15話.私頑張ってるんですアピールがうざい隠れビッチがうざくてまじでありえないのだが。
どうやら、アホの子エイル君はサルスの街に滞在しているらしく、彼の同行の元、俺達はサルスの街に到着していた。
「何か活気のない街だね〜」
「おいリズ助。思ってもそんな事言っちゃいけません」
「あはは、ケルヌトの街と比べるとこの街は全然田舎ですからね。 でも、この街にはこの街の良い所だってあるんですよ?」
微笑みながらサルスの街のフォローをするエイル君。
「そう言えばエイルって何でサルスの街に滞在してるんだ?何か長期クエスト中とかか?」
「あ、いえ…その、何と言いますか。 成り行きと言いますか…」
彼言うには3ヶ月程前にこの街では、反乱が起きたらしい。
多額の税の徴収や、民の事を考えない施作などを権力を利用し行なっていた独裁領主を討ち取り、今はその妹さんが領主を引き継いでいるそうだ。
「現領主のニーナ・サルスさんはお兄さんみたいな傲慢な方ではなく、とても優しくて民の意見に一つ一つ耳を傾けるような本当に素敵な方なんです」
偶然通り掛かったエイルと、別の転移者パーティーの2組が民から懇願され共に立ち上がり、前の独裁領主と戦ったらしい。
その転移者パーティーは、無事に領主を討ち取ると直ぐに旅立って行ったそうだ。
「僕は、何だかんだこの街が心配で…未だに残ってるんですが」
エイルは少し照れたように頬を掻きながら呟いた。
なるほど。今の彼の表情で何となく察する事ができた。要は現領主に惚れているのだろう。
「エイルと一緒に戦った転移者パーティーの名前って覚えてるか?」
「あー、えーと。 ウロ、ボロス…とかでした」
その言葉を聞いた途端にリズ助の表情が硬くなる。
「3ヶ月前には旅立って行ったんだよな?」
「あ、はい! そうですけど?」
やはり異世界だ。文明が発達していない分、伝達や噂が伝わるまで時間は掛かるようだ。
「そのウロボロスだが…次はどこの街に向かうとか言ってなかったか?」
「領主のニーナさんなら何かご存知かも知れません!」
俺達はエイルの後に続き領主の屋敷に向かう。
道中擦れ違う街の人々に元気よく挨拶をするエイル。
しかし、彼に挨拶を返す領民達が少しぎこちないというか、何か違和感を覚えた。エイルはこの街の為に戦った英雄の一人、そんな彼に対しての態度とは思えなかった。
◇
「よくお越し下さいました」
一見領民の娘かと思うような地味でラフな服装に身を包んだ現領主は、長い金髪に、少しアホ毛が目立つおてんばで優しそうな雰囲気の女性だった。
「ニーナさん、ただいま」
「エイル君もお疲れ様。湯船を沸かしてるからゆっくりと疲れを癒して」
「いつもありがとう」
嬉しそうに会話する2人、確実にお互いに気がある感じだ。
「…帰って来てそうそうお風呂入れとか、やっぱあの領主さんもアイツの事臭いと思ってんだひょ…もごもご…」
「…んー、思ってても今はそんな事言うのやめようなー。もちろん、お前の言う通りなんだろうけどなー」
にこやかにリズの口を手で塞ぐ。
「すみません。 じゃあ僕お言葉に甘えて、お風呂に行かせてもらいますね?」
「おぉ、サッパリしてこいよ」
「あ、ニーナさん。 これ、今回の分です。殆どはカトーさん達の手柄なんですが、頂いてしまいまして」
エイル君は屋敷にドンと置いてある、大量のモンスターの素材を指差す。
「まぁ、通りで今回は短日の割に凄い量があると思いました。 本当にありがとうございます、是非今晩はおもてなしさせて下さい」
領主って感じの優雅なお辞儀をする彼女。
俺達に礼を言った後、彼女はエイルにも向き直り改めてお礼を言った。
「エイル君も、いつも本当にありがとう。 私が領主で頑張れるのも貴方のおかげです」
彼を見つめる領主の眼差しが、妙に熱がこもってるというか、まるで恋人を見つめるような眼差しだった。
「い、いえ。僕なんか全然です…あ、ぼ、ぼ、僕、お風呂行ってきますね!?」
彼は顔を真っ赤にして、その場を後にした。
「あほふたひ、かんへんひ、へきへるほへ?」
「リズ助も思ったか」
「ふん、ほもっは!」
「でも、あれだ。 とりあえずもごもご喋るな、汚ねーから」
ムッと俺を睨み付けてくるリズ助。
「彼はこの街の為に資金を稼いで下さっているのです。 本当にエイル君は私達にとっての英雄です」
