の腕】を発動させ、俺は漆黒のドラゴンの首元目掛け高く飛ぶ。


 もう完全に『主人公野郎』に成り下がってしまった自分自身を卑屈に笑う。


「あ、あれが…神の腕……」


 俺のもう一つのスキルを初めて見るエイルが興奮気味に呟く。


 そんなエイルを余所目に、俺は自分のポリシーでもある言葉を叫び、ドラゴンの首目掛けてラリアットをぶちかます。


「クソ異世界に、ラリアットォォォォ!!!」


 お馴染みの【神の腕】が炸裂し、漆黒のドラゴンも呆気なく倒してしまった。


 しかしこんな感じが本当に続くと、もはやボス戦もネタでしかないのだった。



 ◇



「あっ! 僕のレベル20も上がってます!! しかもスキルポイントが何故か600ポイントも付いてる!?」


「へっへ〜ん! ボクとカトーさんのおかげだぞ?ちゃんと感謝するのだぞ?少年!! はっはっは〜!」


 どこからともなく、つけ髭を装着したリズ助が偉そうにエイルの肩をバシバシと叩く。


「はいっ!! よーし!もちろん600ポイント全部防御力にガン振りして強化しちゃいますよ〜!!」


 あ、それはやめとけ!とは言えない俺達は、凄く嬉しそうに防御力を強化し始める彼を黙って見守っていた。


「これで、また一歩!盾の勇者に近付きました!!」


「あー、そっか。良かったな」


「はい!!」


 コイツは馬鹿だ。まるで、ウルトラマンになりたい!と憧れる子供みたいに馬鹿で純粋だ。


 でも、やはりこの馬鹿には辿り着く結果がどうであれ、自分の夢を追い掛けてほしいとも思ってしまった。


 ずっと異世界に来る事が夢で、ずっと盾の勇者に憧れてて、その夢を今追い掛けようとしている。


 もしかしたら、俺はどこかエイルを弟と重ねてしまっているのかもしれない。

 

「それにしても、カトーさんって本当に凄いですよね。それに何か凄くお兄ちゃんって感じがします。 あ、僕兄弟とかいないんで、イメージなんですけど…」


「………」


「いや!分かるぞ!少年!! ボクも、カトーさんには父の面影を重ねていてな!」


 エイルが言ってるのは兄な?


 そしてお前が言ってるのは父な?


 全然違うから、それとそのつけ髭いつまで付けてるんだ?と、俺は心の中でツッコム。


「カトーさんは、口ではうぜーとか、だりーとか言いながらもなんだかんだ面倒見がいいんだよ!」


「あ、なんかそれ分かります!」


 何故かリズ助とエイルが意気投合してしまった。


「はいはい。 取り敢えずこのドラゴンの素材を回収したら帰るぞ?もう充分だろ?」


「あ、はい!もちろんです!!」


「おい、リズ助も手伝えよ?」


「もちろんじゃよ!」


 おはや、つけ髭リズのコンセプトが分からなかった。



 ◇



 サルスの街に戻ると、何やら街中が騒がしい。


「あ、エイルさん…」


 領民達はエイルが帰ってくるのを見ると少し気まずそうに言葉を詰まらす、しかしすぐに何かを決意した様子で確りと彼を見つめたまま言葉を続ける。


「エイルさん! そのドラゴンの素材を俺達に下さい!!」


「え?ど、どういう事?」


 領民達の意図が分からず、戸惑うエイルに彼等は言葉を続けた。


「もう俺達限界なんです! やはりニーナさんでは領主として務まりません!!」


「そうです! あの人に任せていたら、この街はダメになります!!」


「そのドラゴンの素材を資金にして、次の施作をするおつもりなのでしょう!? 絶対に上手くいきませんよ!そんなどうでもいい施作なんかに使わないで、俺達領民に給付金として配布して下さい!!」


 領民達の訴えに、エイルは怒りを抑えながら呟いた。


「…ダメです。 これはニーナさんの施作に使う資金にします」


「エイルさんが思ってるような人じゃありませんよ!ニーナさんは!!」


 領主の一人が声を荒げる。


「前々から怪しいと思ってて、色々調べさせてもらったんですが。まず、ニーナさんは実のお兄様と関係を持っておらえました!」


「え?」


「…ですがお兄様、いえ…前領主様は結局ニーナさんを捨て別の女性と結ばれたんです。この件で、ニーナさんはずっと前領主様を恨んでいたそうです」


「嘘です!!」


「嘘じゃありません!!この街を追放したその女性から実際に確認を取りました! それと、これは本当は言いたくなかったんですが、3ヶ月前エイルさんと一緒に戦ってくれたクロードさん!…彼ともニーナさんは関係を持ってましたよ!!」