領主の彼女が言うには、このサルスの街は現在施作が上手く行っておらず領民達に貧しい思いをさせてしまっているらしい。
そう言って語る彼女の服装を見ても、現状この街が貧しいのは見てわかった。
「彼と一緒に戦ったウロボロスってパーティーの事を聞きたいんだが」
「クロードさん達の事ですね。彼等も本当に優しくて、特に転移者のクロードさんはあれだけの力を持ちながらもその優しい人柄が人相に表れてました」
少しうっとりするような表情でクロードを語る領主。
「…そんな奴なのか?お前の元彼?」
俺はリズ助にクロードの事を尋ねる。
「ひゃからもとはへじゃはひってひっへんじゃん!!」
「あー、悪い悪い。元彼じゃなかったんだったな」
苦笑いを浮かべ、ふがふが騒ぐリズを落ち着かせる。
領主がクロードの事を語る時の表情もそうなのだが、俺はこの女に何か凄く違和感を感じた。
民の為とはいえ、自分の兄を討つなんて。そして、その事について如何にも正しい行動をしたと語る領主を見て、何か人間味がないというか、上手く言葉にはできないのだが。
「それで、クロードさん達がどうかしましたか?」
「あ、いや。その人達がコイツの探し人なんだ」
リズの口から手を離し、俺は彼女のフードに手に付着した汚れを擦り付けながら答える。
「ぷはっ! もー!ちょっと!自分から口に手をやっといてさ!ボクのフードに擦りつけないでよね!!」
「や、だって汚いだろ?」
「ちょ!?酷くねっ!?そんなカトーさんなんかこうだ、ぺっ!ぺっ!」
俺の手に再び唾を飛ばすフリをするリズ助。しかし、フリっていうか少し飛んできたような気がする。
「うおっ!?きたねーな!? 大事な腕なんだぞ?スキルが使えなくなったらどーするだ!?」
「は、はぁ!? そ、そんな訳ねーし!! 美少女の唾液だからむしろ能力向上するはずだし!!」
「んな訳ねーだろ!! 1000年に1人の逸材と言われる超絶美少女ならともかく! お前はどっちかって言うと微妙な少女って書いて、微少女だろ!!」
「ムキー!!なんだよそれ!! 昨日あんなに優しい事言ってくれたのに、もうこんな雑な扱いなのっ!!」
「別に特別優しくした訳じゃねーだろ? それに昨日だってこんな感じだっただろーが?」
「そーだけど!!そーだけどぉ!! もう少しボクに優しくしてくれてもいいじゃんかぁ〜!!」
ぎゃーぎゃー騒ぐリズ助を無視し、俺は領主に向き直り尋ねる。
「あ、すみませんが…手洗える所あります?」
「…は、はい。 この部屋を出た先に…」
俺達のやり取りを見て完全に困惑している領主が部屋のドアを指差すを
「ちょ!!マジで手洗いに行くのかよ!? ねぇ?酷くない?ほんっとに乙女相手に酷くないっ!?」
◇
パンに素朴なスープだけの夕食を4人で囲む。
エイル曰く、領主のニーナは領民よりも貧しい食事を取っているようだ。
「ふふ、私などどうなってもいいのです。 この街の民が幸せになってくれるのなら…それで」
「神様はきっと見てます! 絶対次の施作こそ上手く行きますよ!ニーナさんこんなに頑張ってるんですから」
「うふふ、ありがとうエイル君」
完全に2人の世界に入り込むエイルと領主。
そんな2人の様子など全く興味がないといった感じのリズ助は黙々と夕食を食べてる。
「一ついいですかね?」
今晩泊めてもらう立場でこのような質問するのは本当に失礼なのだろうが、俺は敢えて領主に尋ねる。
「はい、どうしましたか?」
「…まず、前の領主ですが。貴女のお兄さんだったんですよね?」
「…はい。お恥ずかしい話ですが、血の繋がりのある兄で間違いありません」
「民と共に立ち上がり、エイルとウロボロスが強力して反乱を起こし、前領主を討ち取ったと言っていましたが、殺したんですか?」
「ちょ、ちょっとカトーさん!」
慌てた様子のエイル君が俺を制ししようとしてくる。俺の発言が余りにも無神経に思えての行動なのだろう。
「………殺し、ました。 エイル君も、クロードさんも領民も含め誰もが人の命を奪う事ができない優しい方達ばかりでした。 もちろん、この街から追放するだけでもよかったのですが、あのプライドが高く、ズル賢い兄の事です、生かしておけば必ず何年掛かってでも復讐をしにくる。 そう思った私の判断で、平原の先にある崖から突き落としました。 今頃亡くなっているでしょう…」