 衝撃的な事実が告げられた。


 しかし転移者と知った途端に色目を使ってくるような女だ、俺は『やっぱそうか』くらいしか思わなかった。


「お前の元彼、やるじゃねーか」


「だから、元彼じゃねーって……」


 否定しつつも、その事実に少なからずリズもダメージを受けているように見えた。


「う、嘘です!! ニーナさんはそんな人じゃ!」


「エイルさん!! 俺達は別の人物を新しい領主として立てます。……その意味分かってくれますよね?」


「ニ、ニーナさんはそんな人じゃ…」


 エイルの声は震えている。


 さっきの件で、もうエイルのキャパはオーバーしてるように見えた。


「因みに、新しい領主は誰を立てるんだ?」


 横から口を挟み一瞬領民達が驚く。


 しかし、すぐに俺の問いに返事を返してきた。


「ニーナさんや、前領主と遠からず血の繋がりのある青年です。少なからずニーナさんよりは領主としての器はがあるかと」


「その青年、会えるか?」


「…あ、あのっ! 自分です!!」


 領民達の群れから爽やかな好青年が前に出てきた。


「お前、領主になってこの街を立て直すプランはあるのか?」


「あ、はいっ! 取り敢えず、前領主、現領主がやっていたような悪い施作はやめさせます!! 自分はあの二人とは違った方法でこの街を立て直しまっ」


「違った方法ってどんなだ?」


「や、それはまだ考え付いてないんですが…でも、どっちにしても、あのままニーナさんの的外れな施作を進めさせていたらこの街は駄目になります!!」


 正義はこちらにあると主張する青年。


 ほんっとアレだ。


 コイツらを直接相手してると苛々してくる。


「そうだ!!ニーナさんには悪いが領主の座は降りてもらう!!」


「ニーナさんより彼の方が全然マシよ!!」


 青年の後に続き領民達が声を荒げる。


「なので。エイルさん? そのドラゴンの素材、こちらに渡してもらえないのでしょうか?」


 エイルに向けて手を差し出す青年。


「…い、嫌だ。これはニーナさんの…」


「…すみません。エイルさんには僕達も感謝しているので、あまり手荒な真似はしたくないのですが」


 その青年の言葉を聞いて心底呆れ返ってしまった。


 手荒な真似はしたくない?


 は?