「でも、ニーナさんは最後まで反乱を起こす事に躊躇してたんです!民のみんなは絶対にニーナさんが領主になるべきだ!ニーナさんが領主になればこの街は救われるって声が上がっても、こんな私が領主として務まる訳がないって…でも勇気を出して、頑張ると立ち上がってくれたんです! 今もこうやって自己犠牲をしてまで街の為に頑張って…」
領主を庇うようにフォローを入れるエイル。
躊躇してた理由は兄を殺す事ではなく、時期領主になる覚悟がないからとしか聞こえなかった。
「なるほど。 因みにですけど、未だにこの街の為に頑張ってくれてるエイルを見る領民達の眼差しですが、少し冷たいようにも見えました、気のせいですかね?」
「え?街のみんなが?僕そんな風に見られてましたか!?」
「……おそらく、私に不満を持っている民達です。 エイル君はずっと私を支えてくれていますから、そんな彼に対しても風当たりが強くなっているのでしょう…」
領主は、この事に付いても把握していた。
と言う事は、知ってた上でそれでも尚エイルに手助けを続けてもらっていたのだ。
「え!?ニーナさんに不満を持ってる領民なんていませんよ!!みんなあの時あんなに喜んでたじゃないですか!?それにこんなにニーナさん、街のみんなの為に頑張ってるのに!!それは有り得ないです!!」
自分の感情だけで言葉を並べるエイル。本当にこの子は純粋だ、そして人を疑う事を知らないのだろう。
「…ありがとう。エイル君」
無理に笑顔を作り彼に微笑む領主。
俺は今彼女が行なっている施作。そして、過去に前領主が行っていたが領民から反感を買い現在は取り止めた施作など色々話を聞いた。
俺が簡潔に纏めると、前領主は人格には優れていなかったが、領主としての実力はあった。
それに引き換え、人望はある妹の彼女が領主となったが、正直領主としての実力はなく、民に求められるだけの要望や施作を取り入れるあまり、その全てが悪い方向に転び、現在は過去にあった民からの人望も無くなり、少しずつこの状況の責任を取れとの声も上がり始めているらしい。
涙を流し、私が悪いんですと語る領主。
薄情と言われるかも知れないが、俺はそんな彼女を見ても感情移入も同情もできないでいた。
「…こんなのあんまりですっ!」
――ドンッ!とテーブルを叩き、悔しげに呟くエイル。
「みんなだって、ニーナさんが領主になればって声を揃えて言ってたのに…上手くいかなくなった途端に手の平を返すなんて…」
「いや、所詮民なんてそんなもんだ」
俺も雇われ店長として店を任されていた。その時に感じた事は、ある店に着任した途端にみんな口々に前任店長の悪口を言う事だった。前の店長はどうだった、こうだった、独裁的だった、人柄が悪かっただの、厳しかっただの、みんな口々に悪口を言っていた。
そして次に着任してきた俺にはこう言うのだ、新しい店長は素晴らしいとか、優しいとか、人柄ができてると、そして、色々と抑え付けられていた業務内容も改善して欲しいと、いかにも自分達の主張が正しいかのように、訴えてくる。しかし、時間が経つにつれて俺は気が付いてしまった、前の店長を悪く言っていたが、コイツら従業員の言う事の方がめちゃくちゃ的外れなんじゃねーか?と。全体が見えておらず、今の自分の損得感情だけでしか物事を見れていない。
だから、俺は前任の店長のように業務内容を戻した。この店を、従業員を守る為に。
そして俺は転勤になり、次に新しく後輩が店長としてその店舗に着任した途端に、その従業員達は口々に俺の悪口を言っていたらしい。
結局人は弱い生き物だ、上手くいかない事を全部誰かのせいにしたいのだ。
前領主は確かに独裁的だったのかも知れない。しかし、民が考えられないくらいの全体を見越した上で、色々な施作を行なっていたに違いない、それを民に言われるがままに悪い施作だと決めつけ、それを取り止めたのは、確かに現領主の責任でもある。
今更手の平を返す領民もそうだが、俺からしたら最初からそんな奴等はそんな連中なのだ。
自分達の領民としての権利を主張し、一時の損得感情でしか物事を見る事ができない連中なのだ。
領民達の傲慢さに腹を立てているエイルを見ているとずっと前の自分を見ているような気分だった。
「僕…悔しいです!! 絶対ニーナさんが領主で良かったってみんなに言わせたいです!! カトーさん、力を貸してくれませんか?」
「どーするんだよ?」
「この街の外の平原には、ドラゴンばかりが生息するって言われているかなりやばい洞窟があるんです。 そこで、ドラゴンを狩りまくって資金を稼ぎます!!多額の資金さえあれば絶対に次の施作は上手く行くんです!!お願いします!カトーさんのあのスキルと僕のスキルがあれば絶対に可能なはずなんです!!」
感情の高ぶりが収まらないエイル君は熱く語り俺を説得する。
夕食を食べる前に聞いたがウロボロスメンバーは、この街から更に離れている大都市アトンに向かったらしい。
正直こんな所で道草を食っている暇はないのだが。
「あの…もしかして、カトー様も…異世界転移者なのですか?」
「そうですよ!それに本当に凄いスキルを使うんです!!」
「そうだったのですか…」
突然領主は熱っぽい視線を俺に送ってくる。
何だこの女は?異世界転移者ってだけで色目を使うこの感じが、もの凄く不快感を覚える。
自分が好きな女が、気が多い奴だと知らないエイル君は一途に領主の事を想っているように見える。
なんだか彼がとても不憫に思えてきた。
「な、リズ助。もう少し旅が長引いちまってもいいか?」
「別に大丈夫だけど。あの領主嫌いだよボク」
ボソリと呟くリズに俺は笑い掛ける。
「奇遇だな、俺もだ。だがエイルがちょっと、な? アイツ、アホだけど良い子だからさ」
「ま〜ね。ほんっとアホだけどね」
あまり首を突っ込むつもりもなかったのだが、俺はエイルのドラゴン狩りを手伝う事にした。
◇
リズ助の後、最後に俺も風呂に入らせてもらう事になった。
貧乏ながらも流石領主の屋敷って感じだ。まさに小さい温泉と言うに相応しい露天風の浴室だった。
――ガラガラ、と突然浴室のドアが開く。
そしてバスタオル一枚の領主が、浴室に入ってきた。
「あの、お背中流します…」
「……は?」
「い、いえ…あの。 こんな事しかできませんが…」
頬を赤らめて、ご奉仕しますとアホな事を述べる隠れビッチ。明らかに俺が異世界転移者だと知ってからのこの行動だ。
「…いや、別にいいです。 一人でゆっくりしたいので、出てってもらえますか?」
俺は冷たく領主に言い放つ。
「す、す、すみません!! 本当に何にもおもてなしできなかったと思い…それで私……本当にごめんなさいっ!!」
領主が顔を真っ赤にしてその場を立ち去ろうとした瞬間、まさかの足を滑らせ見事に転んでしまった。
――ガン!と地面に頭をぶつけて、気を失う領主。
「……まじかよ」
◇
エイルに応援を頼める訳もなく、俺は部屋でゆっくりしているリズ助に助けを求めるのだった。
「ねー、カトーさん? 本当に何もなかったんだよね?このクソ女とさ?」
ジト目で俺を睨んでくるリズ助。
「当たり前だろーが、まじで逆に勘弁してくれって…」
「ふーん…それなら、いいけどさー。 げっ!この女地味に胸あるし、ムカつく!!」
領主に服を着せながらリズ助が、苛々した口調で呟く。
「おい!いいから早くしろって! エイルが来たらまじで気まずいから」
「気まずいって、何もなかったんならいいじゃん? それともやっぱり……」
「だから違うって!! エイルの奴、この領主の事好きだろ? だからこの領主が他の男の背中流しに来てたなんて事実知ったらまじでショック受けんだろーがよ!!」
「ふーん。 まー、ボクはこの二人の事なんてどうでもいいけどね」
ぶつぶつ言うリズ助と俺とでなんとか領主を適当な部屋まで運ぶ。
◇
俺達は部屋に戻り、各自のベッドでくつろぐ。
まさかのリズ助と同部屋だったが、ベッドも二つあるので以前の時と比べるとマシだったりする。
「あー、今日は何か色々疲れたな…」
「お背中流しましょーか?」
いつの間にか俺のベッドに忍び込んで来ていたリズ助が背後から声をかけてくる。
「冗談は顔だけにしてくれ」
「ねぇ?それってボクに言ってんの? それとも領主?」
「あー、まー、どっちもだな。うん」
「何だよそれ!! ボクは領主と同等って事!?」
リズ助のその言葉で、俺は起き上がり彼女の顔を真面目に見つめる。