 エイルは異世界転移者で、防御馬鹿だぞ?そんな彼相手に領民達がどうにか出来るとは思えない。


 ――青年の合図で、拘束され刃物で脅されている状態のニーナが現れた。


「ニーナさん!?」


「そういう事かよ…」


 流石に向こうも考えたな。エイルを脅迫するにはこれが一番有効的だ。


 正直領主はウザいと思っていたが、この領民達はもっとそれ以上だ。


「……ごめんなさい。 エイル君、本当にごめんなさい」


 涙を流し謝罪する領主。


 さっき彼が知ってしまった事実に付いてなのか。


 この現状に付いてなのかは分からない。


 しかし、彼女の涙を見てエイルは何かを決心したように声を上げる。


「僕はっ! 僕はそれでもニーナさんを信じる!!」


「……残念ですよ。エイルさん」


 青年は一瞬冷たい表情になり、領民に合図を送る。


 クソ達が、クソ達同士で揉めあってるなら勝手にしてくれってスタンスで生きてきたが。


 冷笑を浮かべる俺の頭の中では、さっきからスリップノットの曲『ピープル=シット』が爆音で流れていた。


「ニーナさん。最後の質問です本当に領主の座を譲って下さらないのですね?」


 領主に刃物を向ける領民の一人が呟く。


「私は領主の座を譲る気は…ありません」


「そうですか…本当に俺も残念ですよ…」


 その領民は静かに呟き、刃物を振りかざす。


「どいつもコイツもクソみたいな奴等ばっかだな!!この街の人間はよっ!!」 


 突然叫び出す俺に一気に視線が集まる。


「お前等の恋愛ごっこも、街おこしごっこも全部まじでネタなのか?ジョークか何かかよ? あ!?」


「カトーさんがキレた」


 ボソリと俺の背後でリズが呟く。


「ま、街おこしごっこって…流石にエイルさんの客人だとしても、今のはちょっと聞き捨てならないですよ?」


 笑顔を引きつらせながら青年が言い返してくる。


「単刀直入に言う、お前でも領主は無理だ!諦めろ」


「は、え!?何を言ってるのか意味が分からないんですが!?」


「つーか、お前等全部ニーナの責任にしているが、元々この施作を提案したのは誰だ? おい、領主!答えろ!お前が自分で考えた施作なのか?」


「……い、いえ。領民の方々から提案がありまして、私がそれを取り入れました。 で、ですが…やはり悪いのは私なんです…」


「黙れ。 で、自分達で提案した施作が上手くいかなくなった責任は全部領主に取らせると?そーいう事だろ?」


 領主を黙らせた後、俺は領民一人一人を睨み付ける。


「はっきり言うが、お前等がやろうとしてる事は前回と全く同じだ。その場しのぎで、本当にこの街の事を考えられてない。あのアホみたいなニコニコしてる新領主(ガキ)に任せたらもっとこの街は悪化するぞ?」


「なっ、何でそんな事が言えるんですか!?」


「そ、そうだ!!」


「余所者のお前に何がわかる!!」


 一斉に反感を買い、怒号が飛び交う。


「あのニーナって女は確かに無能だ。無能だが、この街の為に誰よりも身を削っている。服装、髪型、ちゃんと見てたか? なんなら、領民のお前等の方が良い服着てんじゃねーかよ? それにエイルが言ってたぞ?いつも領民達より貧しい食事をしていると。 税を少しでもこの街の為に使おうと彼女なりにしてたんだろ? お前に、同じ事ができんのか?」


 最後に青年に向かい尋ねる。


「そ、それは…」


「その覚悟が無い時点で、お前はニーナ以下だ」


「……で、でしたら。でしたら、俺達はどーすればいいんですか!? このまま、ニーナさんが行うどうなるか分からない施作に街の命運を託せとおっしゃるのですか!?」


 領主に刃物を向ける領民の一人が悲痛の叫びをあげる。


「は?んな訳ねーだろ。領主はこのまま、ニーナ。お前がやれ!」


「……カ、カトー様」


 まるで救世主を見るかのような熱を帯びた視線を送ってくる領主。


 その視線に乾いた笑みを浮かべ、俺は言葉を続ける。


「で、お前等が考えてニーナが取り入れたクソみたいは施作は取り止めて、前領主が行ってきた施作を再度復活させろ!以上だ!」


「え!? 前領主が行ってきた施作をですか!?」


「お前等もそろそろ気が付いてんじゃねーのかよ?前領主は確かに税を取り過ぎたり、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)に振る舞ったり、人間性は悪かったのかも知れない。 でも領主としての先見の明(せんけんのめい)は確かにあった。正直、その頃のサルスの街が、街としては一番良い状態だったんだよ」


 その言葉にみんな黙り込んでしまい、誰も言い返そうとしてくる者はいなかった。


 ――結局俺の言葉で完全にヒートダウンした領民達は、謝罪の言葉とともに武装を解除、ニーナを解放した。



 ◇



 領主の屋敷にて、俺達は改めてニーナから感謝の言葉をもらっていた。


「あ、あのっ…カトー様、ありがとうございました」


 深々と頭を下げる領主。


「エイル君も、本当にありがとう…最後まで私の味方でいてくれて。 でも、私エイル君に言っておかないといけない事があるの…」


 頭を上げ、領主は少し暗い表情でエイルに語りかける。


「…領民達から話は聞いたと思うんだけど、私実は…」


「好きです、ニーナさん」


「…え?」


「そんな話聞きたくありません。話さなくてもいいです、でもこれだけは変わりません! 僕はニーナさんが大好きです!!」


「エ、エイル君…」


 突然の愛の告白に、涙を流し感激する領主。


「へ、返事…もらえないでしょうか?」


 少し緊張気味にエイルが呟く。


「はい…もちろん、私も…エイル君が大好きです」


「ニーナさん…」


「エイル君….」


 見つめ合う二人。


 完全に二人の世界に入り込んでいる。


「ねー、何この展開?誰得なの?」


 リズ助が心底退屈そうに、こそっと耳打ちをしてきた。


「あー、まーな」


 色々と、本当に色々と思う事があるのだが。


 これをエイルが望んでいるのなら、これ以上俺が首を突っ込む必要もないのかも知れない。

次回更新 7/19 深夜00:00

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