褐色の肌で童顔のリズ助は、美人と言うより可愛らしい感じの女性だ。アホ丸出しな性格あってぞんざいに扱ってしまいがちだが。
それにリズ助は自分の欲求に正直というか、わがままで自己中で、めちゃくちゃな奴だけど、領主みたいに私良い子で頑張ってるんです的なアピールをして、男に媚び売るような奴よりましかもしれない。
「…な、何?」
そう言えば前にも似たような質問されたなと思い出し、静かに笑う。
「ちょ!何、人の顔見て笑ってんのさ!?」
「あー、いや…悪い。やっぱりお前の方がましだな」
「え、と言うと?」
もうさっきの会話の流れを忘れた様子のリズ助。
猫かコイツわ。
「領主より、お前の方がましだって話だよ」
俺の言葉に目を丸くして驚く彼女。
「カ、カトーさんが、またデレた…」
「アホか!だからデレてねーわ!!」
本日何度目かのチョップを彼女の頭に落とす。
「あ痛っ!? ムー、カトーさんのツンデレ野郎!」
「馬鹿な事言ってねーで、さっさと寝るぞ? 明日も早いんだからな?」
「ほ〜い」
そこで、ようやく自分のベッドに帰るリズ助。
俺は灯りを消し、ベッドに寝転がる。
「ねぇ? アイツさ、領主なんかの何処がいいのかな?」
リズが言うアイツとはエイルの事だろう。
「……男ってのは馬鹿だからな。 あーやって一人で何でも抱え込んでる女を見ると、俺が守ってやらないとって勘違いするんだよ、色々と」
「ふ〜ん、儚い系女子はモテるって事?」
「まー、男受けは良いだろーな」
「勉強になります、先生」
「そろそろ、寝るぞ」
寝返りをうち、俺は本格的に睡眠を取る体制になる。
「でも、アイツ一応転移者なのにさ。 ずっとこんな街に残ってあの領主と一緒に居るつもりなのかな?」
「そーだな」
「まー、アホだし、既に後戻り出来ないくらい防御しか取り柄ないから他の転移者と比べたらだいぶ価値は落ちてると思うけど、それでもやっぱり、それなりにアイツも輝かしい未来はあると思うんだけどな」
「…そーだな」
盾の勇者に憧れてるんです!と笑顔で言っていた彼。正直エイルは誰かとパーティーを組んでガンガンレベルを上げ、防御にパラメーターガン振りしていくのが夢なんだと、思う。
しかしこの街に留まり、ソロでモンスターを狩り続けるのは本当に効率が悪い。下手すると、あの攻撃力の無さ、それに比例してレベル70にもなってしまっている事もあり、そろそろエイルはこの辺のモンスターではレベルが上がりにくくなってきているはずだ。
それを分かった上で、あの馬鹿は領主と一緒に居ると言うのだろう。
本当に馬鹿だ。一時の恋愛感情に惑わされて、自分の夢を諦めるなんて。
「…そろそろまじで寝るぞ」
「ほいほ〜い」
俺は重くなってくる目蓋を下ろす。
「ねぇ、カトーさん」
「…なんだよ?」
寝るぞ、からの絡みが今日もしつこく少しイラッとしながら返事を返す。
「因みに、因みにさ?さっきのボクの方がマシって話なんだけど…どんな風にマシなの?」
「はぁ?…んなもんどうだっていいだろ?マジでもう寝るからな」
「えー!これで最後だから〜!ねー!ねー!答えてよ〜!カトーさ〜ん!!」
本当にしつこい。
このままだと俺は安眠に辿り着けないだろうと思い、仕方がなく答える事にした。
「……あー、お前はあざとくて、うざい奴だけどオープンだからな、裏表がなくて逆に良いと思うぞ。あの領主と比べればな」
「…え、何か褒めてる?」
「…褒めてんだろ。悪い…まじでもう本当に眠いから…勘弁してくれ…」
「えー!今の答えじゃちょっと不満なんだけど〜!ねー!ねー!カトーさ〜ん!もう一個!もう一個だけ答えてよ〜!」
あー、まじでうざい。そして眠い、めちゃくちゃ眠い、そろそろ限界だ。
眠気で思考が鈍る中、俺は何とかもう一個の理由を考える。
リズ、リズ、リズ助。
彼女の性格、言動、容姿に思考を巡らせる。
あー、そう言えば。
「…領主と比べれば…お前の方が見た目、可愛いかもしれないな…」
やっとこそ最後の一個を答え終わり、俺はそこで力尽きた。
「…カ、カ、カ、カトーさん!?い、い、いま、かかか可愛いって言った!?」
意識が遠ざかっていく中リズが何か叫んでいたような気がした。
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